一仕事終わったらエール!
荷物持ちの子ども達と別れて、冒険者ギルドに向かう。
「ロイヤルゼリーとヴリシャーカピの睾丸、それにボスの白い毛皮……依頼があると良いのだけど……」
銅級の依頼と銀級の依頼を見て『至急! ロイヤルゼリー!』の張り紙を見た。睾丸以外は、アイテムボックスに入れておいても良いかもね。
依頼のロイヤルゼリーは一瓶だ。これ、何かに使えるのかも? 薬師関係は、女神様の知識だ。
立ち止まって、頭の中を探索する。
『ロイヤルゼリーと上級薬草と竜の肝で、上級回復薬ができる』
ふむ、ふむ、これ竜の肝が無いから、当分は無理だね。準竜は、ルシウスとジャスは遭遇した事があるって言っていたから、中級回復薬を作ってみたいんだよ。
もっと簡単な使い道はあるのかな?
『ロイヤルゼリーは、免疫力を高める』
これ、使えるかも? 依頼は一瓶だから、残りで試してみても良いよね。
精算の列に並んでいると、今日も馬鹿が絡んでくる。
「綺麗なお兄ちゃん、一緒に酒でも飲まないか?」
サーシャの顔、女神様にそっくり! つまり美人なんだよねぇ。ありがたくて、涙が出てくるよ! お陰様で、馬鹿冒険者ホイホイになっている。
交易都市で、ジャスに初めて声を掛けられた時、指を切ったんだよなぁ。あの時は、大きな冒険者ギルドに、内心ではビビっていたから、舐められたら駄目だとイキっていたんだ。
そんな事を回想しながら、無視していたら、ウザ絡みしている冒険者が、私の肩に手をおこうとした。
「言っておくが、俺に指一本でも触ったら、痛い目に遭わすぞ!」
警告したのに、ヘラヘラ笑って「おお、怖い!」と言いつつ、肩に手を置く。
「雷!」を弱めに掛けておく。
まぁ、弱めにする調整が上手く出来なくて、青白い稲妻が直撃しちゃったけど、黒焦げになってないから良いんじゃないの? ぶっ倒れているけど、死んではいないよね?
「ううう……」と泡を吹いている。
うん、まぁまぁ上手く調整できたね! と私的には満足していたんだけどさぁ、馬鹿には馬鹿の友だちがいるみたい。
「おい、何をしたんだ!」
「この野郎!」
ウザいから、もう少し弱め調整の実験台になってもらおう。
「雷!」
うん、上手くいった! 小さな稲光で、魔力の節約にもなりそう。
床に倒れた冒険者を助ける人はいない。それは、自業自得だけど、私の周りからも人がいなくなった。
「あのう、精算をお願いします!」
受付のお姉ちゃん達も逃げちゃったんだ。
「アレク、冒険者ギルド内での喧嘩は禁止だ!」
二階からギルドマスターが吠えている。
「俺に触るなと警告したのに、無視したから注意しただけだ」
床に伸びていた冒険者達、最初の馬鹿以外は、気がついて這って逃げている。
「おおぃ、その馬鹿を治療室に運んでおけ!」
確かに、冒険者ギルドの床に寝ていられたら邪魔だよ!
「アレク、部屋に来い!」
えっ、精算が終わったら、手入れしてもらっているナタを取りに行く予定なんだけど……私が困っていたら、地獄で女神様に会った気分!
「おぃ、相変わらず問題を起こしているな」
ルシウスとジャスが笑いながら後ろに立っていた。
「明日から中級者用のダンジョンに潜るのだが、依頼があるなら受けて行こうと思ってな。でも、この騒ぎに遭うとは……」
ルシウスは呆れているけど、ジャスはガハハと笑っている。
「まぁ、指や腕を切ったり、去勢するよりはマシになったなぁ!」
それ、褒めてないけど、肩を叩こうとした手を止めたのは、学習能力があるみたいだ。
「ギルドマスター、星の海のメンバーがお騒がせして、すみません」
ルシウスがいるなら、下級回復薬の件も任せておこう。
「ルシウスか……丁度、良いだろう。一緒に上がって来い!」
ジャスも当然の顔をして、ギルドマスターの部屋に入る。ああ、二人がいるから、この前と違って、凄く心強い。
「ジャスだったかな? お前も星の海のメンバーなのか?」
赤毛の大男と黒髪の大男に挟まれて、長椅子に座る。
「この前に引き続いて、今日も騒ぎを起こしたな」
ふぅ、馬鹿が多いからね。口を開く気にもならない。
「アレクは、訳もなく騒ぎを起こす奴ではない。絡まれて、それを解決しただけだ」
そう、そう! それに一度目は、冒険者達が勝手に騒いだだけじゃん!
「冒険者同士の喧嘩は、自己責任だろう! ここでは違うのか?」
ジャスが吠えたら、ギルドマスターが睨み返した。
「私の冒険者ギルド内では、喧嘩は禁止だ!」
まぁ、ギルドマスターなんだから、規則は自分の考え通りでも良いけどさ。
「それなら、ちょっかいを出されたら、ギルドの外でやっつけたら良いんだな!」
ジャス、そうなのか? いや、ギルドマスターが苦虫を噛み殺したような顔をしている。
「アレクは、自分からは揉め事を起こす気はない。文句をつけてくる馬鹿を取りしまるのもギルドマスターの仕事ではないのか?」
ルシウス! 手を叩きたいよ。
「そうだな……冒険者達を行儀良くさせられる組織を作らないといけない」
ジャスはゲーッて顔をしたけど、これから冒険者になる子ども達の為には良いと思う。
「ああ、それと下級回復薬だが……」
ルシウスは、私が昨日渡した下級回復薬(優)をギルドマスターに渡す。
「ふむ、普通の下級回復薬とは色が違うな。これをギルドの鑑定士に見せたい。そして、なるべく多く納入して欲しい」
その交渉はルシウスに任せる。本当に、ガメツイから頼りになるよ。
「最低でもカインズ商会に納めている金額は譲れません。それと、アレクにはギルドの昇級ポイントを有利にして貰いたいです。下級回復薬を作る為に、ダンジョンに潜ったり、依頼を受けられなくなるのですから」
ほぅ! やはりルシウスは交渉上手だね。
「それは考慮する」と言ったけど、どの程度かはわからない。
「さて、精算しなきゃ!」
ギルドマスター部屋なんか、長居する場所じゃないよね。
階段を降りながら、ジャスが「初心者用のダンジョンなのに?」と小馬鹿にするから、隠し部屋で見つけたピカピカの剣を見せる。
「げぇ! こんなのドロップするのか?」
「ルシウスが使う? 俺は、ナタが良いから」
ルシウスは手に取って考えている。
「何か効果があるのかな? 兎も角、鑑定士に見てもらおう」
そうか、鑑定! したら良いんだ。
「鑑定! ふむ、ふむ、聖なる効果がある剣だと出たけど……役に立つのかな?」
サーシャは、女神様の愛し子だったから、神聖魔法関係は使えるんだよね。
「なんだって! それなら闇ダンジョンを攻略できるぞ!」
「俺が貰った!」
ルシウスとジャスがピカピカの剣を奪い合っている。
「この剣は、ルシウスが使えば良いと思う。だって、ジャスは大剣だろ?」
ルシウスは「ちゃんと金は払う!」と喜んで、ピカピカの剣をベルトに刺した。
「なぁ、初心者用のダンジョンで、そんなドロップ品なんて聞いたことがないぞ」
ジャスは諦めきれないのか、愚図愚図言っている。
「隠し部屋がモンスター部屋になっていたのさ」
コソッと教えたら「明日、モンスター部屋に行こう!」と耳元で騒ぐ。
「嫌だよぉ! モンスター部屋にはヴリシャーカピのボスもいたんだ。それに、ドロップ品が復活しているかわからないじゃん!」
ジャスとルシウスは、何日かしたら復活するんじゃないかと話している。
私は、ロイヤルゼリーと睾丸を精算して貰った。なんと、十五金貨!
「一仕事終わったら、エールだよな!」
今日は、ルシウスとジャスが一緒なので、馬鹿な冒険者も絡んでこない。二杯飲んじゃおう!




