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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編

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第142話 集中治療

 俺はボロボロの女を背負いながら、斜面を急加速で降りていく。道路を動けばもっと早いが、上空のヘリコプターから見つかる可能性もある。それを避けるために森林地帯から森林地帯へと移動していくと、真っ赤な色をした建物を見つける。


 気配探知では周辺にゾンビはいない。とにかくかなりの衰弱と度重なる暴力の影響なのだろう、心臓がだいぶ弱ってきているようだ。更に蘇生魔法をかけねばもうもたない。俺は女をその板の間に寝かせて手を当てる。


「死ぬな」


 俺が声をかけても反応は薄い。すぐ女の体に蘇生魔法をかけて行くと、少しだけ息遣いが変わって来た。だがこれは一時しのぎ、栄養を補給せねば復活は難しい。


「よし」


 俺は自分の上着とズボンを脱いで女に着せてやる。気温が低いので体温がどんどん抜けていくのだ。俺は再び女を背負い、更に斜面を急加速で降りていく。すると道路を横切らなければならない場所に出た。ヘリコプターの音を聞き分けながら、一瞬で道路を飛び越える。


 俺にくっついている事で、女の体温はほんの少しだけ戻ってきたようだ。もう少し坂を下ると、だだっ広い芝生の場所に出てしまった。これはヤマザキ達が言っていたゴルフ場と言うやつだ。ここを走れば目立つため、俺はあえて森林を迂回する。


 遠回りとなるが、敵に見つかるよりはずっといい。とにかく女の命が消えない事を祈る。林を抜け気配感知で皆の気配を捉えた。


 その時、唐突にヘリコプターの音が大きくなってきた。


「見つかったか?」


 俺は茂みに隠れてそれをじっと待つ。すると西から来たヘリコプターは、東へと飛び去って行ってしまった。すっかり見えなくなったのを確認し、俺はすぐさま皆の居る建物に向かった。二階を見るが窓は開いていないので、そのまま玄関口へと回り込む。俺は建物の中に声をかけた。


「戻った」


 すると奥からミオとユリナが駆けつけて来る。ミオが入り口のカギを開けてガラスの扉を開いた。


「早く!」


 ユリナに言われ中に入ると、皆が集まって来た。そしてタケルが俺に言う。


「なんで女をおんぶして、シャツにパンツ一丁なんだ?」


 俺が背中に背負っている女を床に降ろすと、皆が倒れた女を見て声をあげた。


「ゆんちゃんじゃない!」

「うそ!」

「なんでこんなボロボロに!」


 するとユリナが叫んだ。


「早く、ベッドに運びましょう!」


「ええ!」


 俺がユンを抱え部屋に入ってベッドに寝せる。そしてユリナがユンの腕をとって脈をとり始めた。


「弱ってる」


「何か食べさせないと復活しないだろう。俺の回復魔法でギリギリで保っているんだ」


「糖分のあるジュースを!」


 ユリナの指示に、ミナミが果物ジュースを持って来て封を開ける。そしてユンの体を起こして少しずつジュースを入れてやるが、微かに口が動くだけで上手く飲めないようだ。


 するとユリナが自分の口に含んで、ユンに口移しで飲ませた。


 コクリ。と微弱ながらジュースを飲みこむ。


「回復魔法を!」


 俺がユンの体に手を当てて、じっくりと糖分を吸収するように促した。するとユンの息遣いがほんの少し楽になったようだ。


「とにかく体温が低い! 温泉のお湯を桶に汲んできて」


 ユリナがそう言うと、マナとミナミとミオが走っていく。しばらくすると三人がお湯を桶に入れて来た。そしてユンの足をその桶にちゃぷっと付ける。


「みんなで。体をさすってあげて」


 皆がユンの周りに集まって体をさすり始めた。なかなか目を覚まさないが、土気色だった顔が次第に戻って来た。


「点滴があれば良いのに!」


 ユリナが言うとヤマザキが答えた。


「市内に病院があるだろう。そこに連れて行こう」


 だがそれには俺が首を振った。


「頂上の煙を見て、ヘリコプターが来た。恐らく陸上部隊もやって来る」


「くそ! もう嗅ぎつけたのか!」


「病院はどこだ? 俺がとって来る」


 それに対してユリナが言う。


「ヒカルだけだと必要なものがわからないわ、私も連れて行って」


「わかった」


 ミオが地図を持ってくる。


「えっと、日光日光。病院、あ! すぐそばにあるよ!」


「行きましょう」


 俺とユリナが外に出る。俺はユリナに言った。


「俺の背に」


「えっ?」


「早く」


 俺はユリナを背負い身体強化で病院まで走る。三分もせずに到着すると、病院を見たユリナが言った。


「よかった。そこそこ大きい病院だわ」


「ゾンビがいる。斬りながら行くぞ」


「ええ」


 俺が先を行き、病院内のゾンビを斬り捨てながらユリナに指示を受けて進む。


「ここよ!」


「よし」


 ユリナは自分が背負って来たリュックに、次々に物を入れていく。そして鉄の棒のような物を見て言った。


「別に他の物でも代用できるけど…、吊るせればなんでもいいから」


「それなら持って行こう。ユリナは俺に捕まっていられるか?」


「もちろん! 何故か強くなったからね」


「よし」


 俺はその鉄の棒を持って、ユリナを背負い病院を出た。再び三分くらいかけて戻ると、ミオが玄関の鍵を開けてくれた。


「なんかユンちゃんの容体が良くないわ!」


「わかった!」


 急いでそこに行き、ユリナが準備をし始める。そしてユンの腕に針を刺した。


「これで栄養は取れる。あとはゆんぴの体力次第」


 そこで俺が言った。


「いや。俺が蘇生と回復を繰り返す」


「わかった」


 それからみんなは、ゆんぴの周りに集まり心配そうに見つめた。ユリナが体温を測りつつ、薬の袋を変えてまた様子を見る。明らかに栄養は取れ始めているので、俺はユンに蘇生魔法をかけ続けた。


「よし」


 俺にユリナが聞いて来る。


「ユンちゃんの状態はどうなの?」


「カラッカラだったからな。蘇生に用いる物が自分の体の組織だった。だが栄養を入れたことで少しずつ持ち直している。とにかく続けるしかない」


「わかった」


 治療は一晩中続いた。本来はこの土地を早く離脱したほうが良いのだが、ユンを放っておくわけにはいかなかった。俺は治癒魔法をかけながらも、周囲五キロに気配探知の網をかけていた。


 朝の光が窓からさした時も、誰一人として眠ってはいなかった。皆がユンピを心配して見つめている。そして、俺が再生魔法と回復魔法をかけている時だった。


「う、うう」


 ユンが声を出した。


「気が付いたかな?」


 だが意識は朦朧としているらしく、俺達を見ても誰だか分かっていないようだ。


「ゆんぴちゃん。わかる? 友理奈よ」


「ん…」


 ユリナが話しかけるが、すぐに目をつぶって眠ってしまった。だが今度の寝息はだいぶ安定している。ユリナが点滴の袋を変え俺達に言う。


「峠は越したわ。まだ動かせないけど、もう一日安静にしていれば目覚めると思う」


「そうか」


 その間は気配探知の網を解くわけにはいかない。ミオが涙を流して言う。


「こんなにがりがりになって」


「そうね。まともに食べていなかったのね」


「なんでこんな状態で居たのかしら?」


 容体が落ち着いて来たので、俺はそっとベットから離れ皆に話し始めた。


「トクラとタカコ、ヤマトは殺されたようだ」


「「「「「「「えっ!」」」」」」」


「もう一人のやつが言っていた。オタクと呼ばれていたが…」


「孝弘?」


「名前は知らん」


 するとタケルが言った。


「みんなはタクヒロって呼んでたな」


「そうか。そいつもいた」


「そうなの? 生きてたの?」


「ああ」


「どうして一緒にいないの?」


「置いて来た」


「どうして?」


「あいつが裏切ったようだ。この女を自分の物として、男達の慰み者にしていた。トクラ達はアイツが足手まといだからと言って殺したらしい」


「うそ…」


 ドン! とタケルがテーブルを叩いた。


「くそが!」


「だから置いて来た」


「仕方ないんじゃない?」


 女達も頷いていた。元は仲間だったが、そんな事をする奴は助けなくても良いだろう。


 ユリナがユンピの髪を撫でて言った。


「辛かったね…。よく頑張ったね」


 ぽろぽろと涙がこぼれている。すると女達も涙を流していた。ギリギリのところで命を取り留めた元仲間に、皆が心から喜んでいた。だがその俺の探査網には、車の音が聞こえてくる。車は一台、しかも山の方から下りてくるようだった。

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