迷宮ダンジョン、十五階を目指す! 2
十三階への階段を上がった時、ルシウスとジャスが立ち止まっていた。
「なんじゃ! これは!」
私もジャスに同感だ。これって隠し部屋の空中庭園を規模を大きくした階だ。
「おかしいよね! 下より広い気がする」
脳内地図で調べても、十三階のセーフゾーンまでかなり距離がある。
「隠し部屋はあるのか?」
まだルシウスはマジックバッグを諦めていない。それに武器庫で見つけた鍵もあるからね。
「隠し部屋は、セーフゾーンへの最短ルートから外れているよ。どうする?」
「後に戻るのは嫌だ!」
私もジャスと同じだね。十階で、転移陣を優先して、次の時に十階の隠し部屋まで戻るの嫌だった。
「じゃあ、隠し部屋に行こう!」
ただ、隠し部屋へのルート、凄く遠い。身体強化して走るけど、途中で魔物とも出会うし、機械馬、討伐し難い。
「雷!」で停止させて、ルシウスとジャスが討伐するのだけど、馬って群れるからね。
白猫が騎馬騎士を召喚して、対抗させている。
討伐し終えて、機械兵にドロップ品を拾わせている時、ジャスが機械馬をジッと見ていた。
「白猫よ、この召喚獣の機械馬に俺たちが乗るって駄目なのか? 魔導具の機械馬は馬具を付けていないが、コイツらは鞍を付けているじゃん!」
おお、ジャス! 細かい事に気がつくね!
「アレク、騎士をアイテムボックスに入れてくれ」
「えっ、召喚を戻したら良いだけじゃん!」
だよね? わざわざ騎士をアイテムボックスに入れる意味が分からない。
「どうせ、魔導具の騎士も入れるのだろう。少し考えがあるのだ」
召喚獣の機械馬に乗るなら、機械兵、機械騎士はついて来れないからアイテムボックスにしまうけどさぁ。意味不明だよ。まぁ、従うけどさ。
召喚獣の機械馬に身体強化を使って乗る。だって、普通の馬より体高が高いよ。スレイプニル並みなんだもん。
白猫は私の前にちょこんと座っている。
「あちらに向え!」と指示すると、猛スピードで走り出す。
「うひょひょい! これは良いぜ!」
ジャスは、本当はクレージーホースに入りたかったんだと思う。テイマーの才能が無かったのと、デカくなり過ぎで駄目だけどさ。
ルシウスも乗馬は上手い。私は、サーシャがたまに農耕馬に乗っていた感じだから……まぁ、乗れているから良いじゃん!
機械馬が追いかけてくるけど、立ち止まらずに隠し部屋に急ぐ。空からは機械ハチドリ! 氷の粒が当たると痛いから、バリアを張っておく。
「機械ハチドリのドロップ品を増やしたい」
白猫は何か考えているみたい。雷で動きを止めて、バリアで撃ち落とす。ドロップした部品はアイテムボックスに集めるよ。
「機械トレントだ!」
あともう少しで隠し部屋なのに! と思うけど、機械トレントを討伐しないと先に進めない。
一旦、下馬して機械トレントと戦う。相変わらず手投弾みたいな金属の実を投げてくるから、バリアで防御する。
「アレクは、機械花を!」
足を止めたら、機械花がわらわら寄ってくる。
それでも、隠し部屋程の数ではないから、討伐も楽だ。
ドロップ品をアイテムボックスに入れて、隠し部屋に向かう。
「ここって、うさぎの穴っぽいけど……」
これまでは、壁がクルリンと回ったり、下に落ちたりだったけど、この小さな穴は広がるのかな?
「見た目と違うぞ!」と白猫に叱られる。
ピョンと白猫はうさぎの穴に飛び込んだ。
「白猫!」私も慌てて中に飛び込む。
暗いトンネルを滑って落ちると、そこは錬金術部屋だった。
「そこを退けた方が良いぞ!」と注意されて、横に飛び退いた瞬間、ジャスとルシウスが落ちてきた。ペシャンコにされるところだったよ。
「すげぇ! うじゃうじゃいるぜ!」
こんなふうに呑気にしていられるのは、沸きすぎて身動きがとれないからだ。
「地下一階の隠し部屋を思い出すなぁ」
機械兵、機械騎士がぎゅうぎゅうなのは一緒だけど、後ろには機械馬、馬車、機械花や機械トレントもいるみたい。
「アレク、先ずはバリアで減らして、その後は雷だ」
ルシウスの指揮でバリアでかなりの機械兵を減らして、雷を掛ける。
「召喚!」白猫は機械兵を召喚する。うん、かなりレベルアップしているから、魔導具の機械兵は相手にならない。
ルシウスとジャスは機械騎士を相手にしている。私は、飛んできた機械ハチドリをバリアで撃ち落としていたけど、白猫に止められる。
「機械ハチドリを召喚できるようになりたいから、アレクは雷だけにしてくれ」
ふうん、それは良いよ! 機械ハチドリの召喚ができたら、連絡とか取りやすいから。
そう言う事で、私は機械花! 薬草落ちろ! と邪念いっぱいで討伐する。
ルシウスとジャスは機械トレントの討伐。時々、私が雷を掛けて援護する。
最奧には機械錬金術師が赤い目からレーザー光線を出している。マッドサイエンティストも真っ青な不気味さ。
その上、試験管を投げてくるのだけど、爆発して異臭が激しい。
「吸い込むな!」
バリアで防御するけど、近寄れない。毒ガス攻撃、ちょー嫌! 不気味な爺いに近づきたくないけど……あっ、魔法で攻撃しよう!
「雷! 雷!」
動きが止まった瞬間を狙って「遮断!」を掛ける。
「うっ、しぶとい!」
でも、ジャスが炎の剣で真っ二つにしてくれた。
ドロップ品は、機械兵、機械騎士、機械馬、機械ハチドリ、馬車の部品がいっぱい!
機械トレントのドロップ品の冷風機の部品も嬉しい!
機械花からは、魔石と宝石、ああ、薬草を落とすのは庭師だったね。残念!
錬金術師は、魔導書をドロップした。中を開かないように注意して拾って表紙を読む。
「錬金術の初歩」微妙!
それと、大量のネジとゼンマイなどはアイテムボックスに入れる。
「これで一階の隠し部屋に行かなくても良いね!」
ここに転移陣を設置すれば、魔導具の部品に困らない。
「ああ、ここは良いな!」
「ただ、アラクネのボスが落とす快適反物は、もう少し欲しいぞ!」
ルシウスとジャスも賛成するから、ここに転移陣を設置する。
「起動するか、一度試してみよう!」
ルシウスは慎重派だからね。
全員で狭い魔法陣の上に乗り、魔石を置いたら、グニャとなって宿屋の部屋だった。
「少し試したい事がある」
白猫は機械兵と機械馬を召喚した。
「えっ、拙いよ! 宿の人が……」
ギロリと睨まれて口を閉じる。
「アレク、これらをアイテムボックスに入れてくれ!」
へぃへぃ、訳は話す気は無いんだね。
アイテムボックスに機械兵と機械馬を入れる。
すると、トンと私の肩に飛び乗り、冷たいピンク色の鼻を頬に押し当てる。
「アレク、わかるか? 魔導具の騎士と召喚獣の騎士の差が」
「そりゃ、分かるよ! 魔導具と召喚獣だもの」
馬鹿か! って目で見られた。
「召喚獣はレベルアップしているけど、魔導具は同じままだね」
「ふん! やっと気づいたか! ここにレベルアップした見本があるのだ。魔導具を改装したら良いのだ」
「えええ、そんなの出来るかな?」
白猫は「馬鹿者!」と怒る。
本当にテイマーとして「馬鹿者、低脳禁止令」を出したい気分。
「さっきの魔導書を使えば、アレクでもバージョンアップできる筈だ」
アイテムボックスから『錬金術の初歩』を取り出す。
「初歩だよ……無理じゃない? あっ、それとルシウスとジャスも錬金術師になりたいかも」
ルシウスとジャスは「無理だろう!」と辞退する。
「まぁ、開いてみるよ……錬金術の初歩……ふむ、ふむ……なるほどね!」
ちょこっと錬金術が分かった気がした。魔導灯なら、自分で作れそう! ダンジョンでドロップする魔導灯ってデザインが格好悪いんだよね。
「ほら、やってみろ!」
アイテムボックスの中の方が、機械兵とか組み立てるの簡単だけど、バージョンアップなんてできるの?
グズグズしていたら、白猫が鼻でぐんぐん押してくる。
「ほら、こうしたら良いのだ!」
これって、私のアイテムボックスに干渉しているんじゃない? でも、前にも整理してもらったよね。
かしゃかしゃと機械兵の部品やネジなどが組み合わされて、機械兵のバージョンアップができた。
「ほら、機械騎士も機械馬もついでにバージョンアップするぞ。今度は自分でやってみろ!」
レベルアップしている召喚獣の機械騎士を見ながら、魔導具の機械騎士をバージョンアップしていく。機械馬も同じだね!
「これで見る目のある奴も誤魔化せるだろう。魔導具だとバレても良いが、自由都市群とかが何を考えているかわからないうちは、誤魔化しておいた方が良さそうだ」
「白猫、そんなことを考えていたの!」と驚いちゃった。
「馬鹿者!」と叱られたよ。




