第215話 無血で制圧する
ショッピングセンターの陳列棚より身を低くして、隠れながら人の気配がする方に進んだ。雑貨が床に転がっており踏めば音が鳴るので、それを踏まないように慎重に進む。すると俺がいる場所から十メートル先に一人の気配がした。薄暗く、俺達が物音を立てずに進んでいるので気づいていないようだ。
俺は皆に手振りで止まるように指図をし、自分に認識阻害の魔法をかけて、一番近くに潜んでいる人の元へと向かう。
その女は怯えるように震えながら、服を着替える試着室に身を隠していた。俺はそっと近づいて、スッとカーテンから手を入れ女の口を手で塞ぐ。女はビクッとして暴れようとしたが、ぎゅっと体を押さえつけて耳元でささやく。
「叫べば位置がバレる、静かにして俺の言う事を聞け」
そう言うと女は身動きするのを止めた。
「俺はさっき駐車場にいたものだ」
女は静かに俺の顔に目を向けて、恐怖で顔を歪ませている。もう一度尋ねた。
「あんたに危害を加えるつもりは一切ない、事情を聞かせてくれ。騒がないと約束するなら手を放す。瞬きを二回してほしい」
女は少し躊躇したようだが、瞬きを二回繰り返した。俺はゆっくりと女の口から手を外す。
「静かに話せ。相手にバレる」
すると女はコクリと頷いた。体が震えているようだが、俺は安心させるようにもう一度言う。
「守ってやる。だから何があったか教えてくれ」
「あれ、あなたが引き入れたんじゃないの?」
どうやら襲撃した奴らを手引きしたと思われているらしい。俺は首を振って答える。
「違う。俺は全くの無関係だ」
「あなたが立ち去った後に物資を回収していたんだけど、いきなり連中が襲って来たの」
「銃声がしたようだが?」
「たぶん、何人かは撃たれたと思う。応戦したようだけど武器を持っていない私は逃げた」
「皆はどこに?」
「分からない。散り散りに逃げたと思うけど、多くは食料品がある一階にいたと思う」
「襲撃したやつらと俺は関係ない。あんたを救いたいが、俺達の言う事を聞いてくれるか?」
すると女はコクリと頷く。静かなショッピングセンター内に、時おり話し声や物を倒すような音が聞こえる。
「こい」
俺は女を試着室から連れ出しヤマザキに合図を出した。するとヤマザキは皆に手招きするように合図を出し、静かにこちらに歩み寄って来る。
「俺の仲間だ」
俺が言うとミオが女に声をかける。
「よろしく。出来るだけ多くの人を助けたいわ、とにかく抵抗はしないで」
女は黙ってうなずいた。そして俺がタケルとミナミに言う。
「どちらも俺達にとっては敵でも味方でもないが、殺さずに無力化するのは二人には難しいだろう。いざとなったら攻撃するしかないが、出来るだけ生存者を保護するように努めよう」
「わかった」
「ええ」
そして女に言った。
「君の仲間がいたら、説得して攻撃しないように言ってくれないか? 無駄に血を流したくはない」
「わかりました」
「ヤマザキ、皆を頼む。俺は館内に散らばった人らを救出してみる」
「気をつけてな」
俺は薄暗い通路を身を低くして進んだ。人の気配がいる場所を感知して入ると、そこはテーブルと椅子が並ぶ飲食店だった。認識阻害がかかっているため俺に気が付く事はないだろうが、騒がれれば人を寄せ付けてしまう為慎重に近づく。するとテーブルの下に二人が隠れていた。
隣のテーブルの所まで行き、俺は瞬間的にその二人の口を押えて壁に押さえつけた。
「しっ! 騒ぐな」
じたばたしているが、俺の力に抵抗する事も出来ずにいる。
「君らの仲間を一人保護した。信じて欲しい」
俺の声に二人はバタバタするのを止めた。俺は手を外して静かに言う。
「ついてこい」
俺が進むと、二人は素直について来た。その飲食店を出て通路を歩いて行くと、通路が十字に重なる場所の右手側から、数人が歩いて来るのが分かった。
「隠れろ」
二人を店に押し込んで、そいつらがやってくるのを待つ。すると銃を持った三人が現れて、どちらに行くか話しているようだった。俺は後ろの二人に聞く。
「あれは仲間か?」
二人が顔を引きつらせながらも首を振っている。
「ここに居ろ」
俺は縮地で三人の前に現れ、手刀で意識を刈り取った。そのまま倒れると音がするので、俺は瞬時に三人を抱えて静かに横たわらせる。そして待っている二人に向かって手招きをした。
「行くぞ」
俺は気配感知で皆の居る場所に合流する。
「二人救出した。だが銃を持っている奴らが徘徊していた」
「急がないとまずいな」
「武器を持っている奴らを先行してやる必要がありそうだ」
「ヒカル。手分けして制圧するしかないんじゃないか? もちろん殺したくはないが、悠長にやっていたら被害者が増えるかもしれねえぞ」
「やむを得ないか。ならば手分けしてやって行こう」
「ああ」
「俺が単独で動く。他は全員で動いた方が良い、まずは二階に逃げた人を保護してくれ。俺は一階を制圧してくる」
「了解だ」
二手に分かれ俺が一階に続くエスカレーターの脇から飛びおりると、通路を挟んでにらみ合いをしていた。俺は一番近くで銃を持っている男のもとに現れ、首にかかったベルトを斬り銃を奪い返す。
「うわ! なんだ?」
すぐに縮地でそこを離れ、次々に銃を持っている人間のもとに現れ同じことをした。敵味方関係なく、次々に銃を奪いそれを破壊していく。
「こんなところか…」
にらみ合っている二つの集団の間に、あえて分かりやすいように立った。
「争うのはよせ!」
だが誰も返事をしなかった。俺は付け加えて言う。
「物資はここだけじゃない。市内のあちこちにあるはずだ! 双方辛いのは分かるが、話し合って解決しよう!」
すると俺がさっき駐車場で会った奴が言う。
「撃って来たのはそっちだ!」
だが反対側にいる奴らが言う。
「威嚇して来たのはそっちだろう」
「こちらは人が死んだぞ!」
「こっちだって死んだ!」
まずい。争いの火種がどんどん大きくなってきた。俺がどうするかを迷っている時、エスカレーターから仲間達が降りて来る。
「銃は解除した! 取り押さえろ!」
味方が一斉に走り降りて来て、周囲にいた人達を取り押さえ始めた。怪我人が出る前に、俺は近くにいる人間から順番に意識を刈り取っていく。そして俺達は二分もかからずに二十人程度の人間を倒す。
するとタケルが言った。
「こっちは終わったぜ」
反対からはミナミが言う。
「こっちもよ」
「まだ、外に武装している人らがいる。俺がそいつらを制圧してくるから、皆で全員を縛ってくれ」
「了解」
「はい」
そこを仲間に任せて、俺は玄関に向かっていく。すると玄関付近にも銃を持った人が二人待機していた。俺は縮地で一人の後ろに現れ、銃の先端を捻じ曲げる。するとそれに気が付いた、反対側に立っていた奴が慌てて仲間に撃ってしまった。
「ちっ!」
ギィン!
俺は弾丸を斬り落とし、撃った奴の意識を刈り取る。俺が銃を曲げた奴が逃げようとしたので、俺はそこに置いてあったカートを投げた。カートが男にぶつかって転んだので、すぐに男を締め落とす。
「上から行くか」
すぐそばにエレベーターがあったので、その扉をこじ開けていっきに屋上に登った。屋上に出ると、数人の銃を持った人間が駐車場に向かって銃を構えている。俺はすぐにそいつらの意識を刈り取り、銃を破壊した。そのまま駐車場の中央まで下がり、全力で走っていっきに上空に飛び出した。
俺の射出速度は人には見えないので気がつかれる事はない。銃を構えた奴らの上空から、そのまま垂直に落下して音も無く地面に降りる。それからすべてを制圧するまで十秒もかからなかった。銃を撃たれると厄介なので、全ての銃の銃口を捻じ曲げて捨てる。
武器を持っていない数人が、何が起きたのか分からず呆然としていた。俺は車の扉を開けてクラクションを鳴らす。少しすると入り口からタケル達がぞろぞろと出て来た。
タケルが苦笑いして言う。
「早すぎんだろ。普通はもっと争うもんだが」
「皆、素人だ。それにしては手間をかけすぎたかもしれん」
そしてタケルは意識のある奴らに言った。
「はいはいー! 痛い目を見たくなかったら言う事を聞いてくれー」
するとそいつらの一人が言う。
「は? あとは女子供じゃねえか!」
「おや、現実が見えてない人が一名いるね」
「銃を取り上げたぐらいで!」
男達は興奮しており、いまにも俺達に襲いかかりそうだった。タケルは取り合う気はないらしく、思いっきり車のドアを蹴り飛ばす。
ぼごぉ! と言う音と共に車の扉がひしゃげて車内にめり込んだ。それを見た男達は、真っ青な顔で静かになる。するとタケルが付け加えて言う。
「そこの金髪の優男は、俺の千倍強いぜ」
「「「「……」」」」
「返事は?」
タケルが今度は車のボンネットに踵を落とした。すると車は大きくひしゃげて、反対側が浮かび上がる。いつの間にかこんなにレベルが上がっていたらしい。
「わ、わかった…」
「きこえねぇなあ! そこの優男がブチ切れる前に大声で!」
「「「「はい!」」」」
「よし! おりこうさんだ! 生き残った人間達で争うなんてやめようぜ!」
「「「「……」」」」
「な!」
「「「「はい!」」」」
俺はタケルに近づいてグッと肩を強めに握りしめる。
「タケル。優男って言うのは俺の事か?」
「おや? ヒカルは自分がイケメンだって気づいてねえのか?」
するとそこにユミが来て言う。
「はいはい! タケル! ひがまないひがまない! ルックスでも実力でも負けてんの!」
「くっそー、言ってくれるねえ」
「いいじゃない。私っていう人がいるんだから」
「ま、まあな」
それを聞いた仲間達が笑った。するとヤマザキが言う。
「とにかく、みんな中に入った方が良い。今日はちょっと冷える、体力を消耗してしまうぞ」
「気絶してるやつに肩を貸してやれ! とにかく中に!」
そう言われて動ける奴らが、倒れている人を起こして連れていく。そして俺はユリナに言った。
「まだ助かる人がいるかもしれん。治癒してみよう」
「そうね、行きましょう」
俺が急ぎ倒れている人のもとに駆け付けて回復魔法をかけた。
ゴフッ!
傷は全て直し息を吹き返したが、出血がひどいので意識が朦朧としている。せっかく生き残った命を一人も無駄には出来ない。俺とユリナは急いで次の人のもとに駆け付けるのだった。




