第223話 ロシア船籍
俺達がタンカーの操舵室に入ると、そこには数体のゾンビが居た。俺達は速やかにそいつらを討伐し、ガラス張りの窓から外を見る。陸地側を向いているので、砂浜に乗り上げている方が船首だと分かる。
そして、倒したゾンビの服装を見てタケルが言った。
「こいつらファーマー社じゃないよな?」
ユリナが答える。
「違うわね。どこかの社員っぽいけど、日本人が一人もいないわ」
「操船していたヤツラがファーマー社から雇われていたとか?」
それにミナミが言う。
「まずは他の部屋も見てみないとね。船内にもゾンビが居ると思うから探してみましょう。船を砂浜に放置しているという事は、既に脱出した可能性もあるけれど」
「そうだな」
俺達は更に船の通路を進んでいく。奥は船員達の居住空間になっているようで、ベッド付きの部屋や食堂や風呂までついていた。部屋に入ると同じ作業着を着たゾンビが襲って来る。
そいつを斬り落としつつミナミが言った。
「これもファーマー社の服じゃないわ」
「そのようだ」
さらに俺達が船を彷徨ううちに、機械がたくさん置いてある場所に出た。そこを見てユミが言う。
「ここは機関室だわ」
手摺から下を見下ろせば、ゾンビがウロウロしているのが見える。俺はそのまま手摺から飛び降りて、ゾンビの中に降り立ち全てを討伐した。
「降りて来て良いぞ!」
皆が鉄の階段を伝って下に来る。周りを見渡しユミが言った。
「あれ? 機関室が全然壊れてないんだけど。なんで座礁しちゃったんだろう?」
それに俺が答えた。
「船内にゾンビしかいないからじゃないのか?」
「航行中に感染が広がったって言う事?」
「そうだ。全てがゾンビになってしまったため、航行不能に陥ったと考えられないか?」
「そして運よく砂浜にうちあがったって感じってこと?」
「分からんが、ひとまず手分けして船内のゾンビを片付けよう」
「「「了解」」」
それから一時間程度で船内のゾンビを討伐し、全て甲板に運んで並べていく。一人としてファーマー社関係のやつはおらず、俺達の頭には疑問だけが浮かぶのだった。
そしてミオが言う。
「平和すぎない? ゾンビと争った形跡はあるものの、なんか普通って言うか。こんな終末世界を航行して来た船という感じがしない」
それにはヤマザキが答える。
「美桜の言うとおりだ。まるで普通の生活を送っていたかのような雰囲気だった」
「どう言う事だ?」
俺達がしばらく話し合うも答えを出す事は出来なかった。そこでユミが言う。
「国際航路を行く船なら、衛星通信の機器とかあるはずだわ。もう一度操舵室に行って見ましょう」
操舵室に行き皆で手分けして探してみる。ユミとオオモリとマナが、機械のパネルを触っているがどうやら電源が通ってないらしい。するとユミが言った。
「エンジンがかけられれば発電すると思う」
タケルがユミに聞いた。
「どうすんだ?」
「さすがにこんなに大きな船の動かし方なんて知らないわよ」
「まあ、さすがにそうだよな」
そこにリコが来て言う。
「あのゾンビ…きっと普通の会社の人よね?」
「そうだと思うわ」
「仕事の資料とか何かあるんじゃない?」
「だな」
そして俺達は再び船内に入り、部屋をひとつひとつ回っていく。すると書類やパソコンが引き出しに入っていたので、それを取り出して見た。
タケルが言う。
「何語だ?」
そしてそれを見たミオが言う。
「多分。ロシア語じゃない?」
「つうことはさっきのゾンビはロシア人って事か?」
「それっぽかったわよ」
鼻の高いゾンビだった。日本人とは明らかに違っていたように思う。
するとパソコンをつけたオオモリが言う。
「これは普通にウインドウズっすね」
「開けられるか?」
「パスがかかってて、バスに戻ってソフトを使えばっすね」
「なら後で開いてみよう」
どうやらこの船は他国の船で、ファーマー社とは関係ないらしい。
ユリナが言う。
「でも。こんなに普通に生活感があるなんて、切羽詰まった感じも感じ取れないし変ね」
すると操舵室で探し物をしていたユミたちが何かを見つけたようだ。俺達は急いで操舵室に戻り、ユミ達が見つけたものを見る。それは鉄の箱のような物で取っ手がついていた。
それを持ってユミが言った。
「多分これ、緊急時の衛星通信の装置だと思う」
「開けてみよう」
「暗証番号があるみたい」
「どいてくれ」
皆が離れたので、俺は日本刀でその箱の一片を削ぐように斬った。そこにはトランシーバーよりも大きな機械が入っていた。
「通信機だわ」
「電源は入るか?」
「入るみたい」
ユミが電源を入れると、ザザザと言う雑音と共に電気が入った。
「どうするのかしら?」
それをユミがいじってみると、ガッ! と音がしてザーザーと雑音がなった。
「あれ? 繋がってる?」
機械に向かってユミが声をかけた。
「聞こえますか? 応答して下さい! 聞こえますか? 応答して下さい!」
「……」
「聞こえますか! 応答してください!」
ガッ!
「ザザッ!Беспроводная ガッ!язь подключеザザザ.」
「えっ? 応答して下さい」
「ザッ、Кто тыガガッ!」
ノイズがあるものの、無線の向こうでは明らかに人が話をしているようだ。それを聞いたミオが言う。
「多分だけど、ロシア語。誰ですか? って聞いてる」
「生存者か?」
「そうだと思う」
それから双方向で声を発してみるが、お互い何を話しているのか分からずじまいだった。しばらくすると通信は一方的に切られてしまう。だが相手は確かに今どこかで生きている事が分かった。
「やっぱりこれはロシアのタンカーなんだ」
「もしかしたら。給油を終えてロシアに帰る所だったんじゃない? カムチャッカとかウラジオストックとか」
それを聞いたヤマザキが言う。
「まて、美桜。普通に給油をしてきたって言うのか?」
「だって油も詰まったままだし、普通に会社の人が油を運んでいたように思わない?」
「確かにな…。だが…こんな終末の世界でか?」
「あっ。確かに…相手のロシア人って何者なのかしら?」
「ファーマー社じゃないのか?」
「ファーマー社がこんなところに燃料たっぷりのタンカーを放置するかしら? ゾンビ対策だって出来るでしょうに」
「確かに…」
いくら考えても謎は深まっていく。だが俺が言う。
「ファーマー社以外にも組織があるのかもしれんぞ」
「それも言えてる。とにかく日本沖を航行中にゾンビ感染して、ここに流れ着いたという事かしらね」
「その可能性は高い」
すると、それを聞いていたツバサが言った。
「仙台の親子が見たのはこの船かしらね?」
「分からないわ」
そしてヤマザキが言う。
「いずれにせよ。このタンカーの燃料が使えれば、火力発電が動かせる。そうすれば6Gを使った大森のシステムが東北全域に拡大できる可能性がある」
それを聞いたマナが言う。
「そうだわ…。山崎さんの言う通りね。この近くにある火力発電所を動かせたらかなりの範囲に電波が拡大出来そう」
それを聞いた俺が言う。
「俺がこのタンカーを海に押し出す事は出来る。だがエンジンを動かさねばまた航行不能になる」
それにユミが答えた。
「時間をかければ何とかなるかも」
地図を見ながらミオが指をさす。
「地図を見ると、ここから五十キロほど南の海岸沿いに仙台火力発電所があるわ」
俺達はタンカーを動かしてみる事にした。だがロシア語で書いてあるため、どこに何があるか分からないようだ。ひとつひとつ触って行くがユミもわからないらしく、完全にお手上げとなる。だがそこでタケルが言う。
「つーかよ。でっかい船をちっさい船で引っ張るのを見た事あるけど、ああやってやればいいんじゃね? クルーザーならユミが動かせるんだしよ」
すると皆がタケルを見た。しばらく沈黙してユミが言う。
「そうよ! 武! あんた凄いわ。タグボートを引っ張ってくればいいのよ!」
「たまに凄い閃くわよね」
「南。たまには余計だろ」
「気にしない気にしない!」
「なら引っ張る船を探しに行こう」
俺の言葉に皆が賛成し、ミオが地図を見て近くの港を指す。俺達はタンカーを降りて、装甲バスでその港に向かう事にした。それから十分ほど行ったところに港があり、そこには大小さまざまな船が停泊していたのだった。
「あのくらいの大きさの船ならどうにか出来そう」
ユミが指さした先に小さな船舶が見えた。その船の周りにちらほらとゾンビが居たが、全て片付けて俺とユミが目当ての船に乗り込むのだった。




