第282話 紛れたスパイの見分け方
俺達は仙台のあるサッカースタジアムに来ていた。広い敷地と施設の中は、ゾンビらを駆除したような跡があり、あちこちが血で汚れている。周りが壁で囲まれており、まるでコロシアムのような形になっている場所だ。今回は初めての試みと言う事もあり、他の生存者に被害が出ないここを選んだ。
「タケル、ここは本来何をする場所だ?」
「サッカーをするとこ」
「サッカー?」
するとミナミが分かりやすく教えてくれた。
「十一人が球を蹴って、相手の陣地に球を押しこむ対戦試合をする場所よ」
「プッ!」
それを聞いていたクキが笑う。
「何がおかしい?」
「良いチームワークだと思ってな」
確かにそうかもしれない。誰かの足りないところは誰かが補うようになっている。
今日ここに来ているのは、俺とタケル、ミナミ、クキ、そしてユリナの五人で、五人は観客席からグラウンドを眺めている。するとクキが持っているトランシーバーに連絡が入り、生存者の代表を務める者の声がした。
「到着した。今、新参者を入れる」
「頼む」
俺達が見下ろしていると、下の壁の入り口からぞろぞろと人が入って来た。
「じゃあ行って来る。クキとユリナはここで待機、万が一は銃の使用を許可する」
「了解だ」
俺とタケルとミナミが、グラウンドに降りてからも次々と人が入って来た。あちこちから集められてきた新規の生存者で、各グループがバスを走らせ集めて来たのだ。ぼちぼち人の流れが収まってきたところで、生存者の代表が言った。
「今のところはこれで全部だよ」
「わかった。スタジアムを出て入り口を全て閉鎖してくれ」
「既に準備は終わっているよ」
「よし」
そこでミナミが集められた人らに大声で話をし始める。
「皆さん! よく来ていただきました! まずは皆さん周辺に集まってください!」
新規の生存者達は、ぞろぞろと俺の周りに集まった。
そこで俺が言う。
「座ってくれ」
すると生存者の手が上がる。
「ちょっとまってくれ! これは何をする為だ?」
それにはミナミが答えた。
「せっかく生き残った者同士ですし、一度、お話を聞いていただいた方が良いと思います」
「何の話だ?」
だが他の生存者が言った。
「まず、座ったらいいんじゃないのか? 話をすると言っているんだから。聞いてからでいいだろう」
「いや、俺も先に何をするか聞きたいな」
また他の奴が言い出すと、更に違う奴がそいつに喧嘩腰に言う。
「だから。まず座って話を聞いたらいいだろ!」
「何だと!」
集まった人らがガヤガヤと騒ぎ出した。そこでタケルが大きな声で言う。
「せっかく生き残った人らが集まってるんだ。喧嘩はダメだって。もし聞きたくないって言う奴が居るなら、別に出て行ってくれていいと思うぜ。判断は皆にまかせるよ。ただめっちゃ有益な情報だって事は間違いない。この日本を救う為の超イイ話だ」
「わかったよ」
反発していたヤツラが渋々座った。
「ここまで来たのは、ゾンビになりたくないからだろ? 話だけでも聞いたらいいよ」
タケルの言葉に静かになって、皆が集中して俺を見る。
だが俺が話をすることは何もなく、やる事はただ一つだ。まずは魔力を活性化させて体内で流動させていく。俺のゾンビ因子除去魔法もかなりレベルが上がり、いろんなことが出来るようになっている。次の瞬間、一気にゾンビ因子除去魔法を四方に放出した。
シャン! 魔力の光が収まった後で、新規の生存者達が騒ぎ出した。
「なに! 真っ白だぞ!」
「わたしも!」
「あなたも真っ白よ!」
「俺もだ。何だこりゃ! パウダーか!」
死んだゾンビ因子によって、生存者達が真っ白になってしまった。だが、その中で二人だけ何も起きなかった奴がいる。それはさっき、俺に食ってかかってきた二人だった。
「な、なんだ?」
「みんな、真っ白だな」
そこでミナミが言う。
「とにかく粉がふいちゃった人は、いったん体をふいた方が良いですね。集まってください」
すると白い人らがぞろぞろとミナミについて、ここから離れて行く。何も起きなかった二人も、立ち上がってついて行こうとするが俺はそれを止めた。
「まて」
「な、なんだ?」
「お前らは、いつここに来た?」
「そ、それは最近だ。なあ」
「ああ」
「何処から来た?」
「海沿いだよ。ゾンビが止まったって聞いたからな」
「なるほどな」
そこで俺は背中の筒から日本刀を取り出した。それを見た二人が言う。
「お、おいおい! 何だってそんな物騒なもんを」
「最近、ネズミがうるさくてな。紛れ込んだネズミを始末するのが俺の仕事だ」
「「……」」
「もう一度聞く。何処から来た?」
「くっくっくっ!」
「はっはっはっはっ!」
突然笑い出した。
「勘の鋭い奴がいるもんだなあ!」
「まったくだ。上層部は何を掴んでるのかね?」
「ファーマ―社の人間がこんなところで何をしている?」
「まあどうせ死ぬんだし、お前らには先に教えといてやるよ。これからは新型人類の時代が来る!」
「新型人類?」
「そうだ。どんな環境でも生きる事が出来る上に、強靭な力を持つ我々の事だ!」
「お前らがそれなのか?」
「他の生存者達を退出させたのは間違いだったな。お前ら二人を殺せば、何も証拠は残らない」
すると俺の後ろでタケルが言う。
「やれやれ。馬鹿っているんだな」
「なんだと?」
「あんたら、誰を目の前にして言ってるか分かってんのか?」
「ははは! 銃も持たずに二人で何が出来ると思った? この力を見ろ!」
目の前の二人が突如ボコボコと変異し始めた。あっという間に異形のバケモノに変わり、にやにやと笑いながら俺達を見下している。
「ふう」
タケルがため息をついた。
「怖気づいたか! 仕方あるまい! 新型人類の力に普通の人間が抵抗できるわけがないからな!」
それを聞いたタケルは、リコが作ってくれたモーニングスターをじゃらりと下げる。
「まず、一発ぶん殴らせろ」
「くっくっくっくっ。やってみるがいい」
タケルのモーニングスターは、瞬間的に回りその男の首に振り下ろされる。ボキャッ! と音を立てて首がへし折れたが、首を九十度に曲げた男が笑いだす。
「あっはっはっは! それで? どうするって言うんだ! お前らはもう終わりだ。感染させて取り込んでやろう!」
それを聞いたタケルは乾いた笑いを浮かべて俺に言った。
「先生。出番です」
俺は日本刀をかまえて二人に向かう。すると二人は俺に向かって飛びかかってきた。
「しねぇぇぇぇ!」
「ぎぇぇぇぇ!」
既に魔気を纏った俺が剣技を繰り出す。
「屍人斬」
魔気が乗った剣技が敵二人に伸びると、胴体を真っ二つに切り裂いて地面に墜とした。一瞬静かになたが、落ちた二体の試験体は笑い始める。
「あははははは!」
「これで死ぬと思ったか!」
俺が答える。
「ああ」
男が下半身を引き寄せて、自分の体にくっつけた。
「あれ?」
もう一人の男が言う。
「どうした?」
「くっつかない」
「まさか!」
もう一人の男も下半身を手繰り寄せて、自分にくっつけようとする。
「どうして…」
「だから終わりだ」
「なん、」
「え」
切り口から一気に黒いオーラが包み込み、二体の試験体は静かになって崩れていく。
タケルが言った。
「完成したのか?」
「ああ。技の一つを確認できた。これでだいぶやりやすくなるぞ」
「やっぱスパイがいたな」
「恐らくはあちこちに散らばっているだろう」
「あとは時間との勝負か」
「そう言う事だ。危うくここも静岡の二の舞になるところだった」
「急がなきゃな」
「ああ」
ぐずぐずに崩れ去った試験体を後にして、俺達はスタジアムを出るのだった。




