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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第五章 救世主編

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第261話 終末世界の弱者

 トラックの周辺に人の気配はない。俺はすぐ小さなトラックの荷台に上がり、12.7mm重機関銃の胴体と先を掴んでぐにゃりと曲げる。建物を見れば一階の入り口も窓も全て塞がれており、中の様子をうかがい知ることは出来ない。だが間違いなく中に人がいるのが分かる。


 道路側を見ると、その車の前方には大量の人の死体が転がっていた。恐らくはゾンビが襲って来て、それを駆除した結果なのだろうが、それにしては律儀に入り口門付近に集まりすぎている。


 周辺を見渡してみると、破壊せずに侵入できそうな所は無い。俺はそのまま真上を向いて、一気にビルの屋上へと飛ぶ。そして屋上の縁にぶら下がり様子を伺うと、そこに人がおり中央付近でテーブルを囲んで話をしている。そいつらは銃を持っており、どうやら酒を飲んでいるようだ。


 俺は感覚を研ぎ澄まし聞き耳を立てる。


「はあ…食料も尽きて来たな」


「だな。そろそろ拠点を移す頃合いじゃねえか」


「だが何処に行くつうのかね?」


「もちろん食料を蓄えている奴らの所だろ」


「ちげえねえ。ゾンビだらけの街で命がけで食料を集めるなんてまっぴらごめんだ」


「しかし申し訳ないねえ。せっかく集めた食料を俺達に喰われるなんて」


「弱肉強食の世界だ。誰も文句は言わねえよ」


 なるほど。おおよその様子は分かった。こいつらは人がいる拠点を襲って、その食料を強奪して生き延びているんだ。確かに弱肉強食の世界となった今、こいつらのように生きている奴らはごまんと居る。これまで助けた生存者でも、生きるための争いはあちこちで見て来た。


 そして一人の男が言う。


「なあ、拠点を移すにしても、せっかく集めた女らはどうすんだ?」


「もちろん連れては行けねえだろ。とりあえずここに置いて行くしかねえよ」


「あーあ。結構いい女集めたんだけどな」


「充分良い思いしたろ。次でもまた集めればいいさ」


「ほんと、うまくいったよな」


「無線作戦な」


「食料も安全な寝床もあるって放送したら、結構集まってきたもんな」


「まさか男らやおばちゃんが、皆殺しになるなんて思ってなかったろうけどな」


 なるほど、今の話だけでも良く分かった。こいつらはかなりの外道らしい。生存者を集めるふりをして、女だけを集め良いようにしていたのだろう。


「まあやり方は分かったんだ。次もうまくいくって」


「違いねえ」


 俺はすぐに屋上に上がる。正面を向いている奴の視界に俺が入ったかもしれないが、縮地で四人のもとに現れて意識を刈り取る。すぐそいつらのズボンを足首までずり下げ、ベルトを抜いて後ろ手に縛りつけた。赤子の手をひねるより優しい。


「さて」


 この世界のビルの屋上には、屋上消火栓という物があり俺はそれを探す。すぐに見つけてそこからホースを抜き取った。それで四人をぐるぐる巻きに縛り付け、一人の頬をひっぱたいた。


「う、うう…」


「起きろ」


「う、あ。あ、あんた誰だ?」


「ヒーローと言われている」


「ヒーロー?」


「メシアとも言われた」


「メシア?」


 とりあえず自己紹介などどうでもよいので、俺は日本刀を抜き取り男の首元につける。


「死ぬか答えるか選べ」


「わ、わかった」


「仲間は何人だ?」


「きゅ、九人だ」


「生存者は何人いる?」


「な、何人だったかな?」


「覚えていないのか?」


「十五、六人だ」


「よし」


 俺は縛り上げたそいつらを、ずるずると屋上の縁に持って来た。すると目を覚ました男が慌てて聞いて来る。


「な、なにすんだ! おい!」

「や、やめろ!」


「騒げば仲間が助けてくれるかもしれんぞ」


 縛り上げた四人を、屋上の縁から落としずるずるとぶら下げた。そして屋上の縁に設置されている、鉄格子に縛り付けて結ぶ。俺が仲間の方を見ると、木の陰に隠れているクキと目が合ったので親指を立ててニッコリ笑った。


「助けてくれー!」


 男が叫び始めると、他の意識を失っていたヤツラが気が付いたようだ。自分の状況に気づいて叫び始める。


「な、どうなってやがる!」

「お、おい! 落ちる!」

「あんまり暴れるな! 切れるぞ!」

「た、助けて!」


 壁で男達が叫んでいると、下の階の数人の気配が窓際に寄って行った。恐らくそいつらが、こいつらの仲間達だ。俺は屋上のドアを開けて室内に潜入する。どうやら人はみな二階にいるようで、俺がぶら下げた人間側に男達が集まっているようだ。


「お、おい! こりゃどうなってやがる?」

「おまえら! なにやってんだぁ!」


「助けてくれ。変な男に吊るされた!」


「変な男だと?」


 だが俺は自分に気配遮断と認識阻害の魔法をかけ、生存者の気配がする部屋に侵入した。するとそこにはベッドが置いてあり、その上に裸の女が呆然として横たわっていた。


「おい」


 女は虚ろな目で俺を見るが、一瞬何が何だかわからないような表情をする。


「助けに来た。一緒にいこう」


「あ…う…」


 可哀想に。心神喪失状態になっているようだ。俺はその女を抱きかかえて窓に向かう。窓を開けてそこからすぐに下に飛びおり、急いで仲間達のもとへと走る。突然現れた俺に皆が驚く。


「ど、どうしたんだ?」


 クキが聞いて来る。


「建物に女が捕らえられている。まずは一人保護して来た」


「それにありゃなんだ?」


 クキがぶら下がっている四人の男達を見て言う。


「クズだ。呼び寄せる餌にした」


「餌って」


 だがその答えを聞く間もなく、俺はすぐに違う部屋の気配がした場所に向かう。そこにもベッドが置かれており、裸の女が泣きじゃくっていた。俺はそっと女の口を塞いだ。


「叫ぶな。助けてやる、来い!」


 すると女が震えながらもうんうんと頷いた。俺はすぐに女を抱きかかえて、窓から飛び降り皆の元へと女を運ぶ。同じように数人を助け、後は数人が一カ所の部屋に集まっているようだ。


 そこで俺は仲間達に言う。


「ここからは手伝ってくれ。女らは一か所に固められている。俺があいつらを制圧している間に、女達を救出してほしい」


 するとミナミが言った。


「わかったわ。じゃあ何人かはここに居て待っていて。私が行く」


「なら俺も行く」


 ミナミとクキが行ってくれるようだ。そして俺はタケルに言う。


「よし、タケルはここで皆を守っていてくれ」


「あいよ」


 俺達三人が足早に建物に張り着いたところで、二人の首根っこを掴んで二階に飛ぶ。二階の開いた窓に飛び込むと、そこには女達が囚われていた。クキが苦笑いで言う。


「とんでもねえな…」


 そしてミナミが女達に言った。


「助けに来ました。私達についてきて!」


 女達が慌てて立ち上がり、逃げる準備をした。


「じゃあ女達は頼んだ」


「わかったわ」

「おう」


 女達の救出を二人に頼み、俺は騒いでいる男達のもとへと向かった。すると女達がいなくなったことに気が付いた男達が騒いでいる。


「どこいった?」

「クソが!」

「せっかくお楽しみだったのによ! なんなんだよ!」


 どうしようもない奴らだ。俺はすぐに最初の一人に忍び寄り意識を狩る。それからの四人はあっという間だった。銃を撃つ暇もなく皆が眠る。


「さて」


 俺は男達のズボンを足首まで下げ、ベルトを抜いて後ろ手に縛った。その階にあった消火栓のホースを取り出し五人をぐるぐる巻きにする。そのまま階段を上ると、階段のデコボコで頭をうった男らが目を覚ました。


「な、なんだこりゃあ!」

「どうなって、痛て!」

「いででで、やめろ!」

「なんだお前!」

「こら! おい!」


 そのまま屋上に引きずり出し、先ほどぶら下げた連中の隣りにぶら下げてやった。男達がぎゃあぎゃあと騒いでいるのを尻目に、俺は屋上から地面に向けて飛び降りる。するとそこに救出された女達を連れた、仲間達がやって来たのだった。


「なんだよあれ」


 タケルが聞いて来る。


「この拠点を襲い、女達を慰み者にしていたヤツラだ」


 それを聞いた救出した女達が言う。


「アイツらは! 人間じゃないわ! みんなを殺した! そして私達を奴隷にしたわ!」

「そうよ! ああなって当然の奴らだわ!」

「私達がどんな思いをしたか! 絶対に許せない!」


 口々に呪いの言葉を吐く。そこにクキがやって来た。


「おい、女ども。ここに銃があるぜ。これはアイツらの銃だが好きに使っていいぞ」


 女達はこぞって銃を取った。そこでユンが言う。


「弱肉強食の世界っていうなら、思い知らせてやったら良いと思うし!」


 すると女らは屋上からぶら下がっている男らに言った。


「私達の友人や家族を殺した報いだわ!」


 そういって銃を向けて引鉄を引いた。


 カチ! だが弾は発射されない。それを見たクキが言う。


「セーフティがかかっている」


 クキは女から銃を取り上げて、セーフティーを外しまた渡してやった。


 女は震えながら銃を構え男達に向ける。するとそれに気が付いた男達が、大きな声で騒ぎ始めた。


「やめろぉぉぉ! 悪かった!」

「そうだ! もうしない!」

「悔い改める!」

「やめてくれ!」


 パン! バリン!


 女が撃った銃は、的を外れてガラス窓を割った。そこで初めて恐ろしくなったのか、銃を落としてしゃがみ込み泣いてしまった。


「うう、うわーん」


 するとクキが他の女らに言った。


「ほかに撃ちたい奴は?」


 すると数人の女が立ち上がり、銃を取って狙いを定めて撃つ。ところが誰もが震え、その弾は男らにあたらなかった。男達からは小便が漏れ、ダラダラと落ちて来る。


 そこでミオが言った。


「あなた達の手を汚す必要は無いわ。これから私達は新たな場所に向かって旅立つの、一緒に行きましょう」


 その言葉を聞いて女達が泣きじゃくる。その時、銃声を聞きつけたゾンビ達が、基地の外に集まってこようとしていたのだった。

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