第254話 富士山に住む人達
季節は変わり、真夏の熱い日差しが俺達を照らしつけた。
ファーマ―社の陰謀により、世界が完全支配されてしまう事を知った俺達は、生存者の救出を第一優先としてきた。日本にはまだ生存者がおり、セーフティーゾーンを作っては電波を使って人を呼ぶ。それを繰り返す事で、日本に安全な土地が作られていった。生存者の中には様々な技術を持った人がいて、それぞれが知恵を出し合い日本を救うために動いてくれている。
そして俺達は今、昨日の夜更けに見た物を辿ってあるところに来ていた。
「ひときわ大きな山のようだな」
「ヒカル! ありゃ富士山つうんだよ! 日本一高い山だ」
「タケルは物知りだ」
「誰でも知ってるよ!」
タケルの突っ込みを受けながら、俺は山の中腹あたりを見ている。それを聞いていたクキが言った。
「おもしろいジョークだ」
「ジョークじゃねえ!」
そしてミオが言う。
「でも夜の移動中には確かに見えたから」
「そいつが敵か味方かが問題だよな」
「そうね武。それも含めて確かめなくちゃ、敵なら見過ごしておけないわ」
「だな」
俺達は装甲バスに乗って、富士山に登る事にした。ミオが言うには富士山の五合目あたりで明かりが灯っていたらしい。
俺達の装甲バスが富士山を登っていく。平地は暑く皆が汗をかいていたが、山を登って行くにつれて少しずつ気温が下がって来る。装甲バスの窓から入り込んで来る風が冷たくなり、皆がその風を浴びて喜んでいた。
「涼しくなってきたわね」
「いい気持ちだ!」
「空気もおいしい!」
「山の匂いがいいよな!」
山の息吹が吹き込んできて、車内が爽やかな空気に包まれた。森林地帯を走っていると、ミンミンと騒がしい音が入り込んで来る。
「蝉が元気いいな」
「活力がみなぎって来る」
俺達の装甲バスが山道を登っていくと、道に車を用いたバリケードを発見した。
「バリケードだ!」
「調べよう」
バスを停めて俺達はそこを調べた。クキが周辺を見て言う。
「人はいないようだ。恐らくゾンビが上がってこないようにしたんじゃないかと思うぞ」
「軍隊か?」
「いやいや。作りが素人だ。恐らく上にいる奴らは、ゾンビだけが登って来なければいいと思っているんだろう」
「そうか」
そしてクキが聞いて来る。
「ヒカルの技で、バリケードをぶっ壊すのか?」
「いや。ずらして通ったら元に戻そう。上にいる人らがゾンビの侵入を防ぐために作ったのなら、そのままにしておく必要がある」
俺が車の所に行って、車体の下に手を入れ車の方向を変えた。開いた場所を装甲バスが通り抜け、俺は再びバリケードを元に戻した。
「なんつう怪力だよ。まあバスを持ち上げるんだから、どうってことねえか」
「問題ない」
そして再び装甲バスに乗り込み、山の上に向かって走っていく。するとまた道の途中にバリケードが作ってあった。そこも同じように動かして通り抜ける事にした。
「徹底してるな」
「そうだな」
「だが登って来てからゾンビは見ていない。恐らくゾンビは山の上には上がってこないのかもしれないし、バリケードは功を奏している」
「そのようだ。だが、上に何があるのか…」
しばらくしてつづら折りの道に入り、そのまま登っていくと再びバリケードが見えて来る。そこには人がいるようで旗を振っていた。
「停まれって事だろうな」
「銃を持っている。皆はバスを降りるな」
俺の言葉に皆が身構えた。クキが銃を持ち、ピリ着いた空気が流れる。だが俺はクキの銃を下げさせた。
「まて、俺が話を聞いて来る」
「なら私も行く!」
ミオが言って来た。
「危険だ」
「ヒカルだけだと、相手が警戒するかもしれない。小娘を連れていればある程度安心してくれるんじゃないかな?」
するとクキが頷いて言う。
「おねえちゃんの言うとおりだ。いきなり日本刀をぶら下げた外国人が来たらビビる」
「なるほど」
俺はぶら下げた二本の太刀をミナミに預けて短刀を受け取った。スーツの上着を脱いで、背中に回しベルトに通した。その上からスーツを羽織って刀を隠す。二人でバスを降りて手を上げ、バリケードの人達の所に歩いて行った。
「ミオは俺の後ろに。俺に銃は効かんから大丈夫だ」
「うん」
ミオが俺の後ろを着いて来る。
「止まれ!」
俺達は言われるままに立ち止まった。女が俺に聞いて来た。
「あなた達は何をしにここに来たの?」
「日本全国の生存者を救っている。怪しいものではない!」
「生存者を救う?」
「そうだ!」
「ちょっとまって」
すると女はトランシーバーを手に取って、誰かに向かって話をする。
「あの。生存者を救出しているっていう人が来ています。はい、はい」
そしてトランシーバーを下げ、俺に向かって聞いて来た。
「何人?」
「十四人だ。男は俺を含め五名だ」
女は再びトランシーバーに向かって話をしている。
「どうしてここに?」
「昨日の夜更けに下で光を見た。生存者がいるならばとやってきた」
「食糧ならそれほどないわよ。もしかしたら物資を奪いに来たんじゃないの?」
「違う。むしろ食料には困っていない」
女が再びトランシーバーに向かって話し、俺達に言った。
「帰ってください。私達はあなた方を受け入れません」
すると俺の後ろからミオが出て来た。
「まって! なら、ここで情報を見て欲しい。それを見てから判断して」
「情報?」
「そう!」
またトランシーバーに向かって話をし、こちらに向かって聞いて来た。
「どんな情報?」
「ファーマ―社がやっている悪事よ! それを見ても私達を受け入れないならそれでもいいわ」
再びトランシーバーに話しかけ、女が俺達に言った。
「今からある人がここへやって来るわ。その人にその情報を見せて頂戴」
「わかったわ」
俺達二人がそこでしばらく待っていると、山の上の方から車が降りて来た。そこから数名が降りて、バリケードまで歩いて来る。女がそいつに言う。
「この人達です」
すると眼鏡に髭を生やした男が俺達を見た。
「ファーマー社の悪事を見たと聞いたが?」
「そうよ! それを見て欲しいの!」
「わかった。銃は持っていないか?」
俺は正直に男に言う。
「護身用の短刀を持っている」
「ならそれをこっちに投げてもらおう」
俺が背中から抜き取ると、ミオが言った。
「いいの?」
「信じてもらうしかない」
そして俺の短刀を受け取った男が言った。
「情報は何で見る?」
それにはミオが答えた。
「タブレットがあるわ。それで見れるし、必要ならタブレットを渡します!」
「わかった。手を上げてそのまま来い!」
俺達二人がバリケードに近寄って行く。するとぞろぞろと人が出て来て、俺とミオが拘束される。それからミオがタブレットを男に渡した。
「見て。それから判断して」
「わかった」
男はタブレットを操作して情報を見た。途端に表情が変わり、食い入るように次々と情報をひらいて行った。
「これを…どこで…」
「ファーマー社の秘密基地よ」
すると周りの女や男達がざわざわし始める。
「宮田先生! これは…」
「本物だな。君達はファーマ―社から直接これを奪取して来たのか?」
「そうよ」
すると後ろの車から女が降りて来て、宮田の所に来る。
「どうなってますか?」
「ミシェル。これを見てどう思う?」
ミシェルと呼ばれた金髪の女性は、それを見て目を見開いた。
「ファーマ―社の研究だわ。よくこれを奪取したわね」
そこでミオが言う。
「それで、どうします? 私達はもっと情報を持っています」
「「「「「……」」」」」
相手に沈黙が流れた。そしてぽつりとミシェルが言う。
「ミヤタ。彼らを迎え入れましょう。私達に必要な情報よ」
「わかった。よし! 通っていいぞ!」
男の言葉に俺は後ろを振り向いて、装甲バスの運転席にいるヤマザキに手招きをした。バスが進み、バリケードがゆっくりと開きだすのだった。




