第131話 数手先を読む
山手トンネルの敵を排除しタケル達のもとに戻る。扉を叩くとミオとミナミが不安そうな顔で出て来た。ミオが俺に声をかけて来る。
「ヒカル、大丈夫?」
よく見れば俺の服のあちこちが多少焦げていた。それを見て心配しているらしい。
「これは俺の魔法剣で焼けたんだ。アイツらの攻撃じゃない」
「そう…よかった」
俺は手に持っていた車の破片を見せる。それを見たミオが言う。
「ファーマー社…」
「そうだ。今回攻撃してきているのは奴らだ」
「なんで軍隊なんかあるんだろう?」
「そう言う組織だと言う事だ」
「うん…」
そして俺はミナミに言う。
「ミナミ、日本刀を一本交換してくれ。大きな攻撃魔法を使ったらこうなった」
そう言って俺が日本刀を差し出す。ミナミが鞘から抜いて言った。
「ヒビ?」
「魔法剣の連続使用で、ガタが来てしまった」
「なら一番の業物にする?」
「いや。違うので良い」
「わかった」
そしてミナミは俺に一本の日本刀を渡してくれた。剣技なら問題ないが、魔力を付加した業は日本刀とはいえ負担をかけるらしい。炎龍鬼斬は使いどころを考える必要がある。
「ミオ、地図を」
「うん」
ミオが広げた地図を見て、俺は次の行先を決めた。
「次はここだ」
「東名高速道路か」
「その川を越えるところを破壊する」
「わかった」
「車を手に入れよう」
車はその辺にあるので直ぐに手に入った。少しボロボロだが今は時間が惜しい。俺達はその車に乗って、東名高速道路を目指した。
「ヘリは来ねえかな」
「しばらくは無い。それよりも、もう一つのルートを潰しておく方が先決だ」
「わかった」
三十分くらい走っていると後部座席のミオが言った。
「そろそろ多摩川の上を通る場所につくはず」
タケルが言った。
「川だぜ」
「えっと、その道を右に行って」
「おう」
見晴らしのいい道を少し走ると、河の上を通る橋が見えて来た。それを見てミオが言う。
「あれで間違いないわ」
「近くに行ってくれ」
橋が見渡せる場所についたので、俺は車を止めてもらった。すぐに車を降りて河川敷に降りていく。今日は天気も良く作戦には良い日だ。そよ風が頬を撫でて河はゆるやかに流れており、時おりキラキラと魚の影が光る。
俺は川を泳ぐ魚に向かって言う。
「すまんが少し騒がしくするぞ」
そして俺は東名高速道路の橋に向かって剣を構える。
「大地裂斬」
剣撃が走り抜け、橋を大きく破壊して崩落させていく。横須賀基地のヤクザが動くかどうかわからないが、これですぐには都市部に入って来れない。迂回する必要が出てくるだろう。
俺が車に戻るとタケルが言った。
「まるで怪獣だよ」
俺がDVDで見た怪獣は人を襲う側だったはず。
「そうか? 怪獣は都市を襲う側だろう」
「そう見えるってだけだよ。そんで次はどうする?」
「こちらから攻める。これで増援の到着を遅らせる事が出来るし、次に敵が来る場所は読める」
「マジか?」
「ミオ地図を」
俺が言うとミオが地図を広げた。そして俺はある場所を指さした。
「次はここだ」
「芝浦?」
「ああ。次は船で来る」
「そうなのか?」
「もっと多くの兵隊が必要だと思ったはずだ。空と陸はある程度歯止めがかかったからな、ならば船で乗り付けて来る」
ミナミが俺の話を聞いて言った。
「ヒカルはなんでそんなことが分かるの?」
なんで? 何て言ったらいいか分からない。そこで俺は前世の話になぞらえて話す事にした。
「前の世界の魔王ダンジョンと言う場所は、敵の千手以上先を読まねば死ぬ場所だった。今回の敵はせいぜい十手先を読めば勝てると踏んだ」
「千手…て」
「時には数億手先も読んださ」
「億…」
「それだけ綿密に計画を立ててやったんだ。それに比べれば単純だと言える」
「恐れ入ります」
ミナミが半分苦笑いしながら言った。そして俺は切り替えて話を続けた。
「敵が来るまでは少し時間がある。ここから芝浦ふ頭まではどのくらいかかる?」
「三十分か四十分くらい?」
「ならバイクを探そう。車は狙い撃ちされる可能性が高い」
タケルが言う。
「バイクショップを探すなら俺に任せろ」
「わかるのか?」
「それこそ、勘だ」
「分かった」
そしてタケルの言う通りバイク屋はすぐに見つかった。
「なっ!」
「ああ」
どうやらタケルには俺には無い能力が備わっているようだ。俺達はすぐさまそのバイク屋のゾンビを処分して中に入る。
「あるある!」
はしゃぐタケルの隣りで俺はすぐに決めた。
「これが良い」
「ス〇キGSXか。良いバイクだぜ」
「タケルはどうする?」
タケルが選んだのは俺のとは違う形のものだった。
「オートマは、スクータータイプしかねえ。まあこれでも五百CC以上あるからな。パワーは問題ねえだろ」
「すまんな、すぐに腕を蘇生させられればいいんだが」
「いやいや! もう手首近くまで来てんだぜ! そりゃ贅沢ってもんだ」
「まずは我慢してくれ」
「ああ」
俺達はバイクを回収し、芝浦ふ頭に向けて走り始めるのだった。十五分ほど走り込むと、黒煙が上がる街に差し掛かる。その手前で止まりタケルに言った。
「恐らく敵は一度体制を立て直すために、ここにはいないはずだ。だが攻撃が全くないとは言い切れない、俺の後ろをぴったりついてこい」
「まかせろ」
頼もしい答えが返って来た。そして俺達は再び車とゾンビを避けながら進む。
俺は後ろのミナミに話しかけた。
「ひどいものだ」
「まるで戦場みたい」
「恐らくは俺達を炙り出す気だったのだろうな」
「ヒカルがいなかったら死んでたと思う」
「そんなことはないさ。俺がいなければ、元々東京には来ていない」
「東京に来なくても襲撃されたし、葵ちゃん達も襲撃を受けたわ」
「確かにそうだな…。敵の目的が分からない、なぜ俺達に固執するんだ?」
「ヤクザだからじゃない?」
「ファーマー社の兵士もか?」
「ああ、それは違うかもね。何かを探してる?」
「何か? なんだ?」
「わからないわ」
確かにそうだ。エネルギーを供給する拠点も海路も抑えている。それなのに、俺があれだけ襲撃しても東京に固執している。もしかしたら何らかの目的があるのかもしれない。
ミナミが標識を見て言う。
「品川だから、もう間もなくよ」
俺は速度を落とし、タケルに言った。
「タケル。ここから道案内を頼む」
「おうよ」
バイクの位置を入れ替えて進むと高速道路が見えて来る。俺はタケルの前に出て止まるように指示を出した。
「バイクは置いて行く」
「わかった」
そして俺達は徒歩で芝浦ふ頭に向かうのだった。芝浦ふ頭を目前にして俺は三人に言う。
「どこかに潜伏する」
「倉庫とかいっぱいあっからな。どのあたりだ?」
ミオが地図を広げ、俺は芝浦ふ頭付近で待ち伏せに相応しい場所を探した。
「ここだ」
ミオが言う。
「レインボーブリッジ?」
「そうだ。ここなら一望できる」
タケルが言う。
「陸路で敵、来ねえかな?」
「その時はそいつらもやる」
「わかった」
「ここからは俺と一緒に居た方が良い。紛れる場所が無い」
三人は緊張の面持ちで頷いた。俺達はそのまま歩いてレインボーブリッジに向かう。下の設備に入れる場所があり、その入り口を壊して中に入るとドアが見えた。
「関係者以外は立ち入り禁止だって」
ミオの言葉を聞きながら、俺はそのドアノブに手をかける。すると鍵がかかっていたので握りつぶして引き抜く。ドアが開いたので中に入ると階段があった。七階まであがりドアを開けると、金網が張られた橋の歩道に出た。
ミオが言う。
「歩いてレインボーブリッジに来たの初めて」
「そうか」
「何か…不謹慎だけどさ。楽しい」
するとタケルも言う。
「ああ、ワクワクする」
ミナミも金網から外を見て言った。
「ほんとね。こんなの初めて」
三人が嬉しそうなら良かった。俺も下を見下ろす、そこは港が一望できる場所だった。俺達は歩道の窪みに腰かけた。
「軽く何かを食べて水を飲め。既に体力を消費している」
三人は俺に言われるままに、固形の食べ物を食べて水を飲んだ。そして俺達はひたすらそこで敵が来るのを待つのだった。




