第285話 戦闘訓練で恐竜を捕まえろ
俺達は救出部隊の志願者に対して戦闘訓練を行っていた。今は俺がビルの一つに潜み、志願者達が来るのをじっと待っている。市街地に潜伏している俺を、試験体と想定して発見するという形式だ。仲間達が戦闘の指導をしつつ、自分達の訓練も兼ねての事だった。
最初の標的役はミオがやり丸二日間逃げ続けた。ミオは敵の気配を察知する能力があるので、なかなか捕まえる事は出来無かったが、試行錯誤のすえ人海戦術で追い詰め捕まえたのだ。次に標的役としたのはミナミで三日感逃げ続ける。ミオほどの気配察知能力はないが、それを身体能力で補って逃げた。次の標的はタケルがやり、ほぼ身体能力のみで三日間逃げ続ける。
ここまではなんとなかったのだが、次のクキで難易度が極端に上がった。全く捕まらず一日の訓練終了時に、のこのこ出てくるのを一週間繰り返してしまう。そこでクキにはハンデをつけ、全身が蛍光黄色の服を着せ、定期的に持っているスマホのアラームが鳴るという形にする。それにプラスして、俺達の仲間を追跡チームにいれた。それでようやく二日かけて追い詰めるところまで出来たのだ。
だが…
俺は全く見つけてもらえなかった。最初からハンデをつけて、クキと同じ方式にしたのだが全く見つけてもらえないのだ。どんどんハンデがつけられ、俺は体中に風船を括り付けられた。それを持って動かないと、風船は浮いてしまい遠くからでも見つかるという寸法だ。その状態で三日逃げ続け、それでも見つけてもらう事が出来なかったので、現在の俺は恐竜の着ぐるみを着ている。
体がデカく、隠すところが限られているがそれでも俺は逃げ続けた。
さてと…
今日はクキも追跡隊に入って指示出しをしている。流石に見つけてもらわないと、訓練だけが伸びて先に進まない。それで今は、恐竜のきぐるみを着たままデパートに潜んでいる。時おり駆除しきれていないゾンビが直立しているが、それが良い具合にカモフラージュになった。そのゾンビ達は、志願者達で討伐する事になっている。
だが…俺はもう侵入者の気配を感知してしまった。どうやらこのデパートに四方から入り込んできているようだが、状況から察するにクキはもう潜入しているだろう。俺はすぐに動き、音もなくエレベーターのドアを広げて上に登る。着ぐるみが邪魔でいつもの動きが出来ないが、それでも逃げるぐらいなら支障はない。
最上階についてエレベータを出ると、やはりクキはこの下の階まで詰めて来ていたようだ。恐らく志願者を潜入させたのは、俺の気配感知に対してのオトリだ。俺はクキが昇って来るであろう階段から逆に離れる。
よく見ると、ビルの防火壁が開いており外に出れるようだ。俺はそこから出て屋上に飛び移り、ビルの端から隣のビルの屋上に飛び移った。すぐに屋上から下に潜っていくが、どうやらこのビルにも既に仲間が潜んでいる。想定して待機していたのだろうが、どうしても気配を消す事は出来ずにいる。
この状態だと、三階に降りるまで遭遇はしないか。
俺は一気に三階に降りて窓から隣のビルの窓に入った。だがこのビルにも既に進入者がいるようだ。
よくここまで出来るようになったな。
もちろん俺は認識阻害魔法も使っておらず、バフは全くかけていない。純粋に身体能力のみで逃げているのだ。更にどうやらこのビルには罠が仕掛けてあり、物を動かすと何かが起きるようになっている。俺は罠のことごとくを避けて、エレベータの扉を開けワイヤーを伝い一階に降りた。むしろ俺が一階に潜んでいるとは思っていないようだ。
一階に出て、一気に外に駆けて行くとそこはアーケードの下だった。そのまま向かい側の道路に抜けて、ビルの入り口の窪みに体を隠す。その時、目測を謝ってビリっときぐるみを破ってしまう。
あ。
と俺が穴の開いた上の部分を見上げた時だった。
「見っけ!」
ミオの声だった。ミオが向かいのビルの二階からこちらを見ている。そこでミオが笛を鳴らした。
ピー!
俺が恐竜の着ぐるみのまま待っていると、皆が集まってきた。
タケルが言う。
「よっしゃ! やっとだな!」
するとクキが答える。
「何度も練った作戦だ。案外単純なものに引っかかったりするものさ」
俺が頭上を見上げると、わざと針金が出ていて着ぐるみが破ける仕掛けを作っていたようだ。
ミナミが言う。
「それでも五分五分だったわ。一瞬でもヒカルの気が逸らせればミオが見つけると思ったから」
だがツバサが笑い始める。
「あはははは」
「なんだ?」
「でも、これで捕まえたって言うのもおかしいよね。見てよ! 恐竜のきぐるみに風船だらけの人よ? むしろこれで数日間逃げられた事が異常だわ」
「だが負けは負けだ」
そして救出部隊の志願者が言う。
「本当に難しかった。我々だけでは到底無理だったと思う」
「役に立ったか?」
「そりゃもう。凄く! こんな経験した事無い」
志願者に対してクキが言う。
「だが、ハンデもハンデだ。念のために言っておくと、試験体を見つける為の訓練じゃないぞ。試験体を先に確認して逃げる為の訓練だ。そいつは分かってるよな」
「わかっています。先にこちらが見つけて、逃げる時間を稼ぐ訓練ですよね」
「そうだ。でもヒカルを追い詰めたんだから、かなりの経験値は積んでいる。くれぐれも言っておくが、試験体とは戦うんじゃなく逃げるんだ」
「はい」
そして志願者たちの訓練は終わった。約ひと月の訓練で、志願者はかなりの動きが出来るようになった。恐らく試験体と遭遇しても、何人かは逃げ延びる事が出来るだろう。
「拠点に戻るぞ」
俺達は拠点に戻り、今日の訓練についてもう一度話し合う。これも訓練の日課になっており、全員が共有し同じ動きが出来るようにしてきた。そのおかげで、今日、俺を捕まえる事が出来たのだ。
会議をしているところにタカシマとミシェルがやって来る。ここ、ひと月はずっと俺の新しい血で研究を続けてきたのだ。タカシマが声をかけてきた。
「訓練はどうだい?」
「今日終了した」
「そうか! それはおめでとう!」
そしてミシェルが言う。
「こちらも凄い物を開発したわ。ミスターヒカル」
「そうか。詳しく聞かせてくれ」
「ええ」
そして俺達は、タカシマとミシェルから新しい薬品についての説明を受けるのだった。




