第109話 おびき寄せる餌
皆との話し合いの結果、俺は地図を頼りに池袋のサン〇ャイン60に来ていた。日中もヘリコプターが飛ぶため地下鉄をバイクで走り、昼間のうちにサン〇ャイン60に到着する。確かに皆が言った通り、周囲のビルよりひときわ高くここなら狙いやすいだろう。
毎日の観測結果から、恐らくヘリコプターはこの周辺を通過するだろうと予測をたてた。ここを西に行くと俺がヘリコプターを撃墜した場所だからだ。仕事はいたって簡単、ヘリコプターを引き寄せて魔力を乗せた剣撃で人を傷つけるだけだ。
だが準備が必要な為、俺は早くに拠点を出てここに来たのだった。
「さて」
ヘリコプターが飛ばないうちに、ビルに侵入して内部を見た。
「よし」
いい感じにゾンビが居てくれている。俺が腰につけた携帯用のラジオの電源を付けると、ザーッという雑音が鳴った。そして教えてもらった通りに、ボリュームのつまみを最大に上げると館内に音が響く。
「ウウウウウ!」
「アアアアア!」
ゾンビがその騒がしい音につられて寄って来た。俺はそのままゾンビを倒さずに、ついて来れる速度でゆっくりと館内をさまよい始める。するとゾンビがぞろぞろと集まって来たので、みつけた階段を上に登っていく。邪魔なゾンビは始末し、階層を登りながら同じような事をしていくとかなりの数になって来た。
そのまま上に上に登っていくと、ゾンビは列をなして階段をついてきた。まあまあ手間がかかっているが、こいつらがいてくれないと困るのだ。そして俺はついて来るゾンビを見渡す。
「お前はイキが良いな」
俺は少し動きが良いゾンビの胸に、リュックから出した灯りを付けた懐中電灯をズボッっと差し込んだ。そして別の一体にはリュックから取り出した雑音を発するラジオを差し込む。
「さあ、遅れるなよ」
そして俺は再び階層を上がる。時おり動きのいい感じのゾンビを見つけては、灯りを点けた懐中電灯を差し込んだ。時間はかかるものの、ゾンビを集めて上層階に登っていく。
「そろそろか」
俺が階層を確認すると五十階、丁度良い感じの階層だろう。その階を進んで一つの扉を開けると、机がずらりと並んでいる部屋に出た。俺はその部屋に入って行き、窓際の机の上に立つ。ゾンビは入り口からぞろぞろとついて来ていた。
少し待って俺は天井に向かって剣撃を繰り出した。天井に穴が空いて更に上の床の層まで到達する。ゾンビの手が俺に差し掛かりそうになった時、俺は飛びあがりその穴から上の階に出た。
するとその階層も同じように机が並んでいた。俺が床から出て来た音につられて二体のゾンビが近づいて来るが、俺はそれを無視して自分の持っているラジオを、階層の間にでた鉄骨にひっかけた。下のゾンビがうじゃうじゃと手を上げて、俺と同じ部屋にいるゾンビ達も音に向かって近づいて来る。
「じゃ、頼むぞ」
俺は縮地でそこから消えて、そっと部屋の入り口から出た。一気に屋上まで上ろうと思ったが、五十八階と五十九階はどうやら食事処のようだった。俺は屋上に上がる前にその階層を徘徊する。ゾンビもちらほらいたが、そのゾンビは片付けた。そして俺はお目当ての店にたどり着くのだった。
「ありそうだ」
その店に入り、店内を物色していると見つけてしまう。酒だ。この世界に来てすぐ、高層ビルの最上階に上がった酒場にも酒があった。しかもその時に飲んだ酒は格別美味くて、どうやら最上階のバーには高級な酒が置いてあるらしい。
一本の口を斬ると、シュワッ! と中身が出て来た。その酒を口に含むと爽やかな香りが広がり、口の中にシュワッとした感じが広がる。
だが…酒か? 薄いな。
それを飲み干した俺は棚にあった酒をリュックに詰め込み、一気に屋上に上がった。屋上は風が強いが、このビルは高いので周りがしっかりと見渡せる。
俺が腕時計を見るとまだ三時三十分をさしている。
「まだだな」
そして俺はリュックから酒を取り出して、一本の封を切った。ヤマザキが言っていたように、丸い形の瓶の酒は上手い。どうやら変わった形の瓶の酒は高級らしいのだ。
時計が四時をさした時、ヘリコプターの音が聞こえて来たので俺は遮蔽物の下に潜る。やはりヘリコプターは、この周辺を重点的に探すように回っていた。だが今はやる事も無いので、遮蔽物の下で酒を飲んでいた。しばらくするとヘリコプターがどこかに行ってしまう。
「想定通り」
結局陽が落ちるまで何も起こらず、俺は三本の酒を開けていた。辺りが暗くなり風も強まって来る。
「降ってくれるなよ‥‥」
雨が降るとヘリコプターは飛ばない。ここまで準備して雨が降りヘリコプターが来ないとなると、また次の機会を待たなければならなかった。しかし俺の願いが通じたのか、月が出て美しい夜空が広がった。そして俺が六本目の酒を飲んでいる時だった。
来た。
やはりヘリコプターはきた。俺が屋上の壁の上からチラリと見ると、ヘリコプターは一直線にこのビルへと向かってきている。恐らく五十階層の光るゾンビ達を目指しているのだ。するとヘリコプターは、ビルの周辺を飛び始め確認しているようだった。
どうだ…
俺は日本刀を構えてその時を待つ。するとヘリコプターが五十階の高度まで降りて、ビルに対して横づけしたのだった。すると前にヘリコプターと戦った時とは違う、杖のように長い黒光りする鉄の棒が出て来た。
ドガガガガガガガガガガガ! どうやらそれは巨大な銃で、ビルのガラスを割りながら光るゾンビ達を撃ち始める。ガラスが割れて数体のゾンビが落ちていくが、それでもかまわずにヘリコプターは撃ち続けた。
「よし」
俺が上から斜めに見下ろしてみると、ヘリコプターの銃の両脇に足が見えた。どうやら体を固定してその銃を撃っているらしい。俺はその脛をめがけて、追跡魔法と火魔法を乗せた剣撃をかすらせるのだった。
男は足を慌てて引っ込めて足を抑える。だがそいつに変わり奥から出てきた奴が、つづけて銃を撃ち始めるのだった。ビルを一周するように銃を撃つと、ヘリコプターはしばらく一か所に留まる。俺がじっと息を凝らしてみていると、ヘリコプターは満足したように東へと飛び去っていくのだった。
よし、どこに行ったのかが分かる。思いつきだったが、想像より上手く行った事に満足する。
「アイツらが来る前にこっちから行くか」
恐らくヤクザはこのビルを確認しに来るだろう。俺はすぐさま地上に降りてバイクに飛び乗り、ヘリコプターが飛び去って行った方角に向けて疾走するのだった。




