表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

161/661

第160話 説得

 極度の疲労で皆が寝静まった頃、俺の感覚が動き出す一人を捉える。そしてそれが誰かが俺にはすぐにわかった。俺がゾンビ因子を取り除いていない人は一人しかいないからだ。動き出したヨシタカの元にそっと近づいて声をかける。


「どこに行く?」


「うっ!」


 そっと抜け出すつもりだったのだろう。突然声をかけられて焦っているようだ。


「どうだっていいでしょ? あなたに私を引き留める権利なんてない」


「それはそうだが、武器も持たずに行くのか?」


「武器って言っても、銃も何も無いじゃない」


「だからって丸腰で行くのか?」


「そうよ」


「さすがに、身勝手に出て行くようなら俺は武器を渡さない。と言うより俺達の武器もわずかだ」


「日本刀の事? そんなの持ってたってゾンビに囲まれたら終わりじゃない」


「確かにお前じゃ無理だ」


「とにかく! あなた達のようなカルト集団とは一緒に居れないわ! どうなるか分かったもんじゃない!」


 俺達が言い争っていると、仲間が起きだして来た。


「どうしたのヒカル?」


 ミオだった。ミオがそこに来ただけでヨシタカがミオを睨む。


「出て行くのよ!」


「そんな…一人で出て行くなんて自殺行為だわ」


「あなた達となんか一緒に居れない」


「武器もないじゃない」


「適当に厨房から包丁でも持って行くわよ」


「無理よ」


「放っておいて」


 騒ぎ声が大きくなると、他の人らも起きて周りを取り囲んだ。マナがヨシタカに言う。


「怖がらないで。とにかく今、動くのは得策じゃない。一人でどうやって生きていくつもりなの?」


 それに対し、ヨシタカは震える声で言った。


「駐車場にあった車で…南に行くわ」


 するとユミが吐き捨てるように言う。


「車で行くならせめて昼間にしたら? 夜はライトが目立つからすぐに見つかるわよ」


「……」


 ヨシタカが黙るとユミが追い打ちをかけるように言う。


「ヒカルが気付いたから良かったけど、あなたが車のライトをつけて動いてたら私達は全滅してたかもしれないわ。あなたはそんな事も考えないで、私達を危険にさらすつもりだった?」


「……」


 ヨシタカは黙ってしまった。そしてユミの言う通り、ライトをつけた車でこのあたりを走ったらすぐにアイツらはやって来るだろう。


「とにかく、昼になったら何処にでも行けばいい」


「…そうするわよ!」


 一旦、話は終わり皆が部屋へと戻っていく。ヨシタカは部屋には戻らず、その施設のエントランスに来て椅子に座った。俺はヨシタカには構わずに、窓の外を見て警護を続ける事にした。するとヨシタカの方から俺に声をかけて来た。


「まさかとは思うけど、あなた達、東京から歩いて来たの?」


「違う。日光までは車で来た」


「そう…」


「とにかく日が昇るのを待て。もしお前に助かる心当たりがあるのなら、それから動けばいいだろう」


ヨシタカは少し沈黙して言う。


「助かる心当たりなんてあるわけ無いじゃない。最後に残った肉親が母さんだったんだから」


「このあたりの人なのか?」


「あなたに関係ないわ」


「まあ、そうだな…」


 話が終わり、俺が黙って外を見ていると、ヨシタカは机につっぷして寝てしまった。皆は休憩所にあった毛布を使っているが、ここで寝てしまえば寒いだろう。俺は自分の上着を脱いでヨシタカにかけてやる。


 それからしばらくは皆寝静まっていたが、空が明るくなって来るとツバサがやって来た。


「どうした?」


「トイレよ」


「そうか」


「彼女。だいぶ追い詰められているみたいね」


「そのようだ」


「だからと言って、一人になれば…死ぬわ。彼女をどうするの?」


「自由に選ばせてやればいい。ヨシタカの人生はヨシタカのものだ」


「でも…」


「トイレはその奥だ」


「う、うん」


 ツバサがトイレに行き俺はまた外を眺める。敵にまだ動きはなく音も聞こえなかった。ツバサが戻って来たので俺はツバサに言う。


「もう少し体を休めろ。次に休めるのがいつになるか分からん」


「わかった、でもその人。何とかしてやれないかな?」


「まずは考えるな。体を休めろ」


「はい」


 ツバサが皆の元へと戻って行った。すぐ目の前に先ほど壊した自動販売機があるので、中からお茶のペットボトルを取り出しヨシタカのテーブルに置いてやる。


 ヨシタカも疲労の色は濃いが、まだ体力はあるようだ。本来ならすぐにゾンビ因子を取り除いた方がいいのだが、ヨシタカは嫌がっていた。確かに何も知らなければ、ゾンビ因子など信用など出来ないだろう。しかし俺から離れれば間違いなくそう長くは生きれない。


 太陽が高く昇ると遠くからヘリコプターの音が聞こえて来た。恐らくは昨日の街で、残党探しでもしているのだろう。それが終われば周囲に捜索の網を広げるはずだ。


「おはよう」


 ユリナが起きて来た。


「おはよう」


「皆もおきだして来たわ。ヒカルは休まなくて大丈夫?」


「問題ない」


 その会話にヨシタカが目を覚ます。そして自分にかけられている上着を見る。それを手に取って俺に返して来た。


「返すわ」


「ああ」


 俺は上着を着ながら、テーブルに置いたお茶を差し出した。


「そこにあったものだ。変な物は入っていない」


「そう…」


 そしてヨシタカはペットボトルを開けてゴクリと飲んだ。水分補給をしていないので、かなり体に負担がかかっているはずだ。


「とにかく飲め」


「…わかった」


 ゴクリゴクリとペットボトルを飲み干す。するとそこにユミが来てヨシタカに言った。


「どう? まだ出て行く気でいるの?」


「そうね…」


 するとそこにミオがやって来て言った。


「私に復讐するんでしょ? ゾンビになったらトドメを刺すんじゃなかったの?」


 だがヨシタカは俯いて言った。


「そんな事もう、どうでもいいわ。とにかく私は家に帰る」


「家ってどこ?」


「宇都宮よ」


 だがそれを聞いてミオもユミもユリナも口をつぐんだ。そしてミオが言う。


「気持ちは分かる。でも死ぬわ。ゾンビの数が多すぎるだろうし、一人じゃ家にすらたどり着けない。それにじきにアイツらがやって来る」


「もう、いいの。母さんの思い出がいっぱい詰まった実家に帰って死にたいわ」


 なるほど。ヨシタカは生きる気力を無くしてしまったのだ。自分一人だけ生きていたって仕方がないと思っているらしい。だがミオがヨシタカにぽつりと話し出す。


「私の話なんて聞きたくないと思うけど、私の家族は私の目の前でゾンビになったわ」


「えっ…」


「私はお母さんに食べられそうになったの」


「そんな…」


「そしてここに集まった皆も既に家族はいないの。あの小さな葵ちゃんだって、目の前で母親と父親が死んだのよ。あなたは宗教って言ったけど、私達はそんなんじゃない。だけど皆がお互いを、心のよりどころにしているのは確かよ。みんな他人だけどね」


「……」


「あなたもそうだったんだよね?」


「そうよ…」


「その仲間がみんな死んでしまった。私だってここにいるみんなが死んだら死にたくなるでしょうね」


「そんなの、私には関係ないわ」


「きっと反対の立場だったら私もそう言ってたと思う。でも、これが現実。あなたの仲間が皆死んで、私の仲間は全員生き残っている」


 すると、そこにユンが来てヨシタカに言った。


「あーしね。一度、みんなを裏切って逃げたんだ。そしてつい最近、彼らに見つけてもらって助けられたんだよ」


「そうなの?」


「みんなの食料を全部持って逃げたから」


「…信じられない」


「それでも皆は許してくれた。こんなあーしを黙って治療して生かしてくれた。あんたに分からないかもしれ無いけど、きっとあんただって受け入れてくれる」


「……」


 そこにヤマザキが来て言った。


「逃げたきゃいつでも一人で逃げれるさ。だけど今は騙されたと思って、一緒に生き残るために戦ってみないか?」


「戦う? なにと?」


「そりゃ、自分の未来を勝ち取る戦いさ。ゾンビとファーマー社に勝つための戦いだよ」


「あんな軍隊を持ってるやつらに…勝つ?」


 するとヤマザキが俺に向かって言った。


「なあ! ヒカル。おまえ、そのつもりなんだろ?」


「ああ」


 するとそこにタケルが来て言った。


「吉高さんよ。ターミ〇ーターって映画知ってっか?」


「もちろん」


「ヒカルは生きたターミ〇ーターみたいなもんなんだよ。漫画みたいだって思うだろ? だけどあんたも、山の集落でヒカルの力を見たはずだ。知らないとは言わせないぜ」


「……」


「東京じゃな、ヤクザ達が日本人の生き残りをかけて戦っていた。まあ今となっては核に焼かれちまっただろうけどよ。俺はヒカルに、日本の未来…いや世界の未来を見てるんだよ。これは世界を取り戻す戦いだと思ってるよ」


「本気で言っているの?」


「本気も本気! 大本気! ちょっと見てほしいものがあんだ」


「なに?」


 タケルは俺が壊した自動販売機に近づいて行く。表の扉を脇に置いて、スッと片手を自動販売機に差し込んだ。更に治りきっていない方の手を添えて自動販売機を軽々と持ち上げた。


「えっ?」


「びっくりすんだろ? ちょっと前までは俺もこんな事出来ると思っちゃいなかった」


「それがなに?」


「ヒカルはこの自動販売機を、何台も重ねて持てるんだ」


「うそ!」


「うそじゃねえよ。信じろとは言わねえが、分かるだろ? 生きる確率は俺達と居た方が確実に上がる。あんたも馬鹿じゃなさそうだから言っとくけどよ、しばらくは俺達と居ろよ。いつ逃げたってかまわねえけど、俺達はみすみすあんたに死んでほしくねえ。それだけだ」


 ヨシタカはしばらく固まっていたが、観念したように皆を見上げる。


「わかった。変な考えは聞きたくないけど、あなた達の言葉に嘘はないように聞こえる」


 ヨシタカは当面、俺達について来ると決めたらしい。それを聞いて俺は言う。


「すまないが、ヘリコプターが動き出している。すぐにここを出ないと」


 それを聞いたミオが地図を広げていった。


「北東を目指しましょう。現状それしかないわ。一旦体制を立て直さないと」


 その言葉に皆が頷く。俺達は準備をして、すぐにその施設を出た。遠くにヘリコプターの音は聞こえるものの、こちらに向かっている気配はなかった。


 ヨシタカが俺に言う。


「ヘリの音が聞こえてるけど大丈夫なの?」


「方向が違う。現状こちらには向かってきてはいない。出来るだけ迅速に先に進むぞ」


 するとタケルがヨシタカに向かって言った。


「なっ? ターミ〇ーターだろ?」


「にわかには信じられないけどいいわ。一緒に行くしかなさそうだし」


「よし!」


「町から出て車を見つけよう」


「了解!」

 

 ヒカルの元気な声に、皆も気分が上がってきたようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ