第283話 試験体のサンプル回収と大規模な掃除
タカシマとミシェル達の努力の甲斐があり、東北地方の各セーフティーゾーンにゾンビ破壊薬が届けられた。やはりユリナが言うように、日本海側にスパイはいない。そして仙台から青森にかけての湾岸沿いを探してみたが、そこにもファーマ―社のスパイはいなかった。
だが俺達は最大限に警戒していた。クキが言う。
「一度スパイを排除しても、また入り込んで来る可能性はあるぞ」
「九鬼さんの言う通りだぜヒカル。ずっとスパイ探しを続けるわけにもいかねえぞ」
「確かにそうだな」
「まあ、ヒカルが大勢居ればいいと思うけどよ、いかんせん一人しかいねえ」
「ああ」
そこにタカシマがやってきた。
「ヒカル君。ちょっといいかい?」
「ああ」
「二人も来てくれ」
そして俺とタケルとクキが研究室に連れていかれる。タカシマの研究室に入ると、パソコンの前にオオモリが座っていた。そこでパソコンに映されたデータを見せられる。
「このデータはあくまでも仮説なんだが、大森君に試験体の細胞CGを作ってもらったんだ」
「試験体の何を?」
「まあ言って見れば試験体の性能評価みたいなもんかね。大森君映してくれ」
「はい」
画面に映っているのは、どうやら試験体の擬似細胞らしい。画面の中の細胞が、破壊されすぐに復活して繋がっていく様が映っていた。
「恐らくはこういう仕組みだと推測されるんだ。それに対して新たにヒカル君の血液から精製された、新薬を打ち込んだ場合がこれだ」
次の動画に移ると、動く細胞に何かが注入され細胞が動きを止める様が映し出される。すると他の細胞も次々に止まって行き、最終的には全部が止まる。
「凄いじゃないか、タカシマ。これが出来たのか?」
「いや…これはCGで作られた架空のものだよ。本格的に作るならばサンプルがいるんだ」
「サンプル?」
「試験体が必要だ」
「……」
「獲っては来れないかな?」
それを聞いたクキが言う。
「いや。先生よ、そいつはいささか無理がねえか? 試験体を運ぶ? よしんば運べたとしても、あっという間に新型が広まっちまうだろ?」
「いや、試験体を丸々一体、連れて来てと言っている訳じゃない。その体組織を殺さずに特別な容器に詰めてきてほしいんだ」
「たく、簡単に言ってくれる」
俺はクキを制してタカシマに言った。
「特別な容器とは?」
「これだよ」
タカシマは床に置いてある、縦一メートル直径三十センチほどの大きな缶を指さす。
「それに入れて凍結させて運んで来てほしい」
「試験体の肉片を詰めてくればいいという事か?」
「そんなにはいらない。本当に少しだ」
「わかった」
俺が言うとタケルとクキがどよめく。
「マジかヒカル?」
「新細胞を持って来れば広がるんじゃないか?」
それにはタカシマが答える。
「病原菌保管室で厳重に管理をさせてもらうよ。絶対に広がらない」
「そう言うなら行って来る。それは何かに必要なんだろう?」
「ゾンビ破壊薬さ。試験体用のね」
「わかった」
するとクキが言った。
「おいおい。ホントか?」
「本当だ」
「…しかたねえ。なら俺がヘリを飛ばす」
「頼む」
「行先は静岡だろ?」
「そうだ。ついでに掃除してくるさ」
「掃除? とにかく分かった。ヘリを調達するぞ」
そして俺はタケルに言った。
「留守のあいだはみんなを頼む」
「任せとけ。だがくれぐれも注意しろよ」
「もちろんだ」
そして俺はクキと出発する事になった。まずはヘリコプターを入手するところからだが、それはすぐに解決する。生存者の情報だと、自衛隊の松島基地に動きそうなヘリコプターがあるそうだ。以前も一度行っているので場所は分かった。俺とクキはバイクにまたがり松島方面に向かう。仙台から約一時間ほど行くと、松島航空自衛隊基地が見えて来る。
「よし! ヒカル。二人しかいないから、ちっさいのでいいだろう」
「わかった」
クキに言われて格納庫に入ると、チヌークよりも小さなヘリコプターがあった。それを見てクキが言う。
「ブラックホークだ。コイツで飛ぶ」
俺達二人はヘリコプターに乗り込み、クキがエンジンに火をいれた。
「燃料は満タン。問題ない。低空で西へ飛ぶぞ」
「そうしてくれ」
そして俺とクキが乗るヘリコプターは、西へ向かって飛び立つ。それから山岳地帯を迂回し静岡方面へと向かった。
「ヒカル。山を越えれば静岡が見えて来るぞ」
「よし。すぐに終わらせる、ついでに掃除をしてくるからヘリコプターはしばらく降ろすな」
「いいのか?」
「邪魔になる」
「言っている事が分からんが、お前が言うならそうなんだろうな」
クキがヘリコプターを降下させ、俺がハッチの所に立つ。
「終わるまで来るな。終わったら火を灯すからそれが降りる合図だ」
「へいへい」
そして俺は上空から静岡の山岳地帯に飛び降りた。山に着陸し、すぐさま高速移動で市街地へと走っていく。市街地へ入ると奴らの気配がし始めた。
「いた」
そして俺はタカシマから渡された、小瓶を握りしめ日本刀をかまえる。新しい剣技を使えば、試験体を殺してしまうので純粋な剣技で仕留める必要がある。バッと飛びビルの屋上に立って下を見ると、蠢く虫のような試験体達を見つけた。
俺は無造作にその試験体の中に飛び降り、すぐ近くの一体の首筋を切り取った。素早く持っている小瓶にその組織を入れる。すると俺に気が付いた試験体達が、一斉に俺に飛びついて来た。すぐさまその場所を縮地で離れ、俺は再びビルの屋上に向かって走る。
「よし」
そして俺は日本刀の鞘で、鉄の手すりをカーン! カーン! と叩き始める。試験体はその音につられて、どんどんこちらに集まってきた。まるで甘い砂糖に群がる蟻のように、ビルの周辺にわさわさと山になって来た。反対側を見ても同じように試験体がよじ登って来ている。
屋上の手摺を乗り越え始める試験体を見て、俺は魔気を纏い始める。
魔気を纏っての大規模殲滅技は初めてだな。
俺はそのまま屋上を走りぬけてジャンプし、かなり離れたビルの屋上へと降り立った。振り向けば俺がいたビルは試験体で真っ黒になっている。
「次元断裂」
俺が剣を振り下ろすと、そのビルはおろか周辺地域を町ごと飲み込む次元の境目が出来た。試験体の山は一気にそれに吸い込まれ、次の瞬間バグンと閉じる。元々町があったところには、巨大な穴が空いた。
そして俺はすぐさま新しい試験体の気配がする方を向き、屋上を走り抜けそちらのビルまで飛んだ。再び先ほどと同じように、屋上の手摺を鞘でカーンカーンと叩く。馬鹿な試験体は砂糖に群がる蟻のように寄って来るのだった。そしてまた離れたビルに飛び移る。
「次元断裂」
新たに空いた次元の穴は、試験体を大量に吸い込み閉じた。それから俺は同じ事を二十回ほど繰り返す。静岡の街は巨大な穴だらけとなり、試験体の気配は静まり返っていくのだった。
「終わった」
俺はクキを呼ぶために、空に向かってフレイムソードを放った。少し待っていると、遠方からクキが操縦するヘリコプターがやってくるのだった。




