表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女と騎士団長様の濡れ衣逃避行~婚約破棄と指名手配から始まる愛の癒やし旅  作者: 武野あんず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/47

第19話 ローバッツ工業地帯に到着

「大丈夫だ。僕に考えがある。このままローバッツ工業地帯に行こう」


 ウォルターはそう言った。


 私たちは馬車で、南にあるローバッツ工業地帯に行くことになった。


 ◇ ◇ ◇


 馬車はやがてなにも無い()れ地に入っていった。


 向こうのほうに大きな山がそびえて見える。


「ローバッツ(さん)だ!」


 パメラは馬のひづめ(ひび)く中で、大きな声で言った。


「あそこには有名なローバッツ炭鉱(たんこう)があるはずだ。石炭がたくさん取れると聞いたが」


 私たちの馬車は山のふもとにある村に停車した。


「俺、パン屋探してくる」


 ネストールがさっさと馬車の客車から降りた。


 パメラが驚いてネストールに注意した。


「おい、単独行動は(ひか)えろよ」

「腹減った。パン食いたい」


 ネストールはさっさとパンを探しに、村へ探索(たんさく)しに行ってしまった。


 ――しかし、村といっても何だかどんよりとした雰囲気(ふんいき)だ。


 人気(ひとけ)もない。


 村の家々も古く()ち果ててて、薄気味(うすきみ)わるく殺風景(さっぷうけい)だ。

 

「夜だったら幽霊が出たりして……。あたし、幽霊苦手なんだよなあ」


 パメラが(ふる)えながらそう言ったとき――。


「なんだ、お前たちは!」


 ヤギのような長いアゴ(ひげ)をした()せた老人が、村の家の前で私たちをじっと見て言った。


 彼は左手で杖をついて右足をひきずっていた。


「……お前ら、グレンデル城のヤツらか?」


 グレンデル城?


 ああそうか。


 この村や鉱山(こうざん)は、イザベラ女王が買い取ったと有名だ。


 しかしその後、この鉱山(こうざん)――炭鉱(たんこう)はさびれてしまったという(うわさ)があったようだが……。


「やっぱりそうか! お前ら、二度と来るんじゃねえ!」


 老人は怒りを込めて声を上げた。


 右手には農作業で使う(かま)を持っており、それをちょっと振り回した。


 あ、危ない……!


「イザベラ女王がここを買い取ってから、ここは病人ばかりになった! 何かがおかしい。しかも、グレンデル城のヤツらは病人を見てみぬふりだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください。わ、私は聖女アンナ。他の四人は私の友人たちです。あなたは?」

「俺はこの村の村長、カルドス・オールデンだ! お前ら、グレンデル城の役人か何かだろう?」


 私はこのオールデン村長が何か誤解(ごかい)をしていると思った。


「私たちは――」


 私がそう言いかけたとき、荒れ地の向こうのほうから人影が村に向かってくるのが見えた。


 その数、三……四……いや、十人?


 いや、人ではない!


「ああっ!」

 

 オールデン村長は声を上げた。


「魔物だ! ヤツらが来た。あいつら週に一度はここを()らしに来るんだ! くそ、おーい! 魔物が来たぞ!」


 オールデン村長の声が周囲に(ひび)いたとき、村の家々から人々がすぐに出てきた。


 この村の若者たちだ。


 八名いる。


 しかし……腕には包帯を巻き体も()せ細り、とても戦える状態ではないように思える。


 もちろんオールデン村長は老人だし杖をついているので、戦えないだろう。


「来たぞ!」


 ジャッカルが叫んだとき、魔物たちはもう村の入り口にきていた。


 あ、あれは小鬼(こおに)――ゴブリンの集団だ!


 肌が緑色で二足歩行――小鬼(こおに)系の魔物だ。


 素早いし手にナイフを持っているので、非常に危険!


「い、行け! お前ら」


 村長の掛け声で、若者たちはゴブリンに飛び掛かっていった。


 若者たちは(かま)を持っている。


 確かに(かま)は武器になるが、彼らが手にしている(かま)は農作業用のもので武器ではない。


 ゴブリンは素早く、ナイフで若者たちの肩を()いたり足を()ったりしてなかなか手強(てごわ)い。


 完全に押されている。


 その理由は若者たちがもともと怪我をしており、体の線が細く体力が弱まっているからだ。

 

「見てられないな。いくぜ!」


 ジャッカルが舌打ちしながらウォルターに言った。


「ああ」

 

 ウォルターは木剣(ぼっけん)を手にした。


 まず一匹――ウォルターはゴブリンの脇腹を蹴り飛ばした。


 その横から飛びかかって(おそ)ってきたゴブリンを、木剣(ぼっけん)(たた)き落とした。


 ジャッカルの武器は鉄の八角棒(はっかくぼう)だ。


 ゴブリンのみぞおちを()き、左から(おそ)い掛かってきたゴブリンを(なぐ)り倒した。


 そのとき――!


「キェーッ」


 一匹のゴブリンがナイフを構え、ウォルターに向かって走り込んできた。


 ウォルターは冷静にそれを()け、蹴り足でゴブリンを転ばせた。


 すると今度は後ろからゴブリンがナイフを振り上げ、飛び込んできた。


 しかしウォルターはそれさえも左に()け、そのゴブリンは勝手に岩場に激突(げきとつ)した。


 ゴブリンたちは甲高い声を上げ、目を丸くしてウォルターたちを見やるとすぐに逃げていった。


「ふん」


 ジャッカルは静かに言った。


「たいした運動にはならなかったな」

「いかん、アンナ。村の若者たちを()てやれ」


 ウォルターが言った。


 若者たちは地面にうずくまったり、寝転んだりしている。


 若者たち八名のうち四名は、血を流している者がいる。


 彼らはゴブリンのナイフで()られたのだ。


 しかし(さいわ)(きず)は浅く、死人は出なかった……。


「どこかに休める家は無いのですか?」


 私がオールデン村長に聞くと、彼は私たちをジロリと見てから言った。


「……集会所だ。村の東にある」

「とにかく、怪我(けが)をしている人を皆で運びましょう!」


 私は声を上げた。


 今すぐ処置(しょち)が必要なのは四人だ。


 彼らをすぐに運ばないと。


「パメラ、治癒(ちゆ)の手伝いをお願い。怪我人の(アーダ)を一緒に見て」


 私がパメラに言うと、パメラは「うん、分かった」と深くうなずいた。


 さすが魔法使い、本当に頼りになる。


「もしかしたら彼ら若者たちの体内から、何か見つかるかもしれないよ。あのマードック警備員の息子、ヘンデル少年のようにね」


 パメラは静かに、神妙(しんみょう)な顔で言った。


 ヘンデル少年のように……?


 私は嫌な予感がして仕方なかった。


 村の若者たちの()せ方は――尋常(じんじょう)ではなかったからだ。

【作者からのお知らせ】


「面白かった!」と思ってくれた方は、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に変更していただき、【ブックマークに追加】で応援していただければうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ