表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女と騎士団長様の濡れ衣逃避行~婚約破棄と指名手配から始まる愛の癒やし旅  作者: 武野あんず


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/47

第13話 元騎士団長様をお助けします!③

「よぉ、(おど)り子の姉ちゃん。二人とも美人だねえ。俺と遊ばねえか」


 振り返ると、そこには()っぱらっている太った貴族の男が立っていた。


 私は「外気(ルアーダ)」を体に取り込み始めた。


 一人くらいなら、何とかなりそう!


「おいっ、何(だま)ってんだよ。俺とどっか遊びに行こうよ~」


 ()っぱらった貴族男性は私の肩に手をかけてきた。


 私はその腕を右手で(つか)み――。


「天使よ、この者に眠りと夢を与えたまえ」


 そう(とな)えた。


 私の体に取り込んだ外気(ルアーダ)が、首の裏側から自分の右腕に流れるのが分かる。


「ん? な、何だお前。手がすごく熱く……」


 貴族男性が私に向かってそう言ったとき――。


 私は自分の右手から彼の腕に「睡眠(すいみん)の魔法」を流し込んだ。


「お、う? 急に眠く……」


 彼はよろける。


 まずい、地面にそのまま倒れたら大騒ぎになる。


「ネストール、彼を支えて!」

 

 私が声を上げると彼の後ろに立っていたネストールは、素早く貴族男性の体を支え壁際(かべぎわ)に座らせた。


 貴族男性は壁際(かべぎわ)に座り、そのままいびきをかいて眠ってしまった。


 ふう、(あぶ)なかった……。


 が、そのとき!


「どうかなさいましたか?」


 すると見回りの女性兵士がすぐに()けつけてきた。


「いや~、この貴族の人、()っぱらっちゃって~。困ったもんです」


 パメラが作り笑いをしながら言った。


 すると女性兵士は私をじっと見た。


「あれ? あなた……」


 ――私の正体がバレた?


 私はデリック王子の元婚約(こんやく)者。


 化粧と髪型、服装を変えたぐらいではバレてしまうか……?


 かなり念入りに変装(へんそう)をしたつもりだが……。


「おかしいですねぇ。何だかあなた、見覚えがあります。どこかで会いました?」


 さ、さすが女性。


 さっきの男性兵士と違って(かん)(するど)い……。


 私は女性兵士に手を(つか)まれた。


 今日はよく人に体を(つか)まれる日だ!


(おど)り子さん、ちょっと来てもらいましょうか。化粧をとって素顔を見せなさい!」


 ま、まずい!


 しかしそのとき――!


「スリだ! スリが出たぞ! 十万ルピー(ぬす)まれた!」


 廊下(ろうか)の向こうのほうで大声がした。


 向こうのほうで叫んでいるのは――ネストールだ!


「財布を()られちゃったよ! (つか)まえてくれ!」

「あなたここで待っていなさい! スリはどこ?」


 女性兵士は私に言い、振り返った。


「スリは外に逃げたぞーっ! 庭園のほうだ!」


 ネストールが叫ぶ。


「わ、分かりました!」


 女性兵士は叫び、急いで庭園のほうに走っていった。


 パメラがニヤリと笑ってこっちを見ている。


 ネストールの演技か!


 た、助かった……。


「ふう、(あぶ)なかったな」


 ジャッカルが後ろのほうから声を掛けてきた。


「しかしアンナ、お前はすごいな。何なんだ? 貴族に向かって放った魔法は?」

「聖女の治癒(ちゆ)魔法の応用です。――そんなことより、ウォルターの居場所は?」

「ああ、地下一階の牢屋(ろうや)を確かめた」

「ええっ?」


 私は驚いて声を上げた。


 地下一階の牢屋(ろうや)というのは、私がジムに案内されて、初めてウォルターと会ったあの牢屋(ろうや)のことだ。


 私が知る限り、このグレンデル城に牢屋(ろうや)はあそこにしかないはずだ。


「そ、それで牢屋(ろうや)の中にウォルターは?」

「そこには誰もいなかった。もぬけの(から)だ。牢屋(ろうや)番すらいなかった。ウォルターはやはり別の場所に閉じこめられている。パーティー会場に行って、手掛かりを探すしかない」

「やはりジェニファーに付き()っていた、ロザリーという侍女(じじょ)を探す?」

「ああ、ロザリーなら情報を知っているかもしれない。なぜならジェニファーはデリック王子の婚約(こんやく)者。グレンデル城の機密(きみつ)を知っている可能性が強いし、付き人の侍女(じじょ)に話していると思われるからだ。多分ロザリーは、パーティー会場にいるはずだ」


 ジャッカルは言った。


 機密(きみつ)ねえ……。


 デリック王子は私には教えてくれなかったけど。


 ――ジェニファーは私に対して敵対心を抱いている。


 その侍女(じじょ)に会えたとしても、私がデリック王子の元婚約(こんやく)者とバレたら、侍女(じじょ)はデリック王子に言いつけるだろう。


 ――太った貴族男性はまだいびきをかいて寝ていた。


 ◇ ◇ ◇


 パーティー会場に入ると、それはそれはたくさんの人がいっぱい集まっていた。


 王族や貴族と思われる人々が立食し、談笑している。


 檀上(だんじょう)では演奏があり、壁際(かべぎわ)では(おど)り子が(おど)り、曲芸師が芸を見せていた。


 本当に広いホールだ。


 私たちがロザリーを探していると……。


「おお、来られたぞ!」


 お客たちは声を上げた。


 デリック王子とジェニファーが舞台袖(ぶたいそで)から檀上(だんじょう)に現われたのだ。


「皆様、今宵(こよい)はよくぞグレンデル城に参られた! 今日は私、デリックとジェニファーの婚約(こんやく)記念パーティーだ!」


 デリック王子は満面(まんめん)の笑顔で声を上げた。


 セリフが書いてあると思われる、メモ用紙は手に持っていたが……。


 ジェニファーも両手を(ほお)に当てて、()ずかしがっているポーズをとっている。


「美味しいものを食べて、美しい演奏を聞き楽しんでくれ! 私とジェニファーは来月、正式に結婚しようと思う! 今日は素晴らしい日になりそうだ!」


 おおお~!


 王族や貴族から歓声と盛大(せいだい)拍手(はくしゅ)があった。


 ウォルターを牢屋(ろうや)に閉じこめておいて、何が素晴らしい日だ。


 デリック王子とジェニファーは檀上(だんじょう)を降り、王族や貴族、一人一人に声を掛け始めた。


「おいアンナ、こっちだ」


 パメラが私の腕を引っ張った。


「このパーティー会場の外でロザリーが待っている。ジャッカルが探してくれたよ。今は小休止しているから話を聞いてくれるそうだ」


 ついにロザリーが見つかったか。


 グレンデル城には侍女(じじょ)がいっぱいいるから、ロザリーという侍女(じじょ)には会ったことがない。


「ロザリーはジェニファーの侍女(じじょ)。そこを気をつけなくちゃね」


 私が言うと、パメラはうなずいた。


「ああ。だからアンナ。お前はなるべくロザリーから離れているんだ。ロザリーの話はジャッカルが聞いてくれる」


 女性は(かん)(するど)い。


 私がロザリーに近づけば、王子の元婚約(こんやく)者だと気付いてしまうかもしれない。


 そもそもそのロザリーが、ウォルターの居場所を知っているのかどうか。


 しかし考えていても、このままではウォルターの居場所が分からない。


 うろうろ城内を探し回っても、(あや)しまれるだけだ。


 とにかくロザリーの話を聞いてみよう――!

【作者からのお知らせ】


「面白かった!」と思ってくれた方は、広告の下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に変更していただき、【ブックマークに追加】で応援していただければうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ