第121話 身体強化に戸惑う
蘇生魔法を活用したゾンビ因子分離術を施したことで、全員が常に身体強化状態になってしまった。実はその解決法を見出す事は出来ておらず、皆はろくに睡眠もとらずに活動し続けている。そんな状態で地下八階に閉じこもっているのが、逆に辛くなってきたようで話し合いがもたれた。
皆が集まる中で、タケルが俺に言ってきた。
「とにかくよ、体を動かさないと眠れもしねえぜ」
「わかっている。だが解決策が見つからない」
「ならよ。ヒカルがみんなを鍛えてくれたらいいんじゃねえか?」
「皆を、鍛える?」
「お前が持ってる技で、俺達に応用できるようなものがないのか?」
「…ない事もないが…」
それを聞いてツバサが言う。
「じゃ決まりね。教えて」
「だが、ここじゃ狭い。外でやるにはまだ安全が確認できていないぞ」
「近くに訓練が出来そうな所があるのよ」
「そんなところがあるのか?」
「うん。広くて人目につかないところ」
「どこだ?」
「武道館」
「ブドーカン?」
「そ、武道館」
するとヤマザキが説明をしてくれる。
「武道だよ。ヒカル、武道」
「ブドウ、武道か」
「そうだ。それの大会が行われたりする場所だ」
いずれにせよ体の使い方を教えておかねば、いずれ怪我をしてしまうだろう。俺は皆の言う事に納得して、そこに行ってみることにする。
「…わかった。そこに行ってみよう、みな小銃を持て」
そして全員が小銃をもって国立図書館を出る。武道館は、ここから歩いて三十分ほどの所にあるらしく、ヘリコプターが来た時にすぐ気づけるように徒歩で行く事にした。
ヤマザキが先を歩いて俺達に言う。随分と足取りが軽くなったように見える。
「青山通りの並木下を潜って行こう」
東京は道端に木が植えてあり、自然に任せて生えているようで自然の傘になっていた。ゾンビがちらほら蠢いているが、それほど数が多いわけではない。俺達は身を寄せるように固まって武道館に向かって歩いて行く。
歩いているとマナが何かに気が付いたように言う。
「なんかさ…ゾンビがやたらゆっくりに感じない?」
するとそれにミオが答えた。
「感じる。明らかにゆっくりに感じる」
それを聞いて俺は確信した。今も身体強化の状態になっているのだ。それを聞いた俺はマナに言う。
「ゾンビの頭を狙って撃ってみろ」
「えっ、あてられるかな?」
「ゾンビがノロいと思うんだろ。よく狙ってやって見ろ」
わかった。マナが立ち止まってゾンビの頭を狙う。
「えーっと」
パン!
「あたった!」
頭を銃で撃たれたゾンビが倒れた。
それを見ていたタケルが拍手して言った。
「一発かよ! マナ!」
「なんていうかね、近くで止まっているマトに撃ったみたいな感じ」
それに対して俺が言う。
「身体強化中は、集中をすれば普段より深く集中できるんだ」
「変な感じだわ。私じゃないみたい」
「だが自分の力だ」
「そうなんだ」
俺は皆にも言う。
「ヘリコプターの気配はないし、皆も武道館につくまでゾンビを撃ってみろ」
「「「「「はーい」」」」」
それからは皆が面白いように簡単にゾンビを仕留めていく。仲間にあてる危なっかしさも無く、淡々とゾンビを処分していった。ただ気になる事が一つある。
俺はそれを皆に伝えた。
「今は立ち止まって撃つ事で精度が上がっているが、歩きながらでも出来るように、体の使い方を教えようと思っている。それを意識してやってみてくれるか? くれぐれも味方を撃つなよ」
そして皆は歩きながらゾンビを撃つ。
ツバサが言った。
「本当だ。随分当てづらくなるね」
ユミも上手く行かないようだ。
「やん! もう! 当たらない! 自分が動いただけで、こんなにもあてづらくなるんだ」
「そう言う事だ。体の芯がぶれると攻撃は芯をはずす」
「「「「「はーい」」」」」
女達の返事にタケルが笑う。
「プッ! 小学生じゃないんだからよ。な、葵ちゃん」
「でも返事は大事よ?」
「違いねえ」
なんだ? 何気ないやり取りだが、何故か俺の気分が高揚してくる。皆が俺の指導であれやこれや試行錯誤している様が、なんとも愛おしく思えて来た。
タケルも楽しそうだ。そしてタケルが言う。
「なんか、めっちゃ体が軽いな。これも身体強化ってやつか?」
「多分な。だがまだ慣れていないんだ。無茶な動きをすると想定外に怪我をすることもある」
「無茶な動き? 例えばこんなんか?」
タケルが突然宙返りをしてみせた。元々身体能力は高かったが、かなりのバネがある事が分かる。
「まあそういう事だ。だがはしゃぐな、まだ慣れていないだろう?」
「平気平気!」
そう言ってタケルがしゃがみ込んだ次の瞬間だった。
シュッ! ゴン!
「うぎぎぎぎぎ」
タケルは自分の跳躍力が分からず思いっきりジャンプした結果、頭上の木の枝に思いっきり頭を強打した。しゃがみ込んで頭を抑え、うぎぎぎぎとか言っている。
そばにいたユミとユリナが血相を変えて、タケルのもとに駆け付ける。
「ちょっと! 大丈夫?」
「すっごい音がしたけど」
俯くタケルが顔を上げて言った。
「大丈夫、大丈夫!」
「ちょっと! タケル!」
タケルは顔面血だらけにして苦笑いをしていた。俺はすぐにタケルの側に行って、切れた頭に回復魔法をかけた。ユミがタオルを取ってタケルの顔を拭き始める。
「馬鹿ね! なにやってんのよ!」
「ご、ごめん。なんかすっごく体が動くからつい」
「ヒカルが言ったばかりじゃない! 慣れてないんだから無理をするなって!」
「悪かったよ。つーか、みんなも危ないから気を付けた方が良いぜ」
「あんたが言うな」
皆がタケルを見て呆れた顔をしていた。それを見た俺はつい…
「ぷっ! あっははははははははは!」
突然笑った俺に皆が呆然としているが、タケルが俺に言った。
「馬鹿! ギャグじゃねえぞ!」
その言葉を聞いた皆が大笑いをする。その笑い声を聞いたゾンビがぞろぞろと近づいて来るが、皆はそれほど怯える事も無くゾンビ達を撃った。
するとユリナが俺に言う。
「ヒカル。これはあなたが皆にくれたギフトよ。こんな世界じゃこのぐらいのボーナスが無きゃやってられないわ!」
ミオもうんうんと頷きながら言う。
「最高のプレゼントだと思うよ!」
ミナミもツバサも皆が口をそろえて喜んでいる。
「そうか。ならその力を効率よく使う方法を教えるよ」
「「「「「「はーい」」」」」」
皆とそんな話をしながら歩いていると、ヤマザキが言う。
「この道を右だ」
「わかった」
少し進むと広場のような場所が見えて来る。数段の階段が見えて来て、ツバサがそっちを指さして言った。
「この奥よ」
俺達が進んでいくと、その奥に面白い形の建物が出現した。
「なんだ? この建物は、頭の方がデカいのか?」
俺が言うとツバサが答えた。
「そうだよ! ヒカル! 武道館へようこそー!」
その建物の玄関は開いておらず、俺は皆に言った。
「上から行こう」
するとタケルが今度こそはと言った感じで言った。
「一人で登ってみる!」
「大丈夫か?」
「さっきみたいなへまはしねえよ!」
そしてタケルが体をたわめて思いっきり跳躍した。だが体の使い方は良くない。タケルが思いっきり手を伸ばして二階の縁につかまろうとするが、案の定届かずそのままバランスを崩して落下してくる。俺が真下に行って受け止めた。
「おいおい。また怪我をするぞ」
「す、すまねえ。行けると思ったんだけどな」
するとそれを見ていたヤマザキが唖然とした顔でタケルに言う。
「いやいや。普通の人間はあの手すりまでは飛べんだろ、もう少しで届きそうだったぞ!」
タケルが見上げて言った。
「よく考えて見りゃそうだな」
そして俺がタケルとヤマザキの所に行って、二人のズボンのベルトを掴んで言う。
「投げるぞ」
俺が一気に二階のベランダに向けて二人を投げると、二人は上手く二階の出っ張りに着地したようだ。
するとタケルが上から言う。
「おいおい! ちゃんと返事を聞いてから投げろよ」
「だが上手く着地しただろう? 俺が皆を投げるから、上で受け止めてくれ」
「あいよ」
「わかった」
俺は皆の胴を掴んで、次々にポイポイと二階に向かって投げた。ヤマザキとタケルはそれを軽々と受け止めて二階に降ろしていく。レインやエルヴィンやエリスほどではないが、俺は皆と冒険をしている気分になれた。それが無性にうれしかった。
最後にアオイを抱いて、俺も二階に飛ぶのだった。
これからも終末ゾンビと最強勇者の青春をよろしくお願いします!




