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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京

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第118話 進化する魔法

 俺は自分の体でゾンビ因子を取り除く事が出来た。ならば治癒魔法と同じで、理論上は他人にも作用させる事ができるはず。だが、実際に他人の体でやってみないと、可能かどうかは未知だった。なにせ、自分の魔法とこの世界の技術を合わせて今出来た新魔法である。更には俺の体と、この世界の人体の情報が同じとも限らない。


 俺が立ち上がると、真っ白になった俺を見てユリナが笑いながら言う。


「ホラー映画にこういうのあったね」


 それにマナが答える。


「あったあった!」


 女二人が笑いながら盛り上がっているが、タケルがその話に混ざろうとしない。


「ねえ、武もそう思わない?」


「や、やめようぜ」


「…えっ?」


「武、怖がってる?」


「こ、怖かねえよ!」


「いやいや。絶対怖がってるでしょ。震えてるもん」


「なーに言ってんだ! 震えてねえよ」


 タケルがそう言った時、ユリナがタケルの後を指さして叫ぶ。


「後ろ!」


「うぎゃぁぁぁぁ!」


 タケルが俺に飛びついて来た。だが俺はそれにかまう事無く、集中して考え事をしていた。するとユリナが俺に聞いて来る。


「ところでヒカルは、なんで真っ白になったの? そもそも、何のためにここに来てこんなことをしたの?」


 それを聞いて俺はハッとした。そう言えば、ユリナとマナにはこの事を説明していなかった。俺がタケルをチラリと見るが、タケルも複雑な表情をしている。


 そして続けてユリナが言った。


「何か隠し事をしてるよね? ここ最近、男達の様子がおかしいんだけど」


 マナも合わせて言う。


「みんなもヤクザの話を聞いた時から、絶対におかしいって言ってたんだ。拠点の情報だけを聞いたって訳じゃなさそうだし」


 二人の言葉を聞いてタケルが、諦めたように言う。


「そうか。ヒカルよ、いずれにせよだぜ」


 本来は他人の体で成功してから伝えるべきだが、ここまで付き合わせておいて秘密にしておくのも限界がある。


 俺が二人に言う。


「まあ、座ってくれ。実は話しておかなきゃいけない事がある」


 俺がそう言うと、皆が座った。


 ユリナが俺をじっと見て言う。


「あの、ヒカル…目のやり場に困るわ。どうにかならない?」


 そう言えば俺は全裸だった。だが全身に、真っ白の粉のようなものが浮いてるから服を着たくない。


「服が…汚れるから」


「ひとまず、いったん拭いた方が良いんじゃない」

「タオルあるよ」


「わかった」


 俺がタオルを受け取ろうと手を差し伸べると、ユリナがニッコリ笑って言った。


「私はプロよ。看護師に任せなさい」


「あ、ああ」


 そしてユリナが俺の体を丁寧に拭き始めた。すると白い粉が落ちて肌が見えて来る。するとマナが背中側に周って俺の体を拭き始めた。二人は優しく俺の体を撫でるようにして、白い粉を取ってくれた。


 ユリナが俺の前に突然しゃがんで言った。


「失礼しまーす」


「はっ?」


 こんなところまで拭かせていいのだろうか? 


「仕事でたくさんやって来たからね、このくらいは全然平気よ」


「なんと言うか…手慣れたものだな」


「任せて」


 すっかり綺麗になった俺はスーツを着た。それを見てユリナが言った。


「これでよし!」


「あ、ああ。すまなかった」


 いったん仕切り直して皆が座った。さっきまで感じていた、張りつめた空気も和んだ気がする。


 ユリナが笑って言った。


「続きをどうぞ」


「これから話すのはかなりキツイ内容だ。気持ちが落ちてしまうかもしれん」


「ヒカル。こんな世界でいまさらだわ」


「わかった」


 俺は皆の前に座って伝えていく。


 俺はヤクザから聞いたゾンビになってしまうある成分の事。それらの因子が皆の体に潜んでいる可能性があると言う事。自分の体に入り込んだゾンビ因子を取り除いた事を説明する。


 するとユリナとマナは少し沈黙して、深くため息をついた。


「ふーっ」

「そうなんだ…」


「黙っていてすまなかった」


 しかしマナは落ち込んようだが、ユリナはそれほど落ち込んだ様子も無いようだ。


 ユリナは俺の目を見つめて言う。


「なんとなく分かってたわ」


「なに? いつからだ?」


 俺達の話がバレていたのだろうか?


「ヒカルと出会うずっと前よ。医療業界でそんな情報は流れていたわ」


「そうなのか?」


「だけど騒ぎになるから、医療業界では黙っていた。むしろそれを話すのはタブーとされていた」


「口止めされていた?」


「まあ、そんなところ。でもこんな事になってしまって、それが現実なんだと分かったの」


「食料品に混ざっている事も?」


「ええ。だからヒカルが回収した物でも、極力選別はしていたつもり。だけど、限られた食料では限界があったわ。今は生きる事を優先してたって感じ…」


 そうだったのか? ユリナだけがその事を知っていて、胸にしまっていたと言う事だ。


「辛かったな」


「まあ…ね。でもやっと言えたって感じ」


「よく頑張った」


 俺が言うと、ユリナがポロポロと涙を流し始めた。どうやらずっと胸の奥にため込んできていたらしい。


 そしてユリナが言った。


「だからね、ヒカルの人体実験の第一号は私にして」


 ユリナの言葉を聞いて、タケルが立ち上がって声を荒げる。


「ダメだ! そう言うのはよ、俺の仕事だろ。最初は俺って決まってんだろ」


 だがユリナは引き下がらなかった。


「ダメよ。武はヒカルと一緒にこの集団を守ってもらわなきゃならないもの」


「いやいや。違うだろ、俺がいなくてもヒカルがいるだろ!」


「ヒカル一人に背負わせるの?」


「…て訳じゃねえけどよ」


「じゃあ私に任せて」


「でも…」


「大丈夫でしょ? ヒカルはやれるんだよね?」


 一度もやったことが無いので、大丈夫とは言い切れないがここでやらねば先がない。


「ああ、大丈夫だ。ゾンビ因子は取り除く。そしてこの病院で蘇生の方法なども学んだ」


「じゃあ、お願い」


「よし」


 ユリナの決心は堅かった。ずっとためていた物を吐き出し、どこかスッキリしたような顔をしている。


 それでもタケルは諦めきれないようだった。


「ヒカルよ! 本当に大丈夫なんだろうな?」


「まかせておけ」


 ユリナが俺の側に来たので、俺はタケルに言う。


「タケルは部屋の外に出ていろ」


「なんで?」


 それにはユリナが答えた。


「服を脱ぐからよ」


「あ、すまねえ。わかった出てるよ」


 タケルは銃を持って部屋の外に出る。マナが不安そうな顔でユリナを見ているが、ユリナはニッコリ笑ってマナの頭を撫でた。


「問題ないわ」


「ほんと?」


「ええ」


「よし、じゃあ始めるぞ」


「わかったわ」


 ユリナがスルスルと服を脱ぎ始め、テーブルの上に置いて行く。全ての服を脱いだので、俺がベッドに横たわるように言った。


「すまないが、身体能力を下げる魔法をかけるぞ」


「やって」


 俺はユリナの上に手をかざして、身体能力低下のデバフ魔法をかけた。すると身体活動が一気に落ちて、細胞も不活性状態へと陥る。だが俺の時とは違って、呼吸は出来るようなレベルで留めていた。ユリナの血の気が落ちていき、体が白くなっていくのが分かる。


 俺はユリナの腹に手を置いた。思考加速をどんどん上昇させていき、ユリナの体の中に潜るように意識を沈ませていく。ユリナの心音や呼吸が伝わり、体温も問題ない事が分かった。更に深部へと意識を潜らせていくと、細胞のひとつひとつがユリナの意志とは関係なく脈打っているのが分かった。


 いた…


 だが、俺の時と同じようにやれば、体組織に負荷をかけて一部を破壊してしまうだろう。それにユリナの体が耐えられるだろうか…。俺は細胞とゾンビ因子に集中をして、細胞を軽く破壊しながらもゾンビ因子を剥がしてみる。だが明らかに俺の細胞の強度とは違った。


 急がねばまずいな。


 急いでゾンビ因子を外して回復させなければならなかった。でなければ体が耐えきれなくなる。どんどん加速させてゾンビ因子を剥がしていくが、細胞が痛む割合が大きかった。


 俺は迷い、スッとユリナの腹から手を放してしまう。


 だが、そんな俺の手をそっとユリナの手が力なく掴んだ。


「続けて。何か体の中で起きているのは分かる、だけどゾンビをずっと飼っていたくはないわ。ここで止めたら…承知しないから…」


「わかった」


 俺は体の負担を考えて、足元からやる事にした。最悪は足がダメになるが、死ぬことは無いと判断したのだった。俺は足から膝、膝から太ももと手を密着させながら滑らせていく。


 ビクン!


 ユリナの体が一瞬硬直したが、俺は手を止めなかった。股関節のあたりまでは順調に進み、股間に差し掛かってかなり臓器が複雑である事が分かった。それまでよりも施術のスピードが落ち、念入りに腰回りを撫でながらゾンビ因子を剥がしていく。どうやらこのあたりに、ゾンビ因子が集中しているようだった。


「あ…」


 ユリナが薄く声をあげるが続けていく。


「よし」

 

 股間周りが終わり、俺は腹に向かって上がっていく。だがそこにはあまりゾンビ因子は滞留しておらず、俺の手は更に上に上がる。


「やはりそうか…」


 心臓や肺にそれらは集中しているようだった。俺はユリナの乳房とその周りに手を這わせて、ゾンビ因子を剥がしていく。


「はあ、はあ…」


 ユリナの息遣いが荒くなり熱が上がってきたようだ。


「苦しいか?」


「ちょ、ちょっと。でもいい、続けて」


「わかった」


 俺は胸を通過し喉から顔に上がって、頭に差し掛かる。どうやら脳にもゾンビ因子は集中して入り込んでおり、ここが一番精密で入り組んでいた。


「ゴホッ!」


 ユリナが息を吐いたとたん、心臓が止まってしまった。


「いかん!」


 だが俺は急いで脳を見ていく。精密ではあるが、俺のそれとそれほど大差はない。俺と違うのは脳の使用率のようで、ほんのわずかしか使っていない。俺はほぼすべてを使い切っているのに対して、全体の一部しか使用していないのだ。


 よし。終わった。


 そして俺は急速にユリナの体に回復魔法をかけた。全身が治癒して全ての細胞が戻った。


 はずだった…


 だがユリナは息をしない。心臓の鼓動も戻らなかった。


「いかん!」


 俺は息を吸い、ユリナの口につけて酸素を送り込む。そして魔法によって心臓を刺激し、また酸素を送り込んだ。


 戻ってこい!


 俺がそう強く願った時だった。突如、俺の魔法の質が変わる。


「なんだ?」


 ドクン!


 ユリナの心臓が鼓動を始め、軽く息をつきはじめた。俺はすぐさまユリナに身体強化魔法を施してみる。するとユリナが大きく息を吸った。


「すぅぅぅぅ!」


「よし!」


 そしてユリナは目を開いて俺を見つめる。


「ヒカル。成功? 失敗?」


「もちろん成功だ」


「よかった」


 粉で真っ白になったユリナが俺の手を取って、自分の胸に持って行く。そして俺にその鼓動を聞かせるのだった。


 マナが泣いていた。そしてユリナの手を取って言う。


「友理奈! 友理奈!」


「愛菜心配かけてごめんね。でもヒカルだもん。こんなこと朝飯前でしょ?」


「ああ。朝飯前だ」


「ふふっ」


 成功だ。俺より遥かに脆弱な体でも出来た。しかも、ユリナが死んだと思ったあの瞬間。俺は新たな魔法を入手したことを知る。


 まさかな…。


 俺は胸の前に手を組んで祈りをささげた。


 エリス。まさかお前が助けてくれるとはな…。おかげで仲間を殺さずにすんだよ。


 俺は自分の中にいるエリスの存在に助けられたのだと思う。なんと俺は蘇生魔法を身に着けてしまったのだった。

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