第277話 ゾンビ駆除薬散布ドローン
製薬工場の一部の機能を稼働させ、ミシェルとタカシマが薬品の製造を始めた。人手が足りないと思っていたが、途中で拾った老人達がやたらと働く。なんでも自分の体が動くようになった事が嬉しいのだとか、そのおかげで作業は想定より大きくはかどっている。
薬品の原料は、俺がゾンビ因子を除去した人達の血液だった。血を集める為、俺達は献血車を出動させ、小田原の生存者から血液を募った。生存者が快く了承してくれたおかげで、かなりの量の血液を入手する事が出来ている。
さらにタカシマが俺の血液の再分析を始める。この施設の機器のおかげで、かなりの事が判明したそうだ。難しい話だったので、俺にはよくわからないが薬品にかなりの改良が加わるらしい。
未だファーマ―社が襲撃してくる様子は無いが、静岡で広がった新ゾンビがいつこちらに渡って来るか分からない。ミシェルとタカシマの薬品製造は時間との勝負だった。毎日二十四時間休みなく工場を動かし、もう数日が経過していた。
そしていよいよタカシマが言った。
「山崎さん。ヒカル君。ある程度のストックが出来たんだが、折り入ってお願いがあるんだ」
「なんです?」
「何処かゾンビが繁殖している場所で、この薬品を散布したいと思っている」
クキが俺を見て来る。
「いいだろう。だがヘリコプターを飛ばすのは、かなりのリスクが伴うぞ」
だがタカシマが首を横に振った。
「ヘリは使わん。出来ればどこかで、農薬散布用のドローンを入手して来てもらいたい」
「ノウヤク散布用のドローン?」
「ヒカル君は分からんか?」
するとヤマザキが言った。
「それならば私が分かる。こう見えて元市役所の農林水産部に属した事もあるのでね」
「それは頼もしい。それではお願いできるかね?」
「もちろんです」
そして俺とヤマザキは薬品工場をみんなに任せ、近場で見つけたバイクで走り出すのだった。ヤマザキの指示のもとで、小田原市の市役所に向かう。そこで農薬散布ドローンのありかが分かるという。
そして俺達は市役所に潜入した。
「えーと、農林水産部。あ、農政課か、こっちだ」
ヤマザキに連れられて行くと、市役所内にもちらほらゾンビの姿があった。オオモリのシステムで直立したゾンビだが、俺が全て率先して斬り落として行く。そして所定の場所に着くと、ヤマザキがそこにある机をあさり出した。
「あったあった! 農薬散布ドローンの申請書!」
「ほう」
それを見てヤマザキが言う。
「最新の日時はこれだ」
一枚の紙を見て言った。
「そこにあるのか?」
「返却はされていないようだからな。無事だと良いが」
「行って見よう」
俺達は地図を広げて、その住所の場所を探した。
「ここだ」
するとその敷地内にある、軽トラックの荷台にそれはあった。これから使う予定だったのか、動かした形跡は無い。
「軽トラックに乗り換えよう」
「わかった」
その建屋に入るとゾンビが突っ立っていた。
「可哀想に。農家さんだよ」
「やむを得ない」
俺が農家だったゾンビを全て斬り落とし、軽トラックの鍵を見つける。そして俺達は製薬工場に戻るのだった。
「見つけましたよ」
「おお! すばらしい! 出来たら動くゾンビの居る場所に行きたいのだが」
それを聞いたクキが言った。
「それはいいけどよ。この爺さん達はどうする? 危ないだろ?」
だが老人達が首を振る。
「いんや! 年寄り扱いするな。わしらはやれる!」
「おいおい。工場で働いたからか随分元気になったな」
「自衛隊の人。あたしゃこんなに動けるようになったんじゃ! ゾンビなど蹴っ飛ばしたやるわい」
「ほら! タケさん無理しなさんな」
「あたしゃ貴子だよ!」
それを聞いたクキが笑って言う。
「んじゃ。行くか」
そしてミオが言った。
「それじゃあ、おじいちゃん達が居た箱根がいいんじゃない?」
皆が賛成し、ゾンビ停止システムが届いていない箱根に向かう。そこから箱根まではニ十分もかからなかった。まばらではあるがあちこちにゾンビが動いており、それを見たタカシマがにんまりと笑って言った。
「丁度良い塩梅だ」
「よし早速取り掛かろう」
俺達が軽トラックの荷台から、農薬散布用のドローンを降ろす。そしてそれに、タカシマが持っていた瓶から溶液を移し替えていく。どうやらこれが新型の薬らしい。
クキがコントローラーを持った。
「俺が飛ばす。高島さんが指示をくれ」
「わかった」
タケルがドローンのエンジンに手をかけ、ワイヤーを引っ張るとエンジンに火が入る。
「飛ばすぞ」
農薬散布用のドローンが飛び立った。視界に入っているゾンビ達は、その音につられ空を見て手を伸ばしている。
「しばらく留まってゾンビを集めてくれ」
「ああ」
クキが空中でドローンを止めていると、ぞろぞろとゾンビが集まって来た。
「いまだ! 散布を開始してくれ」
「わかった」
すると俺達が見ている先で、驚く事が起きた。ドローンの下に集まっていたゾンビ達が、何もしていないのに倒れだしたのだ。それを見たタカシマが言う。
「成功だ!」
それを見たタケルが大笑いする。
「まるで害虫駆除じゃねえか!」
「凄いわ!」
「ミシェル君。宮田君が開発したデータを守ってくれてありがとう。おかげで薬が完成したよ」
「いえ。先生、私の方こそ礼を言うべきです。私達の最終目標の一つが達成されたのですから」
その会話を聞いたクキが言う。
「で、これはどうすんだい?」
「薬剤が無くなるまで、この周辺地域に散布し続けよう」
「了解だ」
ドローンが通った後に、バタバタとゾンビが倒れていく様を見て爺さん達が言った。
「凄いのじゃ! わしらの町が! わしらの町が戻って来る!」
「本当ですねえ…」
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏」
俺達の目には、この国の未来が映っていた。そしてヤマザキが言う。
「これで日本は変わるぞ…」
日本復興が大きく進む予感に、皆が感動し涙し始める者もいるのだった。




