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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

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第166話 日本人のレベリング

 別荘地付近の森林には様々な動物が生息していた。そのため別荘から外に出る場合は、細心の注意を払わねばならない。ライオンや虎に遭遇してしまうと彼らでは対処出来ないからだ。


 また、仲間達の体に起こりつつある異変も確認したいところだった。分かっているところでは、タケルの思考加速とミナミの敏捷性向上及び筋力向上、それにユリナの身体異常感知能力。


 俺は、皆を集めてそれを話す事にした。


「すまんな集まってもらって」


「なんだい大事な話って? 逃走経路の事とかかな?」


「違うんだヤマザキ。敵の軍隊とゾンビから生き延びるための大事な話さ」


「そうか」


 皆が床に座る。そして俺はミナミを呼んだ。


「なに?」


「みんな。ミナミの体に起きた変化を知っているな?」


「ああ。ゾンビをたくさん倒したら傷が治ったんだってね」


「そうだ。その現象が何かを俺は知っている」


 皆が俺の言葉に集中する。恐らく各自も何かに気付き始めているはずだ。


「ミナミは『レベルアップ』をしたんだ」


「へっ?」

「レベルアップ?」

「あの、ゲームの?」

「どういうこと?」


するとユリナが笑いながら言う。


「ヒカル。本当の本当に漫画のような話ね?」


「驚くのも無理はない。恐らくこの世界の人間にその概念がないからな、皆も最初は無かった」


「何故それが分かるの?」


「レベルアップすると、それまでの傷が全快するんだ。ギルドカードがないから分からんが、ミナミは恐らくレベル3だ」


 それを聞いたミナミが信じられないと言った顔で俺に言う。


「ちょ、ちょっと待って。そんな事…私どうなっちゃったの?」


「信じられないと思う。だが実際に体感して分かるだろう」


「変だなとは思うけど…」


「あと、俺の次にゾンビと戦う回数の多いタケル。タケルの力をみんなも見たろう? あれを見る限りレベル4はあるぞ」


「へっ? 俺がレベル4?」


「そうだ」


 するとユミが言う。


「凄いじゃないタケル!」


「い、いや。確かに変だなとは思ってたけどよ。意味もさっぱり分かんねえし」


 するとユリナが言った。


「私の怪我や病気がなんとなくわかるというのは? レベルは?」


「多分レベルは上がってない。ユリナにそういった要素があると分かっただけだ」


「そうなんだ…」


「他のみんなもだ。何か体に異変を感じているはずだ」


 すると皆がざわつき始めた。自分の体に起きた異変に関して話し合っている。


「まさか、ヒカルの施術のせいか?」


「すまない。それしか考えられん。この世界の医学は素晴らしい物だったが、俺の回復魔法の知識とかけ合わせる事でそうなってしまった。この世界の医学が発達しすぎているとも言える。魔法はイメージが先行するのだが、この世界の医学は理論が先だ。あの理論で俺は人体の最小単位の構造を知ったんだ」


 ユリナが答える。


「日本一の大学の理論を覚えるなんて尋常じゃないけどね」


「それを知り、蘇生魔法を覚えて俺の体の組織を参考にゾンビ因子を取り除いた』


「その結果、ヒカルの体に私達が近づいたということよね」


「そう思っている」


 それを聞いていたヨシタカが言った。


「えっと…ちょっといい?」


「ああ」


「確かに凄い能力は見せてもらったわ。だけどそれを信じろと? 本当に漫画じゃない」


 恐らくヨシタカは自分の身になにも起きていないため、全く理解が出来ないはずだ。他の仲間は自分の体に何らかの変化を感じ取っている。だから俺の話が理解できるのだ。


「信じなくても良い。だが信じてくれるのならば、その力を強くしていく方法がある。そうする事で生存確率が格段に上がるはずだ」


 するとミナミが食い気味に聞いて来た。


「それって、どうするの?」


「まずは力の使用頻度を高める。そして、とにかくゾンビと戦う事だろう。動物や人間と戦った場合の効果はちょっとわからないが、ゾンビで経験値が稼げることは分かった」


 すると今度はタケルが嬉しそうに聞いて来た。


「どんどんレベルを上げていけば、俺達もヒカルみたいになれるのか?」


 それはあまりにも現実的では無かった。彼らの人生を賭したとしても敵わぬだろう。


「それは…難しい」


「まあ…だろうな」


「すまんな。日夜問わず十数年毎日休まず戦い続けた結果こうなったというのもあるが、元々の勇者と言う適性があったんだ。だから皆はそうはなれない」


 それを聞いたアオイが言った。


「ヒカル兄ちゃんはレベルいくつだったの?」


「俺はこの世界に来る前は千を超えていた」


「せん!」

「千!」

「1000!」

「うそ!」

「なにそれ!」


 するとタケルがまた聞いて来る。


「ゾンビを倒し続ければ、それになれるだろうか?」


「いや…、ゾンビはカスモンスターだ。百年かけても難しいかもしれんし、この世界の人の数がどのくらいかもわからん。ゾンビはその数を上回れないからな」


「七十億人?」


「それが全部ゾンビになって全て討伐したとしても、恐らくレベル三十に到達できない」


「うへえ…なんだよそれ」


「ミナミもタケルも頭打ちが来る。ゾンビをいくら倒してもレベルは上がらなくなるだろう」


 ミナミが残念そうに言った。


「そういうものなのね。じゃあヒカルが使うフレイムソードは使えないのかな?」


「残念ながら無理だ」


「そうかあ」


 ミナミは本当に残念そうな表情を浮かべた。俺とミナミが日本刀を取りに行った夜、二人だけの時に自分もやってみたいと言っていた。だがフレイムソードは火属性の魔力が必要で、それはミナミには備わってない。


 だが俺はミナミに提案をする。


「俺達の世界では魔獣を狩ればレベルが上がった。この世界の動物ならばどうだろう? あのミナミを襲ったトラやライオンを狩ればもしかしたら上がるかもしれん」


「虎…かあ…」


「あれしき恐れる事は無いと思うが」


「あんな大きな虎に立ち向かうなんて、ちょっと…」


「俺も一緒に行く」


「まあ…ヒカルが一緒ならいけるかな」


「やってみよう」


「わかった」


 皆は心配そうにミナミを見ている。不安そうなミナミだが、もし戦う事でレベリングが出来るならば彼らは戦力になる。俺は儚い期待を抱いてミナミの背中を押してやるのだった。


「じゃあミナミ! 気を付けてね」


「わかったわ」


「ヒカルもミナミを頼むぞ!」


「ああ」


 それから俺とミナミが日本刀を携え、森にトラやライオンを探しに出た。ミナミが肩で息をしていたので、俺はミナミに呼吸法を教える。


「あまり深く吸い込むな。そしてゆっくりでいいから腹で呼吸しろ。いついかなる時も呼吸を一定に保つように心がけてみろ」


「うん」


 森を進みながら、ミナミはゆっくりと呼吸をするように努めた。


「落ち着いて来たわ」


「それでいい」


 俺達が更に森の奥へと進んだ時、動物の気配を察知してミナミを手で制する。すると四十メートルほど先にツノの生えた動物が現れた。


 俺達がそれをじっと見ていると、木の枝をかじっているようだ。俺はミナミにあれをやってみようと身振り手振りで伝えてみる。ミナミはそれを理解し、そっと身を潜めて角の生えた動物に近づいて行く。だが動物はミナミに気がついて逃げてしまった。


「逃げられたな」


「動物に近づくなんて出来ないわ」


「悟られなければいいんだ」


「だからそれが出来ないのよ」


「ミナミは息を止めてどのくらい動ける?」


「わからないわ。一分かそこらじゃないかしら? それも難しいかも」


「ならば目標は三分だ。まずは三分呼吸を止めて動けるようになろう」


「やってみる」


 俺のミナミレベリング計画は、かなり障壁が高そうだった。だが彼女らが生き延びる道を見つけるため、そして俺と一緒に戦う為には必要な事だ。ライオンを倒せねば、あの蜘蛛ゾンビを討ち取る事など到底不可能だからだ。俺とミナミは再び森をさまよい始めるのだった。

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