迷宮ダンジョン一階 2
王座の後ろの小部屋は、ギルドの地図に書いてあるけど、そこから地下室に下りる階段があるのは記入されていない。
「ええっと、この壁を押せば……」
私が魔法で白く光っている壁を押そうとしていたら、ジャスに「退け!」と言われた。
「回復役のお前が先に立つなよ!」
確かに、前衛の二人に先に行かせた方が良いよね。
「よっ!」私ではビクともしなかった壁がクルッと回転した。いや、押す場所が悪かっただけだよ。私も身体強化できるんだから!
「おお、隠し部屋だぁ!」
階段を降りたら、思ったよりも広い部屋だったけど……これって、からくり人形というより兵隊ロボットがぎっしり!
「逃げた方が良いんじゃない?」
こちらに槍を向けている兵隊と、後ろには剣を抜いている騎士達がぎゅうぎゅう!
「ずっと開ける冒険者がいなかったから、ぎゅうぎゅうになるまで沸いたんだな!」
笑える事に、ぎゅうぎゅう過ぎて、身動きが出来ないみたい。
「雷!」で兵隊ロボットを討伐したら、後ろの騎士達が襲い掛かってきた。
騎士達に負けるルシウスやジャスじゃない。それは任せて、騎士達が守っていた王冠を被った猫を観察する。
「うっ、可愛いかも!」
ここまで出た巨大ねずみを追いかけていた巨大猫は、ちょっと不気味だったから討伐出来たけど、この王冠を被った猫は……真っ白で可愛い!
「ねぇ、名前は?」と思わず聞いちゃった。
「名前を聞く前に名乗るのが礼儀だろう」
えっ、返事があったんだけど……びっくり!
「俺は、アレク……話せるのか?」
「当たり前だ! 私は神様! こんな姿になっているが……」
慌てて、猫を抱き上げて、口を手で押さえる。この世界の人々は、女神様しか知らないんだ。前に神様がいただなんて、知ったら混乱するだろう。
「アレク、何をしているのだ? 猫なんか抱いて……魔物じゃないのか?」
ルシウスとジャスには、声は聞こえていないのか? 騎士達と戦闘中だったから、聞こえなかっただけ?
「あまり可愛いから、討伐しなくても良いかなと思って!」
ははは……と笑って誤魔化すけど、神様が出てきて、女神様が察知しないわけがない。
◇
ピカッと光って、麗しい女神様が降臨した。
「神様! こんなところにいただなんて! ここは、私の世界なのよ! 消滅しなさい!」
お怒りモードの女神様! ルシウスやジャスは、驚いているんじゃないのと心配したけど、固まっている。
「ああ、その二人の時は止めてあるから大丈夫です。さぁ、その神様を渡しなさい」
女神様の怒りで、空気がビリビリしている。でも、白猫は私の服に爪を立てて、必死にしがみついている。
「許してくれ……全能神様にほとんどの能力を封じられ、罰としてここに閉じ込められたのだ。もう、私には何の力も残されていない」
私は、猫が好きだ! 愛していると言っても良い。でも、その猫好きな私でも、胡散臭く感じる。
爪をバリッと引き剥がして、首根っこを持って女神様に差し出す。
「絶対に全能神様から逃れて、ここに隠れていたのだろう。消滅させられた筈なのに……どうやったのか?」
女神様に渡した猫、見たら負けだ!
必死で、横を向いて見ないようにしているのに「助けて!」なんて鳴くんだ。卑怯だよ!
「こんな奴なのです。だから、オークなんて魔物も作ったのだわ!」
ハッと目が覚めた。これは猫に擬態した神様なんだ。
「新たにオークダンジョンが沸いたのです! 地上にジェネラルオークが出現しています」
女神様が綺麗な眉を少し上げる。
「この神様のしでかした後始末が本当に大変なのよ。アレク、オークダンジョンを制覇しなさい!」
「ええっと、それは実力不足で無理だと思います」
「私が手助けしてやろう!」
弱味を見せると、ぐぃぐぃ押してくる。神様って性格が悪い。
「そなたに手伝って貰わなくとも、妾が手助けする」
ニヒヒと白猫が笑う。本性は隠せないな。
「全能神様は、神々の過度な手助けを禁止されているのを忘れたのか? 神々の力で全てを解決するのは間違いだと思われているからだ。だが、私の能力は殆ど封じられている。人間の少し上ぐらいだ」
口では、神様に勝てないのでは? 女神様が言い負かされそう。
女神様と神様が睨みあっていると、圧倒的な力が降臨した。
思わず、膝から崩れ落ちる。
「ガウデアムス! 其方はこんな所に逃れていたのか?」
白猫は、ぶるぶる震えている。オークなんか創造した糞神だけど、駄目だぁ! 必死の覚悟で、全能神様に「助けてやって下さい!」と嘆願する。
「これは、クレマンティアの愛し子か? ふむ、我にガウデアムスの命乞いをするとは、根性がある。良かろう! これを、そなたの従魔にしてやろう」
「「「従魔!」」」
白猫は「従魔より、守護天使に!」と騒ぐし、女神様は「こんな奴を愛し子の側におけません!」と抗議する。
「従魔って何でしょう?」
私の質問に全能神様が答えてくれる。
「其方の命令を聞く家来だと考えたら良い。絶対に逆らえないようにしておくから、安心しなさい」
いや、全く安心出来ないし、見た目は可愛いけど、性格は糞なゲーム脳の神様なんか側に置きたくないです!
「なかなか辛辣な愛し子だのう。だが、そのくらいの根性が無ければ、この世界は救えないかも知れぬ」
いや、いや! 女神様との約束は、子どもを産む事だけだったよね。世界なんか救えないから!
「女神様も苦労しているのだな。確かに、ガウデアムスはどうしようもない糞だから、この者の心配も理解できる。では、テイマーの能力を与えよう」
全能神様の指が私の額に押し当てられる。
「痛ぁぁぁぁ」
死にそうな痛みで、床を転がりまわる。
「こんな不様な人間の従魔だなんて、嫌です」とか神様がほざいている。
「お前ほど無様な存在は全宇宙を探しても見つからないと思うぞ! しっかりと罪を償え!」
白猫の額から金の王冠を引きちぎり、指を押し当てる。
「ギャギャギャギャギャア!」
白猫が壁と壁を駆け回っているのを、全能神様と女神様が白けた顔で見ている。
「ほぼ能力は封じたから、心配しなくても良いぞ。それから、これを渡しておく。万が一、ガウデアムスが迷惑を掛けた時は使え」
白猫の王冠を指輪にして、私に渡す。
「あっ、それで妾をいつでも呼び出せるようにしておきますわ」
女神様がチョンと触ってから、私の指に嵌める。えっ、左手の薬指!
「ええええ! そこって婚約指輪を嵌るとこじゃん!」
「煩い愛し子じゃのう」と全能神様に呆れられた。
「本当に……では、オークダンジョンを制覇するのじゃぞ!」
残ったのは、白猫と私!
「なぁ、これどうするの?」
他の人、動いていないんだけど……。
「動け!」とひと泣きしたら、止まった時間が動きだした。
◇
「アレク、笑っているけど、その猫は、魔物ではないのか?」
そこから説明しなくてはいけないの? 根性の悪い白猫は、素知らぬ顔でペロペロと身体を舐めている。返品したいよ!




