第268話 高島教授の人柄
チヌークヘリに乗り込むと、タカシマがクキに言った。
「大学のグラウンドがある。そこならヘリを降ろせるはずだ」
「了解」
ミオが広げた地図で位置を確認し、クキがヘリを飛ばした。日も高くのぼり地上からもチヌークヘリが視認できる為、飛翔音につられてゾンビが集まって来るだろう。飛んですぐにタカシマが言った。
「あのグラウンドだ」
クキがグラウンド上空に行くと、その辺りにはゾンビがうろついている。グラウンドの門も開いており、次々に入り込んできていた。それを見たタカシマが言う。
「うわっ! ゾンビがたくさんいるようだよ。違う場所を探すかい?」
するとタケルがタカシマに言う。
「必要ないよ」
「それはどういう…」
その言葉を聞き終わる前に、俺はハッチをひらいて飛び降りた。
「おい! ヒカルく…」
タカシマの叫び声を後に、俺は五十メートル下のグラウンド中心に着地した。砂ぼこりがまう中を、ゾンビ達が俺に向かって集まって来る。やはりチヌークヘリの爆音に釣られて、集まって来ているのだ。それならばギリギリまで引き寄せた方が良いだろう。ゾンビは効果的に密集してくれつつあり、俺は腰だめに日本刀をかまえた。
よし。
「飛空円斬!」
びっしり集まって来たゾンビが、俺を中心に連鎖式に円状に倒れていった。俺はそのまま門まで行き、ゾンビの死骸を蹴散らし門を閉めてチヌークヘリに手を振った。チヌークヘリがゆっくりとグラウンドの中央に着陸すると、後部のハッチが開いて皆が降りてきた。最後にタカシマとサイトウが恐る恐る降りてくる。
チヌークヘリのローターがとまり、後部ハッチが閉まるとクキが銃を持って出てきた。
「ヒカルの剣は、いつ見てもストレス発散になるな」
それを聞いたタケルも大きく頷いた。
「だよな」
タカシマが唖然とした表情で言う。
「いったい何が起きた? 知らんうちにゾンビが倒れていったようだが」
サイトウが首を横に振りながら言う。
「いや先生! それよりも彼は五十メートル近い高さから、パラシュートも無しに降下しましたよ!」
「た、確かに! ヒカル君は大丈夫なのかね!」
二人が心配して俺を見るので、俺は体を開いて見せる。
「このとおりだ」
「は、はは…」
「そんな馬鹿な」
「さあ、ゆったりしている時間は無い。ラボとやらに案内してくれ」
「あ、ああ! わかった! 行こう!」
二人が指さす方向に、俺が先行しタケルとミナミとクキが周囲を護衛するように固めた。再び門にゾンビが集まりつつあったので、俺は一直線に走り門の向こうに跳ぶ。ゾンビ達は上を飛ぶ俺を眺め、落ちた場所に向かって突進してきた。
「飛空円斬」
周囲にいたゾンビもろとも切り捨てる。
「来い!」
門から出て来て、タカシマが指さす方向に向かって進み始めた。大きな道路を挟んで道向かいの建物群がそれらしい。その敷地内にもゾンビはウロウロとしており、それを見たタカシマが目頭を押さえながら言う。
「生徒達だ…。可哀想に」
「すまんが彼らはもう手遅れだ」
「ゾンビに痛みがあるのか分からんが、願わくば一思いにやっておくれ」
「飛空円斬」
俺は視界にとらえたゾンビを全て斬り落とす。そしてヤマザキが言った。
「行こう。すぐに集まって来る」
「あ、ああ。みんな…すまない。私が無力だったために」
倒れたゾンビに謝りながらフラフラしているタカシマに、タケルが肩を貸して進み始めた。
「どこだ?」
「もっと奥だよ」
進みながらもマナが言う。
「確かに沢山停めてある自転車が切ないわね…」
「仕方がない」
そして一つの棟の前に到着すると、タカシマが指をさして言う。
「この五階だ。まずは私の部屋に行ってほしい、その後研究室に向かおう」
「わかった」
ビルの入り口は半分だけ空いていて、中にもゾンビの気配はある。俺は皆にそれを伝えた。
「ゾンビがいる。手分けして処理して行こう」
「了解」
「わかった」
「皆も気を付けて」
日光がさしてはいるが、館内は少し薄暗かった。そこを進んでいくと、俺達の気配につられてゾンビが動き出す。俺達がことごとく潰して行くのを見て、タカシマとサイトウは唖然としていた。ゾンビを倒しつつ階段を上り、ようやくタカシマの部屋にたどり着いた。
「内部にゾンビはいない」
俺が言うと、タカシマが不思議そうに言う。
「なんで分かるんだい?」
「気配を察知している」
「透視みたいなものかい?」
「違う。文字通りゾンビの気配や人間の気配を感じているんだ」
「非常に興味深いな…」
するとタケルが言った。
「ほれ! 先生! 考えている暇はないぜ」
「あ、ああ! わかった! そうだね!」
タカシマが部屋に入り、棚やデスクからいろいろなものを取り出して机に置いて行く。しばらくそれを続けた後で、タカシマが俺達に告げる。
「これで全部だ」
「ならリュックに詰めよう」
そして各人が背負っているリュックに荷物を詰め込む。
「次は研究室にむかうよ」
「そうしてくれ」
再び館内を進み研究室にたどり着いたが、その中にはゾンビがいた。
「まて。ゾンビがいる」
「わ、わかった」
扉を開くと、白衣を着たゾンビ達が居た。それを見たタカシマが叫んだ。
「木本君! 大重さん!」
その声を聞くも、ゾンビ達は音にしか反応せずにこちらに向かって来る。俺は二体のゾンビの頭を飛ばした。
「なんということだ…救えなかった。申し訳ない」
すると一緒に来たサイトウがタカシマに言った。
「仕方がないです先生。今は必要な事をやる時です」
「そうだね。仕方ないね」
どうやらタカシマは物凄く優しい性格をしているようだ。人を救えなかった事にも罪悪感を持っていて責任感も強いらしい。ショックで震える体を押さえつけて、一生懸命に研究室を探し回っていた。
俺が聞く。
「大丈夫かタカシマ?」
「ごめんなさいね。皆も大変だと言うのにね、どうしても震えてしまって」
「高齢なのだから、あまり無理せず皆に指示を出すと良い。自分が必死に動く必要は無い」
「ここまで連れて来てもらっただけでも感謝なのだよ」
「あんたはこの国の未来に必要な人間だ。体を壊さない事を優先するべきだ」
タカシマが周りを見ると、俺の仲間達も大きく頷いた。一緒に来たサイトウが皆に言う。
「よくぞ言ってくれました。私達も言うのですが、高島先生は聞いてくれないのです」
「そ、それは、むしろ体を動かしていた方が気が楽だからさ」
「でも先生。彼らの言うように無理だけはなさらぬよう。恐らく今は血圧が上がっていると思います。とにかく指示をお出しになってください。お身体にさわります」
「わ、わかった。ならお願いしようかな」
それからは俺達がいろいろと手に取って、タカシマに尋ねる事にした。いるいらないの判断をしてもらいつつ、集まった物を全てリュックサックに詰め込んだ。すると少し落ち着いてきたタカシマが、そろりと立ち上がり棚のガラス戸を開けようとする。
「だめだ。鍵がかかっている。ガラスを割れば中の物が壊れてしまうだろうね」
「鍵は無いのか?」
「部屋にも無かった」
「わかった。どいてくれ」
俺が日本刀で鍵を断ち切る。それを見たタカシマが言った。
「なんだか映画でも見ているようだよ。不思議でならない」
そう言いつつカラカラと棚を開ける。そこには瓶が並んでいた。
「これも持っていく。割れないようにお願いしたい、そしてこれも」
「壊したくないなら、俺のリュックサックに詰めろ」
「わかった」
リュックに瓶を詰め込み終わると、タカシマが言った。
「これで終わりだが、出来れば薬局と手術室に立ち寄りたいんだ」
「わかった」
そして俺達はそのビルを出て病院に向かった。目に見えるゾンビはすべて倒し、薬局にたどり着くとタカシマは皆に言った。
「とにかく薬を全部持っていきたい。分からなくならないように、薬の名前をペンで記して行ってほしい。箱のままだとかさばるから、出して箱に書いてある薬の名前と日付を書いていってくれ」
皆がそのあたりに置いてあったペンを取り、箱を見ながら薬の名前と日付を直接記していった。ゴムでまとめリュックサックに詰め込んでいく。
「これで生徒達の病気も診れる! 後は手術室にも寄ってほしい」
「行こう」
手術室に行くと、タカシマが言う。
「友理奈君も分かっているよね。とにかく緊急オペが出来るように、器具を持っていきたいんだ」
「わかりました」
皆がいろいろな器具を集めて、まとめてリュックサックに詰めて行った。ある程度集まったところでタカシマが言う。
「充分だ。帰ろう」
「よし」
俺達は大学の敷地を抜けてグラウンドに戻った。すぐチヌークヘリに乗り込んで、真っすぐに天文台に向けて飛ぶ。そこでタカシマが少し驚いた顔をしながら言った。
「おかしいな。私の体がなんともない」
するとサイトウが言う。
「本当ですね。これだけ動き回って先生がダウンしないなんて珍しい」
それを聞いたユリナが言う。
「先生。それはヒカルのゾンビ因子除去のおかげなんです」
「そうなのかい?」
タカシマが俺に聞いた。
「実はタカシマの中におかしな細胞があった。既にそれも取り除いている」
「…本当かね?」
「ああ」
「そうか…なら私はもうしばらく生きるという事だね」
それを聞いたサイトウが突然泣き出した。
「すばらしい! 良かった…本当に。先生は癌だったんです」
タカシマに縋り付いて泣くサイトウを見て、俺はこの地に訪れて良かったと心から思うのだった。ミヤタが頼ったタカシマは、素晴らしい知識を持つと共に人格者でもある。生徒達が彼を慕うのも理解が出来た。そして俺達のチヌークヘリは天文台に戻るのだった。




