第289話 謎の集団との接触
朝の光に照らされた神戸ポートアイランドを、俺達は高層ホテルの最上階から見下ろしていた。各自が双眼鏡を構えて、見える範囲の事を伝え合っている。
タケルがクキに聞いた。
「九鬼さんよ。あそこにゃ一般人もいるようだが、迷彩服を来てる人もちらほらいるみたいだ。ありゃやっぱり自衛官だと思うか?」
「元の職場の奴らだから見間違えようがない、それにファーマ―社の奴らとは明らかに動きが違う、自衛官のエキスパートは動きが洗練されているから分かるんだ。ファーマ―社の私兵とは質が違う」
「つうことは自衛隊でも選りすぐり、ってこと?」
「レンジャー持ちかもしれん」
するとユリナが言った。
「問題はあれが敵か味方かってところよね? ただの生存者ならば良いけど、ファーマ―社に与しているとも考えられる。あそこに行った途端に銃撃されたらたまったもんじゃないわ」
「そればっかりは、俺も分からん」
クキが手をひらひらさせて言う。そこで俺が皆に言った。
「問題ない、俺が直接聞いて来るさ。万が一、ファーマ―社だったら俺が全てケリをつける。だがもしあれが生存者だったなら、火で合図を送るから合流しよう」
「わかった、そんじゃ気をつけてな」
「気を付ける? 俺がか? 教えてくれクキ、何に気をつければいい?」
それを聞いたタケルが笑って言う。
「ヒカルは核弾頭だって防いだ男だぞ。レベル千つうのは何でもできるつうことだよ、九鬼さん」
「ヒカルは世界ビックリショーみたいな奴だったな。じゃ、まあ適当にやってこい」
「ああ」
そして俺は高層ビルを降り、一気に神戸ポートアイランドに走り寄っていく。すると何本もの道路や橋が島に向かって抜けているのが分かる。その途中にはバリケードがあり、そこでゾンビの侵入を防いでいるようだ。
小手先の誤魔化しはいらないか。
俺はそのまま橋の入り口に立ち、両手をあげてバリケードに向かって走る。その途中でバリケードの方から声がかけられた。
「引き返してください! これ以上の市民の受け入れは出来ない!」
いきなり入って来るなと言われた。だがここで引き下がっては情報を取る事ができない。俺はそのまま手を挙げながら進んでいく。
「ゾンビ感染の疑いのある人間は受け入れられない、引き返しなさい!」
薄情なもんだ。もし生きている人間で、ゾンビ因子に犯されていなかったらどうするつもりだ? とりあえず俺は無視して、手を上げて進んでいく。
「引き返せ! これ以上近づけば撃つぞ!」
語気が変わったので仕方なく俺はそこに止まり、手を挙げながらも相手の様子をじっと伺った。
「そうだ。そのまま、回れ右して戻れ! 生き残った市民を危険にさらすわけにはいかないんだ! どうか分かってほしい!」
じゃあ仕方がない。
「金剛、防御結界、筋力強化、敏捷性強化、思考加速」
俺はそのまま自分に、次々バフをかけていく。後衛など居なくても、このくらいは自分で出来るのだ。そして俺はまた進み始める。
「聞こえなかったのか! 止まれ! 警告だ! 撃つぞ!」
聞こえてはいるが聞かない。
すると相手は銃を構えて、俺に狙いをつけた。
「警告だ! 3、2、1」
タタタタタタタタタ!
と乾いた音が鳴り俺の足元で火花が散る。どうやら俺を直接撃たずに、足元を狙って警告しているらしい。という事はファーマ―社では無い、アイツらなら問答無用だ。
次の瞬間、俺は縮地を使ってバリケードの真下に来ていた。先ほどの警告の声がスピーカー越しに焦っている。
「な! どこに消えた!」
「幽霊でも見たんじゃないか?」
「いや。確かにいたろ?」
俺はすぐさま十メートルほどのバリケードを飛び越えて、反対側に降り立った。
「おい!」
俺が兵士に声をかけると、全員が慌てて後ろを振り向く。
「な! 何処から入った!」
「俺は怪しい者じゃない、そして受け入れ希望もしていない。少し話が聞きたいだけだ」
兵隊が慌てて俺に銃を向けようとするが、俺はすぐに縮地で消えマイクを握っている奴の隣りに出没し、日本刀を首元に向けた。
「だから聞け、殺すぞ」
「お、おわあああああ!」
ドサリと尻餅をついて、周りの奴らも一歩後ろに下がった。
「状況を聞いたらすぐに立ち去る。まあ返事次第では荒事にもなるかもしれんがな。そしてこんなところで撃つなよ、味方にあたって死人が出るぞ」
すると尻餅をついていた奴が立ち上がって聞いてきた。
「何者だ! 今のはどうやった?」
今のって言われても、縮地だと行ったところで理解できまい。
「そんな事よりも教えてくれ。あんたらは一体何者だ? 見たところ自衛隊のようだが」
「確かに、何人かは自衛官だ」
「ここで何をしている?」
「なにをって…それは市民を保護している」
「自衛隊は全員ゾンビになったんじゃないのか? なぜ生きている?」
俺がそう言うと、突然自衛隊たちは殺気立ってきた。全員が身構えて、俺を取り囲むようにじりじりと距離を詰めてきた。クキがいうとおり、こいつらの動きはプロの動きだ。
そして自衛隊の一人が言った。
「その金髪…アメリカ人か? ヨーロッパ系か?」
「どちらでもない」
「我々はある組織を警戒している。素直に答えなければ死ぬことになるぞ!」
何を言っているんだ? という事はやはり…
「あんたら自衛隊だと思っていたが…、ファーマ―社の回し者か?」
俺が軽く殺気を孕ませて言うと、男達は一斉に脂汗を垂らし始めた。だがその答えは俺の想像とは違った物だった。
「あんたがそうじゃないのか?」
「違う。俺はファーマ―社を見つけたらすぐに殺す事にしているからな。あんたらがそうだというなら、皆殺しにしてやるだけだ」
「なに? あんたは何か知っているのか?」
「別に。ファーマ―社は俺の仲間の敵で、見つけたら消すというだけの事」
「ち、違う。我々はファーマ―社じゃない!」
「本当か? なぜこんなところにいる?」
「ここはゾンビが入ってこない。ここともう一か所の入り口を閉鎖しているからな。ここにいるのはゾンビ感染していない可能性の高い人らだ。我々の部隊はたまたま全員がゾンビになっていないんだ」
「ファーマ―社の奴らもゾンビにはならんぞ。まあ一部は好んでなるような奴もいるがな」
「なんだと? なにか知っているのか?」
「ああ」
すると俺と話している奴が、周りの男達に言った。
「銃を降ろせ! この人の話を聞く必要がある!」
「あんた、簡単に俺を信じていいのか?」
「武装した自衛隊の中に、平然と一人で現れて脅しをかけてくる奴だ。あんたがその気ならば、俺達の首は胴体から離れているんだろ?」
「そのとおりだ」
「それくらいは嗅覚で分かる。それよりもさっきの話を聞かせて欲しい」
「いいだろう、情報交換だ」
「わかった」
自衛官が銃を降ろしたので俺も日本刀を鞘に納めた。そして分かった事は、こいつらは恐らくファーマー社ではない。何故ならば先ほどの言葉に嘘が無かったからだ。そして俺は自衛官に現状の日本の状況を伝え始めるのだった。




