第127話 浮島からの脱出
その橋の終わりにはバリケードがあり、八人の男が銃を持って立っていた。ここで侵入者の出入りでも監視しているのだろう。男達は目の前に突如現れた俺に、ただ目を見開くだけだった。
「飛空円斬」
ぱちくりと見開く男達の、目の真ん中あたりをなぞるように剣技を走らせる。そいつらは瞬間的に何が起きたか分からないようだが、俺はそれを無視してその男達の間を突破した。そして奥の車に乗っていた男の眉間に刺突閃を飛ばし、車の上で何かを構えるようにしていた男の股から脳天に向けて切り上げる。
そのころようやく、最初に斬った八人の頭半分がずれおちて倒れた。
俺が振り向くと、まだタケルたちはこちらにたどり着いていないようだ。俺は周辺を気配感知で探る。周囲には巨大な建物が建っており、ちらほらと人間の気配がしていた。
するとタケルが追いついて来た。
「すまねえ遅くなった」
「問題ない。どうやらこのあたりでゾンビの侵入を防いでいたようだ」
「殺したのか?」
「そうだ」
その後からミオとミナミも追いついて来る。
「ごめんなさい」
「おそくなった」
「よくついて来た」
「建物に明かりがついてる!」
「人間がいるようだ」
タケルとミオとミナミがきょろきょろと見渡す。
「有名な会社だわ」
「そうなのか?」
「ええ。かなり」
そしてタケルが目の前の車を見て言う。
「おい。これはたぶん軍用車だぞ…というか軍服着てるし」
俺が殺して倒れた奴を見てタケルが言った。
「ヤクザじゃないのか?」
「軍人じゃねえかな?」
「問答無用で殺してしまった」
「仕方ねえよ。こんばんはー! なんて悠長に言ったら撃たれたかもしれねえし、これ…多分火炎放射器だぞ」
「火炎放射器?」
「人や建物を燃やす奴だ。今はもう使われてねえと思うが」
「ゾンビ対策と言う事か」
「かもな」
だが悠長に話をしている暇はなかった。俺は三人に言う。
「急ぐぞ」
そして俺は三人の歩調と合わせて進んでいく。するとタケルが言った。
「みろよ。恐らくエネルギーを独り占めしてるんだ」
タケルが不思議な形の建造物を見て言った。
「あれがそうか?」
「恐らくはガスや石油を持ってる」
「なんだ?」
「ガソリンも燃料の一つだ。火をつけて燃やしたり発電したりできるんだよ」
しばらく進むと再び人の気配がした。俺は三人に止まるように言う。
「この先にも人がいる」
「どうする」
「さっきは唐突に殺してしまったからな」
「ちょっと道を外れよう」
四人がそのまま道端の草むらに入って進む。茂みがあったのでそこに身を潜め、地面に地図を広げて見た。
「このまま真っすぐで海、どうする?」
「一旦そこまで進もう」
俺達はそのまま海沿いまで進んだ。
「防波堤だ」
「これを右に行くと行き止まり。目的の地下トンネルの上を通るわ」
「行こう」
更に進むと、変わった形の建造物の横に出た。そして再びミオが地図を見て言う。
「この下だわ」
「念のため敵が来るとまずい。あの建物によじ登ろう」
「あれに?」
「今の三人なら登れるさ。俺の真似をしてくれ」
「わかった」
俺がその建物の外壁をよじ登ると、三人も何とか登って来た。俺は三人に向かって言う。
「ここで待て」
三人が頷いた。俺はすぐさまそこを降りて、地下トンネルの入り口をめがけて走った。
「ここか」
俺が道に下りようとした時、車の音が聞こえて来た。どうやら浮島から空港に向かって走ってきたようだ。ひとまずその車列を見送って様子を見る。
「続いては来ないようだな」
俺は道路に飛びおりた。すぐさま脚力を強化し、そのトンネルの奥へと進んでいく。車は俺に気づくことなく奥へと走り去って行ってしまった。
距離からすればこのあたり。
「大竜深円斬」
シュパ! 俺を中心に剣撃が周る。少し待つとぽたぽたと水が落ちて来たので、俺は入り口に向かって走り出した。さっきより長い距離だが水に追いつかれる事無く、俺は地上に出る事が出来た。すぐさまさっきの建物によじ登った。
「水没させた」
「これで空港には出入りできないな」
「ああ」
俺はミオとミナミの腕を掴んで、飛びながらその建物の屋根を下った。地面について俺が振り向くと、タケルが思いっきり加速をつけて走って来る。
「ど、どいてくれぇ!」
俺はミナミとミオを振りほどいて、落ちて来たタケルを受け止めた。
ズサササ!
それを見たミナミが言う。
「ナイスキャッチ!」
だがタケルは真っ青になって言った。
「し、死ぬかと思った」
「まだ体の使い方が分かっていないんだ。死んだら困るから、もう少し慎重にな」
「わかった」
俺達は再び浮島の奥に向かって戻っていく。するとタケルが言った。
「車を盗む」
「よし」
更に先に進むと車両の置いてある駐車場が見えた。
「装甲車とかもあるみてえだ」
ミナミが言う。
「カギがついてるやつを探さないと」
「そうだな」
「建物に明かりがついている。気づかれないようにしないと」
「ああ」
影から影へと進み、車のドアを開けようとするが全部鍵がかかっていた。そしてさらに奥に進むと、タケルがソーコーシャと呼んだ車に二人の男が座っており、どうやらそいつらは煙草を吸っているようだった。
俺がそれを指さして言う。
「ドアが開いてる。動くんじゃないか?」
するとタケルが言った。
「あれ。日本人じゃないぞ、軍人じゃねえかな?」
「わかった。なら今度は殺さない」
俺は縮地でその二人の所に現れて、一人を手刀で気絶させもう一人の首を後ろから絞めた。体から力が抜けたので俺はそいつを離す。
「殺したのか?」
「いや。気絶させただけだ」
「ならよ。こいつらの上着とヘルメット盗もうぜ」
「どういう事だ?」
「いいからいいから」
俺はタケルに言われるまま、そいつらの服を脱がした。そしてそいつらのズボンを脱がして、後ろ手に腕を縛り建物の裏に連れていく。
「ヒカル、それを着てヘルメットをかぶるんだ」
「わかった」
するとタケルも、俺と同じように上着を着てヘルメットをかぶった。
「ミオとミナミは後ろに乗れ」
「あ、うん。分かった」
「隠れてた方が良い?」
「そうだな。ふせてろ」
するとタケルは俺に言った。
「いいか。万が一声をかけられたら本部の指示で出かけるというんだ」
「わかった」
「浮島橋を抜けても気が抜けねえからな」
俺はタケルに言われるままに助手席に乗った。そしてタケルが運転席に座りエンジンをかける。そのまま駐車場の入り口に車を走らせると、守衛室から人が出て来た。男が声をかけて来る。
「Where on earth are you planning to go this late at night?」
タケルが俺の隣りで焦った顔をする。俺はそのまま答えた。
「This is an instruction from headquarters」
「confirm. wait there」
男が車から離れて守衛室に戻ると、タケルが言った。
「英語かよ! でも良く返事できたな!」
「ミオのおかげだ」
すると後部座席からミオが言った。
「それにしても発音が良いわ。相手も疑わなかったみたい」
だが次の瞬間だった。
ビーッビーッビーッビー と警報音が鳴った。それを聞いたタケルが言った。
「バレた」
「出せ!」
タケルがアクセルを踏んで車を急加速させると、後ろから銃を撃って来た。車体にあたってカンカンと音をたてる。
「危なかったじゃない!」
「装甲車を盗んで良かったな!」
「もう!」
俺達の車は元来た道を急加速して進んでいく。すると道路にトラックが出て道を塞ごうとし、更にガガガガガガガと銃を撃って来る。俺はタケルの頭をグイっと下げ、自分に金剛をかけて結界を張る。俺はそのままタケルに言う。
「アクセルは踏みっぱなし。ハンドルはそのまま真っすぐだ!」
俺はすぐさま窓から天井に出て、前方に向かって剣を構えた。
「冥王斬」
トラックが真っ二つに切れ、人間達も巻き込まれるようにバラバラになる。切れたトラックを吹き飛ばして俺達の装甲車が出た。俺はタケルに言う。
「顔出していい!」
「ああ」
タケルがひょこッと頭を出して運転し始める。俺が後ろを見ると、数台の車が俺達を追って来ていた。
「タケル、アクセルをいっぱいに踏め!」
「了解!」
俺は車の後方の天井に立ち、後ろから追って来る車を見据える。
「橋を渡ったところで待っていろ!」
「おうよ!」
俺はそのまま車から飛び降りた。後ろからは五台の装甲車が走って来る。そしてその車列が橋の真ん中に到達するのを待った。
「大地裂斬」
俺の剣撃で一気にその橋が崩落し、五台の車はそのまま海に落ちていく。俺は急いでタケル達の所に戻るのだった。




