第180話 体内で蠢く不気味な罠
発電所でさらった二人を、近くにあった集合住宅の一室に運び込んだ。他の部屋にも廊下にもゾンビはいたが、廊下のゾンビだけを適当に片付けて入る。部屋はワンルームでベッドが一個だけ設置されており、俺は男二人を適当に床に放り投げた。
その部屋の様子を見てマナとタケルが話している。
「ここ、たぶん会社で借りるマンスリーマンション的な所だわ」
「なんか随分そっけないもんな」
「電力会社の転勤族が住んでたところじゃない?」
「なるほどな」
俺は気を失っている男の口を縛っている綱を切り、口に突っ込んでいた靴下を取り出した。そして蘇生させるために軽く回復魔法をかける。
「起きろ」
「うん…」
男が薄っすらと目を開ける。ぼんやりとしながらも、ようやく目の前にいる俺達に気が付いたようだ。
「な、なんだ? あ、あれ? 私はなんで?」
「気が付いたか?」
「あ、あんたは誰だ?」
そして男はようやく、自分の手足ががっちり縛られている事に気が付いた。
「お、おい! なんだよ! ほどいてくれ!」
「静かにしろ」
「ちょ、だ、誰か!」
男が叫ぼうとしたので、俺はそばにあった埃だらけの枕を男の顔に押し付ける。
「む、むぐぐぐぐ」
「騒ぐな」
「むごごがが」
枕を外すと男が言った。
「わかった! わかったから!」
男は怯えるような表情で俺を見る。
「お前は日本人だな」
「そうだ」
「どうしてあんな所にいた?」
「私は警護していた。ゾンビが入り込まないように柵の周りを巡回していた」
「なぜ銃を持っていた?」
「支給されたんだ。ゾンビを倒すのに銃は必要だろ? 違うか?」
俺の隣りからヤマザキが質問する。
「聞きたいのは、なぜ発電所なんかに居たんだという事だよ」
「それは…」
男がすぐに答えようとしないので、俺が首を絞めつけて言う。
「言え。死にたいか?」
「会社に! 会社に連れて来られたんだよ! 本当だ!」
「会社と言うのはファーマー社か?」
そう言ってヤマザキは男のジャンパーの胸のマークを指さした。
「そうだ。私はファーマージャパンの社員だ!」
「その、ファーマージャパン社の社員が何だって発電所なんかにいた?」
「あの、それは、その」
立場が分かっていないようだ。俺は更に強い力で首を絞める。
「言え」
「わ、わかった。け、研究所の職員があそこで発電施設を動かしているんだ!」
「研究所の職員?」
すると余計な事を言ったとばかりに、目を逸らして口をつぐんだ。
「研究所とは?」
「…知らない」
「知らない? 研究所に電源の供給をしているんだろう? この周辺にあるんだな?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! あんたらこんな事をしたらまずいぞ? どこの街から流れ着いたか分からないが、俺達に手を出したらタダでは済まないぞ!」
「なんでだ? 普通のサラリーマンなんだろう? まるでヤクザのような言いようだな?」
男は青い顔をして口をつぐむが、俺が首を絞めると慌てて話を始める。
「違う。我々は脱走も許されてないんだ。俺達がいなくなれば、そのうち俺達を探しに来る。あんたらこのままじゃ殺されるぞ!」
それを聞いた俺は男に聞いた。
「何故、お前らの場所が分かる?」
「それは…」
するとユリナが声を上げる。
「待ってヒカル…その人の体、何かおかしいわ」
ユリナが言うので、俺はその男の体を調べる。すると普通の人間には無い物が潜んでいるようだった。それはゾンビ因子などでは無く、どうやら体内に何かがいるようだ。
ミナミが言った。
「たぶん発信器が埋め込まれているんでしょ?」
男は慌てたように言った。
「な、なんでそれを!」
「やっぱり」
うっかり答えてしまった男は黙り込む。どうやら体内に追跡用の発信器が取り付けてあるらしい。
俺は男を見て言う。
「取り外せるか?」
とたんに男は真っ青になる。そして懇願するように俺に言った。
「や、やめてくれ!」
俺が気配を感じた所に手を当てるとユリナが言った。
「う、動いてるわ。確かにヒカルの手から逃げた」
俺も意識を集中させるが、どうやらその発信器とやらは体内の深くに潜り込んでしまった。そちらに手を伸ばすと、また他の場所に移動する。
「取り外せないらしいな」
男が叫んだ。
「だから言ったろ! 発信器は取り出せない! 我々も逃げられないんだよ! な、悪いことは言わない! 我々を戻した方が良い! そして逃げろ!」
男が懇願するように言うが、俺は男に聞いた。
「どのくらいで探しに来る?」
「はっ?」
「だから追跡者はどのくらいで来るんだ?」
「わからない、三十分か一時間か。我々が行方をくらましたと知れば、すぐにスキャンを始めて追って来るだろう」
「お前が死ねばどうなる?」
「う、それは…」
俺は短刀を抜いて男の額に突き付けた。
「わ、わかった! 言う!」
「言え」
「我々の体から生体エネルギーを取れなくなれば、発信器は活動を止める。すると本部では死んだと判断して…」
また口をつぐむので俺は眉間に少し短刀を刺した。
「わかった! やめてくれ! そうすれば追手は来ない! 死体を回収には来ない!」
「なるほど、殺せば追手は無しか」
「や、やめてくれ! 殺さないでくれ!」
「殺さない。殺せば追手は来ないのだろう?」
「そうだ…が、何を言っている?」
「だそうだ」
俺が皆に振り向くと、俺がしようとしている事に皆が気づいていた。そしてタケルが俺に言った。
「どこにおびき寄せる?」
それを聞いた男が言った。
「はあ? 我々をオトリにするのか?」
だがミナミはそれを無視して言う。
「迎撃しやすいところが良いわね。銃撃が無効になるような…森が良いんじゃない?」
「決まりだな」
「や、やめろ! やめてくれ!」
俺は再び男の口に靴下を突っ込んで、縄で口を塞ぐようにグルグルに巻く。
「むぐぐぐぐぐ」
「行くぞ」
いつ追手が来るか分からない為、俺達は迅速にその建物を出た。南東六百メートルあたりに田んぼがあり、その奥に森林地帯が見える。森に入れば月の灯りも届かず真っ暗闇だが、身体が強化されている皆には見えているだろう。俺達は森の深部まで来て、男達二人を木にグルグル巻きにしその場を離れた。
皆は静かに木の上に登り、追手が来るのを待つのだった。




