第252話 証拠隠滅
試験体が数体こちらに向かってきている。破壊されたガラスの円筒から滑り出して来たのだ。他の円筒にいる試験体は、特に反応している様子はない。恐らくあの試験体は、細切れにしても復活してくる可能性が高かった。
俺とクキはじりじりと、部屋の壁際を試験体の視界からずれるように動く。他の仲間ならここまで洗練された動きは出来ないが、さすが戦いのプロと言う事だけあって指示をしなくても動けるようだ。
「いいか? 俺の前に出るな」
「わかった」
クキが俺の背後に周る。そして俺はぶら下げた日本刀のうち一本を抜き出した。魔剣を使う事も想定して、ミナミが持ってきてくれたのだ。
「全ての円筒を壊す」
俺は腰だめに剣を構えて振った。
「炎龍鬼斬」
炎の赤い龍が、全てのガラス円筒を破壊していく。
「大龍深淵斬」
現れた全ての試験体を横なぎに切りつけた。するとすべてが真っ二つとなり床に落ちる。だがその試験体の残骸同士が集まり出した。そいつらが集まって再び復活する前に、俺は剣に魔力を注ぎ込み始める。その時クキが叫んだ。
「来たぞ!」
先に出ていた試験体が、俺達を見つけて突進して来た。
「ヘルフレイムフラッシュ!」
ゴオと言う音と共に、部屋中に黒い炎が蛇がのたうつように巡っていく。試験体を次々に飲みこみ、黒い炎で焼き尽くして吸収していった。ガラス円筒の土台や、床が溶けて行き試験体をあっという間に消し去る。
「凄い物だな。どんな原理になってんだか」
「だがその代償がこれだ」
ボロボロに崩れ去る日本刀をクキに見せた。
「それで予備を持って来たのか?」
「そう言う事だ」
気配感知で試験体を燃やし尽くしたことを確認し、俺達が上の階に戻ろうとした時だった。
ビービービービー! と言う音が鳴り響いた。
「なんだ?」
「警報だ。火事が起きたからなったのか?だが電源は通っていないはずだ。一体どうなってやがる?」
すると俺達の耳に、何かの音声が聞こえて来た。それは人の声のようだった。
「声がする。行くぞ」
「わかった」
俺がクキを連れて声のする場所に行く。それは更に奥の部屋で扉の向こうから聞こえて来た。
「断鋼裂斬!」
扉を斬り蹴破り隣の部屋に入ると、奥の画面に何かが映っていた。俺とクキがそこに行って、画面を見るとクキが言った。
「エマージェンシー…。なんだこれ…まずいぞ…。おいヒカル! 早く逃げた方が良い!」
女の声で言っている。
『崩壊まで四分を切りました』
その言葉を聞きながらクキに聞く。
「何が書いてある?」
「証拠隠滅まで三分三十二秒、三十一…」
「それで、どうなる?」
「こういう場合は、爆破と相場が決まってるんだよ! 早く逃げねえとまずいぞ!」
「なに!」
俺はすぐさま自分のポケットからトランシーバーを取った。そしてスイッチを押す。
「ヤマザキ! 聞こえるか?」
ザザッ
「ど・した? なに・あった?」
「電波は悪いが繋がってるな、とにかく走りながら話せ!」
クキに言われ走りながらヤマザキに伝える。
「すぐに研究所を出ろ! 地上に急げ!」
「ヒカル・ちは、ど・するんだ?」
「合流する! 先に行け!」
「わか・た!」
ザッ!
トランシーバーを握りしめ、俺達は急いで階段を上った。俺だけならもっと早かったが、クキは早いとはいえ普通の人間。俺についてくる事は出来ない。
するとクキが言う。
「すまねえ、足手纏いになった。先に行ってくれ! ヒカルまで巻き沿いになる!」
「だまれ。とにかくついてこい!」
「しかし!」
「口を閉じて走れ!」
「くっ!」
俺達が急いで上層階に行くと、既に仲間達はそこにはいなかった。俺とクキが入り口に走り、エレベーターに進入するとクキが言う。
「あと二十秒しかねえ!」
俺はクキの首根っこを掴んで、一気に地上に飛んだ。光を突き抜けて外に出ると、仲間達が装甲バスに乗り込んでいた。俺はトランシーバーで言う。
「バスに乗って遠くに!」
「わかった!」
俺はクキの首根っこを掴んだまま、高速で装甲バスの所に行く。その瞬間だった。
ズズン! と大きな音がする。俺は装甲バスと並走しながらヤマザキに言った。
「アクセルをめいっぱい踏み込め!」
装甲バスが急加速し、俺はその脇を走りながらクキを装甲バスに放り込んだ。そして俺はすぐに立ち止まり反対側を振り向く。一瞬クレーターの地面がボグウッ! とへこんだ次の瞬間、一気に膨れ上がって来た。すぐさま剣を抜いて剣技を繰り出す。
「次元断裂!」
ズドドドド! と地響きがなり、物凄い圧力が地中深くから襲って来たところだった。俺の次元断裂が炸裂し、その爆発ごと基地のクレーターを飲みこむ。
「ふう」
どうやら間に合ったようだ。恐らく核爆発並みの爆発がここを襲っていただろうが、それらを全て違う次元へと飛ばしてやったのだ。東京のど真ん中に、巨大な穴が開き地下研究所は跡形もなく消え去ってしまった。
俺はすぐに装甲バスに追いついた。
「もう大丈夫だ!」
するとヤマザキが急ブレーキを踏んだ。俺が装甲バスに乗り込むと、皆が唖然とした表情で俺を見ていた。そしてミオが聞いて来る。
「自爆って聞いたけど!」
「そうだ。恐らくは核爆発並の威力だった」
「に、逃げなきゃ!」
「問題ない。俺が収めた」
するとタケルが言った。
「またあの力を使ったのか?」
「ああ」
するとクキがあっけにとられながら聞いて来る。
「まてまてまて! 核爆発? それを収めた? 意味が分からんぞ!」
「大丈夫だ。地下の施設ごと俺の剣技で消し去った。もう影響はない、問題があるとすれば情報ごと全て消してしまった事だ」
それを聞いたユリナが言う。
「いえ。十分情報は取れたわ! いままでの情報と東北で研究された情報を組み合わせれば何かが分かりそうだし。それにも増して、私達には血清がある」
そしてオオモリも言った。
「人を操るとか言う計画の情報も取れましたしね、というかだいぶまずい感じですけど」
「ああ、とにかく皆が無事でよかった。ちょっと全員に回復魔法をかけるぞ」
皆が頷き、俺は一気に装甲バスの中に回復魔法を発動した。全員が若干の放射線の影響を受けていたが、全ての細胞を治癒し完全な体に戻る。
するとユリナが言った。
「なんか、これをやるたびに体がどんどん強くなっている気がするんだけど、気のせいかな?」
「わかる! なんか違うよね?」
「俺も力が戻る感じがするな」
それを聞いてクキが言う。
「何かやったのか? 俺も心なしか体のあちこちが軽くなった気がするんだが…」
「治癒だ。放射線の影響をDNAレベルで除去させてもらった」
「な、何言ってんだ?」
「言葉の通りだよ」
不思議そうな表情を浮かべるクキを乗せて、俺達の装甲バスは都心を走って行くのだった。問題は山積しているものの、これによって俺達の行動指針も決まりそうだ。ファーマ―社がやらんとしている事を知り、俺達が何をすべきかの方向が分かって来たのだ。
そしてミオが言う。
「世界…か…」
ユリナがそれに答えた。
「人類滅亡を阻止するのが、我々の仕事なんてね…。話が大きすぎてしっくりこないわ」
そして俺が言った。
「すまんな、みんな。どうやら俺は前世に続いて、人類を救わねばならないらしい。それには皆の協力が必要だ。これからもよろしく頼む」
皆がニッコリ笑って、親指を立てる。するとクキが笑った。
「ははっは! 面白い! どうやらようやく俺にもお鉢が回ってきたようだ。壊滅した日本だけでなく、世界の人間の運命がかかっているなんてよ。なんだが自衛隊に入隊したての頃の、夢と希望を抱えた自分を思い出してしまったよ。あの頃は真剣に日本を守ろうと思っていたんだ。まさかここにきて、さらに壮大な夢に出会えるとはな!」
そんなクキにユミが言った。
「まあ、足を引っ張らないようにね」
「まあ、せいぜい頑張るさ」
装甲バスは俺達を乗せて、焼けた都心を進んでいくのだった。




