第184話 原子力発電所跡地へ
暗がりの発電所であちこちから人の声が聞こえてきた。既に異変に気付いているらしく、のんびりしていたら応援を呼ばれてしまうだろう。
タケルが俺に言った。
「全て破壊するのは時間がかかるんじゃね? 軍が来たら厄介だぜ」
「問題ない」
「どうすんだ?」
「みんな俺から離れてくれ」
方向からすると二カ所、白い塔が二本立っている建物と寸胴な円筒が立っている場所。まずは右手に見える二本の白い塔を視界に収める。
スッと剣を構えて意識を集中させていく。
「大地裂斬」
バグゥン! 地面を大きく裂いて地割れを起こし建物を飲みこんでいく。そして左方向に体を向けて、再び意識を集中させていく。
「大地裂斬」
バグゥン! 同じように地面が開いて建物が沈んでいった。あちこちで爆発が起こり、炎で辺りが明るく照らされる。俺が振り向くと、皆があっけにとられた顔をしていた。
ユリナがポツリと言った。
「…災害じゃない、こんなの」
「大地を割る時に使う技だ。これで大量のヤクザ集団を屠った」
そしてミナミも愕然として言う。
「これが…レベル千以上の力…」
タケルも目を見開いていた。
「そりゃスーパーヒーローも殺せるか…」
とにかく皆が呆然として動かないので、俺は声を上げる。
「すぐに移動するぞ! ぼやぼやしていると援軍が来る!」
「そ、そうだな!」
「ええ、急ぎましょう!」
「とにかくバスに戻ろう」
皆が金網の方に走り出し入ってくるときに破った金網を越え、雑木林の中に身を隠した。そして俺が先頭を走り皆が後をついて来る。
「さっきの車が戻っていく」
どうやら仲間達を追って外に出ていたヤツラが戻って来たらしい。森の中を走りながらミオがい言った。
「発電所の人、どうなるんだろうね?」
「分からんが、発電所内部でも全員は死んではいない。合流してどうするかはわからん」
俺達がバスを停めた高台の公園にたどり着いた頃、突然風を切り裂くような音が聞こえて来た。
「あれはなんだ?」
俺が聞くとヤマザキが答えた。
「飛行機だな。ジェット機の音だと思う」
「ジェット機?」
俺達が発電所を見下ろした時、発電所内部にいくつもの爆炎が立ち上った。
「爆撃してるわ」
「爆撃? 生き残りを救わないのか?」
そう言っている間にも第二波の爆発が起きた。
「確実に証拠を消そうとしているんだろう。俺達がやらなくても結局は同じだったって事だ」
火の海になっていく発電所を見て俺達はしばらくそこにいた。そしてミオが言う。
「いつまでも見ていたってしょうがないわよね?」
それにタケルが答える。
「ヒカル。研究所行くんだろ?」
「そうだな」
「なら、北上してけば原子力発電所があるはずだぜ」
しかし俺は迷った。研究所にいるのは恐らく普通の人間ではない。軍関係者がいるかもしれないし、戦闘用に開発したゾンビもいるだろう。
「どうしたの? ヒカル」
「さっき聞いた情報から考えると、研究所には戦闘用のゾンビがいる。俺が鬼怒川で討伐した蜘蛛ゾンビのような奴か、もしくはそれ以上の奴がいると考えて良い。今のみんなの力量を考えると、それに太刀打ちできるかどうかわからん」
「「「「「「…」」」」」」
皆は沈黙した。俺が戦っている蜘蛛ゾンビを見ているので、その脅威は分かっているだろう。だがミナミが言った。
「でも、レベルアップのチャンスじゃない?」
それを聞いたタケルも言う。
「俺も頭打ちだからな、ここはいっちょやってみっか」
皆が言う事に水を差すようだが、俺はもう一言付け足した。
「あとは軍人だ。戦闘訓練されており、あの発電所に居たような人らとは強さが違う」
しかしそれにユリナが言う。
「逃げてても仕方ないわ。もはや後戻りは出来ないのだし、やるしかないんじゃない?」
「わかった」
俺は運転席のヤマザキの隣りに立ち進行方向を指示していく。月が出ており真っ暗ではないので、ある程度ヤマザキにも見通せるらしく危なげなく進んだ。しばらく北に進んでいくが、俺は異変に気が付いてバスを止めるようにヤマザキに言った。
「バスを脇道に隠そう」
「わかった」
ゆっくり進んでいくと左手に小道があり、そこにバスを入れてエンジンを止める。皆で聞き耳を立てていると、ヘリコプターやジェット機の音が多数聞こえて来た。
「ここからは路上ではダメだ」
「まだ山の中だけど、ここから歩くのか?」
「その方がいい。車は標的になる」
「わかった」
皆がバスを降りると、よりヘリコプターの音はハッキリと聞こえて来た。俺達は山中に潜み北東に向けて進みだす。暗い森の中を進んで三十分が過ぎた頃、俺は皆に足を止めるように言った。
「止まれ!」
「どうした? ヒカル」
「動くな! これはなんだ?」
足元に細い線が張り巡らされており、それが山中を回り込むように伸びている。それを見たミナミが言った。
「たぶん罠だと思う。線をひっかけると警報が鳴るとか、下手をすると爆発するとか? いずれにせよかなり危険だと思うわ」
するとヤマザキが俺に言う。
「もしかすると地雷が埋められているかもしれん。山中から近づくのは難しいだろう」
「地雷?」
「踏むと爆発する爆弾だ」
「厄介だな」
「攻め込むにしてもルートを変えないといけない」
一度、皆が集まってどうすべきかを話し合う。
「仕掛けがあるのなら陸上から近づくのは至難の業じゃない?」
「たしかにな。道路なら地雷はねえだろうけど、敵兵が待ち構えている事も考えられるぞ」
それを聞いて俺が言った。
「ならば一度戻ってバスで北西に向かおう。恐らく襲撃された位置関係からすると、発電所のある南方を警戒するはずだ。こちら側に敵は来ない」
「ヒカルが言うならそうだろう。ひとまず戻るぞ」
俺達はまた三十分かけてバスに戻り、更に回り込みながら北に向かって走り出す。
「停めてくれ」
「どうした?」
「水の音がする。エンジンを消してくれ」
エンジンを消すと、更にはっきりちょろちょろと小川のような音が聞こえて来た。
「川がある。川の行先はどこだ?」
「海ね」
「川を進んでみたらどうだろう?」
するとミナミが頷いて行った。
「川は地雷や罠が仕掛け辛い所だわ。進むならそこが良いかもしれない」
「よっしゃ! じゃあ行って見ようぜ!」
タケルの掛け声で俺達は再びバスを降り、道路の脇の雑木林を下っていく。するとそこに小川があり水が流れていた。
「ビンゴだな!」
「よし。これを辿って海に出る」
「「「「「了解!」」」」」
全員で川べりを下り、時おり水に入りながらも先に進んだ。どうやら川には罠は仕掛けておらず、俺達は一時間もかからず海辺のそばに出た。道路の橋の下に潜み原子力発電所方向を見る。
先ほどから周辺をヘリコプターが行きかっているが、南方向を重点的に調べているようだ。ここまで来ると施設からの警報音も聞こえて来る。
「かなり警戒しているな」
「やはり、守りたい何かがあるのだろう」
「どうするヒカル?」
「この警戒態勢の中を襲撃するのは無理だ」
「だよなあ」
「悪いが俺が潜入して情況を確認してくる。皆はひとまずここで待っていてくれ」
そこでヤマザキが俺に言った。
「あと、さっきの発電所のような破壊をすると、甚大な被害が出る可能性がある」
「どういうことだ?」
「ここには地震で壊れた原子力発電施設がある。おそらく壊せば放射性物質が漏洩してしまうだろう。そうすればヒカルの体とはいえど、どんな影響があるか分からん」
「東京の核兵器のようなものか?」
「まあ似たようなものだ。とにかくそこには近づかずに研究所とやらを探すしかない」
「わかった」
そして俺は皆を橋の下に残し、海沿いに回って原子力発電所に侵入していくのだった。




