第164話 レベルアップ
ウシを確保した俺達は、安全を確保するために目立たない場所にある住居を探す事にした。街道沿いや大きな建物はやめて、日光で見つけたようなロッジの方が良いと判断する。しかし探すために街道を走り始めて、不思議な光景を多数見つける事になったのである。
「ここもだ…」
街道から逸れようとすると、入り口にはバリケードが築き上げられている。これで三カ所目、ヤマザキが言うにはバリケードの奥には別荘地があるらしい。俺がバスの天井から降りて、バリケードを見にいくが周囲には誰も人はいなかった。
「ヤマザキ! ここにも人はいない!」
「ここもか。内部の様子は探れるか?」
「ああ、残念ながらここもゾンビしかいない。中を探って来るか?」
「どうだろう。生存者がいればと思ったのだが、ゾンビしかいないのではな。むしろゾンビの居ないところを探した方が良いんじゃないか?」
まさかゾンビがバリケードを作るとは思えないが、まるであちこち巣でも作るように入り口が塞がれている。俺達の話にヨシタカが割って入って来た。
「私にはなんとなくわかる」
ヤマザキが聞いた。
「どういうことだ?」
「…多分だけど、私達と同じように外界から隔離するようにしたんだと思う。そうすれば感染者を寄り付かせずに済むし、ゾンビの侵入さえ防いでいれば何とかなるから」
「自給自足でもするつもりでか?」
「そこまでは分からないけど」
するとタケルが言った。
「なんで、どこも壊滅してんだろうな? 生きてるやつが居ねえ」
それにヨシタカが暗い目をして言う。以前、俺達の仲間と言い争いになった事だからだ。
「たぶん、怪しい人を切り捨てなかったから。私がいた集落のように怪しい人は隔離したり、外に放り出したりしなかったんだと思う」
「…なるほどな」
するとユリナが残念そうな顔をして言う。
「恐らくここに居た人も…自分達の体内に、既にゾンビ因子があると知らなかったんでしょうね」
それを聞いたヨシタカは不機嫌そうに言う。
「それだと日本人全員が体内にその因子があると聞こえるけど」
「ええその通りよ。あなたとは平行線になるから聞き流してくれていいけど、恐らくは下界と隔離し自分達で自給自足する事で、ゾンビをシャットアウト出来ると思ったんでしょう。だけどすでに皆の体内にゾンビ因子が潜んでいるのを知らず、病気で死んだり不慮の事故で死んだ人を土に埋めたりしたんじゃないかと思うの」
ヤマザキが肯定するように言った。
「だろうな。それで全てのつじつまが合う。あちこちの別荘の集落では外に出ないでいれば、ゾンビから身を守れると思った。だが内部から崩壊していったのだろう。あながち吉高さん達のやっていた方法も、間違いじゃなかったということだ」
「結果を見ればそうね、人道的な問題はあるにせよそれで拠点が護られたんだわ」
するとヨシタカが更に、怒りをはらんだ表情で言う。
「じゃあなに? 隔離しようがゾンビを全て消滅させようが、いずれは皆がゾンビになってしまうという事?」
「そうね。死ねばそうなると、我々は考えているわ」
「ならない人もいたわよ!」
「多分、それは稀な方」
「どういう事?」
ユリナがヨシタカを怒らせないように静かに言った。
「食糧や薬品に問題のあるものがあったの。だけど、健康志向の人や年配の人はそれを口にしなかった。もしくはその薬や注射をしなかったと予想しているの」
「食べ物? 薬?」
「ある添加物や、薬品に使用されている物質」
「でも噛まれればゾンビになるわ」
「伝播するからよ。それも体内にある人とない人の伝播速度が違うと考えているわ」
「…ウイルスじゃないの?」
「ウイルスと言うよりも、生物かマシンに近い物じゃないかと私は思う」
「と言う事は、私にもあるという事?」
「残念ながらそうね」
「皆も一緒?」
するとユリナが深くため息をついて言った。
「ごめんね。信じられないかもしれないけど、医学と魔法の融合で取り除いてもらったの。それは言ったと思うけどね、ヒカルの力でやってもらった」
「またそれ?」
「信じなくていいわ。ただ私達にはそれが無い、その上にかなり身体能力が向上したと思っている。でも…あれだけのヒカルの力をみてまだ信じられないかしら?」
「…」
それ以上口論にはならなかったが、ヨシタカは納得していないようだ。そして俺達がここで話しているのを聞きつけ、バリケードの奥の方から数体のゾンビがウロウロとこっちに向かって来た。
「ゾンビが来たぞ」
すると、そこにバスから降りて来たミナミが来た。ミナミはトラにやられ、血が流れているため完全に回復しているとは言えないのだが。
「ミナミは休んでいろ」
するとミナミは俺を手で制して言った。
「ヒカル。実は江戸村で気づいた事があって、試してみたいと思っていたんだけど。今かなって」
「なんだ?」
「あのゾンビを私が狩って良い?」
「それは俺がやる」
「いえ、私にやらせて」
俺の制止を振り切って、ミナミが日本刀を持ってバリケードを飛び越えていく。近寄るゾンビを斬り倒し更に奥のゾンビも倒した。見える範囲のゾンビはミナミが処分する。
「ミナミ! 戻ってこい!」
俺が言うのを聞かずに、ミナミが奥へと入って行ってしまった。俺は咄嗟にミナミを追いかけて中に入る。だが俺の気配感知で、ゾンビの気配がどんどん消えて行くのだった。
「まさか…」
結局そのエリアのゾンビはミナミが全て斬り捨てた。俺が見かけた時ミナミは肩で息をして、建物の壁に背中をついていた。
「ふうふうふう、まだいる?」
「いやもういない」
突然ミナミが直立に立って伸びをするようにした。心なしか薄っすら光っているようにも見える。
「うーん!」
「…ミナミ…」
そしてミナミが、服をまくり上げて自分のわき腹を見せた。
「ほら! 見てヒカル! 完全に治ってる!」
「本当だ…」
「江戸村でもそうだったの!」
俺はミナミに起きた現象をよくわかっている。ミナミの体はゾンビ倒す事である事が起きたのだ。俺達の世界の冒険者では当たり前の感覚、だがこの世界の人間には無いもの。それが起きれば体の傷は全回復し、身体能力が更に向上する。
ミナミは、レベルアップしているのだった。




