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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編

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第217話 蘇生魔術レベルアップ

 ファーマー社研究所を撮影した動画を見て、生存者達は肩を落とし絶望に打ちひしがれてしまった。日本が滅びるほどの大災害を、いち営利団体の製薬会社が起こした事に気持ちのやり場を無くしてしまったようだ。


 動画だけでなく研究データや資料を表示していき、ユリナとマナが細かく説明をしていく。最初から見るのを断念してしまった者もいたが、そのうちに皆が目を覆い始める。医者の男が言った。


「すまんが、止めてくれ」


 ユリナが説明を止めると、医者の男もガクリと肩を落としてしまった。


「ごめんなさいね。事実を見せなければ信じられないと思ったから」


 生存者の男が言う。


「下手なホラーなんか比べ物にならないほどグロテスクで、これが現実だと知れば知るほどに…うっ」


 男がまた嘔吐してしまう。


「場所を移そう、臭いで皆が参ってしまう」


「分かった…」


 俺達は寝具を持って二階に移動した。無傷だった者達もふらふらになっており、歩くのがやっとで移動するのにも手間取っている。意識の無い物はタケルと俺とヤマザキ、そして無事だった者達で運んだ。エスカレーターを登り二階に上がっていくと、ユミが看板を見て言う。


「奥にエステサロンがあるみたい。ベッドとかもあるんじゃないかしら?」


「そこに行こう」


 エステサロンに入ると中に個室があるようだった。するとヤマザキが生存者達に言う。


「我々が入り口を見張っているから、皆は休むと良い」


「すまん」

「わかりました」

「助かります」


 そう言いながら具合悪い人と看病する人間が個室に入っていった。待合室に他の皆が集まり、ミオがそこにいる人達に伝える。


「まず食べ物を持ってきます。私達は奪ったりしないから、とにかくここで大人しく待っていてください」


 残った人らがコクリと頷いた。ミオとツバサ、タケルとミナミ、ユンとリコが部屋を出て行く。ヤマザキが医者に言った。


「信じられんのは分かる。我々も最初はにわかに信じがたかった。だが現実にああいったものを見ると、信じない訳にはいかないだろう?」


 医者はただ頷くだけだった。自分の信じていた物が音も無く崩れ、驚愕の現実を突きつけられて呆然としているのだ。


 そしてその傍らにいる女が言った。


「市内にゾンビがいないのは操ったからだっけ?」


 そこにオオモリがやってきて、自分のタブレットをそこにいる人らに見せる。タブレットに映っているのは、まるでゾンビが木のように動かずに立ち尽くしている姿だ。いつの間に撮影していたかは分からないが、それには俺も映っている。皆が止まったままのゾンビを処分し、ショベルカーでダンプに積み込む作業が映し出されていた。ゾンビは抵抗する事も無く、ただ立ち尽くし俺達に狩られて片付けられて行く。


「これは6G電波でゾンビを操作しています。前進させたりも出来ますが、不慮の事故などが起きるといけないので、そのまま立ち止まらせています」


「凄い…これファーマー社が作ったの?」


「いえ。恐らく彼らも、やろうとは思っていたのでしょうが、実現に至らずに狂気の研究に走ったのかと思います。これを作ったのは僕です」


「えっ? 大企業が作れなかったものをあなたが?」


「えーっと。僕も以前は日本の大企業の一員でした。ファーマー社のIT部門とは完全なライバルでしたね。事業所の皆は死んでしまいましたが、これを完成できた事は僕の誇りです」


 皆が尊敬のまなざしでオオモリを見つめていた。すると今度は医者の男が言う。


「さっきから気になっていた事だが、怪我人を治したのはどう言ったカラクリなんだ?」


「それはヒカルさんですよ。彼の施術を見ればわかります」


「施術?」


 医者が興味深そうな表情で、俺をジッと見ていた。するとユリナが医者に言う。


「お医者さんなら、自分の身をもって体験されてはいかがですか?」


「いや、しかし…」


「自分の身で受けて、それでも違うと思うのならそれでいいと思いますよ」


 ユリナの言葉に、生存者の連中が医者の男を見つめている。これだけ情報を出されたら、周りも信じない訳にはいかないようだ。そこで俺が説明をした。


「ゾンビ因子を取り除いて、その因子を二度と取り込まないようにすると言う治療なんだ。だから元の体や能力とは違ってしまうという可能性がある。俺達の力を見てもらって分かったと思うが、この世界の人間の能力とは別物になる」


 そう説明すると、医者を押しのけて後ろの女が言って来る。


「私がやるわ!」


 それに一応ユリナが言う。


「裸にならないといけないわよ?」


「幸いここには個室があります!」


「なら。男と二人きりじゃ不安でしょうから、私も一緒に入ります」


 そこにタケル達が食料を持って戻って来た。ユリナが女に聞く。


「食べてからにする?」


「残念ながら食欲は無いわ。いますぐやってほしい」


 タケルが言った。


「なんだ? 施術を行うのか?」


「そうよ」


 医者が立ち上がって、ユリナに尋ねる。


「私も立ち会わせてほしい。もちろんやましい気持ちはこれっぽっちもない、医師として勉強させてもらいたい」


 すると女が言う。


「いいわ」


 俺とユリナ、女と医師が個室に入った。ユリナが脱ぐように言うと、スルスルと服を脱ぎ始める。


「じゃあベッドに寝て」


「ええ」


 女が寝てユリナがそこにあったタオルを体の上にかけてやった。そして医者が聞いて来る。


「それで、どうする?」


「見てればわかるわ」


 ユリナに促され、俺が女の足に触れて精神を集中しゾンビ因子を取り除いていくのだった。俺が全ての施術を終えた時、女の体中が真っ白になってしまった。


「なに…これ」


「ゾンビ因子の残骸だ。それを体外に出した結果こうなった」


「こんなのが体に入ってたの?」


「そういうことだ」


 医者の男がすとんと、床に腰を落として言う。


「神の所業だ」


「違う。これは治癒魔法の一種だ」


「魔法…」


「神の力ではない。神業はもっと他にある」


 そう。それは聖女エリスの死者蘇生と、完全に無くなった部位の回復。それに消えた死者を呼び戻す力の事だ。俺にそれは使えない。だが医者が続けて言った。


「治療の事を手当をすると言うが、これがまさに手当というものだ」


「それで納得するならそう言ってくれていい」


 女が体の白い粉をふき取って服を着た。そして医者の男に告げる。


「体が軽い。あんなに調子が良くなかったのに、スッキリした感じがする」


「長年の体調不良がか?」


「そうね。一生懸命やってもらって来たけど、一瞬で治ったみたい」


 それを聞いたユリナが言った。


「ゾンビ因子は体を蝕むの。人々は、それが含まれた添加物や薬品を摂取して来たのね」


「じゃあそれを食べなければいいの?」


「いえ、あなたはもうゾンビ因子が含まれている物を食べても、体が受け付けなくなっているから大丈夫よ。新型のゾンビ因子じゃない限りは何を食べてもいいわ」


 医師が目を丸くして言って来た。


「デマだとばかり…。私はそれをデマだと思っていた。政府は安全だと言っていたし、そんな食べ物が合法だなんて思っていなかった」


「そうね。信じていたものが全て崩れ落ちるわね。でもその日本の法律や政府の盲点を突いたのが、ファーマー社のゾンビ因子よ。特許があるから誰も調べる事は出来なかったの」


「薬品にも?」


「ええ。医療関係者は知らずに使っていたわ」


「なんと言う事だ…」


「嘆いてばかりもいられない、ここから回復させればいいだけだわ」


 その言葉を聞いて施術を受けた女が言う。


「疑ってごめんなさい。スピリチュアルな事だとばかり思っていて」


「科学よ。ここに居る優男の彼も、一番の大学でその情報を読み解いてこの力を身につけたのだから」


「そうだったのね。ごめんなさいね」


「いや。仕方がない」


 そして俺達は個室から出た。皆が食べ物を食べているのを見て、医師が大きな声で言った。


「みんな! 待ってくれ! その食べ物は危険かもしれない!」


 皆が不思議そうに医者を見る。するとユリナがその食べ物を見て選別していった。


「これは無し、これも大丈夫。これは…入ってるわ」


 すると医者が聞いた。


「分かるのか?」


「見ただけで分かるわ」


 施術を終えた女が言う。


「私は食べても?」


「問題ないわ」


 すると医師が大きな声を出して言った。


「みんな! 待ってくれ! 聞いて欲しい! この男がやる技を皆で見て欲しい!」


 生存者達がざわつき始める。いったい何を言っているんだという顔で医師を見ていた。だが医者の男が俺に言う。


「皆を集める! 皆の前で私で実践してほしい!」


「わかった」


 医師と女が全員を集めて、医者が服を脱ぎ始めた。


 タケルが笑って言う。


「まるで実演販売だな」


 ユミがポカンと頭を叩いた。


「ふざけてる場合じゃないのよ! 馬鹿タケル!」


「すんません」


 皆が見ている前で、俺は精神を集中し医者の足元から順番に施術をしていく。足元から順次白くなっていく光景を、皆が見て唖然としていた。俺はそれに気を取られる事無く、集中して頭のてっぺんまで施術を終わらせた。


 真っ白になった医者が起き上がって皆に言う。


「見たかい? これが魔法らしいよ、この白いのがゾンビ因子の死骸らしい。私はもうゾンビ因子を受け付けない体になったんだよ」


 それを見ていた人達が騒ぎ始める。


「次は俺が!」

「私にお願い!」

「私も!」


 その後で俺が数名の施術をしている時だった。自分の中で何らかの感覚が弾けたのが分かる。そこで俺は次に並ぶ人達に言った。


「すまんが、四人ほどここに横になってくれるか?」


 俺が指示した通りに四人が寝そべった。


「行くぞ」


 俺は手を体の上にかざして、足元から少し早めにゾンビ因子を取り除いていく。体に触れていないにも関わらず更に精度が上がり、俺は四人の施術を五分もかけずに行う事が出来たのだった。


 ユリナが聞いて来る。


「ヒカル。もしかしてレベルアップしちゃった?」


「どうやらそのようだ」


 俺は蘇生術がレベルアップしたのを実感し、それから三十分もかけずに全員の施術を終わらせることが出来た。自分に伸びしろがある事に驚き、攻撃スキル以外はまだ成長の兆しがある事を知るのだった

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