第159話 平行線
大きめの建物を見つけ、俺達はゾンビを倒しつつその中に侵入した。ユリナとヤマザキが内部を確認しながら話をする。外に向けなければという条件で、懐中電灯の使用を許可した。
「温泉施設ね」
「そうだな宿泊場所はないようだが、休憩所はありそうだ」
俺の気配探知でもゾンビはもう居ないようだ。そして広くくつろげる場所を見つけ、皆が倒れ込むようにそこに横たわった。
タケルが言う。
「さすがにヤバかったな」
「そうね。残念ながら助けられたのは吉高さんだけ」
ヨシタカは皆には混ざらずに、部屋の端に体を丸めて座っている。皆も彼女の精神的ダメージは分かっているので、誰も彼女に話しかける事はしなかった。
「でも、そんなゆっくりは出来ねえよな」
タケルの言う事を聞いてマナが辛そうに言う。
「でも、少し休まないと歩けそうにないわ」
「まずは休むしかないだろうけどよ」
俺は感覚を研ぎ澄ませて、この土地周辺の音を探るが何も聞こえない。
「恐らくヘリコプターは飛んでいない。爆発音も聞こえなくなったから、休めるはずだ」
「本来は夜に動いた方が良いんだろうけどな」
だが現状、どこに動いたらいいのか分からなくなってしまった。俺がヤマザキに言う。
「敵がどちらに動くのか分からないうちは動きようがない、どっちに向かっても同じことだ」
「まあそうだな。東京周辺には戻れないって事くらいかな? いま決まってる事は」
「そうだな」
東京にいた時のようにじっくりと作戦を練る事が出来ず、逃亡しながら次の策を練らねばならない。まるでダンジョン奥で武器と回復役を失ったような情況だった。
俺が皆に言う。
「せめて敵の規模が分かればいいのだが、おそらく東京湾で戦ったよりも敵の数は多くなっている」
「まあ、核弾頭が使える敵だからな。恐らく国の機関とつるんでいる可能性だってあるだろう」
するとツバサが言った。
「多分。目的の物を見つけたんじゃない?」
「なにをだ?」
「分からないけど、この日本に目的の物を見つけたんだと思う。それで総力を挙げて攻めてきたんじゃないかな?」
そして俺は気になっている事を言った。
「俺が昼間に戦ったゾンビ。あれが気になる」
「蜘蛛みたいな奴か」
「あれは故意に作ったとしか思えん。二体とも同じ作りをしていたからな」
「生物兵器っつー事かな?」
するとミナミが言う。
「武、あれ自体は生物兵器とは言わないわ。天然痘やコレラ、炭疽菌とかボツリヌスのようなウイルスを兵器として使用する事を生物兵器と言うのよ」
するとユリナがそれに対して答える。
「南ちゃん。それならやはり生物兵器なんじゃない? 合成ゾンビ薬とでも言ったところかしら? 人間にばら撒かれた合成ゾンビ薬が、この事態を引き起こしているんだもの」
「確かに友理奈の言うとおりね」
その会話をして、ユリナがハッとしたようにヨシタカを振り向いてみている。そして俺に告げた。
「あの、彼女にも説明したほうがいいんじゃない?」
それを聞いたマナが言った。
「いや。多分無理じゃないかな? 今の彼女の状態でそんな空想科学みたいな事は頭に入らないと思う」
「でも、早くしないと! どんどん体が蝕まれていく可能性があるわ」
「彼女が汚染されていない可能性もあるし」
「まあ…そうだけど。診てもらわないと」
すると部屋の端でうずくまっていたヨシタカが、自分の事を言われていると気が付いたようだ。
「なによ。言いたいことがあったらはっきり言いなさいよ!」
喧嘩腰ではあるが、ここで言っても信じるのだろうか?
するとミオが迷いなく言う。
「彼女を生かすなら言うべきかも」
「なによ、あんた! 偉そうに」
ヨシタカの言葉にミオはそっぽを向いた。見かねてユリナがヨシタカに言う。
「自己紹介するわね。私は千葉の総合病院で働いていた看護師よ。そしてこれまでに東京で調査した結果をまとめて言うわ…信じるも信じないもあなた次第」
「な、なによ…それ」
「聞きたくないなら、今は話をしないけど」
ヨシタカは静かに考え、そして答えを出したようだ。
「聞くわ」
「なら話すわ」
そして俺達が東京で知った真実と、大学の病院で体得した技術に関しての話をする。一連の話をした後で、ヨシタカがすぐに反論する。
「なによそれ。そんな漫画みたいな話を信じろって言うの? ファーマー社の薬品部門が何らかの目的でゾンビを大量発生させた? そしてあの軍隊が何かを求めて日本にやって来たって? 馬鹿馬鹿しいそんなわけ無いじゃない。これは病原菌やウイルスの一種だってお医者さんは言ってたわ。それにその男が医者でもないのに力で治すって?」
「残念ながら日本中の医者はそれを知らなかった。まさか世界中にゾンビ因子が撒かれたなんて、誰も信じられるわけがないもの。それに高度な医学知識と、魔法という力によってようやくそれの存在が解明できたの。普通の人間じゃそこまで到達できなかったし、その答えを知っているとすれば恐らくファーマー社だけ」
「ばっかじゃないの! 魔法ってなによ! 馬鹿にしてるの!」
「本当なの! 私達も信じられない力を身につけ始めているのよ!」
「なにかの宗教? まさか…私はカルト集団に救われたって訳?」
「違うわ。別に変な信仰は無いのよ。実際に自分達が体感したそのままを話してるの」
「気持ち悪い。医者が嘘つくわけ無いじゃない、それに皆が人類はウイルスに負けたって言ってたわ。クスリも何も利かずゾンビになってしまったんだって、それが常識でしょう?」
「それが常識っておかしいと思わない? それこそ、もっともらしい理屈の漫画の世界。ゾンビなんて…常識じゃ考えられないでしょ? そもそもがおかしいのよ? 気付いて!」
「馬鹿みたい。本当にそんなことを考えているなんて」
「なら! なんでさっき銃で撃たれた人が次々ゾンビになってしまったの? 噛まれていないのよ! それに噛まれずに死んでも、ゾンビになるっておかしいと思わない? そもそも体内にその因子を持っているとしか思えなくない?」
「ゾンビはウイルスよ。未知のウイルス。テレビでも言ってたけど、未開の地から現れたか、隕石に付着していたものが広まったとも言われているわ」
「それこそ漫画よ。確かにメディアではそう言っていたし、一部の医療関係者も言っていたけど出鱈目だわ。そんな事がなんで人間に分かるの? 未知の宇宙からのウイルスだなんて、どうやって研究したってたどり着けるはずがないわ!」
「だってそれしか考えられないじゃない!」
ユリナとヨシタカの話は平行線をたどった。何処まで行っても相まみえぬ情況だったが、そこにマナが割って入る。
「私も最初はヨシタカさんのように考えてたわ」
マナの言葉を聞いたツバサも言う。
「私もそう思ってた。だってメディアやネットではそれが主流だったし」
するとユミもそれに賛同した。
「だってバラエティでも、ずっとそう言ってたしね」
さらにユンも同じように答えた。
「あーしも吉高っちと同じように考えてたよ。友達も皆そう言ってた」
皆がそう言うと、ヨシタカが勝ち誇った顔でユリナに笑って言う。
「ほら、お仲間もそう言っているみたいよ」
だがマナがすぐに言葉を変えた。
「でも違うって分かったの」
「えっ?」
そしてツバサも言う。
「私も疑う事を知ったわ。そして自分の体に起きた変化でやっと分かった」
「なにを?」
だがユミが重ねるように言う。
「もともとの世界で言われていたことが全部嘘っぱちで、本当の真実は違ったって事よ」
それを聞いたヨシタカが力が抜けたように笑う。
「ははっ…、みんなこいつに洗脳されてるんじゃない? そんなわけ無いじゃない」
やはり無理のようだ。一旦、信じきった事を覆す事が出来ないでいるようだった。皆はそれ以上ヨシタカに話をするのを止めるが、ユリナだけは諦めていないようだった。
「あなたもヒカルに治してもらえばわかるはず」
「治すってなによ?」
「因子を取り除くのよ」
「ほらほら! やっぱり、カルト集団じゃない!」
「違うの! あなたを助けたいの!」
「どうすればいいって言うのよ!」
「ヒカルの前に丸裸になって寝ればわかるわ!」
するとヨシタカが俺を見て言った。
「まっじで終わってる。皆どうかしてるわ。ははーん。あんたがこのグループの教祖様って訳ね?」
「キョーソサマとは?」
「しらばっくれなくていいわ。外国人のくせに良く皆を手懐けたものね?」
よくわからないが、俺がみんなを騙したと思っているらしい。だが俺には皆を騙して得をすることは何もない。それにユリナの言う事も間違ってはおらず、早く施術を施さないと手遅れになる可能性は大いにあった。
しかし俺は、それ以上ヨシタカには何も言わない方がいい気がした。
「ユリナ。ダメだ。無理には出来ない、とにかく今はそんな事を話している場合じゃない」
「ごめんなさい。つい…」
そしてヤマザキが言う。
「すぐ三時間ほど仮眠をとろう。今は疲れて誰もまともな判断が出来ないようだ」
「俺が見張る」
そして俺は、外が見える場所に立って敵の動向を見張るのだった。
そもそもが俺も皆と一緒に行動している中で知った事、突然言われたヨシタカが理解できるわけがないのだ。だが…今後、生存者を見つけた場合にまた同じことが起きるだろう。俺は人を救う事の難しさを改めて実感するのだった。




