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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第121話 身体強化に戸惑う

 蘇生魔法を活用したゾンビ因子分離術を施したことで、全員が常に身体強化状態になってしまった。実はその解決法を見出す事は出来ておらず、皆はろくに睡眠もとらずに活動し続けている。そんな状態で地下八階に閉じこもっているのが、逆に辛くなってきたようで話し合いがもたれた。


 皆が集まる中で、タケルが俺に言ってきた。


「とにかくよ、体を動かさないと眠れもしねえぜ」


「わかっている。だが解決策が見つからない」


「ならよ。ヒカルがみんなを鍛えてくれたらいいんじゃねえか?」


「皆を、鍛える?」


「お前が持ってる技で、俺達に応用できるようなものがないのか?」


「…ない事もないが…」


 それを聞いてツバサが言う。


「じゃ決まりね。教えて」


「だが、ここじゃ狭い。外でやるにはまだ安全が確認できていないぞ」


「近くに訓練が出来そうな所があるのよ」


「そんなところがあるのか?」


「うん。広くて人目につかないところ」


「どこだ?」


「武道館」


「ブドーカン?」


「そ、武道館」


 するとヤマザキが説明をしてくれる。


「武道だよ。ヒカル、武道」


「ブドウ、武道か」


「そうだ。それの大会が行われたりする場所だ」


 いずれにせよ体の使い方を教えておかねば、いずれ怪我をしてしまうだろう。俺は皆の言う事に納得して、そこに行ってみることにする。


「…わかった。そこに行ってみよう、みな小銃を持て」


 そして全員が小銃をもって国立図書館を出る。武道館は、ここから歩いて三十分ほどの所にあるらしく、ヘリコプターが来た時にすぐ気づけるように徒歩で行く事にした。


 ヤマザキが先を歩いて俺達に言う。随分と足取りが軽くなったように見える。


「青山通りの並木下を潜って行こう」


 東京は道端に木が植えてあり、自然に任せて生えているようで自然の傘になっていた。ゾンビがちらほら蠢いているが、それほど数が多いわけではない。俺達は身を寄せるように固まって武道館に向かって歩いて行く。


 歩いているとマナが何かに気が付いたように言う。


「なんかさ…ゾンビがやたらゆっくりに感じない?」


 するとそれにミオが答えた。


「感じる。明らかにゆっくりに感じる」


 それを聞いて俺は確信した。今も身体強化の状態になっているのだ。それを聞いた俺はマナに言う。


「ゾンビの頭を狙って撃ってみろ」


「えっ、あてられるかな?」


「ゾンビがノロいと思うんだろ。よく狙ってやって見ろ」


 わかった。マナが立ち止まってゾンビの頭を狙う。


「えーっと」


 パン!


「あたった!」


 頭を銃で撃たれたゾンビが倒れた。


 それを見ていたタケルが拍手して言った。


「一発かよ! マナ!」


「なんていうかね、近くで止まっているマトに撃ったみたいな感じ」


 それに対して俺が言う。


「身体強化中は、集中をすれば普段より深く集中できるんだ」


「変な感じだわ。私じゃないみたい」


「だが自分の力だ」


「そうなんだ」


 俺は皆にも言う。


「ヘリコプターの気配はないし、皆も武道館につくまでゾンビを撃ってみろ」


「「「「「はーい」」」」」


 それからは皆が面白いように簡単にゾンビを仕留めていく。仲間にあてる危なっかしさも無く、淡々とゾンビを処分していった。ただ気になる事が一つある。


 俺はそれを皆に伝えた。


「今は立ち止まって撃つ事で精度が上がっているが、歩きながらでも出来るように、体の使い方を教えようと思っている。それを意識してやってみてくれるか? くれぐれも味方を撃つなよ」


 そして皆は歩きながらゾンビを撃つ。


 ツバサが言った。


「本当だ。随分当てづらくなるね」


 ユミも上手く行かないようだ。


「やん! もう! 当たらない! 自分が動いただけで、こんなにもあてづらくなるんだ」


「そう言う事だ。体の芯がぶれると攻撃は芯をはずす」


「「「「「はーい」」」」」


 女達の返事にタケルが笑う。


「プッ! 小学生じゃないんだからよ。な、葵ちゃん」


「でも返事は大事よ?」


「違いねえ」


 なんだ? 何気ないやり取りだが、何故か俺の気分が高揚してくる。皆が俺の指導であれやこれや試行錯誤している様が、なんとも愛おしく思えて来た。


 タケルも楽しそうだ。そしてタケルが言う。


「なんか、めっちゃ体が軽いな。これも身体強化ってやつか?」


「多分な。だがまだ慣れていないんだ。無茶な動きをすると想定外に怪我をすることもある」


「無茶な動き? 例えばこんなんか?」


 タケルが突然宙返りをしてみせた。元々身体能力は高かったが、かなりのバネがある事が分かる。


「まあそういう事だ。だがはしゃぐな、まだ慣れていないだろう?」


「平気平気!」


 そう言ってタケルがしゃがみ込んだ次の瞬間だった。


 シュッ! ゴン!


「うぎぎぎぎぎ」


 タケルは自分の跳躍力が分からず思いっきりジャンプした結果、頭上の木の枝に思いっきり頭を強打した。しゃがみ込んで頭を抑え、うぎぎぎぎとか言っている。


 そばにいたユミとユリナが血相を変えて、タケルのもとに駆け付ける。


「ちょっと! 大丈夫?」

「すっごい音がしたけど」


 俯くタケルが顔を上げて言った。


「大丈夫、大丈夫!」


「ちょっと! タケル!」


 タケルは顔面血だらけにして苦笑いをしていた。俺はすぐにタケルの側に行って、切れた頭に回復魔法をかけた。ユミがタオルを取ってタケルの顔を拭き始める。


「馬鹿ね! なにやってんのよ!」


「ご、ごめん。なんかすっごく体が動くからつい」


「ヒカルが言ったばかりじゃない! 慣れてないんだから無理をするなって!」


「悪かったよ。つーか、みんなも危ないから気を付けた方が良いぜ」


「あんたが言うな」


 皆がタケルを見て呆れた顔をしていた。それを見た俺はつい…


「ぷっ! あっははははははははは!」


 突然笑った俺に皆が呆然としているが、タケルが俺に言った。


「馬鹿! ギャグじゃねえぞ!」


 その言葉を聞いた皆が大笑いをする。その笑い声を聞いたゾンビがぞろぞろと近づいて来るが、皆はそれほど怯える事も無くゾンビ達を撃った。


 するとユリナが俺に言う。


「ヒカル。これはあなたが皆にくれたギフトよ。こんな世界じゃこのぐらいのボーナスが無きゃやってられないわ!」


 ミオもうんうんと頷きながら言う。


「最高のプレゼントだと思うよ!」


 ミナミもツバサも皆が口をそろえて喜んでいる。


「そうか。ならその力を効率よく使う方法を教えるよ」


「「「「「「はーい」」」」」」


 皆とそんな話をしながら歩いていると、ヤマザキが言う。


「この道を右だ」


「わかった」


 少し進むと広場のような場所が見えて来る。数段の階段が見えて来て、ツバサがそっちを指さして言った。


「この奥よ」


 俺達が進んでいくと、その奥に面白い形の建物が出現した。


「なんだ? この建物は、頭の方がデカいのか?」


 俺が言うとツバサが答えた。


「そうだよ! ヒカル! 武道館へようこそー!」


 その建物の玄関は開いておらず、俺は皆に言った。


「上から行こう」


 するとタケルが今度こそはと言った感じで言った。


「一人で登ってみる!」


「大丈夫か?」


「さっきみたいなへまはしねえよ!」


 そしてタケルが体をたわめて思いっきり跳躍した。だが体の使い方は良くない。タケルが思いっきり手を伸ばして二階の縁につかまろうとするが、案の定届かずそのままバランスを崩して落下してくる。俺が真下に行って受け止めた。


「おいおい。また怪我をするぞ」


「す、すまねえ。行けると思ったんだけどな」


 するとそれを見ていたヤマザキが唖然とした顔でタケルに言う。


「いやいや。普通の人間はあの手すりまでは飛べんだろ、もう少しで届きそうだったぞ!」


 タケルが見上げて言った。


「よく考えて見りゃそうだな」


 そして俺がタケルとヤマザキの所に行って、二人のズボンのベルトを掴んで言う。


「投げるぞ」


 俺が一気に二階のベランダに向けて二人を投げると、二人は上手く二階の出っ張りに着地したようだ。


 するとタケルが上から言う。


「おいおい! ちゃんと返事を聞いてから投げろよ」


「だが上手く着地しただろう? 俺が皆を投げるから、上で受け止めてくれ」

 

「あいよ」

「わかった」


 俺は皆の胴を掴んで、次々にポイポイと二階に向かって投げた。ヤマザキとタケルはそれを軽々と受け止めて二階に降ろしていく。レインやエルヴィンやエリスほどではないが、俺は皆と冒険をしている気分になれた。それが無性にうれしかった。


 最後にアオイを抱いて、俺も二階に飛ぶのだった。

これからも終末ゾンビと最強勇者の青春をよろしくお願いします!

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