第287話 日本海を渡る生存者
新潟にセーフティーゾーンを作り、生存者を呼ぶと少しずつ集まりだして数百人にまでなる。ゾンビも掃除し生存者達の警戒を解いて、ゾンビ因子を取り除くまでをやった。すると生存者から興味深い情報がもたらされたのである。
クキが言う。
「船で出てった奴らがいるだと?」
生存者の一人が答える。
「そうなんだ。日本を脱出すれば生き延びれる可能性が上がるかもしれないと言って、船で出ていった連中がいるんだよ」
「で、どうなったんだ?」
「分からない。出て行ったきりさ」
そこで俺達が話し合う。
「どう思う?」
「自力で大陸にたどり着いている可能性は低いと思うし、もしかすると周辺国家の人間に発見されたかもしれん。もしくは領海を侵犯したとして、拿捕された可能性もあるんじゃないだろうか?」
「かもしれないわね。そもそも他国に行った日本人を受け入れてくれるのかしら?」
「友理奈の言うとおりだな。ゾンビの蔓延した日本から来た生存者を、無条件で受け入れてくれる国なんてないだろう」
それを聞いて新潟の生存者が俯いた。
「ですよね…僕らも無理だと言ったんです。だが誰も言う事を聞かずに出て行ってしまった」
「他に出て行った者はいるのか?」
「わからない。でもそう考える人がいてもおかしくは無いと思います。ゾンビに追われて生きるのが辛くなり、食料も尽きて新天地に向かうという発想はありますよね?」
言うとおりだろう。ゾンビから逃れて海に逃げるという事は十分にあり得る。だがもし万が一、隣国にたどり着いているとするならば、ゾンビ因子を持った人間が他国に渡ってしまった事になる。また先に隣国の兵士に見つかったら、日本人が渡ってきたと分かった瞬間に処分されてしまう可能性が高い。
その事実を生存者に伝えると深く頷いた。
「スマホで流された動画を見ました。我々もゾンビ因子を取り除いてもらったので、理屈抜きで理解しています」
「そうか。なら続いて海外に行こうとする人間は居なくなりそうだな」
「もちろんです。むざむざ死にに行くものだと分かりましたから。渡って行った人らは、他国にゾンビがいるかもしれないと思って出発しましたし。まさか隣国がゾンビに汚染されていないなんて知りもせずに行ったので、人間に殺されるなんて思わないと思います」
「そうだな」
「生きている人間に遭遇したとしたら、助けてもらえると思っていたでしょうね…。そう思うと無念でなりません」
そうだ。恐らく日本人が他国に渡ったら、人間扱いはされないだろう。ゾンビ因子を抱えたゾンビ予備軍として、すぐに処分されるに決まっている。そしてそれはクキが一番よく知っていた。
クキが隠さずに言う。
「ゾンビ因子を保有している人間は処分されるんだ」
「知っているのですか?」
「すまねえが、俺が元軍人として処分してた側だからな」
「そんな…」
「それが世界を救うもんだと思っていたさ。まあ本当の所は、団員に食わせるためにやってたってところだけどな」
「ひ、人殺し」
「そうだよ。俺は人殺しだ。否定はしねえ」
「良くもそれで善人面してますね」
「善人面もしてない。ただ新しく世界を救う方法を知った。だから俺はヒカルに従って生存者を救っている。それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
生存者達がクキを睨むが俺がそれに言う。
「ここに集まった者で、生きるために争った事のある者は?」
すると半分以上が目を伏せる。間違いなく心当たりがあり、下手をすると自分らも人に手をかけた事があるのだろう。それを見たヤマザキが言う。
「いや。君らを責めようって言う訳じゃないんだよ。こうして事実を知っているのと知らないのとでは、状況が全く違うだろう? もちろん九鬼さんもその一人だし、皆さんの中には船で一緒に出た方が良かった、と思っていた人もいるんじゃないか? だけど思いとどまってここにいる。その判断が正しかったとは一概に言えないけど、こうして生き延びている以上はこれからどうするかを考えるべきでは?」
すると生存者の中から年老いた男が前に出て来て言った。
「私は、山崎さんの言う通りだと思うね。そして今は真実がはっきりしているんだ。それならば、これからどうするかを考えるだけで良いだろう」
そこでタケル難しい顔をして言った。
「まあそれでいいだろうな。だけど…て事はよ。海外に脱出しようとしている人らが、他の地域にもまだいるって事じゃねえかな?」
「だろうな」
「そんな…苦しい航海をして、たどり着いた地で人間から殺されるとか。可哀想すぎんだろ!」
「言うとおりだ。止めねばなるまい」
そして生存者達にヤマザキが告げる。
「そう言う訳で、我々はすぐに発たねばならん。これから富山に向かう事になっているんだ」
すると生存者の一人が言った。
「富山に友達がいるんです! 生きているか分からないけど、助けてください!」
「わかった」
もちろん生きている確率は無い。だが一縷の望みを繋ぐためにもどうにかせねばならない。
それからも俺達は都市にセーフティーゾーンを作り、生存者の救出を進める。生存者は時間の経過とともに減り続けているようだが、俺達の行動により歯止めが利くはず。信用するもしないも関係なく、スピード重視で事を進めて行った。
京都にもセーフティーゾーンを作り終え、俺達は大阪に到着する。
「さてと大阪だ」
「本当に多いな」
「だよなあ」
俺達が眺める都市には大量のゾンビ蠢いており、およそ生存者がいるとは思えない状況だった。だが一応ここも掃除はした方が良いだろう。そして俺はもう一度聞いた。
「なあタケル! 本当にここにはあるんだよな!」
「あるよ。デカ目のル〇ヴィ〇ンがな」
「すまんな! みんな! 俺のわがままに付き合ってもらって!」
「何言ってるのよヒカル。みんなあなたから救ってもらったんだから、あなたのわがままを聞くぐらいなんてことはないわ」
「みんなを置いて、俺だけが行っても良いんだぞ」
「私もみたーい」
「私も! 他の店もみたいわ」
「化粧品も確保したいしね」
「人助けばっかりで自分らの息抜きも必要よねー!」
「ほらヒカル。皆もそう言ってる」
「わかった」
するとクキが苦笑いして言う。
「まったく、あんたらはシビアなんだか能天気なんだかわからねえな」
それを聞いたユミが言う。
「悪い? 私達だって生きてるのよ?」
「悪かねえよ! 俺も迷彩服ばかりじゃ飽きる」
「じゃ決まりね」
そして俺達は大阪の町に進んでいく。先に俺が進み、皆はトラックに乗ってゆっくりと付いて来た。
「俺が先行する! 皆はゾンビ破壊薬を散布してくれ!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」」
俺は日本刀を背に、大量にゾンビがいる大阪の町に走った。上空には仲間達が操作するドローンが飛び、自分達の私利私欲の為に大阪の町を制圧していくのだった。




