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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第五章 救世主編

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第271話 敵のスパイ

 俺が、がんセンター入り口のガラスを破って飛び込むと、そこにも試験体に感染させられたゾンビ達がいた。そいつらが俺に向かって動く前に、飛空円斬ですべてをぶった切る。復活してくるかもしれないが、今は急いで生存者のもとに急ぐ必要があった。


 生存者の気配は上階からだ。急いで階段を上ると、生存者達の気配は棟の反対側から感じられる。どうやらそこにゾンビと生存者が固まっているようだ。一気に廊下を渡り、群がっているゾンビ達の背中を捕らえた。ある部屋の鉄の扉をガンガンと叩いているようだ。


「飛空円斬!」


 ズバッと全てのゾンビが切れて床に落ちる。すると落ちたゾンビの残骸が、近くの肉片にくっつき始め違う生物へと変化した。俺は刀に魔力を注入し一気に放出する。


「ヘルフレイムスラッシュ」


 黒い炎に飲みこまれ、復活しようとしたゾンビ達が燃え尽きて行く。代わりに三本目の日本刀が崩壊し、俺はそれを投げ捨てた。ゾンビ達が群がっていたドアに近づくと、どうやら内部に人間がいるのが分かる。俺がドアを叩いて叫ぶ。


「ミヤタ! いるか! 助けに来た!」


 だが反応は無く、生存者は固まっているようだ。俺はもう一度鉄の扉を叩き、更に大きな声で叫ぶ。


「ミヤタ! タカシマを連れてきた! 開けてくれ!」


 すると中から何かを回す音が聞こえ、すうっと鉄の扉が開いた。中から出てきたのは、憔悴しきったミシェルだった。


「ミスターヒカル! 来てくれたのね!」


「何があった?」


「入って!」


 俺が中に入ると、鉄の扉についているハンドルを回して扉を閉じた。中には数人の生存者がおり、そこにミヤタの姿は見えなかった。ミシェルが大きな声で叫ぶ。


「良く来てくれたわ! もう終わりだと思った」


「なぜこんな事に?」


「あ、あの。その」


「落ち着け。深く息を吸え」


 スーハーとミシェルが息を吸って、少し気持ちを落ち着かせる。そしてゆっくりと話し始めた。


「あなた達がゾンビを止めてくれて、かなりの範囲を処理できていたの。ところが突然、海沿いで処理していた人達が逃げて来て、化物が海から上がって来たって。それからはあっという間に、あなた達の仕組みが効かないゾンビが増えだして…」


 話をしているとミシェルが震え出し声を詰まらせた。その時の恐怖が蘇って来たのだろう。俺はミシェルの肩に手を乗せて落ち着かせる。


「いったんここを離脱しよう。ミヤタはどこだ?」


「分からない、とにかく必死だったから」


「ここは破られなかったんだな?」


「陽子線治療室だから、入り口は頑丈みたいで」


「ヘリコプターが来ているんだ」


「本当?」


「だが、外は試験体にやられたゾンビだらけで、皆を連れてミヤタを捜索をする事が難しい。一度救出してもらう必要があるだろう」


 するとミシェルの後ろに居た人達がざわつき始めた。


「もっと増援部隊は来ないのか?」

「ここに来たのは一人?」

「助けに来る予定は?」


 俺は首を振る。


「この状況では、仲間を降ろす事は出来ん。ひとまずどこかで救出してもらう」


「仲間を連れては来れないの?」


「無理だ」


「わ、私は助けが来るまで行かないわ!」

「俺も、無理だ」

「私も」


 皆が怖気づいてしまう。だが震えながらもミシェルが言う。


「怖いのは皆同じ、とにかく出来る事を」


 見れば周りに居る人らと俺は面識はない。どうやら俺達が出発した後に合流した人達らしかった。彼らは俺を見て怪しそうな顔をしている。


「あんた一人で何が出来るんだ!」

「そうよ。そんな無理だわ! 銃も持たずに!」

「とにかく仲間を呼んでくれ!」


 だが何か違和感がある。俺はミシェルに聞いた。


「彼らは、いつ救出したんだ?」


「あなた達が去ってからよ」


「……」


 俺が黙るとそいつらが俺に言う。


「何を黙っているんだ?」

「早く救援を呼んで来てよ」

「仲間がいるんでしょ!」


「あんたらは、これまでどこで生き延びて来たんだ?」


「それはこの近くの隠れ家だ」


「みな、そこから来たのか?」


「そうよ! 問題ある?」


 そして俺は彼らの心拍数と体温、発汗の状態などから違和感を覚える。


「なぜあんたらは、この悲惨な状態の中を逃げてこれたんだ?」


 俺が繰り返して聞いていると、そいつらは黙ってしまった。それにミシェルが聞く。


「とにかく、このままじゃあ埒があかないわ。ひとまず脱出する方策を考えた方が良いと思うの」


 すると一人の男が言った。


「ミシェルさん。あんたはこの男を信じてるのか?」


「もちろん」


「俺達は信じない。仲間を呼び寄せるまでは、ここを動かない方が良い」


 ミシェルは何も気が付いていないようだが、俺がそいつらにもう一度尋ねる。


「ミヤタは…どうした?」


「……」


 俺が聞くとそいつらの雰囲気が変わった。そいつらの口角が上がっている。


「コイツ、ムカつくんだけど」


 一人が言うとミシェルが驚いて尋ねる。


「何を言っているの?」


 すると男が言った。


「ミシェルお前もな」


「どう言う事?」


 俺はミシェルの前に立ち、そいつらと対峙する。


「運よく、ガンを引き寄せたってのにな」

「ええ。コイツ、ずいぶん勘が良いこと」

「本当ね。そんな立派なスーツを着ているから、ただの金持ちのボンボンかと思ってた」


「ど、どうしたの! みんな!」


 するとそいつらが、大きな声で高笑いし始める。


「裏切者は黙れ」


「えっ?」


「まあいい。銃も持たずに、のこのことやってきた事を後悔するんだな」


 突然豹変した生存者達を唖然とした表情で見つめるミシェル。俺は周りの状況を確認して言った。


「ここは狭い」


「それがどうした! お前はここで死ぬんだよ!」


 俺達が見ている前で、そいつらは邪悪な笑いを浮かべていた。そして俺はミシェルに言う。


「こいつらはファーマ―社の回し者だ」


「嘘…」


 すると目の前の連中は、より一層大きな声で笑い始めた。


「ざーんねんだったねミシェル。もう少しで市民を助けられると思ったか?」

「まったく馬鹿な女」

「まあ所詮は裏切者よ。処分の命令も下っているわ」


 俺は背中に残った二本の日本刀を意識しつつ、入り口とミシェル、そしてファーマ―社の連中との位置を把握した。俺だけならどうという事は無いが、ミシェルを傷つける訳にはいかない。


「あなた達! まさか!」


「ふふふ、どうやらこの女も殺すしかないようだねえ。連れて行って、新しいデータの説明をしてもらおうと思ったんだけどね」


 ミシェルが震えてそいつらに言う。


「宮田は? ミスター宮田はどこ?」


「残念だったね。アイツを連れて行って、ファーマ―社で強制労働させようと思ったんだけど、刃物を持って暴れはじめたんだよね」


「それで?」


「申し訳ないんだけど、大人しくさせてもらったよ」


「そんな…」


 俺はそいつらに言う。


「クソが。ミヤタは日本を救う為の天才だった」


「だーかーらぁ! アイツは邪魔だったんだよ!」


 俺は怒りを抑えつつ言う。


「お前らが試験体をここに引き入れたんだな」


「だったらどうなんだ? 金髪の兄ちゃんよお」


 ミシェルを庇いつつ、俺は背中に残った日本刀の一本に手をかけるのだった。

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