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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第25話 もぬけの殻

 俺達はトレーラーから降りて辺りを見回した。すると最初に乗って来た小さな車が四台置いてあり、最初から考えると一台足りなくなっている気がする。タケルが一台に走り寄って扉を開けてみようとするが、どうやら鍵がかかっているようだ。


「山崎さん! 鍵は持っているかい?」


「俺が持っているのは一台分だ…他は…念のため戸倉さんに預けた…」


「じいさんが見当たらないけど建物の中か?」


 ミオがタケルとヤマザキに言う。


「きっと建物に待機してるんじゃないかしら?」


「ヒカル! すまんが中にゾンビはいるか?」


 ヤマザキが俺に聞いて来るので、俺は建物の前まで行き気配感知で内部を探る。だがゾンビの気配はどこにもない、と言うよりも人間の気配がしない。


「ゾンビは居ない」


「わかった! 中を探してみよう!」


「待ってくれ!」


「なんだヒカル?」


「誰も居ないんだ」


「誰も?」


「そうだ」


 すると後ろからタケルが声をかけて来た。


「車が一台割られてるぞ!」


 俺達がタケルの言う所に行って車を見ると、窓ガラスが割られているようだった。


「これは…」


 ヤマザキが自分の持っている鍵をかざすと、ピピッと音がした。そして皆で車の扉を開くと、中にあったはずの荷物がすっかりなくなっていた。神の塔で入手した食料品や、物資の全てが無くなっていた。


 俺の…胡椒の入った背負子が…


 俺の背負子も無くなっていた。せっかくミオが譲ってくれた胡椒が入ってる背負子が跡形も無くなっている。俺はなんて間抜けなんだろう、一度は無くした背負子をまた無くしてしまうとは。


「マジかよ! 食糧が無くなってんじゃねえかよ!」


「持って行かれたな…」


 皆が車を見つめて呆然と立ち尽くしていた。どうやら残して行った人たちが、ガラス窓を割って中身を取り出して言ったらしい。


「そんな…」

「嘘でしょ…」

「翼さん達に何て言ったらいいの?」


 ミオとマナとユリナが言った。するとユミが悪態をつく。


「あいつら! 命がけで採って来た食糧を全部持って行くなんてクズじゃん!」


「嘘だろ…」


 確かに、仲間の為に取って来た食料を持って行くなんてクズだな…


 するとミオが言う。


「そう言えば! この建物の中にも物資があったよね? あそこに食料ないかな!」


「そうだ。そう言えば缶詰が置いてあったはずだ」


 ミオもヤマザキは、皆の気持ちが落ちないように必死にふるまっている。そして俺が車の周りにいる皆に言った。


「まず怪我人を降ろそう。ツバサとミナミも休ませないと限界だ」


 俺はもう一つ気になった事を言う。


「ヤマザキ、いいか?」


「なんだ?」


「あの入り口は閉じた方が良い」


 俺は身振り手振りを交えて、入り口の門のあたりを指さして言った。


「なるほど、入り口を閉じろって言ってるんだな」


「そうだ」


 するとヤマザキは少し考えてから皆に伝えた。


「トレーラーで塞ぐ。翼達を降ろそう」


「わかった」

「はい」

「そうしましょう」


 そして皆がトレーラーに行って、扉を開けて中に声をかけた。するとツバサが顔を出して聞いて来た。


「どうしたの?」


「一旦、あの入り口をふさぐ。このトレーラーを入り口に停めようと思うんだ」


「わかった。私と南ちゃんは自力で降りれるけど、戸部さんは無理みたい」


「手を貸そう」


 ツバサとミナミがトレーラーを降りて、ヤマザキがすれ違いで乗り込んでいく。俺も後ろから着いて行って声をかけた。


「俺も手伝おう」


「助かる」


 怪我人は気を失っていた。俺が傷を治しても血は増えないし、体力を回復させるなら何かを食べさせるしかない。このままじゃあコイツは衰弱して死んでしまうかもしれない。俺はヤマザキに言う。

 

「俺の背中に」


「ああ」


 俺が怪我人を背負ってトレーラーを飛びおりた。するとヤマザキはそのままトレーラーを入り口に持って行って、横づけにして道を塞いだ。


「あれでゾンビは入って来れないかな?」


 ユミがタケルに言っているが、俺がそれに答えた。


「大量に入って来るには時間がかかるだろう。あのトレーラーの下や隙間から入っては来ると思うがな」


「だったらもっといろんなものを置いた方が良くない?」


「そんな事をしたらここから逃げ出す時に、簡単に抜け出せなくなってしまうぞ」


「確かに…」


 そしてヤマザキが俺達の元に戻って言った。


「とにかく、中に休めるところがあるはずだ。そこに戸部さん達を連れていこう」


「分かった。そしてトベには何か飲ませてやらないとダメだ」


「水か…」


 するとミオが言った。


「山崎さん! 探すしかないんじゃない?」


「よし、じゃあ物資のあったところに向かうぞ」


「「「はい」」」

「了解」

「はーい」


 そして俺達はその建物の中に入って行く。建物の中には俺が討伐したゾンビが倒れているものの、動いているものは一体も無く無事に進むことが出来た。


「この先だな」


「ええ」


 ヤマザキとミオが先に行って他の者が後ろに続いた。俺はトベを背負いながら皆について行く。そして俺が缶詰を拾ったところに到着した。するとヤマザキが言う。


「ここからも何かを持ちだしているな…」


「箱が空いてますね」


「調べよう」


 皆が手分けして箱を開けて中身を調べていく。そしてあちこちからその報告が上がって来た。


「これは…多分接着剤!」


「こっちは一斗缶に入った薬剤だな」


 そして皆が一通り調べて戻って来た。皆難しい顔をしている。


「食べ物の類が無い…」


「これだけ箱があって?」


「確かに缶詰はあったのに」


「恐らくそれも持って行ったんだ」


「嘘でしょ…」


 皆が死にそうな顔になりながらため息をつく。


「ミオ、どうしたんだ?」


「食べ物も飲み物も無いの」


「本当か?」


 すると皆がその辺りに尻餅をついて座り出した。どうやら気力が切れてしまったらしい。


「ふう…、まさか仲間を助けに行ってこんなことになるとはな」


「食糧が無くっちゃどうしようもないわ」


「くそが…、戸倉の野郎」


 俺は一度、トベを床に寝かせてヤマザキの元に行きこっそり話す。


「ヤマザキ、トベは水と食べ物が無いと死ぬ」


「そうか…」


「ミオ! 来てくれ!」


 俺はヤマザキに話すために、一番俺の言っている事が分かるミオを呼んだ。


「トベはかなり体力を消耗している、これ以上動かせばまずいだろう。あと助けた二人の女もかなり弱っている。そこでだ、俺がこの周辺で食料を探してくる。この建物の一番安全そうな場所を見つけて立て籠るしかない」


 そしてミオは俺が言っている事をヤマザキに伝えてくれた。 


「…戸部はどれくらい持つだろうな…」


「…もう手遅れかもしれないんだ」


 俺が言うとミオは伝えるのを躊躇した。だがゆっくりとヤマザキに伝える。


「もう遅いかもって」


「そうか…」


 するとミオが俺に言って来た。


「食料を探しに行くなら車がいるんじゃない? 運転できる?」


「車? 足で行く」


「とにかく誰かがついて行った方がいいよね?」


「いらん。俺が一人で探す。状況はだいたい分かった」


 するとミオが俺の手を握って言った。


「あのね、何をしても良いわ。この世界に咎める人なんて何処にもいないから、だから貴方の命を最優先で考えてね。そして危険だと思ったら逃げて!」


「ミオ、俺は戻って来る。だって食糧が必要なんだろ? 缶詰だっけ? ああいう魚とかが書いてある鉄の奴があれば良いんだな?」


「それはそうだけど…。一人で大丈夫?」


「問題ない」


 そしてヤマザキ達と一緒に、この建物内で一番安全そうな場所を見つける。そこは鉄の筒や大きな何らかの機器があり窓の類は一つもない。鍵をかければゾンビが侵入してくる事はないだろう。ヤマザキが言う。


「ボイラー室か。ここならゾンビが来ても何とか耐えれるな」


「ならここで待っていろ」


「いつまで待てばいい?」


「食糧を手に入れても入れなくても日没までには戻る」


「わかった。そこまで戻って来なかったら?」


「その時は自由に動いてくれていい、とにかくお前達はゾンビの対処ができないから俺がなんとかする。まずは体を休めろ」


 するとタケルが俺達の所にやってきて言った。


「俺が一緒に行くよ。銃があるからなんとか出来るかもしれねえし」


「それなら俺が行く」


「いや、山崎さんがここに居なくちゃ、皆はどうしたらいいか分からなくなるだろ?」


 タケルの言葉を聞いてユリナが言った。


「そうだと思う。山崎さん、ここは武に任せてもいいんじゃないかな?」


 するとユミが不機嫌そうに言った。


「ちょっと! 何勝手に人の男に行かせようとしてんのよ!」


 ユミがユリナにたてついた。だがタケルがそれを制する。


「由美! 止めろよ!」


「だって!」


「いいから言う事を聞けって! お前もここで待つんだ! 分かったな!」


 ユミは不貞腐れたようにそっぽを向いた。そしてタケルが俺の方を見ていう。


「ヒカル。俺を連れていけ、銃があれば何とか出来るかもしれない」


 確かにその魔道具ならばゾンビは対処できそうだ。俺はタケルに頷いた。


「決まりだな! 腕の件は…助けてくれたんだもんな…、気を悪くさせて悪かった。とにかく急がなきゃなんねえんだよな?」


「ああ」


「よし、行こう!」


「それじゃあ、鍵をかけてしばらくここで待っていてくれ」


 俺が言うとヤマザキが答える。


「頼んだ」


ミオが心配そうな顔で俺に言って来る。


「見知らぬヒカルにこんな危険な事を頼んじゃってごめんね」


 するとタケルが横から言う。


「おいおい! 俺も行くんだつーの」


「もちろんよ。タケルも気を付けて」


「おう」


 そして俺とタケルが二人でその建物を抜け出ていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 違う世界だってわかってるんだからいい加減魔法や魔道具なんかないこと、ゾンビが最強の敵であることぐらい気づくでしょう。作者様もひっぱりすぎでは?
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