第149話 鬼怒川
ゾンビ因子を取り除いたユンはみるみるうちに回復したが、彼女も身体強化状態になってしまった。ゾンビ因子を受け付けない体にするには仕方がなく、俺の施術はどうしても必要だ。今のところは、他の皆に問題が無いようなので俺は様子を見る事にする。
次の夜、皆が寝静まっている時だった。俺はある異変を感じ、すぐにヤマザキを起こした。
「ヤマザキ。皆を起こそう」
「ど、どうしたんだ?」
「すぐに動いた方がいい」
「わかった」
俺達は寝ている皆を起こしていく。俺は皆に身支度をするように伝え、すぐに警戒して外を眺めていた。準備が出来た者から俺の所に来て一緒に外を見る。
その時だった。
ドスン! と爆音が鳴り響いた。
「なに?」
皆が俺の所に集まって来ると、爆発音が次々に鳴り響いた。
俺が指さして言う。
「あれを見ろ」
俺達が潜伏していた日光市の空が赤く色づいている。
「爆撃じゃねえか?」
タケルがそう言うとミオが皆に告げた。
「すぐに逃げましょう!」
「こちらに気が付いている気配はないが、早い方が良いだろう」
すぐにミオが地図を広げる。
「どっちに逃げる?」
俺は地図を見る。このまま北上すれば道は二手に分かれており、俺はその先を指さした。
「これは、湖か?」
「そうみたい」
「ここを目指そう」
「わかった」
そしてミオが皆に場所を説明をする。俺達はすぐに日光江戸村を出発して、道に沿いながら山中を歩きだす。俺はユンを背負い、眠い目をこするアオイをタケルが背負った。一時間に満たない距離を歩くと、また不思議な場所に出る。
「何だここは?」
懐中電灯で照らしたマナが言った。
「東部ワールドスクエアだって、世界中の風景が楽しめるらしいわ」
俺達はその中を通過する事にした。
「中を通って行こう」
「わかった」
するとタケルがアオイに言った。
「ここも楽しいだろうな。だが先をいそがなきゃならねえ」
「大丈夫だよ。武兄ちゃん分かってるよ」
東京にあった塔が見えて来ると、ユミが言った。
「東京タワーのミニチュアだ。もうなくなっちゃったのかな? 本物」
ミナミがそれに答えた。
「かもね。あの爆発じゃ、東京は燃え尽くされたんじゃないかな」
「なぜ敵はそこまでしたんだろう?」
「どうしても消さなきゃいけない何かがあった?」
「それなら、なんでしつこく追いかけて来るのかな? もう用は済んだんじゃない?」
「確かに」
二人の話を聞いていて俺もそう思う。東京を破壊したことで、俺達を追う理由は無くなったように思う。
それを聞いてツバサが言う。
「追われてるんじゃないんじゃない?」
「どういうこと?」
「もしかしたら、生き残りを根絶やしにしているとか?」
「根絶やし?」
「もしくは何かを探しているか」
「何かって何だろう?」
「わからない」
それを聞いていたユリナが言った。
「このゾンビ化なんだけど…もしかしたら意図して起こされた?」
「意図して? そんな…事故じゃなくて?」
「人体実験された感じがしない?」
それに対して俺が答える。
「ゾンビ因子は間違いなく自然のものではない。何かの意図があって作られたものだ」
「意図ってなに?」
「わからん」
「でも、ウイルスじゃないって事だ…」
「そうだ」
「意図して人間を壊滅させた…」
「俺が思うに、どこかに生き残っている人間がいるんだろう。ファーマー社の軍隊だって、何らかの理由があって存在しているのだろうからな」
「確かにね」
するとヤマザキが言う。
「ヤクザが生き残っていたのはむしろ誤算だった?」
ユリナが怒りに満ちた声で言う。
「いずれにせよ。何らかの目的のために大勢の人間を殺したと言う事ね」
「そうなるな」
東部ワールドスクエアを通り過ぎて、俺達は再び森林地帯に足を入れる。それからまた三十分ほど歩くと、市街地が見えて来る。
ヤマザキが看板を見て言った。
「鬼怒川温泉だ」
なるほど、あちこちに湯気が上がっている。俺が手をあげて皆に言う。
「徘徊するゾンビを駆除していったん休もう」
「わかった」
俺がゾンビを斬りながら更に先に進んでいくと、高い鉄の壁に囲われた建物が見えてきた。それを見てヤマザキが言った。
「これは、廃館になったホテルだな」
俺がその建物の気配感知をする。すると内部にゾンビはおらず、人間が集団でいるのがわかった。
「まて、人がいる」
「なに?」
俺達はその廃屋の視界から外れるように隠れた。そして、その建物を伺いみる。
「結構な数がいる」
「生き残りか?」
「恐らくはそうだ」
「どうする?」
「変に刺激して騒がれると、日光に来た敵に気が付かれる可能性がある」
タケルが言った。
「だからって放っていくのか?」
「しかし敵をおびき寄せるかもしれん」
「いずれにせよ敵が来ちまったら彼らは殺されるぜ」
確かにタケルの言うとおりだった。万が一、ファーマー社のやつらがこちらに来れば彼らが死ぬ。
するとミオが言った。
「接触を試みてみましょう。説得してみる価値はあるわ」
皆で話し合った結果、俺達は生存者と接触してみることにした。少し先の建物の陰で俺は皆に言う。
「皆は一旦ここで待っていてくれ」
「わかった」
そして俺はヒタヒタと、その人がいる廃屋へと近づいて言った。念のため認識阻害の魔法を用いているので、俺を認識する事は出来ないだろう。その鉄の壁をぐるりと回り込んでいくと、金網になっている場所があった。建物の二階からこちらを見張っている人間がいるが、もちろん俺を認識する事は出来ない。
シュッと金網を飛び越え敷地内に侵入する。よく見ると数個の部屋から、ぼんやりと明かりを漏らしていた。恐らく中で蝋燭を焚いているか、電灯をつけているのだろう。
その建物の二階に侵入し、俺は人の居る場所へと向かった。部屋の側に立って中に聞き耳を立ててみる。
「音がしたよね?」
「そうか?」
「爆発したみたいな音」
「俺は気が付かなかったがな」
「私も聞こえたよ」
どうやら日光市の爆撃の音がここまで届いていたらしい。他の部屋にも人はいるようで、ヤクザやファーマー社の人間ではないのは確かだ。俺はすぐさま建物を抜け出して皆の元へと戻った。
「どうだった?」
「生き残った市民だった」
「接触してみようか?」
ヤマザキが言った。
「ファーマー社が迫っているんだ。行くしかないだろう」
「わかった」
そして俺達は入り口の金網の所に立った。人がいる部屋に向けて、懐中電灯を照らしてやると中から人が出て来る。そして俺は、そいつらの状態を皆に告げる。
「銃を持っているぞ」
「なに?」
「ひとまず隠れろ」
「わかった」
俺は皆に鉄の壁に張り付くように指示をした。俺が一人単身で、両手をあげて生存者が来るのを待つのだった。




