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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第一章 違う世界

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第24話 この世界の事

 俺達のトレーラーは、ちらほらとゾンビが蠢く通りを抜けていく。トレーラの天井には俺とヤマザキとマナ、タケルとユミがいた。そして空港から二キロほど離れた場所でトレーラーが停まる。


「どうした?」


 天井の上からヤマザキが前方に向かって聞いた。するとユリナが顔を出して答える。


「上は危なくないですか?」


「確かにそうだが、まだ空港からそれほど離れていないんだ。もう少し先まで行った方が良いんじゃないか? 襲った奴らが追ってこないとも限らないぞ」


「でもこのままでは危ないので荷台に乗りません?」


「…そうだな。そうするか」


 するとヤマザキが俺に聞いて来る。


「ヒカル、周りにゾンビはいるか?」


「いない」


「よし! みんな! 荷台に移るぞ!」


 皆がトレーラーの天井から降りようとするので、俺が先に飛びおりて手を差し伸べる。


「降りて来い!」


 俺が言うとマナがトレーラーの縁に座って飛び降りた。


「次だ!」


 すると今度はユミが降りて来て、次にタケルも飛びおりて来る。ヤマザキは窓枠に足をかけて、自分で降りてこっちにやって来る。


「荷台に行こう」


 そして後ろに回るとヤマザキが取っ手に手をかけて、ガチャリとずらし扉を開けた。後ろの箱の中には何も入っておらず、板の間のようになっている。


「扉を閉めきると窒息しそうだな」


 ヤマザキが言うとタケルが答えた。


「扉は脇に留められそうだよ!」


 なるほどこの扉はくるりと回すと側面に留める所があった。これで観音開きになったままに出来そうだ。


「乗り込もう」


 ヤマザキが先に乗り込んでタケルに手を差し伸べる。タケルは一本になってしまった手を出してヤマザキに引き上げられた。そして次にユミが乗り込み最後にマナが乗り込む。そしてヤマザキがみんなに言った。


「ちょっと俺が前に行って誰かと代わろう」


 するとマナが答える。


「そうですね。指示役が居ないと困りますしね」


「ああ」


 そしてヤマザキが運転席へと向かった。それの代わりにミオとユリナが後ろにやって来る。空港で捕らえられて憔悴していたツバサとミナミ、怪我をしていた一人が座席に乗る事になった。運転はヤマザキが代わるらしい。


 タケルがミオに聞く。


「トレーラーを持ってきた運送屋に行くんだよな?」


「そう、別れたみんなを迎えに行かなきゃ」


「待ってると思うか?」


「わからない。でも連絡の手段も無いし、とにかく行って確かめないと」


「まあそうだな」


 どうやら別れた奴らに会いに行くらしい。


 しかしこの集団はいったい何なのだろう? 商人でもないし冒険者でもない。なのになんでこんな生活をしているのだろう? そもそもが商売をしている人らや、普通に歩いている町民を見かけない。見かけるとすればたまに動いているゾンビくらいのもんだ。特別に強いモンスターに出くわすわけでもなければ、圧政を強いられて人々が困っているふうでもない。


 それなのに…全く人間らしい暮らしをしている場面に出会わない。


 タケルがポツリと言う。


「腹減ったよ」


「そうね」


 ユリナが答えた。そう、俺達は、あの神々の塔で回収した食べ物を車の中で少し食べただけだ。食べたのは絵の描かれた袋に入っている、ポリポリとした食感の軽くてしょっぱいもの。美味いとは思うが全く腹の足しにならない。まあ俺はパン一切れあれば、十日は魔王ダンジョンに籠っていられたが…


「しかし…コロニーの皆が全滅なんて…どういうことなんだ?」


 タケルが憔悴しきったように言う。こいつは今の今までゾンビに襲われそうになっていたが、腹が減ったり言葉を発する事が出来ているのを見ると、そこそこ精神力が強い奴なのだろう。それに対してユリナが答えた。


「武装している奴らがいたわ」


「ああ、ヒカルがこれを持っていたがそいつらのか?」


 タケルが自分の持っているジュウを皆に見せている。


「そう。銃で武装していたの、そしてあの大量ゾンビを連れてきたのはそいつらの仕業」


「くそ!」


 ドン! 


 タケルはジュウの後ろを床に叩きつけた。そして今度はミオが言う。


「私達のコロニーは前から目をつけられていたみたい」


「だってあんなに大勢いたんだぜ。それが…全滅? なんでそんな酷い事をするんだ」


「わからない」


 いや…盗賊なんてそんなもんだろ。自分達の正体がバレないように目撃者を殺す。どうせ捕まったら縛り首なんだし、強盗をしたら目撃者を殺すのは鉄則のような気がする。


「いいか?」


 俺が軽く手を上げる。


「なんだよ」


「相手は盗賊だ。自分の顔を見た者は殺すだろう」


「「「「‥‥‥」」」」


 皆が黙り込んだ。俺はおかしなことを言ったのだろうか?


「…顔を見た者は殺すか…、復讐を恐れてか?」


 俺は通じるか分からないが、一部俺の世界の言葉で言う。


「このあたりに騎士や衛兵はいないのか? そいつらに突き出せばいい」


「えっと、何言ってるのか分かんねえ。日本語に出来ないか?」


 俺はミオに向き直ってもう一度話をしてみる。


「悪い事したら、捕まらないのか?」


 するとミオが察したように言う。


「警察って事ね。昔なら捕まったと思う」


「昔なら?」


「ええ。でも今は警察なんか機能していないし、もしかしたらさっきの連中の中に警察官がいるかもしれない」


「えっとケーサツと言うのが、市民を守ってる?」


「そう。いや、そうだった。だけど今は、皆自分の命を守るので精一杯で秩序なんて無いの」


「チツジョ?」


「法律? 決まり事? 国のルール」


 なんとなくわかった。恐らくミオは国の法律の事を言っている。法律が無くなったというのはいったいどういうことなのだろう?


「ホーリツを守る人がいない?」


「うん。いなくなった」


「反乱でも起きたのか?」


「なに?」


「えー、誰かが国にたてついた?」


「ああ、違うわ。全てはゾンビが悪いの」


 え? ゾンビ? あの紙屑のようなモンスターが悪い? 一体どういうことだ?


 俺が不思議な顔をしていると、タケルが横から口を出す。


「お前みたいなバケモンには分からんと思うけどな」


「タケル!」


 ミオはタケルが話すのを遮ったが、とにかく話が聞きたいので先を促す。


「なんだ?」


「俺が腕をやられたように、ゾンビに抗う術がないんだよ」


 そういえばこいつらはゾンビごときになすすべが無かった。噛まれた後でゾンビに変化していくのも早かったような気がする。魔力を循環させて体内の浄化をするとか、ポーションと解毒ポーションを併用する事も無い。何もせずにゾンビになるのを待つだけだった。聖職者とか回復術士がいるようにも思えず、ただ成すすべなくゾンビになっていたのだ。


「白魔法を使う者は?」


「いま、なんて?」


 なんだ? なんて説明する?

 

 俺はまたミオを見て、身振り手振りで話をする。


「ごめんなさいヒカル。良く分からない、もしかしたらゾンビを治す力とかがあるの?」


 俺は頷いた。


「なに! 本当か!」

「本当なの?」

「医学か何か!」


 皆が一斉に食いついて来た。どう言う事だろう? 俺の回復魔法を見ただけでも驚いていたが、誰もそれについて知らないのはどういうことだ?


 俺はグイっとミオの手を引っ張った。そして羽交い絞めされたときに首についた痣を見る。そしてそこにそっと手を当てヒールを使って手を外す。


「えっ? 痣が消えた!」


 ユミとユリナが驚いている。タケルは自分の腕をそうされたので、それほど驚いてはいないようだ。そしてタケルが言う。


「ああ、俺の腕を治したような感じだな。そう言う力が使えるヤツは他にもいるのか?」


「そうだ。と言うよりも俺より完全に治せるやつが居た、ゾンビにすらならない」


「「「「えっ!」」」」


 今度はぎ五人がビックリしている。


「珍しくはない」


「いや…、そのなんだ…、お前が居た施設かなんかにはそう言うヤツが居たのか?」


「そう。俺の居た場所には沢山いた」


「マジかよ…」


 するとユリナが確信めいた口調で言った。


「やっぱり。ゾンビウイルスは防げるのよ! もしかしたらヒカルを開発した場所では、既に薬が出来ているのかもしれない。人類はまだ滅亡した訳じゃないんじゃない?」


「ちげえねえ!」


 すると黙っていたユミが言った。


「ちょ、ちょっとまってよ。てことは、コイツはゾンビを撃滅する為に来たって事?」


 五人が俺をじっと見る。


 ちがうちがう。俺はゾンビなんてカスモンスターを撃滅する為に来たわけじゃない。俺は世界を滅ぼしかけて、世界を救うために魂を捧げてここに来たのだ。


「違う。世界を救う為にと決めたら、ここに来た」


 俺はありのままを答える。もっと言葉を重ねて話せれば、誤解を招くような事は無いだろうが、いかんせんこの世界の言葉はそれほど理解していない。


 だがミオが目を輝かせて言った。


「ヒカルは! 世界を救う為に来たのね!」


 そうそう! 俺は前の世界を滅ぼさないために来たんだ!


「そうだ!」


「すごい!」


 皆が色めきだった。なんでだろう? 俺が前の世界を救った事を褒めてくれているのか? あれは到底褒められたものでは無い。そもそも俺達があのダンジョンに行かなければ、世界が滅びかける事など無かったのだから。俺はあの後の世界を見ていないし、本当に救えたのかどうかもわからない。


「だが…救えたかどうかわからないんだ…」


「そんなことは無い! 協力する! ね! 皆もそうだよね?」


「そうだな! こんなクソみたいな世界に希望が湧いて来た気がするな」


「うん! 世界を救う為に皆で立ち上がりましょう」


 五人が、なんか盛り上がっている。


 まあ…いいか。俺は俺で、この世界でどうやって生きていくかを考えるので精一杯だし、仲間もいるわけではないから彼らと共に生きてみようと思う。


 するとトレーラーが停まって前からヤマザキが来た。


「着いたぞ」


 俺達は昨日の夜に、仲間と別れた場所へと戻って来たのだった。

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