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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第28話 仲間の窮地

 俺達が乗るトラックが雑木林の間を抜けると大きな建物が見え始める。ミオ達がいる建物はもう少し先ではあるが、大きな建物が建っている地帯に入る前に俺はタケルに言う。


「トラックを止めて灯りを消してくれ」


「ん? わかった」


 タケルは俺に言われた通りにトラックを街道に停めてくれた。


「念のため一度飲み物だけを持って徒歩で行こう」


「なんでだ?」


「勘だ」


「そうか、わかったよ」


「えっと、飲み物を持って行くものが無いな」


「じゃあ俺のジャンパーを風呂敷にして持って行けばいい。ヒカルの上等なスーツじゃ気がひける」


「これは借り物なんだよ」


「良く分からねえけど、とにかく行こうぜ」


「ああ」


 そして俺達は座席の後ろに置いた飲み物を、タケルのジャンパーに包み込んでトラックを降りた。涼しげな風が頬を撫でて通り過ぎていく。


 トベはかなり厳しい状況だったから急ぎたい所ではある。無事でいて欲しいとは思うが、少し気になる事があるため慎重に進んだ方が良いように思えた。


「建物の正面から入るのは止めよう」


「ん? そうか、わかった」


 今の場所からは道が曲がっているので先は見えない。そのまま手前の建物の敷地に入り、中を抜けて裏側の柵を乗り越えながらミオ達がいる建物に戻って来た。


「気のせいか…」


「急ごうぜ。皆が待ってる」


「そうだな」


 そして俺達は暗がりの中を入り口に向かって急いだ。俺達が出た時と変わった様子はないように思うが、念には念を入れて気配感知で周辺を探る。


「よし、入ろう」


「わかった」


 俺とタケルは扉を開け皆が待つ部屋に向かう。廊下には特に変わった気配が無いものの、俺は少しの違和感を覚えていた。そして皆の気配がする部屋の前に立つと、タケルが扉をコンコン! と叩く。


「俺だ! タケルだ!」


 ん? 殺気?


 カチャリと内側から扉が開く音がして、俺は瞬間的にタケルを横に飛ばし自身にありったけの身体強化魔法をかけた。バッっと扉が開いた瞬間、中からおかしな音が鳴った。


 パパパパパパン!


 俺は体に衝撃を受けて後方に吹き飛んでしまった。


「やったぞ!」


 中から二人の男が出て来た。男らはジュウを持っており俺達を待ち伏せしていたようだ。


「ヒカル!」


 中からミオが飛び出そうとしてくるが、ミオの腹を男がジュウの底で殴り飛ばす。


 ドン! 


「ぐうっ!」


 ミオは悶絶するようにそこに転がってしまった。


「おいおい! 動くなっつってんだろ! 勝手に動いて良いって言ったか?」


 だがミオは失神してしまったのか動かない。そしてミオを殴ったもう一人の男が言う。


「空港で俺達の仲間をやったのはお前らなんだろ?」


 すると部屋の奥でヤマザキが声を発する。


「だから、知らんと言ってるだろう」


「はっ! とぼけやがって! あの車はここの会社のなんだよ! 空港に残ってたからもしやと思って、ここに来てみたら人がいるじゃねえか! 絶対にお前らだろうがよ!」


「たまたまだ。俺達はたまたまここにいただけだ!」


 すると男の一人がヤマザキを後頭部から殴る。


「うっ!」


 そしてヤマザキは倒れ込んでしまった。


「山崎さん!」


 ユリナがヤマザキに覆いかぶさって、追撃を喰らわないように守っている。すると奥から気の強いツバサの声がした。


「クズ! そうやって無抵抗の者に暴力をふるって! 恥ずかしくないの!」


 すると一人の男が黙ってツバサの所に行き、足で顔を思いっきり蹴り上げた。ツバサはのけぞるように転がったが、それでも気持ちは折れていないようで男達を睨んだ。


「いずれかわいがってやるからよ! そんな目つきで居られるのは今のうちだ」


 男がわめいていると、奥の男がそいつに声をかける。


「九鬼さんが手を付けてねえんだから、顔はやめとけよ。傷物にしたら後で酷い目にあうぞ」


「わ、わかってる! コイツが生意気言うもんだからよ!」


 ツバサを蹴った男が怯えるように言った。そして違う男が話し出す。


「しかし、九鬼さん達から連絡無かったな」


 そいつはトランシーバーを掲げて皆に見せるような仕草をした。


「見張るのだりいし、適当に酒でも飲んでんじゃねえの?」


「ちげえねえ!」


「別に俺達だけでも対応出来たし良いんじゃねえか? どうせ帰って来たのはこいつらだけだろうし」


 俺はその会話を聞きながら、気絶したふりをしつつそいつらの場所と人数を確認していた。さっきのはかなり強い衝撃だったが、金剛と結界により全く怪我をすることなく吹き飛んだ。そして思考加速を用いながら、全ての解析を終えたところだ。ミオとヤマザキとツバサを殴られた事には腹が立つが、こいつらが何らかの拍子にミオ達を殺すかもしれない。俺はそうならなように状況を確認していたのだった。


 入り口の奴が中にいる仲間に声をかけた。


「とりあえず、九鬼さんにこいつらが来た事を伝えた方が良いんじゃねえか?」


「そうだな」


 次の瞬間、俺はジュウで攻撃してきた男の背後に立ち首を一回転させた。そしてその隣にいた奴がこちらに振り向く一瞬前に、持っているジュウの底で顎の下から脳天にかけて打ち抜く。ビンッ! と硬直したまま死んだのを確認し、首が一回転した奴を押し切ってツバサを殴った奴ごと壁に叩きつけた。そして少し離れた所に居た奴が、自分の持っているジュウをこっちに向けようとしたので、俺は手に持ったジュウを素早くそいつめがけて槍のように投擲した。すると目から突入したジュウごと、後ろの壁に突き刺さってぶら下がる。


 俺の手元から声が聞こえた。


「ぐう!」


 俺が死体ごと押し付けている男が、なんとか押しのけようとしているようだった。俺は前の死体の顔を掴み、そいつの顔面目掛けて頭を思いっきり叩きつけた。まるで空気が抜けたように頭が半分になってずるずると崩れ落ちる。


 そして俺は死体を捨て、すぐに入り口で倒れているミオの所に走る。


「ミオ! ミオ!」


「う、うん…、あ、ヒカル…」


「よかった! 無事か!」


「あ、あれ? 至近距離から撃たれてなかった?」


「ああ、あれか。あんな攻撃ぐらいでくたばってたら、魔王ダンジョンの攻略なんて出来なかったさ」


「えっと、なに?」


 俺は思わず前の国の言葉で話してしまっていたらしい。すぐに言葉をミオに合わせて話す。


「問題ない。あれは防いだ」


「防いだって…銃を?」


「ジュウは意外に威力があって驚いたよ」


「驚いたで済むの? と言うか…本当に怪我してない?」


「いや、怪我をしたのはミオだろう」


 するとミオがきょろきょろして言う。


「み! みんなは!」


 俺はそっとミオから離れて中に走る。ヤマザキが上半身を起こして頭を振り、ツバサが顔を押さえて泣いていた。ユミがこっちに向かって言う。


「タケル! タケルは?」


「無事だ」


 すると入り口の方からふらふらになってタケルが入って来た。


「ヒカルよう…、もうちっと優しくどかしてくんねえかな?」


「す、すまん。一瞬遅れたらお前があれを喰らってた」


「また命を救われちまった…。俺はお前に足を向けて寝れねえわ」


 そして俺はヤマザキの元に座って言う。


「すまない。少し遅くなってしまったようだ。皆は無事か?」


「いや…」


 そう言ってヤマザキは寝ているトベの方を見る。するとトベからは命の鼓動が聞こえてこなかった。


「手遅れだったか…」


「いや違う。アイツらに殺された」


「殺された? トベは気を失っていたろう?」


「動けない奴はいらないと…、そしてゾンビになったらどうするんだとか言って殺された」


 俺がトベのもとに行くと体に穴が空いて死んでいた。どうやら俺がさっき喰らったあのジュウでやられたのだろう。


「くそ! 盗賊め! 復讐しに来たのか?」


 するとヤマザキが言う。


「俺の考えが足りなかった。置いて来たトレーラーは全てこの会社の物、恐らく連中は周辺のこの会社を探しまくってここに来たんだろう。もう少し冷静になっていれば気づいたんだが…、すまない」


「俺達も遅くなったからな、それは言っても仕方あるまい」


 すると今度はタケルが言う。


「とりあえず。飲みもんはある! まずは水分だけでも補給するんだ!」


「…助かる…」


 そして俺とタケルが手分けして、飲み物が入った容器を配った。皆は慌てたようにふたを開けてその中の飲み物を飲み干す。


「生き返る…」

「ありがとう…」

「食料はあったの?」


 するとタケルが答えた。


「いや…それがすぐに食べられる状態じゃないんだ。米がもみ殻のまま保存されていたので持ってきた」


 するとヤマザキが言った。


「米か! なんとかできないかな?」


 だが俺はその会話を一旦停めて言う。


「まて! 俺達はここから抜け出す必要がある。こいつらの仲間が後何人いるかだが、きっと違和感を感じてここに来るだろう」


 皆がハッとした顔をしたその時だった。


 ガガッ! トランシーバーが鳴った。


「こっちはなんも来ねえな…。そっちはどうだ?」


 そして床に置いてあるトランシーバーから唐突に声が入ったのだった。どうやら痺れを切らした見張りの連中が、こっちに連絡をしてきたようだ。


 俺は皆に指を立てて、静かにするように指示を出すのだった。

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