第243話 傭兵の尋問
暗い地下鉄のホーム。俺達が囲む中、懐中電灯に照らされて縛られたクキが話し始める。
「まあ嘘ついてもしゃーねーわな。だから殺さねえで聞いてくれるとありがたい」
「とりあえず殺さない」
「とりあえずね。わかった、俺は雇われ軍人だ。金で雇われて仕事で戦争に行く傭兵ってやつだな」
すると代表して、ヤマザキがクキに答えた。
「傭兵というものが、おおよそどんなものかは知っている。話を続けろ」
「そうか。で、あんたら一般人が聞いた事があるか知らないが、傭兵になる前は自衛隊特殊作戦群という部隊にいた」
「それはどういう部隊だ?」
「他の国で言うところの特殊部隊だ。戦闘のエキスパートが集まった部隊さ。特殊部隊の中では世界一だと俺は思うぜ。俺はその部隊の隊長だったが、数年前に辞めて傭兵になったのさ」
「そうか。それでその傭兵さんが、こんなところで何を?」
「…本当は雇い主の事は話せねえんだがな。まあ義理立てはねえから言う。俺はファーマー社に雇われていたんだ」
いきなり聞きたい答えが返って来た。
「そうか」
ヤマザキが冷静に答えると、クキは不思議そうな顔で周りを見渡す。
「なんだ? みんな驚かねえんだな、傭兵が一般企業の仕事をしてたんだぞ?」
「ファーマ―社がやっている事は知っている。アイツらは軍隊を使って、俺達を襲って来たからな」
「軍隊に襲われた? それで良く生き延びたな?」
「まあな。それよりも、そのファーマ―社から雇われた傭兵がこんなところで何してる?」
するとクキは苦笑いして言った。
「取り立てだよ。あいつらに連絡して金をもらおうと思ったら、どこにもいやしねえ。音信不通になりやがった」
「どこにもいない?」
「ああ。どうやらアイツらは、支払いを踏み倒してトンズラを決め込んだんだよ」
単純な理由だった。コイツはファーマー社に金で雇われたが、その金をもらえずにここまで来たらしい。そこで俺が聞いた。
「東京に来るとアイツらがいると思ったのか?」
「そうだ。アイツらは明かしていないが、東京のどこかに秘密の地下施設があるはずなんだよ。そこに行きゃ何かがつかめると思って探している。だが東京はこのありさまだ、めちゃくちゃで見つかるものも見つからねえ。あと、放射線防護服を着て動いているからその動きに限界がある…」
「見つからないのか?」
「そうだ」
突然、クキが不思議そうな表情を浮かべて俺達を見回した。
「つうかよ、ちょっと気になったんだが、あんたら防護服を着ねえと危ないぞ。ファーマ―社は東京に中性子爆弾を投下しやがったからな」
「知っている」
「はあ?」
「俺達はそれに耐えうる体と治療方法を持っている」
「うそだろ。そんなの聞いた事ねえぞ」
「信じるも信じないも関係ない。俺達はそれが出来る。それだけだ」
「そ、そうか」
クキは苦笑いをしてみんなを見た。だが女連中に睨まれて肩をすくめる。
すると今度はミナミが聞いた。
「お前。東京のどこかにファーマ―社の秘密基地があると言っていたわね?」
「そうだ。とにかく俺は死ぬ思いをして部下も失っているんだ。どうしても金をもらう必要があるし、あいつらが誰を相手にしているのかを、思い知らせる必要があると思って探していた」
そこで俺が言う。
「俺達も探している。ファーマ―社とは因縁があってな」
「なるほどな。そりゃ襲われたら頭にくるよな」
後ろからユリナが、怒気をはらんだ声でクキに聞く。
「あんたさ! ファーマー社に雇われて何をやっていたの?」
「簡単な話だ。日本にゾンビが蔓延ってしまっただろ? だがあんたら、ゾンビ予備軍って奴らがいるのを知ってるか?」
恐らくクキはゾンビ因子を持つ人の事を言っているのだろう。
「ゾンビに変わる因子を持っている人間の事かしら?」
「知ってるのか? ファーマ―社からの指示は、そいつらを片付けない事には日本のゾンビは収まらないって話だったよ。その要素のある人間を消して、将来的に日本を浄化するって話だった。まずは関東周辺からやっていくって話でな」
「どうやってゾンビ因子を持っているのを見極めるの?」
「簡単だよ。だれか電車から、俺のリュックサックを持って来てくれないか?」
「わかった」
俺が電車からリュックを持って戻る。するとクキが俺に言った。
「その中からゴーグルを取ってくれ」
するとミナミがリュックを覗き込み、そのゴーグルとやらを取り出した。そしてクキが言う。
「それのスイッチを入れて、装着してみてくれ」
そう言われ、ミナミは電源を入れてそれをつけてみる。ミナミはきょろきょろと周りを見渡した。そしてクキがミナミに聞いた。
「どうだ?」
「どうだって…ただの暗視スコープよ?」
「何か体におかしな蠢きが見えないか?」
「ないわ」
「おかしいな。俺に取り付けてみてくれるか?」
ミナミがそれを俺に渡してくる。どうやらクキには触りたくないようだ。俺がそれを受け取りクキに取り付けてやった。クキはそれで俺達をきょろきょろと見て首をかしげる。
「あれ? 壊れたか?」
「それをつけると何が分かるの?」
「ゾンビ予備軍ならば、体のあちこちに妙な蠢く光が現れるんだ。だけどなんでだ…あんたらにその要素は無いんだが…」
それを聞いたユリナが答える。
「ゾンビ因子の事を言っているのなら、私達にはないわ。それを取り除く事に成功したから」
「なんだって!」
「取り除くことが出来たのよ」
「そ、そんな馬鹿な。ファーマ―社は一度そうなったら取り除けないと言っていたぞ! DNAを完全に浸食して、ゾンビになるだけだから始末してくれと!」
冷静だったクキは慌てて俺達に言った。そこで俺はクキに言う。
「本当だ。ゾンビ因子は取り除いた。東日本の各地で、かなりの人間から因子を取り去って来た」
「嘘だろ…」
「本当だ」
クキの眼差しが暗いものになった。俯いて、その表情が見えなくなる。しばらくすると声が漏れ始めた。
「クックックック。うわーはっはっはっはっはっ!」
「何を笑っている?」
「これが笑わずにいられるか! 俺は大金を稼ぐために、ひたすら助かる可能性のある人間を殺しまくってたんだぞ?」
「金の為にか?」
「もちろんそうだ。だが俺にも全く志が無い訳じゃない! この地道な虐殺の先には、ゾンビから解放された日本があるものだと思っていたよ」
それを聞いて皆が顔を見合わせた。目の前の元自衛隊は、ただ金だけの為に人を殺してきたわけではないのだ。もしかしたらと思い俺が聞く。
「お前は、ファーマー社が何をしたのか知らんのか?」
「いや。ゾンビ蔓延の原因は奴らだという事は知っている。だが俺は正常な日本に戻すための尻拭いをしているんだと思っていたさ。俺と俺の部下はそのために必死にやった」
するとタケルが俺に言った。
「なあヒカル、コイツを連れて行こう。そしてファーマ―社の情報を見せてやろう」
「連れて行く? いいのか?」
「おりゃ、こうして生きてる。問題ねえ、俺にゃ強い仲間がいるしな」
するとまたクキが笑った。
「おまえさん。随分なお人よしだな、俺に殺されそうになったんだぞ?」
「ま、そうだ。だが、突然お邪魔したのは俺達だしな」
「馬鹿じゃないのか? 何の感情も呵責もなく、お前を殺そうとした男だぞ?」
「うーん。なんだろうな、とりあえず情報を見てからでもいいだろ? それともなにかい? あんた何も知らずにここで殺されたいのか? そこの優顔金髪のアニキも、何の呵責も無くあんたを殺すぜ。それこそ虫でも潰すみたいにな」
クキが俺を見る。そして言った。
「そうか…そうだな。このスーパーマンから見りゃ、俺なんて虫けらだろうな。まあいい、殺さないでくれるって言うなら俺は条件を飲む。それを見てから死んでも遅くはねえ」
「決まりだな」
そして俺はクキを担ぎ、皆も立ち上がってそこを立ち去ろうとした。するとクキが言う。
「おいまて! このまま地上に出るのか? せめて放射線防護服を着せてくれよ、電車の中にあるはずだ」
だが俺が言う。
「安心しろ。お前も治してやる?」
「へっ?」
俺が行こうとするとクキが言う。
「まてまて! ならせめて俺の装備一式を持っていけ! 絶対に役に立つ!」
それを聞いた俺は皆に言った。
「ということだ。嫌だろうが、コイツの荷物を運び出してやろう」
皆が渋々、電車からクキの荷物を運び出すのだった。クキの指示でブービートラップを避けながら、無事に地上に出る。そして俺はクキに言った。
「このバイクの鍵をよこせ」
「右のポケットだ」
俺は、クキのズボンのポケットから鍵を取り出す。
「このバイクは俺が貰っておく。お前は特等席に座らせてやろう。みんな、コイツを俺に縛り付けろ」
そして皆がロープを用意し、俺と背中合わせになるようにクキを縛りつけた。俺はそのままバイクにまたがり、クキを背負いながら装甲バスを先導するようにして東京都心を抜け出すのだった。




