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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

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第154話 ゾンビに変わる人々

 葉の落ちた枝の間から俺達は空を見上げていた。すぐそばには川が流れており、水の流れる音だけが辺りに響いている。土手を降りて来てからもヘリコプターの音は聞こえてきており、俺達は身動きが出来なくなってしまった。


 皆は声をあげる事無く、きょろきょろとヘリコプターを探している。助けた人達も、比較的軽傷の者は一緒になって空を見上げていた。大怪我をした者は、軽い回復魔法ではどうにもならず目をつぶっている。一部は意識を失ってしまっていた。


 ユリナが俺の側に来て耳打ちした。救出した人に聞こえないように小さな声で話す。


「何人かはかなりマズいわ」


「わかっている」


 すると上空を一機のヘリコプターが過ぎ去っていった。焦ったユリナは口を閉じて、じっとヘリコプターを目で追っている。ヘリコプターは周辺の上空をぐるぐると旋回しているが、恐らくは索敵しているのだろう。天気が悪くなってきており、だんだんとあたりの気温は下がりつつあった。


 その時だった。


「えっ、うそ」


 更に運の悪い事に、ちらほらと白いものが降りて来た。ミオが呟く。


「雪だわ…」


 ユリナが周りを見て言った。


「みんな! なるべく一か所に固まりましょう! 怪我人を温めて!」


 ヘリコプターはしつこく空中を飛び回り、一向に去る気配はなかった。助けた人らがブルブルと震えだす。するとヤマザキが言った。


「俺達も本当は寒いのだろう。だがこの人達とは体質が違うんだ」


「ヒカルが体質を変えてくれたから…」


 確かにその通りだろう。だが今は施術をやっている状況ではなく、上空を飛び回る敵をどうにかしなくてはならなかった。通常の人間にはキツイ寒さらしい。


 するとタケルが自分の着ている上着を脱いで、怪我人にかけてやった。それを見ていた他のみんなも、自分の着ている物を怪我人にかけていく。それを見たヤマザキが言った。


「遠火で手を炙るようなものだな」


 怪我人達に容赦なく雪が降り積もり、皆で体をさすっているような状態だ。


「どうするよ、ヒカル? じり貧だぜ」


「とにかくヘリコプターの数が多い」


「日光を焼いた奴らかな?」


「そうだろう。それにおかしなゾンビを連れて来た」


「逃げる間際にちょっと見たけど、ありゃなんだ?」


「ゾンビを二体合わせて作った人工物だ」


「マジか。ファーマー社のやつらそんな研究もしてやがったのか…」


「そうらしい」


 俺達が空を警戒している時だった。助けた人達が騒ぎ始める。見ると女が怪我をした男に抱きついて叫んでいる。


「違うわ! 落ち着いて! みんな、この人はまだ大丈夫!」


 だが俺の目には、抱き着いている相手がゾンビとしか映っていなかった。死んでゾンビに変化してしまった男を、その女が懸命に押さえつけて叫んでいるのだった。助けた人間達が恐怖に顔を引きつらせて、そのゾンビに変わった男から遠ざかる。


 俺が叫んだ。


「動くな! 位置がバレる!」


 俺の仲間達だけが、怪我をした人に寄り添いどうにかしようとしていた。それにも関わらず、今まで一緒に居た奴らが逃げ出そうとしたのだった。ユリナも皆に言う。


「怪我人を放っておいたらダメ! もっと被害が出るわ!」


 一度足を止めたものの、一人の男が言った。


「そうなったらダメだ! そいつに噛まれれば一気に広がるぞ!」


 確かにゾンビに噛まれれば因子が移動して、ゾンビになってしまうだろう。俺は急いでゾンビにしがみついている女の元へ行き言った。


「もう手遅れだ。この人は人じゃない」


「いやよ。一緒に生きるって言ったんだから!」


「ダメだ。もう全身に回っている」


 女は泣きじゃくりながらなんとかしがみついているが、俺はそのゾンビの喉をグッと踏みつける。


「やめて!」


 そこにタケルとヤマザキが来て、女をゾンビから引きはがした。


「すまねえ。だけど、もうダメだ」

「申し訳ない、だが無理なんだ。こうなってしまっては」


「いや! まだ治る!」


 ヤマザキが女の視界を遮り男を隠した瞬間、俺は足を踏み抜いて男の首を切り離した。切れた頭がごろりと転がるが、顔だけはそのままパクパクと動いていた。


「い、いやああああ」


 女が叫び出したので、タケルが女の口を手でふさいだ。するとユミが俺に叫ぶ。


「ヒカル。この人ももう無理だわ」


「ウウウウウウ」


 よだれを垂らして虚ろな目をしながら、ムクリと上半身を起こす。なんとか温めようとしていた仲間達も、仕方なく変わってしまったその人から離れた。足が切れているので立てないが、はいずりながら獲物を探し始めた。


 するとミナミが悲しそうな顔で言った。


「ごめんなさい」


 ミナミは、そのままゾンビの首に日本刀を振り下ろす。もっと早く治療出来れば、どうにか助かったかもしれないがここに待機した時間が仇となってしまう。だからと言って派手に動くわけにはいかない。


 ユリナが俺に言った。


「この人も危ない! なんか早すぎない?」


 それを聞いた救出した人らの数人が、ここから走って逃げ出してしまった。俺は残った人らに言う。


「動くな」


「くそ。ヘリはまだいるぜ」


「このまま川を下ろう」


「だけど先には敵がいるんじゃねえか?」


「だが山を登れば気温はさらに下がる。この人らの体力はもうもたないぞ」


「…確かに…」


「ゆっくりはしていられん」


「わかった」


 そして俺は仲間達に言う。


「怪我人は死んでしまえばゾンビになる。皆で観察しながら、怪我人を運ぶしかない!」


 皆がコクリと頷いた。そして救出した人達にも言う。


「じっとしていればいつかは見つかるだろう。このまま上空からの死角をぬって川を下る」


「は、はい」

「わかりました」

「逃げた人達は連れ戻さないんですか?」


「時間がない」


 俺達は逃げなかった人達と怪我人を連れて、河川敷の雑木林を川下に向かって下り始めるのだった。そんな俺達の耳に届いたのは、都市部から響く銃声と悲鳴だった。逃げた人達が見つかってしまったらしい。助けた人らが一斉にうずくまってしまう。


「止まるな!」


 だがすぐには立ち上がる事が出来ないでいた。ツバサやマナ達が抱き起して進むように促してくれる。またゆっくりと進みだすが、助けた人らは真っ青になっていた。


 俺が彼らに向かって言う。


「ゾンビより怖いのはあいつらだ。とにかくここを離脱しなければならない。足を止めるな!」


 アオイが小さい子に手を差し伸べる。


「おいで」


 子供はアオイの手を掴んで歩きだした。すると皆もそれについてノロノロと歩き出す。


 その時だった。タケルが声をあげる。


「くそ! この人もダメだ」


 タケルが肩を貸していた人がうずくまったと思ったら、ずるずると立ち上がって手をあげて襲い掛かって来た。タケルは手に持っていたバールで、そのゾンビの頭を吹き飛ばした。


 俺の隣りにいたユンが言う。


「もしかしたら、あーしもああなってたって事?」


「そう言う事だ」


「地獄じゃん…」


「ああ」


 まさに地獄だ。一緒に歩く怪我人が次々にゾンビになり、それに対処するには殺すしかなかった。


 俺が言った。


「おかしいな」


「なにが?」


「ゾンビに変わるのが早すぎる」


 するとユリナが言った。


「確かにね。ゾンビに変わるのが早すぎるわ、銃弾に何か仕込まれていた?」


「おそらく奴らが何かしたんだ」


「…殺してやりたいわ」


「ああ。ユリナ、いずれはな」


「うん」


 俺は一度足を止めて皆に言った。


「銃弾があたってしまった人は、申し訳ないが俺と一緒に進む。歩けない人にはタケルとヤマザキが肩を貸してくれ、皆はお互いを注意深く見守ってほしい」


「ああ」

「そうするしかないな」

「わかったわ」

「みんな気を付けてね」


 ゾンビ予備軍を抱えながら、救出した人を連れて川を下りきるしかない。俺は怪我人を支えながら前進し始めるのだった

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