第245話 ゾンビ試験体と市街戦
俺が試験体を感知した事を伝えると、皆が息を潜めたのに対しクキだけが不思議そうに聞いて来る。
「おい、なんでそんなことが分かるんだよ!」
「気配感知だ」
「気配感知? なんだそりゃ?」
「スキルだ」
「何を訳の分からんことを」
「しっ!」
試験体が更にこちらに近づいて来る。だが俺達が息をひそめると、再びあたりをゆらゆらと彷徨いだした。
なんだ? 音に反応しているのか?
ゴン!
俺は装甲バスの天井を鞘に入った日本刀でつついた。すると謎の気配が、こちらに向かって動き出す。俺の行動を見てクキが聞いてきた。
「何をしている?」
「試験体は音につられてついて来たんだ。お前のバイクと俺達の装甲バスの走行音につられて、この住宅地までついて来てしまったんだろう」
「マジかよ」
まだ試験体は完全に装甲バスを見つけてはいない。俺がみんなに言った。
「このまま装甲バスで都心から出てしまえば、アイツらはそのままついて来るだろう。そうすれば東京の外にあれを解き放つことになってしまう。それだけは避けなければならない」
皆がコクリと頷いた。だがクキだけが首を振る。
「おいおい何をするつもりだ? まさかあれを相手にするってんじゃないよな?」
「問題ない。だがここで戦うのは得策ではない、都心から出さないようにする必要がある」
それを聞いたヤマザキが言う。
「ヒカル。なら、このまま都心に進もう。俺達がオトリになればいい」
「はあ? あんたら正気か? 軍隊でもなければ倒せない相手だと思うぞ?」
俺がクキに言った。
「むしろ、お前が東京をバイクでうろついていて、よくアイツらに襲われなかったと感心する」
「まあ…俺は悪運が強いんだ。風向きや時間的な問題なんかもあったのかもしれねえし、バイクを使うのも一瞬で後は足で動き回っていたからな」
俺達が話をしていると、既に試験体の気配がすぐそばまで来てしまった。俺はヤマザキに耳打ちする。
「移動してくれ」
「わかった」
東京は遮蔽物が多く範囲も広い。ここで試験体を相手するのは俺以外は無理だった。ヤマザキが静かに運転席に移動し、エンジンをかけて装甲バスのアクセルを踏んだ。
「やはり、間違いない。試験体はエンジン音につられてついてきている」
するとヤマザキが俺に聞いた。
「どこに行く?」
ミオが懐中電灯で地図を照らしながら言う。
「練馬を抜けて中野方面へ!」
「お、おまえら! 何言ってんだ! そっちは東京の中心! 俺が試験体とやらを確認した場所だぞ!」
それを聞いたタケルが苦笑しながらクキに言った。
「だから、わかんねえかな? そこに向かってんだよ」
「な、なんでそんなことを」
「あんなもんを、東京の外に出しちまったらそれこそ多くの日本人が死ぬだろ? だから東京で封じ込めようって作戦だ」
「作戦? こんなのは作戦でも何でもない! 神風だ!」
「だれも死ぬ気はさらさらねえよ」
二人の会話を止めるように俺が言う。
「この装甲バスより試験体の方が速い! 追いつかれるぞ!」
「だめだ。瓦礫や倒木が多くてこれ以上のスピードは出せない!」
「なら俺が迎撃する」
するとクキが大声で言った。
「馬鹿どもが! 中心地に向かうなら都道四号に乗れ! あの道は道が広いうえにあまり荒れていない!」
ミオの指示のもとでヤマザキがハンドルを切り、都道四号線に出た。クキが言うように道路は広く、倒木も無いためスピードが上がる。そんな中でクキがぶつぶつ言っていた。
「いったいなんなんだ! ちくしょうが! こんな所に来て、なんでお前らと心中しなきゃならねんだよ!」
するとユミが懐中電灯でゴツンとクキを殴った。
「黙りなさいよ! 男ならこんな状況を楽しむぐらいがちょうどいいのよ」
「おまっ! 何言ってやがる!」
そしてクキがきょろきょろと俺やタケルを見て言う。
「はあ? お前ら、なに…笑ってやがんだよ」
どうやら俺やタケルは口角を上げて笑っていたらしい。自覚はしていなかったが、クキに言われて改めて自分が笑っている事を知る。
そしてそのクキの言葉にタケルが答えた。
「俺達はここまでの半年、日本中で人を救って来たんだ。せっかく苦労して助けた大勢の命を、消してしまう訳にはいかねえんだよ。お前も目を見開いてヒカルの戦いを見るんだな。今までの自分がちっぽけに感じるぜ! あのバケモノたちの阿鼻叫喚がみれると思うと、つい笑ってしまうってもんだ」
「くっ! 頭おかしいんじゃねえのか!」
ユミが蔑むような目でクキを見る。
「あんたねえ、特殊部隊の隊長だったんでしょ?」
「だからって、戦う相手は選ぶ」
「なら! 有利になるための、指示の一つでも出して見なさいよ!」
「おまえら、随分…肝が据わってんな…」
クキは俺達を驚愕の眼差しで見つめていた。俺達の今までの戦いを知らないのだから仕方がないとは思うが、ユミの言う通りグダグダ言ったところで道は開けない。
「わかったよ! 何をするつもりなんだ?」
それに俺が答えた。
「試験体を出来るだけ引き付けて一網打尽にする」
「引き付ける?」
「そうだ」
「……」
クキが少し沈黙して言った。
「死ぬつもりか?」
「だから何度も言わせるな。試験体を出来るだけ多く殺すつもりだ」
「引きつけてか?」
「そうだ」
「わかった! なら俺のバッグから手榴弾を取れ! それを外に放り投げろ!」
クキは縛られているので、ミナミがバッグに手を突っ込み手榴弾を獲る。
「これ?」
「使い方は?」
「分かってる!」
ミナミは窓を開け、手榴弾のピンを抜いて外に放り投げた。するとバスの後方で手榴弾が炸裂し、四方八方の試験体が反応したことが分かる。
「しらねえぞ!」
俺がクキに尋ねる。
「見通しのいい広い場所を知っているか?」
「どうせ中心に向かうなら、明治神宮に向かえ。木々も丸焼けになって今は完全な更地になっていた」
それを聞いたミオとヤマザキは地図を見ながら進んでいく。だが四方から集まって来た試験体が、装甲バスに追いつきそうになって来た。
「ヤマザキ! ドアを開けろ!」
「了解だ」
俺がドアから出ようとすると、クキが驚いたように言う。
「何してんだ?」
「へばりつく前に迎撃する!」
俺はすぐに装甲車の屋根に上り、四方に気配感知を張り巡らせた。すると道脇のビルの上から、試験体が飛びおりてくるのが分かる。
「刺突閃!」
俺は二閃の剣撃を落ちて来る試験体に放つと、二つの頭を直撃されボトリと道路に落ちて、そのまま進む装甲バスの車輪にひきつぶされた。装甲バスが進む先の道のビルの上から、また数体の試験体が落ちてくるのだった。




