第103話 地下鉄とスタングレネード
回収して来た武器には、手持ちの銃や小銃などがあった。更に小窓がついているような黒い盾や、黒くて簡単に付けられる胴回りの鎧などがある。前世では見たことのない形状の物ばかりで面白かった。俺は何度か単独で警視庁まで行き、空っぽになるまで武器を運んだ。
俺が戻り回収した物をタケルに装着させてみた。皆が手伝って取り付けて、タケルは頭から足の先まで武器だらけだ。取り付け方が分からず何度も悪戦苦闘した末の姿だった。
俺がタケルに聞く。
「兜はつるりとして何の装飾も無いし、胴回りの鎧は軽くて本当に守れるのか?」
「多分だけどよ。これは防弾チョッキだから弾丸を通さないはずだ」
「そうなのか?」
「多分…」
俺がもう一つ拾って自分に装着し始める。なるほどそこそこ丈夫そうだが、鉄はおろか皮の鎧よりもはるかに軽い。
「タケル。撃ってみろ」
「は?」
「防げるかどうか試してみる」
「違ったらどうすんだよ」
「大丈夫だ。撃て」
「しらねえぞ」
パン! ボッ! なるほど弾は貫通しない。これならば金剛を発動させなくても、胴体周りだけなら守れそうだ。
ミオが慌てて言う。
「ヒカル! 大丈夫?」
「問題ない。タケルの言う通り銃を防ぐらしい」
「無茶しないでよ」
しかし…なんと言うか美的感覚が無い防具だ。頭にかぶる物は黒くつるりとしており、一瞬ゴブリンだと思ってしまいそうだ。目につけている透明なフードも目を守る物らしいが、大きくて無骨な感じがする。そして中途半端に腰から下に防具が無く、いきなり膝だけにつける鎧がある。
「動きはどうだ」
タケルは一本の自動小銃と腰に拳銃を、そして胸にも何かの小さな筒をぶら下げていた。それを付けたまま、体を動かして見せる。
「重いぞ。これで動き回れるのは多分俺ぐらいじゃねえかな? 女達にはキツイかもしれない」
「何が一番重い?」
「小銃だな。これで走れって言われると女は無理だろ」
「わかった」
俺は皆を見て言う。とにかくつけてみないと分からない。
「じゃあ、皆でつけてみよう」
「「「「「「はーい」」」」」」
それぞれが装備を取って、タケルと同じような格好をした。顔も隠れているが、タケルと違ってか弱そうに見えるのは否めない。
「どうだ?」
ユリナが答えた。
「動きづらいし重いわ。でも万が一があるから防弾チョッキはつけた方が良いかも、ヘルメットをかぶるなら髪の毛が邪魔になるね」
「ならば縛るしかないだろう」
「そうね」
すると今度はユミが残念そうに言う。
「可愛くない」
マナが同意した。
「ホント」
それに対しヤマザキが言う。
「この際見た目は我慢するしかないだろう。それに目立たない為にこういう作りになっているんだろうし、むしろ君ら二人は常にズボンをはいた方が良いと思うがな」
「「はーい」」
二人はその気もなさそうに返事をした。そしてヤマザキが何か筒のような物を持って言う。
「これは手榴弾かね? でも軍隊じゃあるまいしそんなものがあるとは思えないけどな」
「使ってみたらどうだ」
「何言ってるんだヒカル。危ないものだぞ」
「そんなにか?」
「もちろんだ。ここで破裂したら何人かは死ぬかもしれん」
「そいつは問題だな。だがどこかで一度試す必要はありそうだ」
「そうだな。だけど地上でやったら見つかるかもしれんぞ」
ヤマザキが言うと、ミオが意見する。
「ここでやるのはあれだけど、試験なら地下でやれば良いって事よね」
「まあそうだな」
「東京にはたくさん地下があるじゃない」
「…地下道や地下鉄の事か?」
「そう」
確か話で聞いた事があった。地下を走る列車で、皆はそれで移動したことがあるらしい。俺がこの世界に来てから交通網は崩壊していたが、地下と地下で結ぶ道があると言う事だった。
そこで俺は一つの案を思いついた。
「地下鉄を移動すれば、上空からは俺達を見つける事は難しいんじゃないか?」
だがヤマザキがそれに難色をしめす。
「地下鉄は未知数だ。ゾンビが密集しているかもしれん」
「ゾンビなどは燃やせばいい。鼠の巣のようになっているのだろう?」
「歩けば結構な距離があるぞ」
「誰が歩くって言った?」
「どういうことだ?」
するとタケルが手をポンと鳴らした。
「なるほどな。オフロード系の車ならいけるかもしれねえ」
「そう言う車があるのか?」
「あるぜ。恐らく都内探せば必ずある」
「ならそれを使おう」
次に探す物は決まった。話を本題に戻す。
「それなら、偵察の為に地下鉄に潜ってみよう」
「いいな! やろうぜ!」
そう言ったのはタケルだけだった。他の皆はすぐに返事をしなかった。代表してユリナが言う。
「地下鉄はたぶん、完全に真っ暗だと思うわ。ゾンビがいる暗闇に行くって事よね?」
なるほど、ゾンビに恐怖を感じているらしい。俺としてはゾンビなどは雑魚も雑魚なので、皆とは感覚が違っており燃やせばいいくらいに考えていた。
「懐中電灯で足りないのならば灯りを探そう。俺が寝具を回収した場所にはいろんなものがあった。あそこに灯りがあるかもしれん」
ミオが皆の方に向き直って言う。
「そうねヒカルの言う通りよ。ずっとビクビクしたまま動かないでは居られないわ」
するとミナミも賛同する。
「美桜の言う通りね。やりましょう」
おどおどしながらもアオイが手を上げて言う。
「わたしも行けるの?」
それに俺が答えた。
「もちろんだ。一度俺とタケルが視察をしてくる。それから少しずつ確認をして地下を使えるようにしよう」
「うん!」
そして俺はそのままタケルに言った。
「じゃあ行こう」
「えっ! いまからかよ!」
「タケルが言っていたろう。思い立ったが…」
「吉日な。わかったよ」
「よし」
タケルはその装備のままで地上に出る。暗闇の中だと目立たないし、なかなかに良いかもしれない。
「紛れられるな」
「黒だからな」
「いい感じだ。重いか?」
「全速力は無理だな。だけど問題ない」
俺とタケルは地下鉄の入り口に向かった。そして俺は入り口を見て驚く。
「なんだ? 急に道端に入り口があるのか?」
「地下鉄なんてなそんなもんだ」
「そりゃ勝手が良いな」
「だろ? そう言う鉄道が張り巡らされてんのが東京だからな」
「おもしろい」
そして俺はタケルの兜についている物を指さして言う。
「それの灯りを付けてみたらどうだ」
「あ。ああ」
兜についた懐中電灯を点けると、地下鉄に入る内部が照らされた。まるで車のヘッドライトのように、タケルが向いた方向を明るく照らしている。
「どうだ?」
「いい感じだな」
そして俺達はその入り口から階段を下っていく。ちらほらゾンビはいるが、俺が斬り捨ててどんどん下へと下った。まるで地下ダンジョンにでも潜るような感覚だ。ゾンビしかモンスターが居ないので、ダンジョンに潜っている醍醐味は全く無いが。
地下に行ってもゾンビはウロウロしている。だがかなり深い所まで潜ってきているので、俺はタケルに言った。
「よし! ここなら思いっきり射撃の練習をしてもヤクザには見つからないぞ。撃て撃て!」
「よっしゃ。撃ち漏らしは頼む」
「おう」
そしてタケルが前を進み、出てきたゾンビを撃ちぬいて行く。二、三発でゾンビの頭を捉えて倒していった。
「上手いじゃないか」
「なんかよ。少し慣れて来たぜ。肩にぶら下げて片腕でしんどかったけどよ。こうやって装備を付けてみると安定するみてえだ」
「よし、どんどん進んでいこう」
「わかった」
俺が処理することなく、タケルがゾンビを撃ち殺し奥へと進んでいく。あるところに来てタケルが言った。
「改札があると車を通せねえなあ」
「その時は俺が更地にするから問題ない」
「ちげえねえ」
俺達は改札を越えて中に入って行く。タケルは少し興奮しているのか、息遣いが荒くなってきている。
「大丈夫か?」
「若干おっかねえな。女達が言うのも分かるぜ」
「大丈夫だ。その時は車で入る予定だからな」
「そっか」
そして俺達がそのまま進んでいくと、地下に溝のような道があった。タケルがそれを見て言った。
「ここを列車が走るんだよ」
「なるほどな」
その暗闇の中にも蠢く物が居た。
「線路にもゾンビがいやがる」
「タケル! 例のあれ使ってみたらどうだ」
「ああ、これか?」
タケルは胸につけた筒を取って眺める。そして俺にそれを渡してきた。
「俺は手が一本だからピンを抜けねえ。口でやっても良いが、それはそれでおっかねえ」
「わかった」
俺はその筒のピンを抜いて、線路に放り込んでやる。
「何も起きないぞ」
「たぶん、何秒かかかるぜ」
俺達がそっちを見ていると、線路の方がまるで昼間にでもなったかのように明るく光り輝き、物凄く高い音が鳴り響いた。
「ぐあっ!」
タケルが耳を塞いでしゃがみ込んでしまった。
「どうした!」
だが俺が聞いてもタケルは何も答えなかった。どうやら今の音と閃光でタケルは目と耳をやられたらしい。仕方が無いので俺は早急にタケルを背負って地上に向けて走り出す。どうやらこれはゾンビに効く武器ではなさそうだ。身体強化をしていなかったので、俺ですら若干の耳鳴りがするものだった。




