第222話 謎のタンカー
仙台市にはかなりの生存者が集まっていた。専門的な知識を持っている人もちらほらと居て、オオモリとマナも順調に引継ぎが出来ている。だが都市のゾンビを片付ける作業は、途方も無く時間がかかりそうだった。
日に日に増える生存者からの情報も集まってきており、俺達はある事を耳にした。それは海沿いのある場所で、海を行く船を見たことがあるという情報だ。
その情報をもたらした、男女にヤマザキが尋ねる。
「それはどのあたりで?」
どうやらこの二人は父と娘で生き延びてきたようで、海沿いの方からこちらに逃げて来たとの事だった。電波をキャッチしたのではなく、ここの情報を知った人が迎えに行って連れて来られたらしい。
「見たのは七ヶ浜と言う場所です」
「七ヶ浜。それはここからどのくらいの所?」
「車で一時間かかりません」
そして今度は父親が言った。
「私達が船を見たのは少し前になります。半年かそのくらいだったと思います」
「そうですか。どんな船か分かりますか?」
「遠かったのではっきりは分かりませんが、客船などの類では無かったと思います」
「他には?」
「それだけです」
「わかりました」
話を終えると親子は作業に戻って行った。そこに俺達が集まって議論をしている。
「ヤマザキ。その船は何だと思う?」
「時期を考えれば、ファーマー社の船の可能性が高いんじゃないか?」
「だがこのあたりに軍隊は駐留していないようだ」
「どうやら松島に自衛隊の基地があるようなんだ。その辺りかもしれん」
ミオが地面に地図を広げてみる。俺達も地図を見ながら位置を確認していた。するとミオが指をさす。
「ここ」
「何だ?」
「女川と言うところに原子力発電所があるみたい」
「そこだろうか?」
「分からんが、調査する必要はあるんじゃないか?」
「ああ」
俺達が話し合った結果、一度、石巻経由で女川まで行ってみる必要があると結論づいた。
それが決まってから一週間ほどは、この地域のセーフゾーンを安定させる為の作業に集中した。俺達は自らも動き生存者を集め、ゾンビ因子の除去と生存者への説明を続けたのだった。ある程度、生存者がやって来る頻度も落ちて来た時、地域のリーダー的な人物にヤマザキが声をかける。
「この地はこの地の人達で何とかしてほしい。我々はそろそろ次の場所に移らねばならん」
「ずっとは居てくれないのか?」
「俺達が安全地帯を作って来たのは、東北の内陸部だけなんだ。それに海沿いで船を見たという情報も入っている。俺達はそれを調査しに行こうと思う」
「そうか…仕方がない事だな」
「すまんが」
そうして俺達の装甲バスは、生存者が集まる青葉城を後にし石巻を目指す。もしかするとファーマー社がいるかもしれないが、居るなら生存者の為にも討伐しておかねばならない。ただし船を見たのは半年も前の事らしいので、既にもぬけの殻になっている可能性もある。
数十分も走っていると俺は周囲に違和感を覚える。俺は隣に座っているミオに聞いた。
「ミオ。ここで…何があった?」
「えっ?」
「あちこちにゴーストの気配を感じるんだ」
「そうなんだね…。ここはね十何年か前に地震で被害が出た所なの。何か感じる?」
「そうだな…、悲しみ無念…いろいろな感情だ」
「そう」
広がる畑を眺めながら皆が静かに祈りを捧げている。俺も皆に習うように手を合わせて祈るのだった。そして俺達のバスは松島の自衛隊基地にたどり着く。しかし基地内を気配感知しても、そこに人間がいる気配は無く、ちらほらとゾンビの気配がするにとどまる。
タケルが言った。
「中に入ってみるか?」
「確認は必要だが、長居は無用だろう。ここに人はいない」
皆がバスを降りて基地内に進入する。すると格納庫の中に飛行機が置いてあった。それを見た皆が興奮気味に言う。
「ジェット機だ」
「すごい。近くで見るの初めてよ」
「これを使う事無く、ゾンビにやられたんだな」
更に皆で滑走路に出た。見渡す限り何も無く、遠くに歩くゾンビが一体いるだけ。真っ青な空を見上げてツバサが言った。
「あーあ。自衛隊の人達はどこに行っちゃったんだろ?」
ユリナが答える。
「恐らく薬品の投与で、いち早くゾンビになったのでしょうね」
「そうか…。市民を守る前に自分達がダメになっちゃうなんて」
「無念よね」
「うん」
俺達に気が付いたゾンビが、遠くからこちらに近づいているようだが、俺達はそれを処分する事はしなかった。そのままバスに戻り次の目的地である女川原子力発電所に出発する。
だが途中でユミが地図を見ながら言った。
「ねえ! ここに海水浴場があるみたい! 少し休んでいかない?」
それを聞いた皆が俺を見るが、もちろん俺は頷いて答えた。
「そうだな。しばらくは拠点づくりに尽力して来たんだ。休んで行こう」
「「「「「「「「やったぁ!」」」」」」」」
皆が喜んでいる。ここ半年は生存者の為に突っ走って来た。だが俺達の安らぎも必要だという考えに至る。前世ではただひたすら魔王ダンジョンの攻略だけを考えて生きていたが、この世界で俺は生きる意味を気づかされた。俺は人を助ける為だけに生きているわけではないのだ。こんな皆とのこんな時間が、俺にとってどれほど貴重なものかを知っている。
だが俺達が砂浜にたどり着いた時、目の前に信じられない物があった。それを見たヤマザキが言う。
「砂浜に…タンカーが座礁している…」
俺達が休憩しようと思って立ち寄った砂浜には、巨大な黒い船が打ち上げられていたのだった。
「嘘だろ」
「無傷みたいよ」
俺は集中してタンカーの中を気配探知してみた。すると内部には多くのゾンビが蠢いているのが分かる。
「中はゾンビの巣だ」
「他に何か分かる?」
「何かが詰まっている」
するとヤマザキが言った。
「もしかして石油じゃないのか? この中には重油が詰まってるのかもしれん」
それを聞いたユリナが言った。
「えっ? それって利用できないのかな?」
「わからん。精製しないと難しいとは思うがな」
「どうする?」
俺達はタンカーを見上げてどうすべきかを考えた。
「いずれにせよ。中を調査したほうがいいんじゃないか?」
タケルが言う。
「でもどうやって中に入るのよ?」
するとタケルが俺を振り向いて言った。
「ヒカルが皆を連れていくさ」
「そうだな、わかった」
それから俺は一人一人を掴んでタンカーの甲板まで飛んだ。何度も往復を繰り返し、最後のヤマザキを連れて飛ぶと甲板で待っていたミナミが言う。
「じゃ、船内の掃除と行きましょうか」
俺達は武器を持ち、タンカーの船内に侵入するのだった。




