第120話 体の異変
皆のゾンビ因子を取り除き、更にゾンビ因子を受け付けなくなるように配列を変えた。それがどんな結果をもたらすかは俺にも分からんが、食べ物を摂取するうえで致し方のない事だった。
だが問題がオープンになった事で、皆がその話題に触れるようになったのだった。皆は今、回収して来た食材を並べてあれやこれやと話をしている。
ユリナが食品表示を見ながら言う。
「恐らくだけど、この遺伝子書き換え表示と意味不明な英語表記が問題だと思うのよ」
皆が手元にある加工食品の袋を見ていた。するとそれにミナミが答えた。
「いまさらだけど、よく見てみればいろんなものが含まれているのね?」
「そうなの。本当は大自然で作られた物がいいんだけどね」
「確かにね」
「平和な時代に養殖の動物を食べていたでしょ? あれも怪しいと思っていたわ」
「どう言う事?」
「いろんな注射を打つのよ。そして病気にならないような薬を混ぜて食べさせるの」
「それが危ない?」
「わからないわ。全部噂のレベルだったから」
「そうなんだ…」
俺は二人の会話を遮った。
「だが。もう問題はない、それらの成分が含有された食べ物を食べても体が弾くはずだ」
ユリナが不思議そうな顔で言う。
「どういう原理なのかしらね?」
「あの病院でいろいろ学んだんだが、人間には配列がある事が分かった。ゾンビ因子はその配列に傷をつけて入り込む」
「DNAって事でいいのかな?」
「そうだ。そう呼ばれているらしい」
「その配列はヒカルと私達では違ったと?」
「ほんのわずかに。ゾンビを寄せ付けない為に、申し訳ないが俺に寄せさせてもらった」
「若干不安だわ」
確かにそうだろう。俺も保証は出来ないし、正直な話をすればここに居る人間はもうこの世界の人間とは違うともいえる。だがタケルが元気に言った。
「でもよ! みてくれよ! 俺の腕が少し伸びたんだ!」
斬れた腕をかざしてタケルがブンブン振っている。まだ長さにして二センチやそこらなので、皆には変わったように思えないらしい。だがそれにユミが言った。
「本当に伸びたの。変わってないようだけどね、ちゃんと血も通って感覚もあるんだって」
それを聞いたヤマザキが言った。
「だとしたら‥‥凄い事だぞ。この世界の常識では絶対にありえない事がタケルに起きている」
ヤマザキはタケルだけに起きていると思っているが、俺はそれを少し訂正した。
「すまんが。皆にも変化はあるかもしれないんだ…保証は出来ない、何かあったら教えてほしい」
するとミオが言う。
「やっぱり? というか私は今朝気づいたわ」
皆がミオを見る。マナが興味津々に聞いた。
「なになに? 何がどうなった?」
「これを見て」
そう言ってミオが俺達の前に手をかざした。何の事はないミオの小さな手だ。
「手がどうかした?」
「私ね、今朝食事を用意する時、缶詰で人差し指を切ったのよ」
皆がまじまじと指に顔を近づけて見た。ツバサがミオの指の中頃を指さして言う。
「もしかして、ここ?」
「そう! 皮も剥けたし血も出たの」
「塞がってる…」
「おかしいよね?」
「どれどれ!」
ユリナがミオの手を掴んでじっと見つめる。
「今朝?」
「うん」
「何かの間違いでは?」
「確かに切った。そうだよね? 葵ちゃん」
「うん。血が出てた」
「そうなんだ…」
それを見て俺が言う。
「ミオ。それは本当か?」
「うん」
いくらなんでもそんな事があるだろうか? 俺の居た世界の一般市民はここの人間と何ら変わらず脆弱だった。
「俺がいた世界でもそんな事はあり得なかった。そんなのは俺かパーティー仲間のレインと言うやつくらいだ。確かに俺は子供の頃から体が強く、傷もすぐに治っていた。だが一般の人間はそんな事は無いはずだ」
「でも本当に治ったもん」
「俺じゃあるまいし…」
俺のつぶやきを聞いてユリナが言った。
「ヒカルは遺伝子の配列を前の世界の人に寄せたんじゃなくて、自分に寄せてしまったって事よね?」
「そうだ。俺の配列を読みそれに近づけて配列を変えたんだ。そうすればゾンビ因子を取り込むことはないだろうと思ってな」
「じゃあさ…前世の人間に近づけたんじゃなくて、私達はヒカルに近づいたんじゃないの?」
「…そうか」
シン…となった。
皆が俺と同じ体質になってしまった可能性がある。だがもう下手に動かす事は出来ない、元に戻せばゾンビ因子に負けるどころか崩壊してしまうかもしれん。
「すまん…」
俺が謝るとミオが笑った。
「なんで謝るの?」
「皆を俺のような体質にしてしまったかもしれん…」
「いいじゃない! こんな世界で生きていくのにこれ以上必要な事ある?」
するとタケルも言った。
「そうだぜ! いいじゃねえか! 皆が丈夫になったって事でよ!」
今度はミナミが目を輝かせて言う。
「まさか! 私も刀を振ったら火が出るとか?」
だが俺はそれを訂正する。
「いや。ミナミ、すまんが皆に魔力は無い。あれは無理だろう」
「なーんだ。やってみたかったのに」
残念そうな顔をした。だがユリナが皆に言う。
「そうだわ。こんな世界で生きていくのには必要な力かもしれない。きっとヒカルは神様が私達に遣わしてくれた救世主なのかもね」
話は一旦まとまった。
そして一週間後、それは確信に変わるのだった。
最初に自分の身体能力の変化に気が付いたのはヤマザキだった。
「ヒカル! 聞いてくれ! 地下一階までの階段を一気に駆け上がっても息が切れないんだ!」
「本当か?」
「ああ。すぐに息を切らしていたのが信じられない」
またある時、タケルとユミが俺に言って来る。
「おい、ヒカル! 見てくれよ! 俺の跳躍力をよ!」
タケルは階段の踊り場まで二歩で駆け上がって見せた。そして上から俺を見下ろして笑って言った。
「すっげえだろ?」
「どこか苦しいとか痛いとかは無いのか?」
「むしろ、疲れなくなったな」
今度はユミが俺に言った。
「私も力が強くなったみたいなのよ」
ユミの言葉を聞いたタケルが頭を掻いて言う。
「このあいだ、ユミにプロレス技かけられてギブアップしたんだよ」
「なんか力が余ってさあ」
またある時、ミナミに呼び止められる。
「ヒカル! ちょっと見てほしいんだけど!」
「どうした?」
俺はミナミに武器庫に連れていかれた。ミナミはそこにある銃を数丁並べて、俺に見ているように言う。
「行くよ!」
ガチャガチャ! 数丁の銃をあっという間に分解した。そしてあっという間に組み上げる。
「凄くない?」
「凄いな」
「何か知らないけど、理解が出来るって言うか…使いこなせるようになっちゃって」
またある時、ミオとツバサに呼び止められる。
「ヒカル! なんかね、本を読むのがすっごく速くなったの!」
「私は眼鏡がいらなくなったわ!」
「そうなのか?」
「しかも全然目が疲れないのよ!」
「ねー!」
そして今度はマナに呼び止められる。
「ヒカル!」
「な、なんだ?」
「これ何? 胸が大きくなってウエストが細くなってきて、腹筋が割れてるんだけど!」
確かにマナのスタイルが物凄く良くなっている。
「まさかこの年から成長するとは思わなかったわよ!」
「そ、それはいい事なのか?」
「スタイルが良くなって嫌な女はいないわ!」
「そいつは良かった」
マナはつきあがった尻を俺に見せつけている。
「刺激が強いかしらー?」
「は、ははっ。勘弁してくれ」
「ふふっ、冗談よ」
そして次にアオイに会う。逆に俺の方から気が付いてしまった。
「背が伸びたか?」
「うん。何か急に伸びて来た」
「そうか…」
「おにいちゃんのおかげだね!」
「そうか…」
皆の体に異変が…。
俺は自分がやってしまった事の責任と、事の重大さに改めて気づいてしまったのだった。ゾンビ因子を取り除く副産物として、常時、身体強化がかかるようになってしまった。確かにゾンビ因子を取り込むことが無くなったが、俺の心配事は増えるのだった。




