迷宮ダンジョン、十階踏破 2
ずっと探していた魔力回復薬が、普通の回復薬と兼用だった!
かなりショック! いや、マジで酷い! 誰に怒ったら良いのか分からないけど腹が立つ。自分が馬鹿だっただけだ。
ああ、でも……南の大陸で魔法使いには会った事がないし、北の大陸では魔法を使える人はいたけど、魔物が少ないし、魔力を回復する必要があるほど使っている人が周りにいなかったから、仕方ないか。
落ち込んでいたけど、立ち止まって考えて、自分で浮上させていたら、ルシウスに心配された。
「アレク、あと少しだから頑張ろう!」
七階の隠し部屋というか牧場をクリアして、セーフゾーンも足早に立ち去り、八階だ。
「八階は……隠し部屋があるけど、パスする?」
「大きな隠し部屋なのか?」
ジャスもかなり疲れているみたい。馬車の暴走を力ずくで止めていたからね。
「いや、普通の隠し部屋の大きさだよ。でも、回復薬を飲んだ方が良いかも」
ルシウスとジャスは下級回復薬を飲む。節約して、中級回復薬を残しているみたい。
「準竜の肝が手に入ったから、中級回復薬も秀でたのができそうなんだ! だから、前のは飲んでも良いのに……」
「馬鹿か! そんな秀でた中級回復薬なんか、生きるか死ぬかの怪我の時に飲む物だろう!」
そういう感じなんだね。まぁ、サーシャもお城の治療師に下級回復薬しか貰えなかったなぁ。
八階は、蛇が多いのはこれまでと一緒だけど、大広間では、従僕人形やメイド人形と遭遇した。
「十数体討伐して、ドロップした部品は一つだけか……これでは、普通に迷宮ダンジョンに潜っても、魔導具は組み立てられないな。まぁ、俺も今までは部品を売っていたんだが……」
つまり、ここの迷宮ダンジョンの魔導具は、自由都市群の利益になっている。冒険者達も、金になると潜っているけど、製品とは価格差があり過ぎるのだ。
ジャスとルシウスは、これまでずっと魔導具の部品を高く買ってくれると喜んでいただけに、ムカついているみたい。
「まぁ、でも隠し部屋が見つかっていなかったから、あそこまで魔物が沸いていたのかもな」
そう思い直して、八階の隠し部屋へと向かう。
「なぁ、隠し部屋に魔物が沸くサイクルとかあるのか?」
白猫は「いつかは沸くだろう」とあまり興味なさそうに答える。
神様とか女神様って、月日の流れに無頓着なところがあるよね。
「一ケ月したら、また潜ったら良いんじゃない? このままでは、部品の備蓄が多すぎるよ! 特に、機械騎士はあと何個か足りないのが多いんだ」
「それまでに、十五階にいけたら良いな!」
ジャスがガハハハと笑う。
「ああ、でもちょっと迷宮ダンジョンに飽きてきたから、食物ダンジョンの十五階を目指しても良いんじゃない?」
機械系は雷に弱く、一瞬でもフリーズさせたら、ルシウスとジャスが無双してくれる。問題は、蜘蛛と蛇! 階が上がるに連れて、サイズが大きくなっている。それと、蝙蝠もちょっと苦手!
「何を言う! マジックバックを探さなきゃいけないんだぞ!」
ルシウスは、ゴールデンベアの件があるから、食物ダンジョンは当分は潜りたくないみたい。黄金の毛皮、ドロップしなかったのが悔しくて堪らないのかな。
トラウマになっているのかも?
「でも、確かに飽きてきたな。気晴らしに暗闇ダンジョンの十五階を目指しても良いかも。前は、ゴースト系が討伐できなくて、十一階の途中で引き返したような?」
えっ、ジャス! あのピカピカの斧を使いたいだけじゃん! 暗闇ダンジョンよりは迷宮ダンジョンの方がマシだ。
「ルシウスのいう通りだな! マジックテントを手に入れられたんだから、マジックバックもゲットしようぜ!」
慌てて、ルシウスに賛成したから、ジャスに笑われる。
「蛇と蜘蛛は良いのか?」
「多分……大丈夫だと思う」なんて言ったけど、次の隠し部屋、アラクネがうじゃうじゃ!
「ぎゃああ!」と悲鳴をあげちゃった。
「馬鹿者!」白猫に笑われた。
「雷!」はあまり効果がなかったけど、ちょっとは怯んだみたい。
白猫の召喚した機械兵は、槍で突き刺していくけど、アラクネの糸に包まれてしまう。
ルシウスとジャスも剣に糸が絡まって、思うように討伐できない。
「少し下がっていろ! 召喚!」
白猫が機械馬を召喚して、アラクネ達を踏み潰させる。
「アレクは、奥のボスを何とかしてくれ!」
ルシウスとジャスは、機械馬が踏んだアラクネにトドメを刺して回る。
奥のアラクネ! 部屋の天井に頭がつくほど巨大だ。それに、部下を討伐されて怒っているのか、黒いオーラが出ている。
蜘蛛の糸というか、巣を投げてくる。機械馬が巣に包まれて、身動きができなくなる。その巣をルシウスとジャスが切って救出する。
「遮断!」を掛けるけど、黒いオーラに弾かれて、あまり効き目がない。
「ホーリー」を掛けたら、黒いオーラが薄くなる。
「あっ、もしかして……バリア! バリア! バリア!」
バリアで囲んで、浄水で中を満たす。
げー! もがき苦しむ巨大アラクネ! 凄く怖いから、目を背けたいけど、脚の爪でバリバリ、バリアを攻撃しているから、何重にも掛け直す必要がある。
「やっと消えた……」
他のアラクネも討伐されたので、ドロップ品の鑑定をする。
絹糸や絹の布が多い。魔石もかなり多いから、当分は魔石の消耗を気にせず冷風機を使えるね。
ボスの巨大アラクネのドロップ品、絹の反物と魔石と上級回復薬だった。
「なんかショボイ!」と文句を言ったら、ルシウスに笑われた。
「上級回復薬なんて、滅多にお目にかかれないんだぞ!」
そうだろうけど、あんな怖い目に遭ったのにと思っちゃうんだよ。
「馬鹿者! その絹の反物をちゃんと鑑定しろ」
白猫って『馬鹿者!』を付けなきゃ会話ができないのって、内心で文句を言いながら鑑定する。
「おお、暑さ、寒さを防ぐ効果があるみたい。これでシャツを作れば、いつでも快適!」
これも三人で取り合いになった。
「三枚作れたら良いのだけど……」
「アレク、わからないのか?」とジャスに訊ねられるけど、サーシャは古着のツギ当てしかしてなかったからね。肩を竦める。
「そうだな、店に任せよう!」
討伐の後、やっと部屋を見る余裕ができた。部屋の壁沿いには糸巻機や機織り機がある。アラクネって機織りが上手い女の子が傲慢になって、女神に化け物にされた神話が前世にはあったよね?
チラリとパクリ疑惑の白猫を見るけど、素知らぬ顔で身づくろいをしている。
取り敢えず、貴重な反物はアイテムボックスの中に入れて、八階から九階へ。
「この階は隠し部屋はないよ」となると、攻略ルートを急ぐだけなんだけど、床には蛇がうじゃうじゃ! 上からは蜘蛛、そして蝙蝠! たまにシャンデリアが攻撃してくるのが、嬉しいだけだね。
九階のセーフゾーンで休憩する。五階のセーフゾーンで昼食だったから、水を飲み、オレンジを食べる。
ジャスとルシウスは、干し肉と水! 肉好きだよね。
白猫には、チーズをやる。塩っぱいかなと心配したけど「猫ではない!」と言うから良いんじゃないかな。
「なぁ、シャツの布が足りなかったら、また八階の隠し部屋に行こうぜ!」
ジャスが一番布地を消費しそうだからね。でも、あのボスは……苦手!
「洗い替えがあっても良いなぁ!」
ルシウスも再チャレンジしたそう。二人は、昆虫系も平気なんだ!
「まぁ、また沸くまで時間が掛かるんじゃない?」と返事は保留しておく。
◇
十階も隠し部屋がある。
「どうする? ボス戦もあるし、転移陣を使えるようになったら、戻って攻略しても良いけど?」
流石にクタクタだよ。アラクネで精神も削られたし。
「そうだな! 十階なら、次に回しても良い!」
ルシウスは、当分は迷宮ダンジョンに潜るつもりだから、先ずは転移陣を使えるようにしたいと賛成する。
攻略ルートを進み、ボス戦だけど、普通のアラクネで「遮断!」で瞬殺した。
「隠し部屋の方が大変だよ」とぼやくと「当たり前だ!」と白猫に笑われた。
転移陣で外に出て、やっと迷宮ダンジョン十階踏破達成だ!
「二日は休むぞ!」ルシウスに全員が賛成する。




