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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

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第169話 野獣狩り

 別荘地のゾンビを狩っていく四人を見ていると、駆け出し冒険者達を見るようで楽しかった。魔王ダンジョンに青春を費やした俺にとって、その光景を見るのは癒しだ。それにゾンビを狩っていく数に伴い、確実に経験値が入っていると分かる。四人のゾンビ狩りの効率が良くなっており、討伐速度が速くなっているのだ。仲間達の成長を見るのは、自分の事以上に嬉しかった。


 十数体目のゾンビを倒した瞬間ミオが言う。


「あっ!」


「どうしたの」


「南が言ってた感覚が分かったかも!」


「あ、もしかして疲労が消えた?」


「そんな感じ」


 皆が俺の方を振り返った。


「おそらく、ミオはレベルアップした。さっきの背中の傷も治っているはずだ」


 ユリナがミオの服をまくり上げて、背中のガーゼを取り除いた。


「言うとおりだわ。治ってる…」


「感覚が違うだろう?」


「分かる…違う」


「だが油断はするな。何のステータスが上がったのか分からないから、試し試しやっていこう、レベルアップを過信した時が一番危ないんだ」


「分かった」


 この集落には、もうほとんどゾンビは残っていなかった。最後の建物に向かい四人が進んでいく。そして建物を見たミオが言った。


「分かる! 一階に一体と二階に三体いるわ」


「えっ? そんなに細かく分かるの?」


「厳密ではないけど、間違いないと思う」


「行ってみましょう」


 ミナミが先を行き玄関のドアに手をかけると、鍵がかかっていないようでカチャリとドアが開いた。するとすぐにミオがミナミに告げる。


「入って左の部屋」


「左ね? わかったわ」


 タケルが何も言わず左の部屋のドアに手をかけて、ミナミにアイコンタクトを送った。スッとドアを開けると速やかにミナミが侵入し、すぐにゾンビを斬り落とす。


「本当に居た」


「これなら、だいぶ安全になるな」


「ホントね。美桜のおかげで不確定要素が減ったわ」


「あとは二階に三体。一カ所に固まっているみたい」


「了解」


 四人はゆっくりと二階に上がって行き、ミオは更に奥だと皆に伝える。その奥の部屋のドアは木材が釘で打ち付けられており、中のゾンビが出ないようにしてあった。


「さっき一階に居た人がここに閉じ込めたんじゃないか?」


「多分…お父さんだったよね?」


「だと…この中にいる三体は…」


「家族じゃない?」


 そして四人は顔を見合わせる。


「ここはいいか」


「そうね。閉じ込めてあるみたいだし」


「わざわざ討伐しなくても」


「じゃあ、行こうか?」


 討伐しない方向で決めたようだが、俺は前に立ちはだかって言う。


「ダメだ」


 するとタケルが不服を訴えた。


「だってよう。恐らく下のゾンビの家族だぜ、閉じ込めてあるんだからいいだろう?」


「もし生存者がここにたどり着いて、分からずに開けたらどうなると思う?」


「あ…」


 そう。ダンジョンで不用意に魔物を放っておけば、他のパーティーに被害が出たり緊急時に自分らが襲われる場合もある。間違いなくゾンビだと確認したのだから、討伐できる時にしておいた方が良い。


「ヒカルの言うとおりね」


「仕方ねえな。やるっきゃねえか」


 そう言ってタケルは思いっきり、扉を塞ぐ木に金属バットを振り下ろした。タケルがドアをドカッ! とけり破ると、中からウロウロと三体のゾンビが出て来る。狭い場所で三体を相手にする戦いを学ぶいい機会だ。


 ミナミが言う。


「下がりましょう」


 廊下を下がっていくと、部屋の出口からゆっくりゾンビが出て来た。だがミナミはすぐに斬らなかった。


「母親と…子供ね…」


「可哀想に」


「だがやらねえと」


「もっと引き付けましょう」


 更に後ろに下がると三体が廊下に出てくる。最初の母親ゾンビの首をミナミが斬り落とすと、後ろの子供ゾンビがミナミにつかみかかろうとした。タケルがミナミをどけて、足でゾンビを蹴り飛ばす。小柄な子供のゾンビが、二体まとめて廊下の奥に吹き飛んだ。するとミナミが奥に行って、転んでいる子供ゾンビの脳天に日本刀を突き刺す。その下敷きになったゾンビがミナミの足を掴んだ。


 まだ幼い女児のゾンビだった。


「ごめんね」


 そう言って、ミナミはそのゾンビの脳天に日本刀を突き刺した。


「ふう」


 ミナミが深くため息を吐く。するとタケルがミナミに声をかける。


「ゾンビだ。仕方ねえ」


「そうね」


 実はここまでの十数体のゾンビのうち数体は子供だったのだ。そのたびに皆が心を痛めながら処

分して来た。野で遭遇するゾンビは、単体か群れを成すかだが親子関係までは分からない。だが住居のゾンビはそれがはっきりわかる。俺はこの世界に来てからずっと住宅のゾンビを見て来たが、彼らにはそれが堪えるようだった。


 タケルが俺に言った。


「ヒカルはずっとこれをやってたんだものな」


「そうだな…。ゾンビはもう元に戻らないんだ。一体でも減らす事が、残った人間が生き延びるためには重要なんだよ」


「言うとおりだ。甘い事を言いかけてすまなかった」


「簡単には慣れないだろう。それに俺とは違い、タケル達からすれば同じ国民だった奴らだ。ゾンビとは言え、それに刃を降ろす事をためらうのはおかしなことじゃない。だが、ゾンビに情けをかければ、いつか事故が起きる可能性があるぞ」


 四人は素直にうなずいた。つい最近ヨシタカの母親がゾンビになった時、ミオは躊躇なくゾンビにトドメをさしていた。あの時率先して動いたのは、俺が言った意図を理解しているからだ。ゾンビに変わった段階で家族ではなくなってしまうのだ。


 以前、俺は堂嶋から言われ、ゾンビに変わる前に堂嶋にトドメを刺したことがある。だが今の皆にはそれが出来ないだろう。俺と行動して来て今まではそれで済んでいたが、ヨシタカ達のグループがやっていたように変わる前に隔離は正解なのだ。


 集落のゾンビが全部いなくなったことを四人に告げる。そしてユリナが言った。


「じゃあ、皆の所に戻りましょう」


 するとそれに異論を発したのはミオだった。


「調味料や、生活で使えそうなものがあったと思うわ。それを回収してからよ」


 皆がビックリしたような顔でミオを見る。だが俺は三人に言った。


「ミオの言うとおりだ。外からゾンビが入ればまた討伐し直しだ。討伐直後ならばスムーズに物資の回収が出来るぞ」


「わかった」


 それを聞いたミナミが言う。


「じゃあバッグを確保しましょう」


「「「了解」」」


 皆が入れ物を入手し、今まで来た道を逆走して辿っていく。別荘に入っては使えそうな物や調味料をバッグに放り込んでいき、着れそうな防寒具を入手していった。


「やっぱ別荘地だよな。結構モノがいいぜ」


「そうね。比較的新しめの物もある」


「着替えはいくらあってもありがたいからな。水の無い場所だと、しばらく同じものを着なきゃいけなくなるしよ」


「そうね」


 逆走しつつ最初の別荘にたどり着いた時だった。突如、目の前に長い角をもった鹿のような動物が現れる。


「止まれ」


 俺が言うと四人がぴたりと足を止める。


「あれを、四人で狩ってみるか?」


「マジ?」


「俺の気配感知では、もうこの集落と周辺の森にゾンビはいない」


「やってみるか」


「ただ、トラとライオンに遭遇するかもしれない。悪いが俺は、トラとライオンが出た場合の要員として仲間に入れてくれ」


 皆がその野生動物に対して散開した。一カ所に固まるよりはいいが、どうするつもりだろう? 建物の庭で草を食っている動物に対し、死角に回って包囲しているようだ。


 どうするかな?


 俺が興味深く見ていると、反対側に回ったユリナがガン! と木の棒で建物の壁を叩いた。それに驚いた野生動物が反射的に反対側に逃げるが、その先にミナミが待ち構えている。しかしその動物は機敏に方向転換して、今度はミオの方に向かって行った。


 だがミオは手足を大きく広げて叫んだ。


「わー!!!!」


 するとそれに驚いた野生動物が、タケルの方に走っていく。


 ガコン! タケルは見事にその野生動物の頭を振りぬいた。それによって動物が脳震盪を起こして、ゴロンと転げてしまう。そこにユリナが駆けて来て、動物の後ろ足を包帯でぐるぐる巻きにしたのだった。ようやく動き出した野生動物は、前足で逃げようとするがその角をタケルがガシっと掴む。


「友理奈! 前足も!」


「まって!」


 ユリナが前足もグルグル巻きにして、野生動物を捕獲する事が出来たのだった。


 俺が笑って近づく。


「生け捕りか!」


「ああ、だってコイツ食えるか分かんねえしよ」


「そんなもの食ってみてから考えればいいだろう?」


「そうだけどよ」


 するとミオが俺に言う。


「なんていうか、外国では食べてるのかもしれないけど日本人にはなじみがない動物だからね。でも私達の訓練のために殺すっていうのは、ちょっと違うって言うか…」


 するとミナミが聞いて来た。


「間違ってる?」


「いいや。それでいいと思う。同じ世界に生きる命だ。無駄に狩る必要はないさ、食う必要が無いのならばな」


「じゃ、持って帰ってみんなに聞こうぜ」


「そうしよう」


 ユリナが太い木の棒を持って来て、その動物の足に通した。逆さまにしてタケルが前、俺が後ろを持つ。動物がバタバタと暴れるが、しっかりと足が巻いてあるので身動きは取れないようだった。


 バリケードを越えて、俺達がバスに戻るとみんなが目を丸くしている。


 驚いたようにユミが言った。


「なにそれ?」


「わからねえ。ラマとか? なんとかガゼルとか? そんなやつじゃね?」


「随分適当じゃない?」


「いや、皆で多数決取ろうって事になったんだよ。これを食うか逃がすか」


「なるほど」


 その動物を中に入れると臭くなるため、俺はそいつを担いでバスの上に飛び乗った。それから俺達は、拠点にしている別荘地へと戻るのだった。

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