迷宮ダンジョン、十階踏破 1
次の日から、シャンデリアもあちらから攻撃してこない場合は無視して、どんどん進む。
三階は、隠し部屋がなかったから、攻略ルート通りに急いだ。ただ、三階から蛇が出るようになったんだよ! 大嫌い!
四階は隠し部屋があった! 攻略ルートからも外れているけど、マジックバッグがあるかもと頑張ったよ。
「これって子ども部屋?」
ここも発見されていない隠し部屋だったのか、部屋の床にびっしりと熊やうさぎのぬいぐるみが沸いていた。
パッと見た目は可愛いけど、爪や牙が生えてきて、かなりグロい。
これは白猫が機械兵を召喚して討伐した。
ドロップ品は、ぬいぐるみと魔石。
本棚からお化け本も、噛みつき攻撃してくる。それは、レベルアップした機械兵に任せて、私達は乳母人形と戦う。
「ジャス!」バンと背中を叩いて起こす。乳母人形は『スリープ』を掛けて睡眠状態にさせるから、ちょっと厄介だ。
『防御!』を掛けて、状態異常を防いだら、ルシウスとジャスが瞬殺した。特に、ジャスはうかうかと眠らされて怒っていたからね。
お化け本からは、本と魔石。乳母人形からは、人形と魔石。そして、ガラガラ! ガラガラは、泣いている子どもをご機嫌にする魔導具だった。
「この隠し部屋、ちょっとしょぼいな」
ジャスが文句を言っているけど、お化け本がドロップした本を鑑定すると……これって魔導書じゃん!
「ねぇ、白猫! これで魔法を覚えられるの?」
「何の為の魔導書なのだ? まぁ、覚えられない者もいるけどな」
ルシウスとジャスが、私と白猫の会話を真剣に聞いている。
「覚えられる者とは、魔法が使える者なの?」
これ、重要! 南の大陸では、魔法を使える人が少ないからね。
「当たり前だろう! 魔力を持っていない者は、魔法を使えない」
ルシウスとジャスががっかりしている。でも、白猫は不思議そうにしっぽをパタン、パタンと床に打ち付ける。
「お前たちは、身体強化が使える。つまり、魔力を持っているから、相性が良い魔導書なら開くことができるかもな」
「魔法が使えるのか!」
「すげぇな!」
二人は飛び上がって興奮しているけど、後でゆっくりと検証する事にする。アイテムボックスの中にぬいぐるみや人形と一緒に魔導書を収納する。
「それと、ボスを忘れているぞ!」
えっ、何処に? 白猫が呆れて上を見上げている。
赤ん坊をあやすメリーが天井で回っている。
「これって、攻撃してこないとドロップ品がショボいのかな?」
パステルカラーの花や星がくるくる回っているけど、魔石の一つを投げたら、怒ったみたい。
ぐぁぁとスピードアップして、花や星を落としてくる。
「なぁ、何でいつも爆発するんだ?」
白猫に文句を言いながら、バリアを掛ける。
状態異常をキャンセルできて良かったよ。荷物持ちは寝落ちしている。
「遮断!」で討伐したら、可愛い花や星の飾りが山ほど落ちてきた。これを組み立てたらメリーになるみたい。
睡眠させる機能がついているから、夜泣きの赤ちゃんがいる人は買うのかな? 子守がいるから、需要はないのか?
「やはりショボイ……なんだ、オムツか?」
ふわふわと布がジャスの頭の上に落ちてきた。
「やったね! マジックポーチだ。マジックバッグほどは沢山は収納できないけど、そこそこは収納できるみたい」
ただ、銀色の可愛いポーチなんだよね。
「アレク、お前が持つか?」
ルシウスは、自分には似合わないと、こちらに押し付ける。
「俺は、アイテムボックスがあるから必要ない。リーダーのルシウスが持てば良いんじゃない?」
「いや、ジャスが持てよ!」
三人で押し付けあっていると、白猫が「皮のポーチに入れて使えば良いだけだ!」と呆れている。
「そうか! それなら使っても良さそうだ!」
熟睡している荷物持ちを起こして、五階へ進む。
五階も隠し部屋はなかったので、攻略ルートを進むけど、蛇、だんだん大きくなっている。お陰で巨大ねずみは見かけなくなったけどさ。嫌な予感!
◇
五階の転移陣前には、セーフゾーンがあり、私達もそこで昼食にする。
他の一組も、昼食タイムみたい。ちらり、ちらりとこちらの荷物持ちの籠を見ている。感じ悪いけど、ルシウスとジャスが銀級っぽいのを察して絡んでこない。
「なぁ、転移陣の前のボス戦って……蛇?」
ルシウスとジャスは「ずっと前の事だから覚えていない」ってすっとぼけるけど、怪しい!
「さぁ、サッサと六階へ行こう!」
ルシウスに促されて、ボス戦に挑むけど、やはり蛇じゃん! それもアナコンダ!
「遮断!」で首を落とす。
「なかなか魔法の使い方も上手くなったな」と白猫に褒められたけど、総毛だったよ。
ドロップ品は、魔石と蛇皮、そして筒。
「鑑定! えっ、遠見鏡?」
望遠鏡なのかな? ルシウスは、高価買取品だと喜んでいる。
◇
五階の転移陣を横に見ながら、六階に進む。ここからは、少しずつ機械兵や機械騎士なども出てくるが、ドロップ品だけで組み立てるのは難しいだろう。
「隠し部屋は、無いな!」という事で、攻略ルートを進み七階に達した。
「脳内地図! ああ、なんか凄く広い隠し部屋があるけど? 何だろう?」
ギルドで買った地図に書き込むと、ジャスとルシウスも首を傾げる。
「七階の半分以上の広さがあるぞ!」
ジャスは、ちょっと嫌そう。
「ここは、パスして後から来ても良いんじゃない?」
私も、時間が掛かりそうだから、後回しにしたら良いと思う。
「だが、隠し部屋にマジックバッグがあるかもしれない」
リーダーに従って、隠し部屋の扉を開ける。ここは、壁をクルリンするタイプではなかった。
あれこれ、押したり、引いたりしていたけど、白猫に「上だ!」と言われて天井を見たら、小さな穴があった。
そこを矢で射貫いたら、壁がスライドした。
えっ、外じゃん!
「ここって、迷宮ダンジョンの中なのか?」
もう、無茶苦茶だと思う。なんで、七階なのに牧場? まだ一階なら理解できるけど……白猫を睨んでも、素知らぬ顔だ。
「ほら、機械馬が攻撃してくるぞ!」
ここも未発見だったのか、機械馬が大挙して走ってくる。
「機械兵、召喚!」
機械兵に機械馬が達する前に「雷!」を掛ける。一瞬、立ち止まった機械馬を機械兵が討伐していく。
その間、ルシウスとジャスは暴走する馬車の相手をしている。
ジャスが力で止めて、それをルシウスが剣で討伐していく。
「アレク!」と白猫に言われて、次々と駆け寄る機械馬に「雷!」を掛ける。
白猫は、消耗してきた機械兵に加えて、機械騎士を召喚する。
「大丈夫なのか?」魔力切れになったら寝る白猫だけど、まだ十階は遠い。
「中級回復薬をくれ!」
「えっ、怪我をしたの?」驚きながら、アイテムボックスから中級回復薬を出し、白猫を抱っこして飲ませる。
「はぁぁ、復活!」
えっ? 鑑定したら、魔力回復している。
「えええ! 中級回復薬で魔力も回復するの?」
めちゃ、驚いたけど、白猫は「当たり前だろう?」と馬鹿にした目つきで私を見ている。
「神様、女神様の知識でもそんな事は書いて無かったよ!」
「そんな事は無いだろう。身心共に回復するって書いてあるぞ……お前、前世のゲームで使われるマジックポーションとか探してたのか?」
白猫に爆笑されたけど、それどころではないんだよ! 本当に機械馬がどんどんやってくるし、馬車も暴走しまくりだ。
永遠に終わらないんじゃないかと思った機械馬の爆走も討伐し、馬車の討伐を手伝う。
「遮断!」を掛けて馬車を討伐していく。
「おぃ、アレク! 魔力切れになるぞ」
ルシウスが心配してくれるけど、回復薬は持っているからね。
「疲れたなぁ」
二種類だけだったけど、延々と沸いた魔物の討伐はしんどかった。特に大きな馬車は、ちょっと手こずった。三回以上、遮断を掛けたよ。
「ボスは、あの大きな馬車だったのかな?」
「いや、ボスは……あああ、あそこにいるのは! 木の蛇だ!」
思わず中級回復薬を飲んだよ!
気持ちの悪い魔物! 鶏に似た頭と身体だけど、尻尾は蛇だ。それに、嘴から二又の舌がチョロチョロ! 無理、無理、無理!
「ほら、アレク! しっかりしろ! アイツは毒の霧を吐くんだ!」
ルシウスに叱咤激励されて、バリアを皆に掛ける。
「バリアさえ掛けて貰えば、こっちのもんさ! 死ね! 木の蛇!」
ジャスが大剣で真っ二つにしてくれた。
「あっ、準竜の肝!! ドロップして!」
食物ダンジョンでゴールデンベアに遭遇したルシウスの気持ちが分かったよ!
「やったな! お前は、やっぱり持っているよ!」
ドロップ品は、肝もあったけど、それを喜んでいるのは私だけ。上級回復薬をルシウスは小躍りして喜んでいる。
「これって、魔剣かな?」
毒どくしい黒い大剣がドロップした。
「鑑定! あっ、毒攻撃できるってさ」
あまり触りたくないけど、ジャスは喜んでいる。
この隠し部屋で、機械馬の部品がいっぱいドロップした。それと馬車からは車輪などの馬車の部品と、中ボスの馬車からは、一つテントがドロップしたんだ。
「テントって、テントだよね?」
このドロップ品、凄く便利な物だったんだ。
「馬鹿者! よく鑑定しろ!」
偉そうな白猫に言われて鑑定して驚いた。
「これって、マジックテントなんだね!」
ルシウスとジャスは、訳がわからないみたいだから、テントに入らせる。
「おお、部屋になっているぞ!」
「いや、家だ!」
二人に説明を求められるけど、そうゆう仕様だとしか言えないよぉ!
この七階の隠し部屋というか、牧場で、白猫はレベル5になり、機械馬を召喚できるようになった。




