第176話 ブラッシュアップ
出来上がった装備を皆が装着し、リコが一人一人に感想を聞いていた。俺が想像していた物よりもかなり出来が良く、実戦で使えそうな物ばかりだ。だがリコは使いやすさを考慮する必要があり、更に改良を加える余地があると言う。
マナが盾を持ち前方に構えてみると、体の前面上半身が隠れた。これならばゾンビに取りつかれる危険性が減る。
「どう?」
「思ったより重くないのね」
「使えそう?」
「良いんだけど、のぞき窓がもう少し大きいほうが良いかも。顔を近づけないといけないのは使い勝手が悪いわ」
マナが言うとリコがメモを取る。
「そのほかには?」
「この握りに手が滑らないようなものがあると嬉しい」
「他には?」
「今のところはそんな感じ。全体的には良いわ」
「わかった」
マナが盾をリコに渡し、リコは盾をクルクルと回しながら指摘部分を確認していく。それを作業台に置いて、今度は鉄で作られたタケルの小手と脛あての様子を見る。
「武君、どうかしら?」
「悪くねえ。出来れば小手と脛あての表面に、鉄のイボイボをつけてほしいな」
「重くなると思ってやめたんだけど」
「いや、この通りだぜ」
シュッシュッ! とタケルがパンチやキックをするが、その速度はつけていない時と変わらない。
「力持ちね」
「ヒカルのおかげだよ。こんな体にしてくれてありがとって感じだな」
「なるほどね。他には?」
「問題ねえけど、ついでに肩当も作ってくんねえか? 胸まで覆う奴ならうれしい」
「了解」
リコがメモを取り、タケルはそれをつけたままシャドーを繰り返している。次にリコはタケルに出来上がった武器を渡した。
「鉄パイプの代わりに、これはどうかしら?」
「なんだこれ! カッコイイな!」
タケルが持っているのは、鉄パイプの先にイボイボの鉄球が付いたこん棒だ。握りも作ってあり、タケルの腕の長さに丁度いいだろう。
「振ってみて」
ビュッ! ビュッ! タケルは先が霞むほどに振り、その感触を確かめていた。
「このままでいい、改良はいらねえぜ。程よく重くてかなりの打撃を加える事が出来そうだ」
「持ち手の所には鉄を流し込んで、かなり強化したから簡単に折れる事は無いと思うわ」
「金属バットはすぐにへこむからな、助かるぜ」
「よかった。他に何かアイデアがあったら教えて」
「気がついたら言うよ」
次にリコは女達の所に行って、彼女らが振り回している物を確認する。
「どうかしら?」
するとミオがニッコリ笑って言う。
「これは良いわ」
皆が持っているのは、鉄でイボイボにしたダンベルとチェーンと取っ手を溶接して作ったモーニングスター風の武器だ。ユンがそれを振り回しながら言った。
「これなら私でもなんとかなりそう」
「よかった。私を基準にして作ったから、美桜ちゃんや南ちゃんには物足りないかも」
ミオが首を振って答えた。
「いざという時に重すぎると、ちゃんと振れるか分かんないし」
ツバサも頷いた。
「ゾンビは一体二体じゃないからね。疲れたらどうしようも無い」
「なら改良は?」
「取っ手のおしりに皮のベルトをつけて、手首を通すようにすると落とさないかも」
「了解。他には?」
「無いと思う」
他の皆からも意見は出なかった。そして次にミナミの装備を確認する。ミナミは頭からすっぽりかぶる、鎖帷子を作ってもらったのだった。
「どうかしら?」
「いいわ。私用にしてくれたおかげで、ぴったり体に合っている。まあ…これは太れないわね」
「よかった。動いてみた?」
「見てて」
鎖帷子を着たミナミは日本刀を構えて、殺陣を見せてくれた。更にキレが良くなり全く動きに無駄がない。
「無駄なく動かないと疲れそうだと思ってやっているうちに、更に動きが良くなったみたい」
「問題なさそうでよかった」
最後にヤマザキとユリナとユミの所に行って確認する。
「振ってみた?」
「いい感じだよ」
ヤマザキが音をたてて突いているのは、鉄の棒の先をとがらせた槍だ。持つところがへこんでおり、肩幅の広さになって持ちやすくなっていた。
「改良したほうがいいところは?」
「ないんじゃないか? しいて言えば葵のも作ってやってほしい。ちっさいのを」
「わかったわ。じゃあ葵ちゃんサイズのを一つ」
自分の装備だけなかったアオイがそれを聞いてニッコリする。最後に皆がバスの周りに集まった。バスをみてタケルが言う。
「映画のマッ〇マッ〇スだな! 完全に装甲車の出来上がりだ!」
それにユミが答える。
「ほんとね。まるで映画に出て来る車みたい」
俺達の前にあるバスには、もはや面影が無かった。下部にはゾンビが入り込まないように、檻のような鉄の格子がつけてある。鉄板にしなかったのは、重さを軽減する為だとか。更に窓にも鉄格子が取り付けられ、外からゾンビの侵入を許す事はないだろう。窓を開けて中から槍でゾンビがつけるようにもなっている。皆が満足そうにバスを眺めているところで俺が皆に提案した。
「装備が完成したら、トラかライオンを仕留めに行って見よう」
するとタケルが笑って言った。
「おもしれえ…」
タケルの言葉を聞いてミナミもにやりと笑う。
「リベンジだわ。私の体に傷をつけてくれたお礼をしなくちゃ」
「ああ」
それからリコが武器の調整を始める。飯の時間になってもリコは食わずに没頭しており、陽が沈んで皆が寝静まってからも作業を続けた。俺だけが護衛の為に起きていたが、それこそ休みなしに作業を続けている。俺はリコに声をかけた。
「無理をする必要はない。まだ敵の軍隊もこっちに流れてきている気配はないぞ」
「ううん、出来るだけ早く仕上げるわ。感覚を忘れたくないって言うのもあるし眠くならないのよ」
どうやらリコにも俺の施術の影響が出始めているようだった。だがあまり根詰めると体を壊す可能性もある。
「眠れるときに眠った方が良いぞ」
「うーん。あとね…皆に申し訳ないっていう気持ちがあるのよ。特にミオやユミには嫌な思いをさせたわ。私が早く皆を信じていれば、私の仲間も死なずに済んだかもしれない」
「それは違う。リコ一人が理解をしなかったわけじゃない。あのときリコの仲間達は、自分達の信ずる道を進んだんだ。結果は酷いものになってしまったが、人は強制されて生きている訳じゃない」
「そうかな?」
「そうだ。俺だって別に正義の味方だから戦ってるわけじゃない」
「えっ? そうなの?」
「皆でいるのが楽しいんだよ。だから皆が幸せになるように最善を尽くしているだけだ」
「…あんがい単純なものなのね」
「そうだ」
するとリコが作業の手を止めて俺を見る。しばらく見つめて笑った。
「真剣な顔で言うのね。なんていうか…ヒカルの事も誤解してたわ。何か下心があって皆と行動しているのかと思ってた。ところがめっちゃくちゃピュアな人でびっくりした」
「そんなものはない。俺は俺の為に戦っている、だからリコも自分の為に戦え」
「ふふっ。これが私の戦いよ」
火の出るガスバーナーとやらを掲げてみせた。リコの加入により、皆の戦闘力が格段に上がった事は確かだ。リコは寝ずに皆の武器を仕上げていき、とうとう陽が昇り朝が来てしまった。
「ふう」
ようやくリコが座った。
「できたぁ!」
「よくやった」
「ありがとう! みんな喜んでくれるかな?」
「もちろんだ」
「うふふふ」
俺はリコが作った武器を一つづつ手に取って確認していく。強度的にも問題がなさそうで、リコの技量の高さに驚く。俺がモーニングスターを振るとビュッと音をたてて回る。振り向いて使用感を伝えようとしたら、リコはテーブルに突っ伏して眠っていた。
リコの寝顔は満足したような笑顔だった。仲間を失ってからどこか悲壮感が漂っていたが、自分の出来る事を見つけて自信を取り戻したのだろう。
ガラガラ!
ミオが起きてきた。
「おはよ」
「ああ、おはよう」
するとミオが工場をぐるりと見渡して言う。
「うそ! 全部出来てる」
「徹夜だ」
「無理しちゃって」
ミオは自分の体に巻いていた毛布をリコにかけてやった。そして肩をポンポンと叩いてぽつりと言う。
「ゆっくり休んでね」
寝ているはずのリコが笑ったような気がした。皆が起きだして工場の中に入ってこようとした時、ミオが慌てて入り口に言って言う。
「しー! リコさんが寝てるから」
「あ、わかった」
皆が静かに工場に入ってきて、出来上がった武器を確認して驚いていた。そして静かにリコから離れたところで、それぞれが装備の使用感を確認し始めるのだった。




