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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第119話 欠損補完

 ユリナのゾンビ因子を取り除く行為で副産物的に新魔法を得た俺は、魔法レベルが上がってしまった。もしここにギルドの冒険者カードがあれば、知力や魔法の数値が格段に変わった事だろう。回復魔法と身体強化が従来の物より進化しただけでなく、魔法剣などにも応用できるはずだ。だがまだ身に着けたばかりなので、これから更に発展させていく必要がある。


 俺はこのレベルアップした時の感覚が好きだった。


 ひとまず拠点に戻って来たので皆にこれまでの事を伝える事にする。俺達が何やら秘密にしている事は皆が分かっていたようで、ようやく俺が話すのかといった感じだ。


 先にユリナが話をしてくれる。


「みんなに先に言っておくわ。本当は絶望すべきような内容の話だけど、ヒカルが解決してくれたから何も心配する事はないわ」


 一緒に行ったマナもユリナの隣りで頷いている。だが皆は不安げに俺を見ていた。そこで俺が話を始めた。


「ユリナの言うとおりだ。解決策が見つかるまでは、皆に伝えるべきではないと思っていたんだ。今まで黙っていてすまなかった」


 俺は皆を救える事に喜びを感じていたが、その興奮を抑えつつ話す。ヤクザの男から聞いたゾンビ因子は確かにあった事、既に俺自身とユリナの体内からゾンビ因子を取り除くことが出来た事を話した。


 するとアオイが手を上げて言った。


「難しくて分からなかったけど、私達も死んだらゾンビになるの?」


「今のままではな。だが、もう安心していいぞ、解決策を見つけて来たんだ」


 今度はミオが聞いて来る。


「それは、今ある食料にも含まれているって事?」


 それにはユリナが答えた。


「残念ながらね。でも食べるしか生きる道は無かったの」


「そんな…」


「ごめんなさいね。回収した食糧でも、私が選別はしていたつもりだったんだけど限界があった。それよりも今生きる事を選択したわ」


 それを聞いたツバサが言った。


「さりげなく分けていたのは知ってたけど、そんな事があったんだ。なら皆に言ってくれても良かったんじゃない?」


「そうよね…。でも皆には信じてもらえないんじゃないかって思った。ゾンビの世界になる前に、私の親しい友達や親にも言ったけど信じてもらえなかった。まあその時はゾンビになるなんて思ってなかったけど、こうなってしまうとそれが真実だと分かったの」


「私が言ってるのは、友理奈の心にしまっておいたら友理奈が辛かったでしょって事。いまさら疑うなんてないわ、言ってくれていたら協力したって事よ」


「ごめんなさい」


「ま、いいけど。だってヒカルがなんとかするんでしょ?」


 俺はツバサに答える。


「そうだ。その方法を見つけた」


「じゃあ皆がやった方がいいよね?」


「もちろんだ」


 ツバサが言うとユリナの顔が少し曇った。そして俺をチラリと見て聞いてくる。


「大丈夫なのよね?」


 なるほど…ユリナは危険だったからな。不安になるのも無理はない。


「問題ない。ユリナが最初だったから加減が分からなかったのもあるが、俺は新しい魔法を身に着ける事に成功したんだ。誰も傷付けずに治す事が出来る。だが申し訳ない、皆の体を治すにあたっていろんな事を試さねばならん。更に進化させていかねば、これから生きていくのに不安が残るからな」


 それを聞いたヤマザキが言った。


「ヒカル。こんな世界で、何もチャレンジせずに生き残れるなんて甘い事は誰も思っていない。皆もそんな事くらい分かっているさ。小さい葵ですらな」


 アオイがニッコリ笑って、俺の手を握り元気よく言った。


「信じてる!」


「そうか」


 俺はアオイの頭を撫でて笑う。今度はミオが心配そうな顔で言う。


「ヒカルは一旦、休んだ方が良いんじゃないの?」


「必要ない。と言うより、感覚を忘れないうちに全員を施術する。繰り返す事でいろんな発見があるだろうからな」


「わかった」


 そう言ってユリナを見るとユリナも力強く頷いた。ユリナは俺が皆に施術する際にサポートしてくれると約束している。そしてユリナが言った。


「順番はどうするの?」


 皆を見ると不安げに俺を見ている。だが俺は次にやる奴を決めていた。


「タケルだ」


「あ、俺?」


「ちょっと試したいことがあるんだ」


「わーった! やろうやろう!」


 俺とユリナとタケルが別室に移って、ユリナがペットボトルの水とタオルを並べ始める。そして発電機の脇に見慣れない機械を置いたので聞いてみる。


「ユリナ、これはなんだ?」


「万が一のAEDよ。心臓が止まった時に使う機械で、ヒカルに何かあったら私が蘇生するわ」


「わかった。だが魔法でやるから心配するな」


「万が一よ」


「わかった」


 俺がタケルを見て言う前に、タケルが答えた。


「わかってるよ。全部脱ぐんだろ?」


「そうだ」


 タケルが俺の前に全裸で横たわる。良く引き締まった筋肉質の体をしていた。


「やるぞ」


 俺はタケルの体を、足先から上にむかってゆっくりと撫でていった。ユリナの時より更に順調に進み、ものの五分で施術が終わる。


「終わった」


「早えな! つーか痛くも痒くも無かったぞ?」


「いろんな魔法を身につけてな、蘇生しながら施術を行う多重魔法を使ったんだ」


 白い粉で真っ白になったタケルがポカンとした顔をしている。


「いずれにせよすげえ」


「そしてお前の体は強い。だからもう一つ試させてもらった」


「な、なにしたんだ?」


「配列を若干変え細胞核単位で防御膜をはった」


「へ? どゆこと」


「もう何を食ってもいいって事だ。ゾンビ因子を体内に取り込むことはない」


「マジ?」


「マジだ。あれはもともと脆弱な物質だった。たまたまこの世界の人間がそれに負けただけだ。だが俺が普通の時にはそれを取り込むことは無かったんだよ。俺と皆とでは若干の配列が違うようでな、俺の配列に近い組み合わせになっている」


 タケルもユリナもポカーンとしていた。


 そしてユリナが力なく笑いながら言った。


「ははは…遺伝子工学? なにそれ?」


「あの大学の情報にあった素晴らしい技術だ。それを理解し魔法と融合させることで、それが出来るようになったんだ」


「そんなの…何年も何十年もかかってやる事よ」


「思考を早める魔法もあるんだよ」


「信じられない」


 俺は更にタケルに伝える。


「まずこれを食ってくれ」


 俺はタケルの前に肉の缶詰を置いた。


「肉? なんで? 今?」


「いいから食え」


「わかったよ」


 タケルが缶を開けて肉を食う。全部食い終わったので俺が言う。


「俺が斬った腕を出せ」


「あ? こうか?」


 肘までしかない腕を俺の前に差し出した。俺が腕にある魔法をかけると、腕が光り輝いてその光が納まった。かける前と何ら変化はない。


「なにしたんだ? 何も変わってねえぞ?」


「問題ない。肉を消化して栄養になれば、少しずつ腕が生えて来る。指が全部生えそろうまでやるぞ」


「はあっ?」


「少しずつで申し訳ないがな」


「ヒカル、おまえ何言ってんだよ?」


「言った通りだ。俺が責任をもってお前の腕を戻す」


「腕を…戻す? おまっ…そんなん無理だろ」


「無理じゃない、出来る。それに俺が斬った腕だ。俺が元に戻すのは当たり前だろ?」


 するとユリナが俺の隣りで目を見開いて言った。


「ちょ、ちょっとヒカル! なに、さらっと言ってんの? 欠損した部分を治す?」


「そうだ。だが俺の蘇生はゆっくりが限界だ。俺と一緒に冒険していた聖女なら一瞬だったがな」


「うそ…」


 タケルが肘から先がない腕を見て呆然としていた。俺がタケルの肩に手を回して言う。


「腕が治ったら、凄いバイクに乗るんだろ? 俺はサーキットでお前と競争するんだ。怖気づいて逃げるなんて事はないよな?」


 するとタケルは俺をグイっと突き放して、そっぽを向いた。


「馬鹿野郎。本気の俺にゃあ敵わねえよ! ぐすっ」


「それは楽しみだ」


「は、はは。馬鹿野郎」


 タケルの後ろ姿が震えていた。俺はユリナに言う。


「ユミを連れてきてくれ。タケルはその辺に座ってりゃいい」


「あ、ああ。そうするぜ」


 タケルは俺達に顔を見せないように部屋の脇に行って、背を向けて座った。ユリナがニッコリ笑って部屋を出て行く。ぐすぐす言っているタケルに、俺はポイっとタオルを投げてやった。するとタケルはそれを黙って拾い、タオルに顔をうずめるのだった。

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[一言] タケル新人類になっちゃった……
[良い点] 良かったなタケル!
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