第281話 日本の正常化に向けて
仙台市の生存者を取り仕切るグループを尋ね、俺とヤマザキは青葉城跡地に来ていた。皆を本丸会館に集めて話し合いの場を設けたのだ。集まったメンバーの代表者が、目を輝かせ手を差し伸べて来る。
「お久しぶりですヒカルさん」
「ああ。皆、知った顔だな」
「ええ。新参者は入れるなとおっしゃってましたので」
ここには俺がゾンビ因子を除去した人だけが集められており、皆は何事かと真剣な表情で俺を見ていた。最初に俺が皆に極秘事項を伝える事にする。
「忙しいところ、集まってもらってすまない」
「いえ。命の恩人が呼んでいるのに、集まらない訳にはいきませんよ」
俺は命の恩人などと言う大それた者ではないが、彼らは俺に対して絶対の信頼をしてくれているようだ。数千人の命を救った事によって、まるで俺の事を神の如く思っているらしい。
「ここで話される事は完全極秘で、一般市民に伝える事はやめてほしい」
「はい。絶対に」
皆が顔を寄せて静まり返る。
「あれから俺達は、かなりの都市をセーフティ―ゾーンに変えた。東京は核で壊滅していたが、東日本から神奈川そして静岡にかけてまで、各地の生存者を助けてゾンビを掃除したんだ。だが時間が過ぎるにつれて、どんどん生存者の数が減り続けていってる事が分かった。だから俺達は、急ぐ為にヘリコプターを使っての移動を選んだんだ」
皆が集中して聞いている。そこで俺は核心を話す事にする。
「名古屋の小牧基地でヘリコプターを入手した俺達は、ある事情の為に静岡に引き返したんだ。だがそこで俺達は恐ろしいものを見た」
「恐ろしいものとは?」
「それはゾンビとは比べ物にならないほど凶悪で、しぶとい化物だった」
「そんなものがいるんですか?」
「それにやられるとゾンビ因子を取り除いた人間も感染し、バラバラにしても復活してくるような奴だ」
「そんな…」
「だが数はそういない。恐らくは運び込むのが難しいのだろう。潜水艦で運ばれたと推測されるが、潜水艦とて命がけで運んで来たと思われるほどの化物だ。だがそんなものより、もっと厄介なものが入り込んでいたんだ」
「もっと厄介なもの? なんです?」
すると俺の隣りからヤマザキが言う。
「ここまででも、かなり衝撃的な内容に驚いた事だろうと思う」
「ええ」
「だがここからの情報は、かなり慎重に取り扱わないと、人々に軋轢を生みかねないデリケートな話だ。我々も伝えるかどうか迷った代物だ」
「なんです?」
「ファーマ―社の連中が入り込んでいたんだよ。アイツらがそのバケモノを引き入れた」
「スパイ…ですか?」
「そうだ。だが、ここで気を付けて欲しい事がある」
「はい」
「だからと言って、魔女狩りの様になってしまわないようにしないといけない。誰もが信用できなくなり、お互いがお互いをファーマ―社のスパイだと疑い始める。そんな事が起きたら、せっかく生き残った人達同士で殺し合いが始まるかもしれないんだ」
「なるほど。それはそうですね」
「だから、ここに居る人達だけで対策を講じる必要がある」
突然沸いた難題に、生存者達がいろいろと相談をし始めた。前世でも魔女狩りのような事は行われた事はあるが、悪魔が取りついた人間は聖職者がいれば割り出せる。だがファーマ―社の人間は普通の人間、突如知恵のあるゾンビになるかもしれないが見分けはつかないだろう。
「今は見分ける手段がないのですね?」
そこで俺が言った。
「そのために、新たに加わった生存者を集めて欲しい。俺がゾンビ因子を除去していない生存者を全て集めて、再びゾンビ因子の除去を行う。その時に俺が判別しようと思う」
「わかりました。ですが通達して集まるまでは数日かかると思います。三日後にここに集まるというのはどうでしょうか?」
それにヤマザキが言う。
「いや。仙台の大きなサッカースタジアムにしてくれ」
「サッカースタジアム?」
「そこに集めるんだ」
「分かりました…それではそのようにしましょう」
「とにかく話は外に漏らさないように」
「はい」
そして俺達は、三日後のおおよその時間を詰め話し合いを終える。青葉城跡を出発した俺達は真っすぐに、現在拠点としている製薬工場に向かうのだった。向かう車の中でヤマザキが言った。
「ヒカルはまるで教祖様のようになっているな」
「教祖様?」
「いや、教祖と言うより、神そのものと言った方が良いかもしれん」
「俺が神? よしてくれ」
「まあそう言うな。やっている事は神に近いのだからね、それに彼らはヒカルを裏切らないだろう」
「それならばいいが…」
そして俺達は拠点に到着した。マナが門を開き俺達を迎え入れる。
「どうだった?」
「最初の生存者は快く引き受けてくれた。あとはゾンビ因子除去を目的に人を集め、数日後に一カ所に集めてもらうことになった」
それを聞いていたユリナが言う。
「どうなるかしらね?」
「ファーマ―社が入り込んでいない事を祈るさ」
「そうね…」
工場ではタカシマとミシェルのもとで、生徒達が必死に薬品を製造している。また助けた女達も手伝い、ここで血清を作っていた人らも献身的に働いてくれていた。そのおかげもあり既に何度も薬品を持って、仲間達がドローンを積み込み各地に散らばって行った。仙台を中心にして、セーフティーエリアの生存者の元へ運んでいるのだ。それでゾンビが存在できないエリアを拡大している。
恐らくはひと月もしないうちに、東北のゾンビは消えるだろう。ようやくここまで来たのを、ファーマ―社に邪魔させるわけにはいかないのだ。そして俺は、むしろファーマ―社が炙り出されればいいと思っている。出来るだけ早い段階で、その芽を摘むことが出来たらそれに越したことはない。
「皆の動向は?」
ユリナが答える。
「武と由美、美桜、ユンちゃんのチームは岩手の盛岡市に遠征中。南と翼、九鬼、凛子、大森のチームが山形の酒田市に遠征中よ。両チーム夜には戻って来るわ」
「わかった。アオイはどうしてる?」
「私と一緒に、妊婦さん達の世話よ。万が一があってはいけないから、アオイも献身的にやっているわ。弟さんを妊娠していたお母さんの世話もした事あるんだって」
「そうか」
アオイは偉い。まだ小さいのに大人と一緒に仕事をしている。あとでバイクの後ろに乗せて、海でも見に連れて行ってやろう。
「後でアオイを連れ出してもいいか?」
「もちろんよ」
「万が一仙台に潜り込んだネズミを見つけたら、一斉に駆除してやる。そうすれば、ゾンビ破壊薬を散布する人員がドバっと増やせるからな。洗い出しは少し時間がかかるだろうが、俺はもう同じ轍を踏まん」
「ええ。そして皆が自分の出来る事を精一杯やっていれるのは、ヒカルがいるからよ。あなたが後ろにいる事が、彼らにとってどれほど力強い事か」
「わかっている。これ以上はこの国をファーマ―社の好きにはさせん」
俺達が話しているところに、タカシマがやってきた。
「おお! ヒカル君! 良い所に居た! 採血をさせてくれないか! 新薬の為に必要なんだ!」
「お安い御用だ」
そして俺はタカシマに連れられて、医務室へと足を運ぶのだった。




