第255話 富士山プラント
俺達の装甲バスが案内された先には、数軒の小屋が立っていた。俺達の装甲バスが通ると、建物の前にいる人や窓の中の人が俺達を覗いてくる。俺達の装甲バスが停まると、銃を持った人らが装甲バスを囲み銃を向けて言う。
「降りろ」
それを聞いた俺が皆に下りるように促すと、一人一人手を上げて装甲バスを出て来た。最後にクキが出てきたが、それを見た周辺の人らがピリついた。
「お前! 銃をよこせ!」
「はん? 俺が銃を差し出した途端に、俺達を皆殺しにするんじゃねえのか?」
「それは、お前達の対応による!」
俺がクキに言う。
「問題ない。渡してやれ」
「チッ!」
クキは黙って相手に銃を渡した。クキの手から力強く銃をもぎ取った相手に、クキは拳を振り上げて威嚇する。それを見た周りのやつらが銃を構えた。クキは両手を上げて言った。
「まあいい」
するとリーダーの男が口を開いた。
「私の名は宮田と言う。そちらのリーダーは?」
皆が俺を見るが、俺はヤマザキの名を呼んだ。
「ヤマザキだ」
「山崎さんはこっちに来てくれ」
ヤマザキがミヤタのもとに来た。するとミヤタは再び挨拶をする。
「私がここの所長をしている宮田だ。君らが私達と戦う意思が無ければ、私らは君らに危害を加えるつもりはない。残念ながら食料は限られているから、食べ物にありつけるとは思わんでくれ。水だけは豊富にあるから飲んでくれていい」
「もちろん危害を加えるつもりは毛頭ない。むしろ私達の食料を差し出そう」
「なんだって?」
「多少の蓄えはある。不足したらまた回収すればいいからな」
「いいのか?」
「ああ。みんな! ここの人らに食料を分けてやってくれ」
「「「「「「はい」」」」」」
女達が装甲バスから食料を持ち出して、ここに居た生存者に渡した。
すると金髪の女が言う。
「こ、こんなに?」
それにユリナが答えた。
「困ったときはお互い様。私達は水が飲めれば数日は大丈夫だし」
「ありがとう。私はミシェル・キートンと言います」
「私は吉岡友理奈です」
「ミスユリナ。ありがとう」
「いえ。ぜひ平和的にお話をしましょう」
その話を聞いて、ミヤタが皆に言った。
「銃を降ろせ! この人らは敵じゃない!」
それを聞いて皆が銃を下げた。そしてヤマザキが聞く。
「高山にいるのはゾンビ対策か?」
「それもある。だが気温が低いのが良いんだ」
「宮田さん達は、ここでゾンビをしのいでた?」
「…そうだ。それよりも、早くあなた方の持っている情報を知りたい」
「わかった」
ヤマザキがオオモリを見ると、オオモリが言った。
「パソコン…なんてないですよね?」
「ある」
「本当ですか!」
「ああ」
「なら、データーはここに」
そう言ってオオモリがメモリを取り出す。
「2テラのメモリです。そこにデーターが入っています」
既にいろんな場所で渡して来たデータなので、ここで出し惜しみする事も無かった。それを受け取ったミヤタが俺達に言った。
「なら中に入ってくれ」
すると生存者の中の若い男が言った。
「プラントに、外部の人間を入れるんですか!」
「そうだ。外で立ち話もなんだろう?」
「ですが!」
それをミシェルが制した。
「見てもらって困るものでも無いわ」
そう言うと皆が黙る。俺達がその建物の中に通されると、会議室のような場所に連れていかれた。そこにミヤタがノートパソコンを持って来たので、オオモリのメモリを差し込むと、データーを読み取る為のパスワードを要求して来た。
「パスが」
オオモリがミヤタの耳にパスワードを教えた。ミヤタが、それを打ち込んでデータを開く。
オオモリが言った。
「万が一の事があるので、一応、限られた人でパスワードを管理してください」
「わかった」
パソコンにはたくさんのアイコンが現れて、ミヤタとミシェルそして周りの連中が食い入るように見た。しばらく動画などを見ていたが、やはり具合が悪くなる人も出て来る。しかしミヤタとミシェルは顔色を変えずに、それを見続けていた。
「なんと…」
「そんな…」
軽く目を伏せる事もあったが、それでも次々にデータを見て言った。そして一つのファイルを開いて、更に興味深くそれを見る。
「ファーマ―社は…ここまでやっていたのか…」
「そのようね」
「もっと検体とデータがあれば…」
「それでもやるしかないわ」
その会話を聞いていたヤマザキが、静かな声で聴いた。
「もし良ければ、あなた方がここでやっている事を教えていただけまいか? ただ避難してきたわけではないのでしょう?」
「「……」」
「私達はファーマ―社と戦ってきたのです。あなた方はどういう立場なのです?」
するとミヤタが口を開いた。
「私は大学の教授だった。遺伝子工学のね。古都にあるそこそこ有名な大学だった」
「研究者ですか!」
「ああ」
「そちらの人も?」
ヤマザキがミシェルに聞くが、ミシェルは軽く俯いて口ごもる。
「私は…」
ミヤタがそれをフォローするように言う。
「皆、怒らないで聞いて欲しいんだが…。私の言葉を聞いても落ち着いて欲しい」
「なにかな?」
「ミシェルは、元ファーマ―社のウイルス分野の研究員だったんだよ」
それを聞いた仲間達が騒然とする。こんなところにファーマ―社の研究員がいた。
それでもヤマザキは冷静に聞いた。
「どういうことです?」
「我々は、ここに研究所を作ったのです。ゾンビから世界を救うためにね」
その言葉に俺達は驚いてしまう。俺達以外にも、世界を救おうとしている人がいたからだ。
「元ファーマ―社の人がいるのはどうして?」
するとミシェルが答える。
「私はファーマ―社がおかしな方向に向かう前に、会社を去りました。ですがその時に、会社のデーターを盗み出して今に至ります。ゾンビ世界になる前は会社に追われ続けておりましたが、ドクターミヤタに助けられたのです。こうして今は一緒に、世界の為研究させていただいております」
それを聞いたユリナが身を乗り出して言った。
「なら! 私達の目的と一致しているわ」
「あなた方が、ファーマー社の敵と言うならそうなのでしょうね。ですが、ここでの研究は限界でした。情報もないし検体も少ない」
それを聞いたミヤタが言った。
「まずは全てのデータを見てからにしよう」
「そうね」
それから数時間をかけて、ミヤタとミシェルは片っ端からデータを見ていった。生存者達が俺達に水を運んで来てくれたので、俺達はそれを飲みながらデータの閲覧が終わるのを待つ。
陽が落ちて暗くなった時、一人の女がぱちりとスイッチをつけると電気がついた。それを見たオオモリが言う。
「電源はどうしているのです?」
女がそれに答えた。
「このそばに、太陽光のパネルを設置しました。また風力発電の機器も設置しています。風はいつも吹いているので、電気が切れる事は無いです」
「自給自足と言う訳ですか?」
「畑もあります」
「なるほど」
結局深夜までかかり、かなりのデータを見終えたミヤタが言う。
「ミシェル。我々の成果を彼らに見せてあげよう」
「そうね」
「山崎さん。いろいろ疑って悪かったね、私達の研究を見てもらおうか」
「いいのかい?」
「ああ」
ミヤタはパソコンを操作し、パスワードを入れて俺達に研究データを見せ始めるのだった。




