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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

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第146話 山奥のグランピングでBBQ

 体調が回復してきたユンをユリナ達に任せて、俺は日が昇る前に野生動物を捕獲してくる。朝になり俺がそいつをぶら下げて皆の元に戻ると、また新鮮な肉が食えることに沸いた。


 俺はアオイの所に行って言う。


「バーベキューをする約束だろう?」


「うん!」


 すぐそばに小川があるので、猪を洗い皮をはいでいく。分解して食いやすい肉にするのは俺の仕事だった。剣技でスパスパと肉を切りそろえていると、ツバサが楽しそうに俺に言った。


「グランピングの施設だから、機材はきっちりそろってるよ!」


 既に女達が、エントランスに七輪を並べて肉焼きの網をかぶせている。中には薪が入っていて、ヤマザキが火おこしをはじめた。それを見ていたタケルも笑顔を浮かべている。


「まじでバーベキューだな、葵ちゃん! よかったな!」


「えへへ」


 俺達がワイワイとやっていると、奥からユリナの肩を借りてユンが歩いて来た。それを見た女達が皆で声をかける。


「ユンちゃん。大丈夫?」

「とにかく回復して良かったよー」

「また、こうして会えるなんて奇跡じゃない?」

「傷も消えたみたいだし、さっ! 一緒に座ろう!」


 ミオが椅子を引いて、ユリナがそこにユンを座らせた。ユンが全員を見渡して言った。


「あの、堂嶋さんは?」


 それにヤマザキが答える。


「残念ながら、ゾンビにやられてしまったよ」


「そう…残念」


「戸倉さん達も残念だったね」


「うん…」


 ユンがうつむいてしまう。かなり過酷な状況だったらしく、それを思い出すだけでも具合が悪くなってしまうのだろう。だがユンは静かに言った。


「みんな…ごめんなさい」


「ん? どうして謝るんだ?」


「あの時、戸倉さんがもう戻らないだろうって言って、食糧を全て持って行ってしまったの」


「過ぎたことだ。なにより生き延びた事が嬉しいよ」


 そう言ってヤマザキがユンの両肩に手を置いた。するとユンはまた泣き出してしまった。ヤマザキが困った顔をして女達を見る。ユリナがユンの隣に座った。


「辛かったよね? でもユンちゃんは生き残った。そしてこうしてみんなと会えた。だから! これからは、めいっぱい頑張ってみんなで生き延びよう!」


 ユンはうんうんと頷いて手で涙を拭いている。俺がユリナに聞いた。


「ユンに肉はさすがに無理か?」


「そうね。おかゆなんかが良いんだけど」


 俺がリュックから米の袋を取り出した。


「え? どうしたの? これ」


「ここから一キロほど先に集落があった。狩猟のついでにそこを探したら、多少の米と食料を見つけたんだ」


「ありがたいわ」


 ヤマザキが米の袋を覗き込みながら言った。


「コクゾウムシは洗えば大丈夫だ。カビも生えてないからいけるぞ」


「それは良かった。あと、これは食べれるかな?」


 俺はリュックから赤い缶を二つ出した。するとタケルが大きな声で言う。


「お! ビスコじゃねえか!」


「どんなものだ?」


「お菓子だ。良かったな葵ちゃん! これならみんなも食えるだろ」


 タケルが赤い缶をアオイに渡す。その缶を見て皆が嬉しそうだった。


「それと、これはどうだ?」


 俺の手からツバサがそれを受け取った。何からのケースに入っているが恐らく食べ物のはずだ。


「へー、これ。水をいれるだけでモチになるらしいよ」


 ユミもそれを覗き込んで言う。


「ほんとだ。きなこモチになるんだって! そっちのビスコもこれも保存食らしいね」


 ユリナがその二つを見て俺に言った。


「これならユンちゃんも食べれそう」


「よかった」


 そう。ユンには体力を戻してもらわねばならない。その為に俺は民家を探し、ゾンビはいたが邪魔になる物だけ片付けた。その甲斐あってユンでも食べれそうだった。


 皆が調理をし、先にユンの前に米を柔らかく煮詰めた物が置かれた。施設に置いてあったスプーンをユンに渡す。


「熱いからゆっくりね」


「うん」


 ユンが煮た米を掬い上げて息を吹きかけ、ゆっくりと口に入れるのをみんなが見ている。ミオがユンに言った。


「どうかな。塩をかけてあるんだけど?」


「うん…うん…」


 ユンがポロポロと涙を流し始める。そして一言。


「おいしい」


 その言葉を聞いて皆が安堵した。ようやく物を口にする事が出来たので、ここからは少しずつしっかりした物に変えていけばいいだろう。そしてユリナがユンに言う。


「ごめんねユンちゃん。私達、これからヒカルが獲って来た猪を食べるのだけれど、ユンちゃんの胃にはまだ辛いかも。向こうの部屋に行ってる?」


「ううん! 一緒に! 一緒に居る!」


「臭いがするかもよ?」


「いい。みんなと居たい!」


「わかった」


 その部屋で皆が猪の肉を焼きだした。七輪の網から滴る脂が食欲をそそる。


 俺はもう一つリュックの中から取り出す。


「実は、これも見つけて来た」


 俺がリュックからそれを出して、テーブルの上に置いた。それにはヤマザキが飛びついて来る。


「お! サン〇リーの角じゃないか!」


「一本、未開封があった」


「いい感じだ」


 そして俺が皆に言う。


「皆、酒はどうだ? 飲んでみるか?」


 するとミナミが不安そうに言う。


「でも、敵がいつ来るか分からない状態だよね? お酒なんか大丈夫かな?」


「その時は俺が殲滅するさ」


 それを聞いていたユリナが言った。


「皆で分けたら、ヒカルの飲む分が少なくなるわよ?」


「いいじゃないか。皆で少しずつわけよう」


「まあ…そうね。体も温まるし、良いんじゃない? 苦手な人は飲まなくていいと思うし」


 マナも手を上げて言った。


「さんせーい。沢で水をくんできましょう! 水割り!」


 タケルとマナが水を汲みに行った。そして女達がこの施設に置いてあったグラスを持ってくる。しばらくすると肉も焼けて、皆の前のグラスには琥珀色の酒が注がれた。


 するとタケルが、そのグラスを持ってスッと立ち上がる。


「ユンちゃんの救出を祝って! 乾杯!」


 チンッ! チンッ! と皆がグラスを合わせる。一口飲んでそれぞれに感想を言った。


「久しぶりだ! うまい!」

「お酒って感じー、ホッとするわ」

「うーん、私はウイスキーは無理かも―」

「私もだわ。でもこんな席だから一杯くらいは飲んじゃう」

「炭酸があれば私はもっと飲めるのに―」


 それを見ていたユンがクスリと笑った。


「お! ユンちゃんも早く元気になって飲もうね」


「うん。なんか、おもしろい」


「ん? 何か面白かった?」


「別れる前より、みんながずっと逞しくて楽しそう。明るくなったって言うか、元気になったみたい」


 皆が顔を合わせて頷いている。ミオが笑いながら言う。


「確かにそうかもね」


 そしてユリナが俺の顔を見た。俺は黙ってうなずく。


「ユンも早く体力をつけろ、そしたらもっと元気になる」


「うん」


 その脇でタケルがもりもりと肉を食っている。あとで蘇生魔法をかけてやらねばならない。


「うっほぉ! 最っ高! 肉、うっめえええ」


「動物がゾンビ化していないのは幸いだったな」


「まじで。あとヒカルがゾンビ因子を確認できるようになったのはデカいよな」


「東〇大学病院でめっちゃ研究してたもんな」


 そう。俺が東京に行った収穫は大きかった。食料も服も入手できたが、それよりもあの大学病院での情報が俺を大きく変えた。東京に行ってなければ、その情報を手に入れる事は出来なかった。更に敵になり得る奴らの情報もきっちりと確認できたのは大きい。もしあの戦いが無ければ、俺は隙をつかれて仲間を全員失っていただろう。


 今度はユミが元気に言う。


「そうそう! 千葉で牛走ってたよね! あれも食べれたかもしれないって事だよね?」


「恐らく畜産農家の周辺に牛や豚がいるかもしれんな」


「だと、魚もいけるんじゃねえのか?」


「都市部に行ったら釣具屋に行って見ると良いだろうね」


「だな!」


 皆がとても楽しそうだった。軽く酒が入った事により上機嫌になっている。ユンが無事だった事もそれに拍車がかかったらしい。ユンは静かだが、ニコニコと皆の話を聞いていた。ガラス張りの壁から外が見渡せて、何ともすがすがしい食事となった。


 タケルが俺に酒を注いで言う。


「ヒカル! どうだ? バーベキューは楽しいだろ?」


「ああ。いい気分だ」


「めっちゃいいよな!」


「ああ」


 ミオも頬を赤くして俺に寄り添って言った。


「グランピングで、バーベキューなんてホント最高!」


「そうだな。いい感じだ」


 酒を飲み、肉をたらふく食った俺達は食事を終えた。しかしゆっくりもしておられず、俺はすぐに皆に伝える。


「よし。それじゃあ、準備をしてくれ」


「「「「「「「「はい」」」」」」」」


 皆は、もう次にやる事が何か分かっていた。ユンだけが取り残されたような状態になっている。それを見たユリナがユンに告げた。


「敵が来るかもしれないの。すぐに動かなきゃならないのよ」


「そうなんだ…」


 俺がユンに言う。


「安心しろ、お前は俺が背負っていく」


 それにユリナがつけたした。


「施設においてあったシーツでおんぶ紐が作れるわ。とにかくユンちゃんはヒカルと一緒に」


 それから三十分後、俺達は荷物をまとめてグランピング施設を後にするのだった。更に北に向かって逃げ始める。少し進むと田舎の集落があり、そこにゾンビがうろついていた。俺がそれを処理しようとした時、タケルが何処からか持って来た鉄の棒で全てのゾンビを始末した。


「ユンちゃんを揺らしちゃいけねえからな」


「そうか、そうだな」


 すると俺の背でユンが言う。


「えっ? 凄いねタケっち。ゾンビをあっという間に倒した」


 それにタケルが頭を掻きながら答える。


「俺たちゃ、ヒカルに鍛えられたからな。つい先日までは東京にいたんだ」


「えっ、あんなゾンビだらけの街に?」


「ああ」


 それを聞いたユンは唖然としている。ひとまず道路は危険なので、俺達はすぐに森林部へ潜った。


 ミオが不思議そうに言う。


「ツバサ。なんかさぁ? めっちゃ足取り軽くない?」


「確かに。なんかスイスイ登れちゃう」


 どうやら彼女らの体にも、身体強化の恩恵が出て来たらしい。身体強化は、喰らった動物の生きる力をそのまま取り込むことができる。鹿と猪を食ったために、それらの生命力を効率よく取り込んだのだろう。前世の魔獣ほどではないが、この世界の動物にも強い生命力があったのだ。


 俺達は昨日よりもさらに早い時間で、次の目的地にたどり着いたのだった。

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