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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

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第163話 ライオンと虎

 俺達のマイクロバスが山を登っていくと、道に倒木がありそれらを除去しながら進む。時おりゾンビの気配を感じるが、俺達の進行を邪魔する事は無かった。


「あちこちにゾンビが点在しているようだな」


「ええ、ヒカル。このあたりにはホテルやロッジが多いのよ。ゾンビになったのは恐らくは、従業員と宿泊者の成れの果てだろうけど」


「そうか」


 俺がミオの説明を聞いていると、突然ヤマザキがブレーキを踏んだ。


「きゃっ!」


「どうした?」


「おい! あれを見てくれ!」


 俺達が進む道の先に動物がいた。


「あれは何だ?」


 もしかしたら魔獣? この世界にも魔獣がいるのか?


「サイだわ」


「サイ? 随分頑丈そうだが食えるのか?」


 魔獣っぽいが魔獣では無いようだ。


「誰も食べたことが無いと思うし、本来はこの国にはいない動物なのよ」


「どういうことだ?」


「恐らくは、ここのサファリパークから逃げて生き延びたんだと思う」


 ミオが地図を指さす。


「サファリパーク?」


「他国の動物を飼育して見世物にする場所よ」


 なんとも面白い習慣があるものだ。驚く俺達をよそにサイはこちらを睨みつけているが、どうやら敵か何かだと思っているらしい。


「おい、ヤマザキ。サイが来てるぞ」


 サイがこちらに突進して来たので、ヤマザキはバスを後ろに走らせる。


「バスが壊されれば、ここからは徒歩になる! あれはかなり強力なんだ」


 ヤマザキの言葉を聞いて俺はバスの降り口に立つ。


「討伐する」


 俺が走るバスから飛び降りて、サイの前に立ちはだかった。日本刀に手をかけて殺気を放った時、サイはびくりと止まる。


「ん? どうした? 来ないのか?」


 するとサイはそのまま進路を変え、道から逸れて茂みの中に逃げていってしまった。まあ無駄に生き物を殺さないで済んだ。俺がバスに戻ると皆が話し合っているところだった。


「どうした?」


「サイが生き延びてるなんて凄いねって言ってた。このあたりは寒いのに」


「暖かい国の動物なのか?」


「そうよ」


 管理する人間が居なくなって、自分達で生き延びているという事か。


 ミオが地図を広げて言う。


「それに、たぶんこのあたりに牧場がいくつかあるみたいなんだけど」


「そうね、とにかく周辺を周ってみるしかないわね」


 ユリナが答えると、ヤマザキがバスを発車させた。バスはグルグルと周辺を周って広い草原のような場所に出た。すると草原の向こうの方に動く動物を見つける。


 それを見たユミが言った。


「あ! あれ牛じゃない?」


「あれが牛か…、あれなら食えるって事か?」


「そう言う事ね」


「じゃあ、あれを捕獲しよう」


 周囲にはゾンビも人間もいないようなので俺達はバスを降りた。全員で牛を取り囲むように近づいて行く。一気に距離を詰め牛を狩ろうとした寸前、突如牛に襲い掛かる動物が現れた。それを見てヤマザキが大声を出す。


「ライオンだ! 逃げろ!」


 皆が驚愕の表情を浮かべてライオンとやらを見つめていた。


「早く!」


「うわっ!」

「は、はやく! 逃げなきゃ!」


 皆がくるりと向きを変えてバスに走り出した。どうやら彼らの認識では、あれは恐ろしい動物らしく血相を変えて走っていく。すると突然草むらから黄色と黒の縞々の動物が飛び出て来て、ミナミがそれに飛びかかられてしまった。ミナミは血を飛び散らせながら倒れ込む。タケルが叫ぶ。


「虎だ!」

 

 剣技は他の仲間にあたる危険性もあった為、俺は縮地でミナミに近づき、のしかかっている黄色と黒の動物を蹴飛ばした。その動物は五十メートルほど吹き飛び倒れる。すぐにミナミを掴んでバスの中に放り込み、ライオンに追われながら走って来る仲間に向かった。


 皆とすれ違うと、俺は腰だめに日本刀を掴む。するとライオンはそこで立ち止まり、俺を品定めするように右往左往した。


「しゅっ」


 軽く息を吐いて、一頭のライオンに向けて剣技を放った。


「真空裂斬」


 パクウッ! と音をさせて一頭が真っ二つになる。するとそれを見ていた残りのやつらが一目散に逃げていった。危機察知能力の高さに、魔獣とは違う能力を見る。魔獣ならば逃げずに死ぬまでかかってくる事が多いが、恐らくさっきのやつらは俺の方が格上だと知ったのだ。


 俺は急いでバスに戻り、ミナミの元へと行く。


「ハアハア…痛っ!、ヒカル…ごめん。油断…してた」


「それは俺の台詞だ。やつらは気配を断つ達人だ」


 魔獣や聖獣、精霊ならば魔力や精気ですぐにわかる。だが俺はこの世界に来て、人間とゾンビにばかり気を取られていた。注意していれば今は分かるが、先ほどは確実に油断していた。


 話しながらもミナミに回復魔法をかけて傷口を塞いでいく。負傷したのが二の腕と一部脇腹だったため大事には至らなかったが、これが首や頭だったとしたら俺の回復魔法では無理だった。


「どうだ?」


「痛みは消えたわ」


 するとそれを見ていたヨシタカが言う。


「治ったの? 私の仲間にも使ってたけどそれは何?」


「回復魔法だ」


「回復魔法? …そうなのね。間近で見たら信じざるを得ないわね」


「別に信じてもらわなくても良い」


 するとミナミが起きようとしたので、俺はミナミを制する。


「寝ていろ、傷は塞がったが血が流れた」


「うん」


 そして俺は虎の気配を感知した。先ほど蹴飛ばした虎は、立ち上がってよろよろとしながらも雑木林に入って行くところだった。


「あいつらはなんだ?」


 するとアオイが言った。


「あれはライオンで、ヒカルお兄ちゃんが蹴ったのが虎だよ。肉食獣で草食動物を食べるの」


「ライオンとトラか。気配を断つのに優れているようだった」


「うん、ライオンとか虎は気配を断って草食動物を狩るの。だからさっきは牛を狩るために気配を断っていたんだと思う」


「そこに俺達が降りてしまったという事か」


「そうみたい」


「不注意だった。今なら奴らの気配を捉えられるが、牛の存在に気を取られていた。すまん」


 タケルが言う。


「ばーか。ヒカルは謝んなくていいよ。俺達が牛を食いたいって言ったのが原因だろ」


 タケルの言葉で思い出した。


「ウシ。そうだ、ウシ!」


 俺が言うとヤマザキが辺りを見渡して言った。


「さっきの騒ぎで逃げたみたいだ」


「そのあたりにまだいるかもしれん。皆はバスから出るな、ミナミは特に大人しくしておけ」


「わかった」


 そして俺がバスを降りると、ヤマザキがドアを閉める。俺は牛がいたはずの場所を目指して、その気配を感知する。


「こっちか」


 俺が雑木林に入り込んで少し行くと、数頭がちらほらと林に潜んでいた。俺は木の上に登りすぐにウシの上に到着する。俺は先ほどのライオンやトラの真似をして気配を消してみている。気配遮断で事足りる事だが、アイツらのように気配を消せるか試してみたのだ。


 これは使えるな。


 そして俺は牛の真上から飛び降りて、短刀を脳天に突きさすのだった。他の牛達が驚いて一斉に逃げていく。俺はその巨体を担ぎ、急いで皆の元に走った。


「ウシ! 獲って来たぞ!」


「マジかよ。牛だ…」


「傷がついていないみたいだけど?」


「脳天をやった」


「ライオンや虎から横取りするなんて、ヒカルしか出来ないわ」


 そして俺は牛を見上げながら言う。


「とりあえずこれを持って行きたいが、バスの中にはいれたくないな」


「なんでだよ」


「臭くなる」


「あ、まあ…確かにな」


 俺はヤマザキに言った。


「俺はこれを担いで屋根に乗る。適当な住居を探してそこで食おう」


「わかった」


 一連の流れを見ていたヨシタカが言った。


「…たしかに宗教じゃないわね。でも…ヒカル…あなた何者なの?」


「俺は他の世界から来た勇者と呼ばれた者だ」


「…また漫画みたいな事を」


「本当だ」


「でも一瞬で消えたり、虎を蹴飛ばしたのは見たわ。まるでスー〇ーマンみたい」


「ああ…あれと似た魔人を倒すのには苦労した」


「えっ、あんなのがいる世界だったの?」


「そうだ」


 ヨシタカが引きつった笑いをしながら言う。


「…そんなこと…」


「とりあえず急ごう。俺はミナミにこれを食わせたい」


 牛を担いだままヨシタカに言うと、呆然と牛を眺めながら言った。


「わかった」


 俺は牛を担いだままバスの上に飛び乗り、屋根をコンコンと叩いて進めの合図を送る。バスはゆっくりと走り出すのだった。

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